アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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願い

「リスカム、人である定義は何だと思う」

 

「……急に、なんです」

 

直前、彼は不可解なことを言った

 

「定義だよ、何をもって人と言えるか、それを聞いている」

 

「だから、それがどういうことかと聞いているんです」

 

肯定するなと、否定しろと

 

「簡単だ、お前は何か起きた時、人としての感情が働くか?」

 

「……それは、喜びや、悲しみ、そういうことですか」

 

「ああ、その類の感情を持ち合わせているか」

 

つまり、喜怒哀楽の表現が出来るか、ということか

 

「……ええ、出来ていると、思いますが」

 

「なら、お前は人だな」

 

「何を言いたいんです、あなたは」

 

それがどういう意味を持つのか、わからない

 

「リスカム、人とは笑うものだ」

 

「……………………」

 

「不愉快なことがあれば怒り、嬉しいことがあれば喜ぶ」

 

「……ええ」

 

「そうして、哀しい時は、涙を流す」

 

「……そうですね、それが、なんだというんです」

 

「これは当たり前の代物だ、人としての、重要なパーツだ、動力源と言ってもいい」

 

動力源、人が人として生きるための要素というか

 

「レイヴン、話が見えません、それがあなたにどう関係あるんです」

 

ただ、それが彼の言う話に繋がる理由がわからない

 

「ならそれがない奴は何なのか、考えたことはあるか」

 

「……いえ、ありません」

 

「だろうな」

 

人である以上、感情は必ず付くものだ

それがない、などということはありえない

 

「そんな人、いるとは思えませんが……」

 

「いるよ、リスカム、その手の奴らは幾らでもいる」

 

「……何故そんな事を言うんです」

 

「決まってる、俺も、その一人だからだ」

 

「……あなたが、ですか?」

 

「ああ、碌な情を持たぬ、人の形をした何か、それが俺だ」

 

それは、どういうことか

 

「……言っている意味がわかりません」

 

「そうだろうよ、これは、ある種の啓蒙だ」

 

「……なんです、それは」

 

「狂人だよ、思考が狂ってるんだ、枷もなく、止まる術を失くした咎人だ」

 

「……咎、ですか」

 

「心当たりはあるな」

 

咎、罪、この状況で、わざわざ言った、それはつまり

 

「……昔の事件ですか」

 

「ああ、あの虐殺だよ、俺の噂が本格的に出回った、罪人の門出だ」

 

ずっと昔、新聞にも載らなかった事件

小さな二つの国が一人の傭兵によって滅ぼされた、恐ろしい話

 

「あの日、理解したんだ、俺は人ではないと」

 

「そんなわけがありません、あなたは人です」

 

「いや、違う、俺は人足り得ない、そう値するものを、持ち合わせてはいない」

 

「何を言っているんです、あなたは感情があるでしょう」

 

「リスカム」

 

紅い目をこちらに向ける

濁った光に塗れた目、見ているだけで得体のしれない何かに呑まれているような、そんな感覚に陥る

 

「俺があの日殺したのは、救いを願っていた人たちだ」

 

「……救い?」

 

「当たり前の平和を、平穏を、当たり前にしてくれと願っていた、善人だ」

 

それは恐怖以外の何物でもない

 

「わかるか、救われていい者を、殺したんだよ」

 

こんなものを発する男が善人であるはずがない

 

「そこには確かに哀しみがあるべきだったんだ」

 

悪人だ、その心は冷酷なはず

 

「たとえ幾千を平気で殺す狂人でも、涙の一つも流すべきだったんだ」

 

なのに、どうして

 

「にもかかわらず、俺は流すことをしなかった」

 

そんな悲しい顔をする

 

「一滴も、ただの一筋も、流れることはしなかった」

 

「……レイヴン」

 

「こんなものが人であっていいのか、欠落していることに気づかなかったものが」

 

「違います、あなたはちゃんとした――」

 

「リスカム」

 

肯定したかった、あなたは人だと、言おうとした

それを、止められる

 

「俺は言ったぞ、肯定するなと」

 

「……否定のしようがないんです」

 

「否定しろ、無理にでも」

 

「出来ません……」

 

「お前達は、善人は、けして許してはいけないんだ」

 

「何をです」

 

「悪をだ、お前達には否定しか許されてない」

 

「……無理です」

 

「ならば納得しろ」

 

「出来ません」

 

この男は自分を悪だと定義している

許されてはいけないと、優しさを向けられてはいけないと

 

「レイヴン、あなたは思い違いをしています」

 

なら、それが正しいなら彼はここにはいない

 

「あなたは悪などではありません、善人です」

 

「悪だよ、俺は」

 

「違います」

 

「違わない、俺はとうの昔に罪人だ」

 

「それは、あの国を滅ぼしたからですか」

 

「そうだ」

 

その日、確かに彼は多くの人を殺した

だがそれは、戦争を止めるための行為だったはず

 

「あなたはあの日、止めるために戦ったんでしょう、罪のない人を助けるために」

 

「……………………」

 

「ならば、それは罪では――」

 

「罪だよ、あれは」

 

何故そう言い切る、助かった人たちはいたはずだ

そこには彼の善意があったはずなのだ

 

「救われた人はいたんでしょう? 命を失わずにいた人がいたはずです」

 

「そうだな、少ないが、確かにいた」

 

「それなら、あなたは善です」

 

「……リスカム、それでも、死んだ方が多かったんだ」

 

「ですが、あなたの責任では」

 

「いや、俺だよ、リスカム」

 

「……レイヴン?」

 

こちらを見る目に、力がなくなる

どこか、遠くを見るように、焦点が合わなくなる

 

「あの日、願われたんだよ、俺は」

 

「何を、ですか」

 

ずっと昔の、いつかの日を、見ているのか

 

「あいつに、あいつらに、願われたんだ」

 

その声は、後悔の念に満ちている

 

「殺してくれと、終わらせろと」

 

「……それは」

 

「そうして、己の罪を自覚しろと」

 

「……違います、レイヴン」

 

「違わない、あいつらは俺を恨んだんだ」

 

「違うんです、そんな事を言いたかったわけじゃないんです」

 

「偽りを、偽善を善とはき違えた俺を、憎んだ」

 

「レイヴン……」

 

「お前は間違えたと、願いを叶える器ではなかったのだと」

 

「……違うんですよ、そうじゃ、ないんです」

 

「愚か者に、仕打ちを与えた」

 

「……そうでは、ないんです」

 

「救おうなどと考えたのが、誤りだと、ならば最後まで、誤っていけと」

 

「……………………」

 

「そして、あの暖かなものを、殺した、願われた通り、救ってやった」

 

「……救いではありません、そんなの」

 

「そうだな、だがあいつらはそう願ったんだ」

 

目を閉じる、そして開く

そこには、また淀んだ光が戻っていた

その目には、血に塗れた道が映っているのだろう

 

「リスカム、俺にはもう、生かすことが許されない、罪を背負い続けなければならない」

 

引き返すことは出来るはずなのに

 

「殺し続けることしか、許されない」

 

振り向くことすら許さないというのか

 

「いいか、これが俺だ」

 

 

「ただ殺す、そうすることしか出来なくなったもの」

 

「世界を殺すことでしか、安寧を得られなくなった男」

 

「そうすることでしか、救いを見いだせなくなった罪人」

 

「かつて正道を行こうとした、吐き気を催す外道だ」

 

 

「……違います、レイヴン」

 

「違わん、現に俺は殺しているぞ」

 

「違うんです、あの人たちは」

 

「違うなら、俺を殺しに救いが来るはずだ」

 

「あなたに、許されたくて」

 

「違う、違うよ、リスカム、俺が許しを請うべきなんだ」

 

「あなたは、悪くないのに」

 

「いいや、俺だ、なにもかもを壊したのは俺なんだ」

 

「……レイヴン」

 

「リスカム、否定しろ」

 

どうして、そんな顔をする

 

「否定してくれ、頼む」

 

悲しむぐらいなら

 

「そんな目で、俺を見るな」

 

苦しむぐらいなら

 

「咎を受けなきゃいけないんだ、俺は」

 

最初から、やらなければいいのに

 

「……わかりました」

 

あまり力が入らない体で立ち上がる

 

「そうだ、それでいい」

 

ゆっくり、彼に近寄っていく

 

「俺を憎め、俺を恨め」

 

拳を握りしめる、やるべき事をするために

 

「お前達善人にはその権利と、そうしなければならない義務がある」

 

この男の、愚かな願いを叶えるために

 

「けして、俺を許すな」

 

「ッ!」

 

拳を振りぬく、彼の顔にもろに入る

呻きもせずに受け入れる

逆にこちらが体勢を崩し、倒れてしまう

 

「……上出来だ、リスカム」

 

それを優しく受け止められる

 

「……とんだマゾヒストですね、あなたは」

 

「……ああ」

 

他人を気遣えるくせして

 

「人殺し」

 

「ああ」

 

優しいくせして

 

「快楽殺人者」

 

「ああ」

 

暖かいくせして

 

「……卑怯者」

 

「……そうだな」

 

どうして、悪になろうとする

 

「……これで、満足ですか」

 

「まさか、小娘一人の罵倒と拳じゃあ足しにもならん」

 

「……わかりません、レイヴン」

 

これが彼の贖罪なのか

いつか、誰かが彼を殺しに来るのを待つというのか

 

「そうまでして、なぜ殺すんです」

 

「役割だよ、リスカム」

 

「……役割?」

 

「そうだ、世界には役割が必要だ」

 

「……なんの、ことです、いったい」

 

「あんな事を二度と起こさせないための、役割が必要なんだ」

 

「何を、言っているんです」

 

「言った通りだ、リスカム」

 

「駄目です、それは、許されません」

 

「だからだ、だから、俺がやる」

 

「神にでもなるつもりですか、あなたは」

 

「まさか、そんなものになったらそれこそ救いようがない」

 

「だけど、あなたの言うことは、やろうとしていることは……」

 

「リスカム、賽はとうに投げられている、ずっと昔の、あの時から」

 

「駄目です、レイヴン、そんなものになってはいけません」

 

「もう、なってる」

 

 

俺は死告鳥、そう決めた、なると決めたんだ、あの日から

 

この世界を殺すため、下らぬ崩壊を起こさせないため

 

間違いを、起こさせない為

 

誰も、呪いにかけさせない為に

 

世界の敵になる

 

この世全ての敵になる

 

抑止力だ、人種も、病気も関係ない

 

俺が、俺の為に、誰かの為に器になる

 

願いでなく、祈りでなく

 

この世の悪意の、受け皿になってやる

 

 

「そんなもの、誰も望んではいません」

 

「前例がないからだ、生まれれば、頼る意外になくなる」

 

「馬鹿げています、人一人に出来ることではありません」

 

「それでもやる、殺すことで救えと言われた、ならばやる」

 

「違います、そんなこと、誰も願っては……!」

 

「いや、願ったんだよ」

 

「……誰が、ですか」

 

「他でもない、俺だ、俺が、自分で呪ったんだ」

 

「……ふざけています」

 

「ああ、狂ってる」

 

哀しそうに笑う

こんな男が、背負えるわけがない

大罪だ、それこそ神罰が下るほど重い罪だ

 

「……わかりませんよ、レイヴン」

 

「わからなくていい、理解されるいわれはない」

 

ゆっくりと、体を下げられる

壁を背にかけられ、子供を寝かしつける様に寝かされる

 

「……そうまで悪に徹するなら、どうしてリンクスを拾ったんです」

 

「言っただろ、無力の象徴だと」

 

この男が真に世界の敵になるというなら、行動が矛盾してる

あの子を拾うようなことはしない

 

「悪なら、悪人なら拾うようなことはしない、助けることなどしません」

 

「ああ、そうだな」

 

「捨てているはずです、なのにどうして拾ったんです」

 

この悪人のふりをする男は、気が付いているはずだ

自分が本当は何者か

 

「……勘がいいな、あいかわらず」

 

「レイヴン、教えてください、何故です」

 

「仕方ないな、ついでだ」

 

観念したように言って話し出す

 

「あいつは、残された、それはわかっているな」

 

「ええ、生き残りだと」

 

「そうだ、あいつは一人だった、たったの一人だった」

 

また悲しそうな顔をする、悪人がしていい表情ではない

 

「傍に誰もいなかった、一人で歩かなければいけなかった」

 

「……そうですね」

 

「導き手も、仲間もいない、その姿が、重なったんだ」

 

「……誰に、ですか」

 

「俺だよ、リスカム、俺だ」

 

「あなたに、ですか?」

 

「ああ、たった一人で歩くことになったあいつが、いつかの俺に重なった。一人置いていかれた姿が、残された姿が」

 

「……やはり、善人ではないですか」

 

「違うよ、そんなものには俺はならない」

 

「どうして否定するんです、少なくとも彼女にとっては善人です」

 

あの子の彼を見る目は親愛に溢れていた

その光が、彼女の笑顔が、彼が何者かを示していた

そのうえで否定するのか

 

「リスカム、確かにアイツにとっては善人だ、だがそれも、今日で終わる」

 

「……それは、別れるからですか」

 

またそんな理由で絆を断てると思っているのか

 

「いや、違う、もっと残酷な方法だ」

 

「……残酷」

 

その言葉に、思い当たる節がある

 

「まさか、あれはその為ですか?」

 

「ああ、気づいているな、俺が何故、あの場を離れたか」

 

リンクスが先ほどやったこと、その意味

 

「いったい何を考えているんです、あの子を兵士にするつもりですか」

 

殺しに馴れさせようとでも言うのか、あんな子に

 

「リスカム、勘違いはするな」

 

「ならばなんだと言うんです、あれは――」

 

「リスカム」

 

何か言おうとして遮られる

 

「これは、アイツが選んだ道だ」

 

「……彼女が?」

 

「そうだ、アイツが、自分の意思で決めたんだ」

 

「……戦うと、決めたんですか?」

 

静かにうなずく、その目には決意を感じる

 

「こと戦いという行為において、俺は否定が許されない」

 

「……だからって」

 

「だからだ、リスカム、だからアイツに選ばせる」

 

 

 

「これは、正しい道を歩かせるための愚者の願いだ」

 

 




後書きに何を書けばいいのかわからない
毎回投稿するたび一番迷ってるのって後書きなんですよね
基本、適当な事を書いているんですがまともなものが一つもありません
性格ゆえか、それともコミュ障か、ただの馬鹿か
はてさてどれでしょうか
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