アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
「……………………」
「ドクター、どうしますか」
「……そうだな」
ロドスの通信車両内部
ドローンを仲介し流れる映像には、ある男が映っていた
「なんなんだ、この人」
「次々殺すな、どんな精神力の持主だ」
他のオペレーターが口々に言う、無理もない
映像には、ある男の虐殺が映っていた
「死告鳥、その本領がこれだというか」
たった一人で戦場を支配する男
名は、レイヴン
いつからか戦地で囁かれた恐怖を振りまく男
圧倒的な暴力で、全てを殺す傭兵
「これが、敵に回るのか」
対処のしようはあるだろう
人一人、止められないなどということはあり得ない
あり得ない、はずなのだ
「……恐ろしいな」
なのに、勝ち目が見えないのはなぜか
ただ一人の傭兵を討ちとるビジョンが見えないのはどうしてか
「ドクター、アヴェンジャーの応急処置、終わりました」
「わかった、ありがとう」
彼は少し前、アヴェンジャーをここに運んできた
殺さずに、生かして
理由はおそらく、もう一人のリーダーの攻撃に巻き込まない為だろう
参考人を生かしておくため、死なせないため
「とても、同一人物とは思えんな」
そこには確かに、善意が見て取れた
なにより彼は庇った、ランチャーの流れ弾から体を張って
そんな男が今、人目を憚らずに殺戮にいそしんでいる
警告と言っていた、ロドスに対する見せしめと
「……正道、か」
正しい道をゆけと、そう言っていた
「わからない、彼は何者だ」
最初あった時から不可思議な面が目立つ男だとは思っていた
あの手紙の時から、龍門での捕縛作戦から
ロドスで騒ぎを起こして回る、あの姿から
「……彼女なら、知っているのか」
映像に目を向ける、そこには
「リスカムさん、どうしたんでしょうか」
「ドクターの指示を聞かず、戦闘を続行しています」
「……戦闘、には見えないな」
「そうですね……」
ストレイドの傍で戦うリスカムの姿
「何か、あるのか」
今の彼女は、正直、らしくない
いつもの安定した戦闘リズムはどこに行ったのか
なり振りかまわず走り回り、兵を無力化してまわっている
まるで、彼に対抗するように
「……意味が、あるはずだ」
彼女には言った、退けと
その男は危険だと
なのにどうして、彼の傍に居ようとするのか
「私の知らないことを、彼女は知っている」
自分は知らない、彼のことを
ストレイドという男を、理解していない
だが、彼女は違う
短い付き合いだったとは聞いていた
仲もたいして良くなかったと
それでも、彼女は彼を信頼していたらしい
彼を理解出来るだけの時間はあったのだろう
「なるほど、不可思議なわけだ」
わからなければ理解などしようがない
こうも動きに差が出るのもわかる
ならば、やるべきことは一つだ
「各員、彼の監視を続けてくれ」
「「「了解」」」
「フェン、応答を」
『はい、なんでしょう』
きっと、ここで彼を敵と認識すれば後悔する
「出来るだけ急いでくれ、彼の援護に間に合ってくれ」
『了解です』
ここですべきは敵対ではない
対話だ
「バニラ、ジェシカ、周囲の警戒を」
「了解です」
「……わかりました」
少し前
ストレイドの指示通りに撤退行動をとり安全圏までやってきた
念のために二人に警戒をしてもらう
バニラが落ち込んでいたが、理由はおそらく
「……リンクス、大丈夫よ」
「ふらんか……」
「ここは誰もいないから、落ち着いて」
リンクスの事だろう
彼女は先ほどから様子がおかしい
戦意を喪失している、その原因は
「リンクス、まずは落ち着いて、私の顔を見て」
「……うん」
先ほどの銃撃、バニラを助けるために撃ちだした銃弾
それは、人の命を奪った
「大丈夫だから、誰もあなたを責める人はいない」
戦場では命の略奪など日常茶飯事だ
それこそストレイドが言うように、当たり前に起きる
「……そうだね、ここには、わたしをおこるひとはいない」
「ええ、リンクス、だから落ち着いて」
だがそれをこの少女に当てはめてはいけない
ストレイドは言っていた、殺させていないと
その言葉に嘘はなかった、ついさっきまで、彼女は殺人を犯したことはなかったはずだ
「……酷に過ぎるわ、こんなこと」
「おこらないで、ふらんか」
そう、だった
「怒るわよ、あの男、よくもこんなことを考えたものだわ」
今は違う、彼女は人を殺してしまった
人の命を、罪を背負うことになってしまった
事の原因はバニラを助けるため
不利な状況の彼女を救い出すために撃った
仲間を、友人を助けるための行為、そこにはリンクスの善意があった
「誰だかわからなくなるまでぶん殴ってやる……!」
「だめだよ、ふらんか」
それが自然に起きたことならこうはならない
せめて彼女に慰めの言葉をかけるか、彼女が向き合えるように支えればいい
あの非情な男に苛立つことはなかった
だが違う、これは仕組まれたものだ
「あいつを庇う必要はないわ、リンクス」
これは、ストレイドがこうなるように仕向けたのだ
最初から、ロドスに訪れた時からずっと
「何がよしみよ、あいつに情なんてないこと、わかってたじゃない」
「だめ、ふらんか」
リンクスと一緒にロドスに来たのも
自分たちとリンクスを一緒にさせたのも
彼女にロドスを散策させたのも
彼女に人との関係を作らせたのも、この時の為
「人の善意を踏みにじって、何が面白いのよ、あいつ」
見抜けなかったことよりも、彼の悪行に腹が立つ
いったいどうして、こんな幼子に人殺しをさせようなどと考えたのか
「ふらんか、ちがう、ちがうの」
「何がよ、何も違うくないわ」
「それでも、ちがうの」
謀られたことは気づいたのか、リンクスが彼を擁護しようとする
拾われた恩か、それとも信用している相手を庇う為か
せめてそれが洗脳の類ではないと思いたい
「ふらんか、きいて」
「……何よ」
「すとれいどは、わるくないの」
「そんなわけないでしょう、これが悪事でなければ、なにが悪なの?」
「そうだけど、そうじゃないの、ふらんか」
なぜこうも彼を庇う
彼女は聡い、これがどれだけの悪か、わかりきってるはずだ
「リンクス、よく聞きなさい」
「ふらんか……」
「あの男は、確かな邪悪よ」
何もかも信じていなさそうな顔をして
裏切りも、謀略も、殺人すらも容易く行う男が善なわけがない
擁護されていい人物ではない
「あの男はただの虐殺者、人が死ぬ様、殺される様が見ていて面白いのよ」
どうしてあんな奴を信用するのか
「こんなの、人のやることじゃないわ」
リスカムは何故、彼を信じることが出来る
「……ちがう」
「違わない、彼はただの獣――――」
なんで
「ちがうっ!!」
「……リンクス?」
どうして、あなたも信用できる
「これで、百人目」
「はあ、はあ」
銃声が響きわたる
薬莢の零れる音がする
同時に、人が倒れる音がする
「さて、デカブツ、お楽しみといこうじゃないか」
「……化け物め」
「化け物結構、人よりかは断然マシさ」
何人いたかはわからない
それでも大勢いた
リーダーを信じて付いてきた、何人もの感染者
各々が信じるもののために集まった、被害者たち
「……結局、こうなるんですか」
沢山いた、それがどうして
「あなたは、何をしているんです、レイヴン」
「見てわからんか」
全て、倒れている
「虐殺だ、一方的な殺戮だ」
結果は何も変わらない
昔と、何も
「お前のような奴がいるから……!」
「ほう、睨むだけの気力があるか、伊達に人を率いていなかったらしいな」
レイヴンが軽口をたたく
とても人を殺した直後とは思えない
「どうしてだ、死告鳥」
リーダーが声をあげる
仲間を殺された怒りからか、息が荒い
「どうして、お前がここにいる」
「決まってるだろ、そんなの」
それは当然の感情、親しい者たちや、彼を信じて付いてきた者たち
一つの集団として生きてきた者たちが
「殺しにきた、名の通り、役割を果たしに来た」
「……役割だと?」
この男によって殺された
レイヴンを恨むに足る理由がある
「噂通りか、死告鳥」
「そうだな」
「こうやって、殺して回るか」
「ああ」
「なんの罪悪感もないのか」
「もちろん」
「……狂人め、殺してやる」
「いいね、自分たちのことは棚に上げて、一方的に捲し立てる。実に俺好みのクソ野郎だ」
どうしてそんな風に言う
まるで責めろというように
「お前は、何も感じないのか」
「なんだよ、哀しい事でもあったのか?」
「あった、いまお前が起こしただろう」
「はてさて、知らんな」
まるで恨めというように
「……人の心がないのか」
「いらんな、そんなゴミクズ」
まるで怒れというように
「お前は、我らに死ねというか」
「ああ」
どうして
「お前は、我らに救いを求めるなというのか」
「その通りだ」
許すなといってしまうのか
「せめてもの慈悲を、望んではいかんのか」
「そうだな、駄目だ」
「神にでもなったつもりか」
「まさか、直々にスカウトがきてもなりたくはない」
「……人殺しめ、我らが一体何をした」
「何も、強いて言うなら救いを求めたことかね」
彼の目が鋭くなる
たった一人残されたリーダーをまっすぐみやる
「それのどこが悪いのだ、我らはただ、せめて人らしくあろうと、奴らに当然の報いを受けさせようとしただけなのに」
「答え、言ってると思うが」
「この感情を、怒りを、憎しみを、間違いだというか」
「そこまでは言わんさ、ただ」
殺すつもりだろう、最後の一人も、他と同じように
「道を外れた者を生かす理由を持たないだけだ」
「お前も、その一人だろうに」
「違いない」
銃を構える
それに合わせてリーダーがランチャーを向け、引き金を引く
噴出音、炸薬の詰まった弾頭が飛んでくる、それを
「遅い」
発砲音、音源はレイヴンの銃
それと同時に爆音が響く
「ぐっ! ……規格外にもほどがある!」
爆発したのはランチャーの弾頭
着弾する前に空中で爆発した
「そら、よそ見してる暇はないだろ」
煙に向けてレイヴンが駆けていく
撃ちぬいたのだ、彼が、弾頭を
「このっ!」
リーダーがもう一度撃とうとする
「っ!? はやっ――」
その瞬間、彼が加速する
その姿がぶれるほどに、急速に
差が縮まる、その距離は五メートルもない
「チェックだ、デカブツ」
「クソッ!!」
あの距離ではランチャーは撃てない、リーダー自身も巻き込まれる
対してレイヴンは拳銃、近距離でも自由に扱える
たとえ重装であろうと、彼はあらゆる手を使い仕留めるだろう
「この化け物がっ!!」
このままでは殺される
「せめて楽に死なせてやるよ」
同じように、殺される
「ひっ!?」
それは、駄目だ
「じゃあ――」
なにかしなくては
「――な、と」
止めなくては
「だあぁぁぁっ!!」
突進する
「ぐあっ!!」
レイヴンにではなく、リーダーに
「ほう」
盾をぶつける
「なるほど、考えたな」
そのままアーツを起動、回路が起動し電流が走る
「っ!!」
歯を食いしばる、体中に力を入れる
「サンダーストームッ!!」
青白い雷光が戦場を包んだ
「ストレイドさん! 応援にきまし……た?」
「あれ? 変態紳士さんは?」
「うわっ!! 何があったの?これ」
「……まさしく屍の山、ですね」
『フェン、状況を』
「いえ、その……」
「ストレイドさんとリスカムさんが、現場から消えました」
筆?が進んだので連続で投稿しました
ストレイドがどんな人物か、表現したくともなかなか難しいです
ちなみに彼の回想を入れたのは偶然です
リンクスやったらストレイドもやらなきゃ駄目じゃね?ということで書きました
本来はサイドかおまけで書くつもりだったんですが
というか書く予定自体なかったんですが
まあ楽しんでいただけたなら幸いです