アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
「……なんだ、あいつは」
男は戦場にいた
ある作戦を実行するため
いつか自分を陥れたものに報いを受けさせるため
同じ怒りを持つ仲間と、理解してくれた先導者と共に
「おかしい、こんな奴がいるなど聞いていない」
だが潜伏していたら謎の爆発で混乱が起きた
建物の崩壊を優先した、計算されたもの
最初は用意していた爆薬が誤爆したと思っていた
だが違う、その証拠に外で待ち伏せている奴らがいた
ロドス・アイランド、いつか見た、製薬会社
この滅びゆく世界で、足掻くことをやめない感染者の集まり
「話が違う、奴らは殺しを好まない」
秘密裏に鉱石病に関する事件を解決する武力組織
彼らは殺害を好まない、下手な抵抗をしなければ命だけは助かっていた
「なんなんだ、あの男」
なのに、どうしてこんなことになっている
「どうして、こうも軽く人を殺せる」
なぜ、仲間が倒れている
「殺しを、楽しんでいるのか」
どうして、命が消えている
「狂っている、あの男」
これは違う、戦場ではない
戦うことを許されない、出来ることは一つだけ
「……脆いな、どれも」
「はあ、はあ、……ぐっ!」
少し前、急に奴らは兵を下げた
数の有利はとったはずだった
なのに
「この…………! あっ」
どうして、かえって劣勢に立たされているのか
「邪魔だ、リスカム」
「……そんなこと、わかっています……!」
戦っているのは、二人
たったの二人、いや
正確には、一人
黒い、二丁持ちの男と、青い、盾持ちの女
なぜか、どこか息の合わぬ二人
おそらくは盾持ちが原因か、先ほどから息を切らしてがむしゃらに走っている
何故か、必死な顔で
自分の体力を気にも留めず
「レイ、ヴン……!」
「……………………」
「銃を、しまいなさい……!」
「断る」
男の前に立つように、男の射線をふさぐように
なぜか、走り回っている
「無意味な事をするな」
「嫌です、私は、傍にいます……!」
どうして、男の邪魔をしている
何故、それでも負けている
「徒労だ、それは」
「……それでも、います」
男の手は先ほどから動き続けている
ほんの少しの迷いもなく
的確に、冷静に
乾いた音がする
仲間が一人、倒れる
「……駄目です、レイヴン」
「断る」
また、響く
「これ以上、殺めてはいけません……」
「断る」
泣きそうな顔で、女が懇願する
三度、音が響く
仲間が、死んでいく
「こんなことが、あっていいのか……」
無情に、殺されていく
たった一人の男の手で
「……レイヴン」
男が引き金を引くたびに
「もう、やめてください……」
誰かが、命を攫われていく
抵抗することもできない
ただ、殺されていく、流れる様に、殺していく
男の手は止まらない
その目からは、人が持ち得るものを感じられない
優しさも、怒りも
「……お願いです」
悲しみも、邪気も
「……もう、止まってください」
「断る」
喜怒哀楽の欠片を感じない
あるのは
「……殺さないで」
「断る」
たった一つの狂気
敵を殺す、ただそれだけの決意
「…………っ!!」
崩れかけた女が、再び動く
理由はわからない、ただ、男に対抗しようという意思は見てとれる
男が動くよりも先に、こちらを無力化しようと
こちらの死者を、減らそうと
「…………何故だ」
「ひっ!」
その姿を尻目に見ていた黒い男が、ふと視線をこちらに送る
血のように紅く、光が灯っていない、暗い目
近くにいた仲間が反応する
「……うあ」
「……逃げろ、動けるなら」
「あっ、ああ……」
彼はまだ、動けるらしい
逃げる様に催促する
それを聞いて、走り出す
だが
「背を向けるなよ、臆病者が」
黒い何かが視界に入る
高速で、滑るように何かが動く、それは
「……ああ、なるほど」
黒い男、離れた位置にいたのに、いつの間にか近くにいた
いや、いつの間にかではない
得体のしれない黒い光を使って、ブースターでもふかすように高速で移動したのだ
逃げようとした仲間の前に立つ、銃を構える
「これは、そういうことか」
発砲、仲間が目の前で倒れる
「どうやら、助かる見込みはないようだ」
「ああ、よくわかってるな」
男の目がこちらを向く
「随分と、恐ろしい目をしてる」
「散々言われた、いまさら気にはしない」
銃口がこちらを向く
体が動かない
別に何かされたわけじゃない、ただ
「……ああ、本当に恐ろしい」
「そうかい」
助からないと、逃げられないとわかってしまったのだ
体が、脳が、人に僅かに残された、野生が
「なら、逝け」
この男からは逃れられないと
乾いた音が響いた
「―――っ!!」
全力で走る
「レイヴン!!」
引き金を引く彼の前に
「やめなさい!!」
止めるために
「これ以上はただの虐殺です!!」
殺させないために
「撃たないで―――」
「断る」
なのに、撃たれてしまう
「くっ!」
少し前、彼が動いた
最悪のタイミングで
最悪の言動をし
最悪の行動を
『ストレイド、止まれ』
「断る」
『さもなくば、我々は君をイレギュラーとみなす必要が出てくる』
「なら、そうしろ、今すぐに」
『ストレイド!!』
ドクターの声も届いていない
いや、届いている、聞いているのだ
そのうえで止まろうとしない
「レイヴン!」
彼は暴走しているわけでも、錯乱しているわけでもない
知っていたはずだ、彼はもとよりこうだと
敵は殺すと、生かす理由などないと
言われたではないか、昔に、なんども
「これは、もう戦場ではありません!」
「見りゃわかる、何故こうなっているかも」
話しながらも手は止めない
精密に作られた機械のように動き続ける
銃口を眉間に、確実に仕留めるために
「う、うわああああ!!」
相手も抵抗していないわけではない
ただ、相手が悪すぎるのだ
「遅い」
「がっ!」
前衛では、近づけない
近づく前に撃ちぬかれる、仮に近づいても
「振りが遅いな」
「くそっ!」
妙な格闘術で武器を抑え、そのまま頭を撃つ
「この!!」
「重たそうな飾りだな、外してやるよ」
「へ?」
盾を持っているなら、黒い光を舞い上げて瞬く間に接近し
「おらよ」
「ぶぅえ!!」
盾ごと相手を蹴り飛ばす
「顔が丸見えだ」
そして、がら空きになった急所に撃ち込む
本来、彼ら近接を援護する術師や狙撃手はもう、存在しない
とうの昔に殺された
「……なんで、そんなに殺したがるんです」
慈悲のかけらもない男
昔と何一つ変わらない、殺すための戦い方
さっきまでは、殺そうとしなかったのに
隣で、一緒に立っていたのに
「そら、動かないと的のままだぞ」
なんで、またいつの間にか離れてる
どうして、殺戮の限りを尽くそうとしている
『リスカム、命令だ』
「……はい」
『一度退け、彼の目的がわからない』
ドクターの指示が来る
おそらく、先ほどの言動が原因だろう
彼は、はっきりと口にした
警告だと、同じ末路を辿らせると
これは、明らかな敵対意識を持っているという宣言だ
ロドスを敵とみなしていると
いつか、殺しにいくと
真意はともかく、彼が危険人物だということがはっきりしてしまっている
ドクターは事が起きる前にどうにかしたいのだろう
『正直やらせたくはないが、このまま彼に声をかけても結果は変わらない』
「……………………」
『ここは彼にやらせる、その後でもう一度聞く』
「……そうですか」
ドクターは完全に彼を警戒している
味方でなく、不穏分子として
『ああ、だから君はなにか起きる前に――』
「すいませんドクター」
こちらの身を案じ撤退させようとする
正しい選択だ、敵か味方わからぬものがいるのだ
被害が出ないうちに下がらせるのは間違えていない
ただ
『なんだ』
「断ります」
『リスカム!』
今ここで、彼一人にやらせれば必ずロドスは彼を否定する
それは駄目だ
彼は否定されていい人物ではない
けして、悪人の類ではないはずだ
『リスカム! 今すぐ撤退しろ!』
「申し訳ありませんが、承諾しかねます」
いま、彼を一人にしてはいけない
ロドスに彼を否定させてはいけない
誰かが肯定しなければいけない
彼が、ただの殺戮者ではないと
炬 燵 を 出 し ま し た