アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

58 / 81
12/16 修正


きっといつか、泣くために

 

「……………………」

 

「~~~~~♪」

 

適当に残っていた壊れかけのベンチに座り、膝にリンクスを乗せている

 

 

「なんの歌だろ……」

 

「どこかで聞いたような……どこだったかなぁ」

 

離れた所で二人が周りを警戒してくれている

 

「~~~~~♪」

 

リンクスはどこかで聞いたことのあるリズムの曲を鼻歌で口ずさんでいる

 

「……上手ね、リンクス」

 

「ん? そう?」

 

「ええ、とっても上手」

 

「ありがとう、ふらんか」

 

少女は無邪気に笑う、その姿は年相応のものだ

 

「……………………」

 

「……ふらんか、ふあんなの?」

 

だが、彼女はこれからある男の試練に立ち向かわなければいけない

ストレイドという傭兵が課した、最後の試練

彼が言っていた、彼の最後の責務

 

「そうね、正直怖いわ」

 

「……むう」

 

彼女は言った、間違えれば、殺されると

彼がこの少女を殺すと

 

「……ええ、本当に恐ろしい」

 

「……だよね」

 

彼女は怖くないのか、そもそもどうして納得できる

 

「リンクス、あなたはこれでいいの?」

 

「うん、これでいいの」

 

即答される、その目に曇りはない

 

「……わからないわ、死ぬかもしれないのよ?」

 

「そうだね、それは、こわいことだね」

 

「なら」

 

「でもね、ふらんか」

 

膝に座ったまま、リンクスが言う

 

「しぬことよりもおそろしいことが、わたしにはあるの」

 

「……それは、何?」

 

「それはね、せおうことをやめること」

 

「ご両親の、願いを?」

 

「うん、それと、あのひとからの、ねがいを」

 

「ストレイドの?」

 

「そう、それをおろしてしまうことのほうが、わたしにはおそろしい」

 

「……………………」

 

「そうして、あゆみをとめてしまうことが、いちばんおそろしいの」

 

そう言って、重心をこちらに寄せてくる

 

「……どうしたの?」

 

「うんとね、ふらんかはやさしいなって」

 

「……それは、ありがとう」

 

「やわらかいね、ふらんかは、あたたかい」

 

「……そんなに気に入ったの、私の膝」

 

「うん、あたたかくて、あたまのうしろがやわらかいのがいい」

 

「えーと……まあ、いいわ」

 

なんだか彼の悪影響が酷い気がする

 

「ねえ、ふらんか」

 

「なにかしら」

 

「ふらんかはやさしいから、わたしがまちがえたら、すとれいどをとめるんだよね」

 

「……ええ、あなたは殺させない、けして」

 

「だよね」

 

たとえ二人がお互いに認めたうえでそうなろうと

この子を死なせるような事にはさせない

 

「でもね、ふらんか」

 

だけど、きっと

 

「それはね、しないでほしいの」

 

この子は喜ばないのだろう

 

「これはね、わたしと、あのひとのもんだいなの」

 

「……でしょうね、言うと思ったわ」

 

「ごめんね」

 

申し訳なさそうに、笑いかけてくる

 

「ふらんか、わたしはね、かんしゃしてるの」

 

「……誰によ」

 

「みんな」

 

「……ストレイド、じゃなくて?」

 

「うん、すとれいどに、ふらんかに、りすかむに、じぇしかに、ばにらに、ろどすでであった、いろんなひとたちに」

 

「……多いわね」

 

「うん、みんなにおれいがいいたいの」

 

「どうして? 私達はそんなこと、何もしてないわ」

 

「ううん、してくれた、とてもおおきなことをしてくれた」

 

大したことはしてないはず

だが彼女にとっては大事なことをしていたらしい

 

「大きい事って、なによ」

 

「うんとね、あのひとのねがいをかなえてくれたこと」

 

「……ストレイドの?」

 

「うん」

 

「余計にわからないわね……」

 

「そうだね、でもたいせつなこと」

 

「どういうこと?」

 

「ええとね」

 

少し、考え込む

 

「ふらんか、わたしはね」

 

ゆっくり、話す

 

「あのひ、いちねんまえに、しんでいたはずなの」

 

一年前、彼が彼女を拾った時だろうか

 

「そうして、おかあさんのねがいをせおうことなく、くちていた」

 

「……そうね、聞いた状況じゃ、そうなっていたわね」

 

「そこに、すとれいどがきて、たすけてくれた」

 

軽く聞いた分には、罪滅ぼしだと言っていた

 

「わたしをひろって、あるきかたをしらないわたしに、あるきかたをおしえてくれた」

 

「……歩き方」

 

「そう、そして、あのひとはいま、みちをしめしてくれた。わたしにとっての、せいどうを」

 

「それが、あの人の望みなのね」

 

「うん、だけどこれは、あのひとだけじゃできなかった」

 

「……別に、他にやりようはあったと思うけど」

 

「ううん、なかったの、わたしがわがままいっちゃったから」

 

「わがまま?」

 

「そう、てつだいたいって、いっちゃったから、せんたくしがなくなっちゃったんだね」

 

「……それでも、あったはずよ」

 

「そうだね、でも、これがせいかいだったんだとおもう」

 

「どこがよ……」

 

正直、まだ納得は出来ていない

こんな少女に人の命を背負えなど、言えることではない

 

「おこらないで、ふらんか」

 

「……怒るわよ」

 

「そうだよね、でも、わたしはだいじょうぶだから」

 

気丈な子だ、人を殺したことを認め、己に課せられたものに覚悟を示す

大人でも、そうそう出来ることではない

 

「それでね、すとれいどはこのほうほうをとった」

 

「ロドスを巻き込んで、あなたをついでに置いていく、褒められたことではないわよ……」

 

「でも、こうするしかなかったんだよ」

 

「……真正面から来ればよかったのよ、あいつは」

 

「ううん、それじゃあ、あのひとのもうひとつのもくてきがはたせない」

 

「もう一つ……て、あの人、まだ何か企んでるの?」

 

「うん、でも、そっちはだいじょうぶだよ」

 

「……なら、いいけど」

 

まだ何かやるつもりなのか、あのドスケベカラス

 

「ねえ、ふらんか」

 

どこか神妙な顔で話しかけてくる

 

「どうしたの? 改まって」

 

「あのね、ふらんか」

 

「ええ」

 

「わたしのなまえ、よんでみて」

 

「……リンクス」

 

言われてよんでみる、少し気恥ずかしい

 

「ありがとう、かっこいいなまえでしょ?」

 

「ええ、山猫、だったかしら」

 

「うん、そうだね」

 

これは、彼女の本当の名前ではない

 

「すとれいどがつけてくれたの」

 

「彼にしてはまともね、よかったわ」

 

ストレイドが、不便だと言ってつけたもの

 

「リンクス、かっこいい」

 

「ええ、素敵な名前ね、理由が理由だけど」

 

「そうだね」

 

山猫みたいだったからそうつけた、随分適当だ

 

「それがどうかしたの」

 

「うん、これはね、もうひとつ、いみがあるの」

 

「意味? 山猫以外の?」

 

「そう、そしてこれは、あのひとのねがいなの」

 

「……え、山猫以外? 何かあったかしら……」

 

「たぶん、わからないかな」

 

なんだろう、他に意味などあったか

 

「それでね、そのねがいはすとれいどにははたせなかった」

 

「まあ願うぐらいだから、誰かに託す必要があったんでしょうけど……」

 

「それを、みんながはたしてくれた」

 

「……もっとわからなくなってきたわね」

 

「うん、わからなくていいの、もう、はたされているから」

 

「……そう」

 

満足そうな顔で、足をぱたぱたしながら笑う

最初に比べて、よく笑ってくれるようになった、本当に

 

「……ねえ、ふらんか」

 

「なあに、リンクス」

 

こちらを見上げてくる

 

「ふらんかは、すとれいどのむかしのことをしってるんだよね?」

 

「ええ、知ってるわね、少しだけど」

 

「そっか、いいなー……」

羨ましそうに言ってくる

 

「彼に聞いたことはないの?」

 

「うん、きけなかった」

 

「どうして、聞きたいなら聞けばよかったのに」

 

「そうだね、でも、きけなかったの」

 

寂しそうに、笑う

 

「あのひとはいつも、くるしそうなかおをしているの」

 

「……そうかしら」

 

「そうだよ、かなしそうな、なにかをむりやりわりきっている、そんなかお」

 

「そう……かしらね」

 

そんな顔をしていたか、どちらかと言うと薄情な気がするが

 

「あのひとがあんなかおをするのは、あのひとのおもいでがげんいんなのかなって、そうおもうの」

 

「……まあ、そうね」

 

彼は随分、過酷な事を経験しているらしい

あの無慈悲な戦い方はそれが原因だろう

 

「きっと、わたしよりもおおくのものをせおってる」

 

あの洗練され過ぎた動きは、それだけ多くを殺してきた証拠

その数だけ、彼は血に塗れていく

 

「……おもいんだろうな、わたしより」

 

「彼がそれだけ人の死を慎むことが出来るなら、だけどね」

 

「してるよ、あのひとは、だからくるしんでる」

 

「……まあ、そうよね」

 

殺した数は千を超えている、たった一人で背負える量ではない

 

「どうにか、してあげたいな……」

 

悲しそうに、笑っている

 

「ねえ、ふらんか」

 

「なにかしら、リンクス」

 

ふと、いつもの明るい笑顔に戻る

 

「すとれいどのはなし、きかせて?」

 

「……あまり知ってることは多くないわよ?」

 

「いいの、それでも、ふらんかのしってることだけでもいい、きかせて」

 

「どうして? あなたに聞かせるには酷な話も多いわよ?」

 

「うん、わかってる、だけどね、ききたいの」

 

酷く優しい、無垢な笑顔

 

「これがおわったら、あのひとはわたしのこたえをきいてくる」

 

「……そうね」

 

「そしてこたえたら、あのひとはそばからきえてしまう」

 

「ええ、行ってしまうでしょうね」

 

「そうしたら、なにもかえせない」

 

誰かを想う、暖かな顔

 

「だから、すこしでもいいからつたえたい」

 

この顔をさせているのは、彼への信頼か

 

「わたしは、おかあさんのねがいをせおえるって」

 

それとも、彼が示した道なのか

 

「あなたのねがいも、せおってあるけるって、つたえたい」

 

「……そう、わかった」

 

だがこの温もりを作り出したのは、紛れもなく彼女の心と、彼の善意だろう

 

「ありがとう、ふらんか」

 

「お礼はいいわ」

 

ならば、今はこの少女を信じよう

 

「それじゃ、どこから話そうかしら……リクエストは?」

 

「それじゃあね、ふらんかがつれこまれたってところ」

 

「まって、誰から聞いたの?」

 

「りすかむ」

 

「……どうしてやろうかしら」

 

結果はわからない、リンクスは間違えてしまうかもしれない

だけど、信じてみよう

 

「だめ?」

 

「ええ、それは駄目、かわりにリスカムと彼が組んだ初日の話でもしてあげるわ」

 

「わかった」

 

この少女の眩しい笑顔を、彼女の決意を

 




地味に時間がかかった話
理由は一つ、リンクスのセリフがムズイ
ひらがなのせいで打ち間違いにすぐ気づけない
なぜ私は彼女をひらがなにしてしまったのか・・・
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。