アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
「交戦時間は?」
「十分、経っていません」
「……単騎無双、か」
ドローンから聞こえていた戦闘音が消えた
聞こえてくる音は、四人の声と
『……どうか、安らかに』
何かを引きずるような音
『……ねえ、わたし、あの人怖いよ』
『そうだね、多分、戦ったら勝てないね』
ビーグルの怯えた声が聞こえる
原因は、ストレイドが残したもの
『……これをやったのが、あの人かぁ』
『優しい人なんですけどね、話した限りは』
カーディとアドナキエルが感想を溢す
その視線の先にはきっと、幾つもの死体があるのだろう
「ドローンの不調は直らないのか」
「無理ですね、音声がギリギリ拾えるだけであとは落ちてます」
「……そうか、予備を出してくれ」
「はい」
つい先ほど、映像を仲介していたドローンが壊れた
おそらくはリスカムのアーツだろう
電撃の類である以上、機械とは相性が悪い
そういえばこの前もロドスの機器が停電した
耐電の強化を考えるべきか
「フェン、二人は見当たらないのか」
『はい、何処にもいませんね、見える範囲には』
ドローンが壊れたこと自体は問題ない
問題は二人と連絡が付かないこと
「一体どこに消えた……」
『なんだか検閲門のときみたいですね』
「ああ、まったくだ」
あの時も彼は消えたらしい、いきなり
スモークで視界を隠して、何かの手段で撤退した
今回も状況は同じだ、リスカムのアーツの光に紛れ移動する
一応、何をしたかは予想は出来るが
「誰か、ストレイドが跳躍するのを見た者は?」
『いえ、私は見てませんね』
『わたしもです、すいません……』
『高く跳べるんだっけ? あの人』
三人から同じ回答が飛んでくる
そう、彼は嫌に高く跳べる
さらに加速する、原理は不明
いったいどういうアーツなのか、これもまた不可思議な話だ
そもそもリスカムの雷光は一瞬しか光らない、紛れるには跳躍では速度が足りない
なにより彼は彼女を連れているはず
リスカムはアーツの発動後、反動で動けなくなる
組んでいたことがあるなら知っているはず
そして彼なら、必ず助ける
安全な場所に連れていくだろう
そして彼女のアーツの発動直後、彼女自身が電気を纏っている
少し触れるだけで痛むぐらいには
「遠くには行っていないはず、周囲の散策を頼む」
『わかりました』
移動方法はわからないが彼とて人
長く耐えることは出来ない、彼女をいつまでも抱えてはいないはず
『リスカムさん、大丈夫かな……』
『大丈夫だよ、あの二人、仲良しだし』
『……そう?』
ストレイド自身気づいているかは知らないが彼はかなりお節介の人種になる
誰に言われるまでもなく困ってる人に目をつけて騒ぎを起こし
いつの間にか助けて嵐のように消えていく
ビーグルが龍門で偵察隊を逃したときや、リンクスを助けにいった時
捜せば他にもやっているかもしれない、方法こそ褒められたものではないが
彼なりに理由はあったかもしれないがあの警告を考えると手伝う理由はない
彼はおそらく、善人だ、酷くねじ曲がってしまっているが
『うわあ……見てよフェンちゃん、この人泡吹いてる』
『多分、リーダーの人だね、生きてるし、デカいし』
『あれ? てことはこれやったのリスカムさん?』
カーディとフェンが言っているのはリーダーか
最後の映像を見る限り、リスカムが倒したらしい、かなり強引だったが
「無茶をするな、彼女も」
きっと、そうまでしたのは理由がある
彼女は何かを示そうとした
ストレイドという傭兵の為に
「……正道を進め、間違えるな」
この言葉の意味は、どういうことか
彼の真意がここに隠れている、そんな気がする
「まったく、悩み事が多すぎる」
気が休まらない、記憶も戻っていないというに
とりあえずはこの後どうするか
申し訳ないが死者の回収は後回しとして捜索と他の部隊の援護、どちらをさせるか
『ねえ、アドナキエル君』
『ああ、はい、なんですか?』
そんなことを考えていたらカーディがそんなことを言い出した
『どうしたの? なんだか考え事してるけど』
『ちょっと気になることがありまして』
『気になること?』
そういえば一人だけ口数が少ない
なにかあったのか
「どうした、何か見つけたか」
『いえ、その、さっき変なものを見まして』
「なんだ、言ってみてくれ」
聞いてみる、何を見たのか
『いやその』
「なんだ」
『黒い光が上に向かって飛んでいくのが見えて、一瞬でしたけど』
「黒い光?」
「あぐっ!」
放り投げられる、文字通り床に捨てられる
「……ぐうおぉぉ」
すぐ横でレイヴンが両手を震わせてしゃがみ込む
「しびれる、非常にしびれる……」
「……どうも、すいませんね」
床に転がったまま彼に謝る
どうやら感電したらしい
まあ発動直後に触ったのだ、こうなるだろう
「まったく、これはどうにかならんのか」
蓄電と、恐らくこちらの体調のことを言っているのだろう
うつ伏せに腰を少し上げた状態で倒れている
なんとも情けない、フランカがいないのはせめてもの救いか
「現状、絶縁体の手袋を付ければどうにかなりますが」
「抱えた時に効果がねえよ、それ」
感電してるのは自分に触ったから
常日頃からよくあることだが中々痛いらしい
前にドクターと握手したときひっくり返ってた
「この野郎、運ぶ奴の徒労を考えろ」
「……私は、アマです」
「オーケー、このアマ、阻止したいのはわかるがもちっと手段を考えろ」
「……すいません」
「こっちの射線に延々と被りやがって、やりづらかったぜ」
いつもと変わらぬ調子で話す、あの戦いが嘘のようだ
「フランカは苦労してそうだな、これは」
「……苦労してるのはこちらです」
「ふむ、ならよし」
「……………………」
どうしてこう、人のことばかり気にするのか
自分のことなど、気にも留めないのに
「レイヴン、その……」
「お、どうした、そんな困った顔して」
どうしてこう、人の考えてることを見抜ける
「さっきは、すいませんでした……」
「なんだ、無茶苦茶な事をしたのは理解してるみたいだな」
「……はい」
無茶苦茶、とはさっきの戦闘の事だろう
二人しかいない状況で、連携も取れていない
相手がそれを利用していれば危険だった
「まったく、どうしてそう人の価値観に口出すかね」
「……………………」
何も起きなかったのは、この男のおかげだろう
彼が迅速に、冷静に、殺して回ったから無事だったのだ
だからといって素直には喜べない
そもそもあんなことをしたのは
「昔言ったろ、リスカム」
「……はい」
「俺にとって、敵は殺すものだと」
この男の虐殺行為を止めるため
結局、助かったものは一握りだが
「助けるつもりなど毛頭ない、序盤の奴らは運が良かっただけさ」
何という事のなかったように言う、その姿からは罪悪感を感じない
あの行為は、彼にとっての当たり前なのだ
「……わかりません」
「なんだ、急に」
彼は殺しに馴れている、人の死を見ることに
「どうして殺すんです」
「それが俺のやり方だからだ」
その心は冷酷以外のなんでもないはず
「命より大切なものなど、この世界にはないんです」
「そうだな、その通りだ」
なのにどうして
「わかっているくせに、どうして」
そんな顔をする
「どうして殺したがるんですか、あなたは」
「それ以外に知らないからだ」
「知っているでしょう、嘘を言わないでください」
彼は昨日、話してくれた
生かすことと、護ること
ただ戦うだけでは成し遂げられないこと
「あなたは善人のはずです、レイヴン」
「何を根拠に」
「根拠ならあります、いくらでも」
それらは正義を誇ったことのあるものしかわからない
「龍門でビーグルさんを手伝ったこと」
正しい事柄を理解していなければわからないものだ
「検閲での騒ぎに首を突っ込んだこと」
そうでなければ、そんな顔はしない
「あなたが、残されたリンクスを助けたこと」
そんな、苦しそうな、何かを無理やり割り切るような
「いつか、あなたが二つの国を護り続けたこと」
哀しい顔はしない、悲しむようなことはしない
「まだありますよ、BSWで他の方々を助けることを優先してたのも」
「……………………」
「戦争を阻止するため、火種を潰してまわっていたことも」
「……随分、話されたみたいだな、あのクソジジイに」
「ええ、教えてくれました、なにもかも」
彼が消えてから必死に探した
いなくなったことに納得できなくて
別れの言葉もかけられなかったことが悔しくて
この男の事を理解できなかったのが悲しくて
「レイヴン、私は言いました」
そんな顔をする理由が聞きたくて
「あなたを誤解したくないと」
「そうかい」
多分、今を逃せば次の機会はない
彼には会えなくなる、そんな気がする
「レイヴン、教えてください」
作戦は終わりに近づいている、これが済めば彼は消える
理解するには今を除いて他にない
「何があなたをそこまで駆り立てているんです」
「駆り立てられてなどいない」
「ならどうして、苦しんでいるんです」
「……さあな」
レイヴンが煙草を咥え火をつける
吸いおわるのをおとなしく待つ
「……理解、か」
煙を吐きだしながら話し出す
「リスカム、お前はいつもそうだ」
「……レイヴン?」
火が消える前に話しだす
「そうやって、まっすぐに人を見る、疑うことはしない」
その顔からは、感情を感じない
「頑固者め、どうして自分から面倒事に首をつっこむ」
「何を、言いたいんです」
まるで死人のような顔だ
「リスカム、理解したいといったな」
「ええ、いいました」
「誤解したくないと、間違えたくないと」
「はい」
思考をすることが許されなくなった肉塊
先ほど、彼が大量に生み出したものに、雰囲気が似ている
「いいだろう、教えてやる」
そのくせ目からは確かな感情を感じる
「そうして理解しろ」
輝く光ではなく、淀んだ光
「理解しようなどということ自体が間違いだと」
きっとそれは、怒りだ
「知るといい、お前が信頼する先輩は、ただの人殺しだ」
レユニオンのような、向ける先が存在しない、矛先のない怒りだ
「お前の前に立つものは、ただの罪人だ」
「……レイヴン」
煙草を握りつぶす、目つきが鋭くなる
「リスカム、俺を軽蔑しろ、侮蔑しろ」
そう吐き捨てる、苛立っている訳ではない
その表情からうかがえるのは、人として当たり前のもの
「けして、俺を肯定するな」
後悔だった
「……リンクス」
「ちがうの、ふらんか」
リンクスが叫んだ
「すとれいどは、なにもわるくない」
「……けれど、あなたにこれをやらせるように画策したのは、彼なのよ?」
「ちがうの、そうじゃないの」
いつもおとなしかった少女が
「……何が違うの、奴は悪人よ、そうでなければこんなことは起きなかった」
「それでも、ちがう、すとれいどはわるくない」
周囲でどれだけ騒ぎが起きても落ち着いていた少女が
「リンクス、どうしてそう言えるの」
人を殺しても正気を保ってみせた少女が、叫んだ
あの薄情な男の為に
「わからないわ、彼があなたにやらせたことの意味はわかるんでしょう?」
「うん、わかる、なにをしたのか、どんないみがあったのか」
「なら――――」
「だからこそ、すとれいどはわるくない」
「……どうしてよ」
何故ここまで彼を庇える、信頼など、出来る要素は見当たらないのに
「きいて、ふらんか」
少女がこちらに目を向ける
強い意志を持った、眩しい瞳
「これは、わたしがやったの」
その幼い心のどこに、ここまで精神力があるのか
「わたしが、わたしのいしで、せんたくしたの」
「……何をよ」
少女は、認めるというのか
「あのとき、わたしはうった」
その小さな背中で背負うというか
「だれのためでもなく、わたしのために」
重い、重荷に過ぎる
「わたしのいしで、ひとをうった」
「……リンクス」
「ここに、すとれいどのいしはない、あるのは、わたしのいし」
なのに、どうして背負えてしまう
潰されてもおかしくない、放り投げてしまえば楽になる
「にげだすわけにはいかないの、わたしは、みとめる」
「わたしは、ひとをころした」
「……それが、どういうことか、認めるのね」
「うん、じゃないと、あのひとがこまっちゃう」
「……どうして?」
なぜ彼女が受け止めなければ困るのか
「そうだね、ふらんかはしらないほうがいいかも」
「そう……」
誰かのように、誤魔化してくる
「きっと、またおこる」
「なら教えてよ、怒らないから」
「だめ、すとれいどのこと、もっときらいになっちゃう」
わからない、なにが彼女をこうさせる
どうして強くあらせようとする
こんな幼い子に、こんな酷な現実を押し付ける
「なっとく、できないよね」
「……出来るわけないでしょ、こんなの」
「でも、はなせない」
これも、彼の想定内なのか
彼女を死に馴れさせようというのか
あの男がわからなくなってきた
何を考えている、どうしてこんなことをした
「……ねえ、リンクス」
「どうしたの、ふらんか」
この少女に聞けば、教えてくれるか
「ストレイドは、なんの為にこんなことを?」
「……そうだね、それは、いわなきゃね」
優しく微笑んでくる、それをするのは自分のはずなのに
「ふらんか、あれはね」
安心させなければいけないのは自分なのに
「すとれいどにかせられた、さいごのしれん」
自分よりも、この少女の方が強く見える
「きおくをとりもどすための、ひきがねなの」
「……記憶?」
「そう、きおく、わたしの、すとれいどにあうまえの」
「思い出したの?」
「うん、おもいだしたよ、まだすこし、ぐるぐるしてるけど」
この状況でそれを喜んでいいのか
いや、喜ばしい事だ、それがどんな内容であろうと彼女にはいい傾向だ
ただ気になるのは
「どうしてこのタイミングで思い出したの?」
何故、いまなのか
「それはね、ふらんか」
少し悲しい顔で言う
「さっき、ひとをころしたから」
「……え?」
「あのひとのたおれるすがたが、おとうさんににてたから」
「それは……」
「あのひ、しらないひとたちにうたれたおとうさんに、そっくりだったの」
撃たれた、倒れた、それはつまり
「……やっぱり、そういうことなのね」
「うん、わたしのこきょうは、しらないひとたちのてで、もやされた」
予想は出来ていた、襲われたことは
ただ予想外だったのは
「リンクス、あなたは」
「そうだよ、ふらんか、わたしはみたの」
「リンクス……」
「このめで、みたの、おとうさんとおかあさんが、ころされるのを」
こちらに心配をかけまいとしているのか、ぎこちない笑顔を浮かべながら
だがその内容は、ひどく残酷だった
「おとうさんはうたれて、おかあさんはやけるいえのなかでわたしをみおくった、さいごに、こういって」
悲痛な笑みだ、そして、子供には耐えられない現実だ
「あるきつづけなさいって、そうねがわれて」
どうしてこう、優しい現実が存在しないのか
「おもいね、ふらんか」
いったい誰がこの子を追い詰めようとするのか
「あのひとは、こんなものをいっしょにせおってくれてたんだね」
「……リンクス!」
何も言えず、抱きしめる
「ふらんか、ないてるの?」
「……泣いてないわよ」
これ以外にこの子に出来ることがない
「だめだよ、ないちゃ、ばにらとじぇしかがこまってる」
「泣いてないわよ……!」
何も、出来ない
「なかないで、わたしはへいきだから」
「……平気じゃないでしょ、こんなの」
無力だ、無力に過ぎる
「だいじょうぶ、わたしは、だいじょうぶ」
「強がらないで、泣いていいの、泣いていいのよ、あなたは……」
「だいじょうぶ」
この少女に何もしてあげられないのが、ひどく悔しい
「ふらんか、だいじょうぶ、わたしはなかないよ」
「リンクス……」
「だって、そうしたらすとれいどがこまっちゃう」
「困らないわよ、あいつは」
「ううん、こまるよ、あのひとがなけなくなっちゃうから」
「……泣くわけないわ」
「そうだね、きっと、わたしたちにはみせないね、それでも、なかない」
「……泣いてよ、リンクス、お願いだから」
「ありがとう、ふらんか」
「お礼なんていいから、泣いてよ……!」
だいじょうぶ、なかない
なかないよ、わたしは
どんなことがあっても、わたしはなかない
じゃないと、あのひとにかおむけできないから
あのひとが、おわかれできなくなっちゃうから
なきたくても、なけなくなっちゃうから
だから、なかないよ
アークナイツとアズレンのイベントが終わってないことに気づいた私
とりあえず小説の方は終わりそう
ゴールが見えてくると楽しいですね