アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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12/16 修正


鵬程万里

「あーあ、やっちまった……」

 

「ええ、やってしまいましたね」

 

上空から見下ろす、そこには唖然とした表情の仲間たちがいる

 

「どう言い訳するかね」

 

「正直に言えばいいじゃないですか、飛べるって」

 

そんな顔をしているのは、こちらの状況が原因だろう

 

「そうなるとどうして飛べるんだって追及されるだろ」

 

「まあ、そうですね、そしてそのまま解剖です」

 

「え、怖っ、そんなことするのか、あの連中」

 

「冗談です」

 

遥か上空、崩れた廃ビルよりも高く、顔をあげれば空しか見えないぐらいの高度には到達してる

 

「……どうするか」

 

なぜこんなことになっているか、それは、彼のアーツだ

 

「……少し、失礼します」

 

「ん?」

 

手を動かし彼の上着のポケットに突っ込む

そうして煙草とライターを出し、彼に咥えさせる

 

「ほら、これでいいでしょう」

 

「ああ、悪いな」

 

火をつける、これでゆっくり考えられるだろう

 

「しかし、一本じゃ足りんかもしれんな、目撃者が史上最多だ」

 

「ここで止まらず離れた所に着地すればよかったのでは?」

 

「いや、上がってる最中にフランカと目があっちまって、逃げられねえなと」

 

「ああ、そうですか」

 

彼の背中に視線を送る

どこか崩れて消えてしまいそうな、幾何学的な羽

黒く輝くそれは、とある種族のものに形が良く似てる

 

「でも、隠すほどのことでもないと思うんですよ」

 

「お前、飛べるという行為がどれだけのアドバンテージか、わからないわけじゃないだろ」

 

「それでもそんな必死に隠す必要はないかと」

 

「あのな、生身だぞ? 何もいらないんだぞ? 身軽なんだぞ?」

 

「ええ、そうですね」

 

「物を持つ余裕があるんだ、宅急便とかやらされたらどうするんだ」

 

「便利ですね、仕事が早く終わりそうです」

 

「その分量が増えるわ」

 

鳥の羽でなく、天使のような羽

背中に六枚、対になるように展開されている

 

「あーあ、面倒なことになった」

 

「……ええ、そうですね」

 

視線を彼の頭上に移す

 

「お前な、前も言ったろ」

 

「何をです」

 

「人の羽見るたびに頭を見るなと、一瞬剥げてるのか心配になる」

 

「大丈夫です、ふさふさですよ」

 

そこには、何もない

でも、いつかの彼にも、その象徴たるものがあったのだろう

 

「まったく、心臓に悪い」

 

「なんでそんなに気にするんです?」

 

「知ってるだろ、俺の背中がどうなってるか」

 

「……ええ、知ってます」

 

「それと同じ原理なら、俺の頭はつるつるになってるはずなんだ」

 

「ゴツゴツでは?」

 

「どのみち剥げてる、河童みたいになってるはずだ、ああ恐ろしい」

 

心底怯えた顔をする、そんなに髪が心配か

 

「クソ、これなら下に着地すべきだったか」

 

「ああ、そうですね、それで助けが来るのを待てばよかったのでは」

 

「……いや、どのみちなんで無傷だったかとか聞かれるな、でもその方が楽だったか?」

 

「やってしまったことは変わりません、この後どうするかを考えては?」

 

「それもそうだな、とりあえず降りるか」

 

黒い羽から光が湧き出る

火の粉のようにチラつくそれは、彼の体を押すように噴出する

ゆっくりと下降を始める

 

「……もっと早くしては?」

 

「いや、こう、あいつらが訳アリだと判断して聞いてこないという都合のいい奇跡が起きないか祈ってるんだ」

 

「なるほど、ありえませんね」

 

「むう……」

 

困り顔をしている

そのくせ説明責任があるのは自覚してるのか、普段からこうならいいのに

 

「……レイヴン」

 

「なんだ」

 

体を彼に少し寄せる、彼の腕に体を沈める

 

「……どうした、急にしおらしくなって、お前を抱く気はないぞ」

 

「こっちから願い下げです」

 

いま自分は俗に言うお姫様だっこのような状況だ

もっと別の抱え方はなかったのか、この方が運びやすいという事なんだろうが

勘違いされることは、まあ、多分、ないだろう

 

「で、どうした」

 

「いえ、相変わらず綺麗な羽だと思いましてね」

 

「そうかい、黒に綺麗も何もあるとは思わんが」

 

「ありますよ、少なくともこれは綺麗な黒です」

 

彼の背に生えている翼、当然、普通の代物ではない

昔、いつの間にか生えたと、そう言っていた

無くなったものを埋める様に、不可思議な力と共に出てきたと

 

「これは、あなたの力なんですね……」

 

「ああ、そうだ」

 

力、ならばきっと、意味はあるんだろう

 

「レイヴン、わかりました」

 

「何がだ、リスカム」

 

これを手に入れた責任が、あるのだろう

 

「あなたが、BSWから消えた理由」

 

「……そうか」

 

彼の事だ、どうせそう定義してる

 

「狭かったんですね、あなたには」

 

「そうだ、居心地はよかったが、ちょいと羽を伸ばすには手狭だった」

 

飛べる意味を、責任を、彼は見つけたのだろう

 

「でも、別にやめる理由はなかったのでは」

 

「ある、そうするだけの事を俺はしている」

 

この羽を、託された願いを

 

「……世界の敵、ですか」

 

「そうだ、素晴らしいほどに大罪人だ、この紛いものにはお似合いだろう」

 

「……よく言いますね、回りくどいだけなのに」

 

「ふん、言うだけ言え、小娘一人が騒ごうと世論は変わらん」

 

世界の敵になる、それはつまり、この世界の全てと敵対する事

 

「リスカム、俺は殺す、この世界の全てを殺す」

 

「ええ」

 

「それ即ち、世界から許されてはいけないと、認識されるんだ」

 

「はい」

 

「なら、そいつは悪人だ、それがお前たちみたいな善人の傍に居るわけにはいかない」

 

結局、巻き込みたくないと、そう言っているだけだということに気づいているのかこの男

 

「よくもあのご老人が許したものです」

 

「なに、理屈は通ってる、なら奴も折れるさ」

 

「……屁理屈です」

 

「こんな物騒な屁理屈、あってたまるか」

 

気づいているんだろう、知っていて、この人はやる

昔からそうだったではないか、そうして、人の心を見抜いていたではないか

 

「わかりました、レイヴン」

 

「ほう、何をだ」

 

いまなら、言えるだろう

 

「私はあなたを否定します」

 

「いいな、いい思いきりだ」

 

その存在を信じると

 

「ええ、死告鳥であるあなたを、否定します」

 

「ああ、それでい……ん?」

 

あなたを信じると

 

「……なんか、違くね?」

 

「いいえ、あっていますよ、あっていますとも」

 

「いや、それじゃあ結局、肯定してると思うんだが」

 

「何を言っているんです、否定してるじゃないですか」

 

「だから、それじゃ否定にはならんと……」

 

「なってます、否定しているならば、れっきとした否定です」

 

「……この野郎」

 

「私はアマです」

 

「…………このアマ」

 

きっと、受け入れてはくれないだろうが、こうすることに意味はあるはず

 

「まったく、頑固者だな、お前は」

 

「あなたほどではありません」

 

呆れたように笑う

 

「もういいさ、それで、一人ぐらいはいても構わんだろ」

 

「ありがとうございます、レイヴン」

 

「……レイヴンね」

 

空を見上げる

 

「なあ、どうしてお前はそっちで呼ぶんだ」

 

「そっち、とは?」

 

「名前、フランカはストレイドって呼んでるのに、お前はレイヴンのままだろ」

 

「ええ、それが何か」

 

「いや、なんでだろうなって」

 

どうやら彼にはわからないらしい、簡単な理由なのに

 

「聞きたいですか?」

 

「なんだ、もうゲームをする時間はないぞ」

 

「わかってます、ただ、あなたにもわからないことがあるんだなと」

 

「なんだ、そんな勿体ぶるなよ」

 

変なところで疎い、まあ彼らしい

 

「そうですね、なら教えます」

 

「嬉しそうだな」

 

「ええ、このことを面と向かって言えるのが、嬉しいんです」

 

「ふうん」

 

笑われるだろうか、いや、笑うだろう

それでも、ずっとそう思っていたのだ

初めて会った、あの日から

誰かの為にその羽を広げた、あの時から

 

「レイヴン、私にとってあなたは、レイヴンなんです」

 

「ああ、そうだな、そういう名前だし」

 

「違います、いえ、違うくはないですが」

 

「あ? どういう意味だ」

 

「そのままです」

 

 

「渡り鳥」

 

「ただの名でなく、死告鳥でなく」

 

「誰かの為に世界を渡る、そうして、誰かを助けるために」

 

「善を運ぶ、黒い鳥」

 

「いつかきっとを目指す、心優しい渡り鳥です」

 

 

「……渡り鳥、か」

 

「昔も今も、あっちこっちを渡っているんでしょう? なら、渡り鳥です」

 

「コウノトリじゃないんだぞ?」

 

「ええ、人殺しを褒めるつもりはありません」

 

「なら、善じゃない」

 

「嘘つきなさい、戦火に晒される人の為に武力介入してる人が何を言っているんです」

 

「……あのクソジジイ、余計な事ばかり言う」

 

いつからか流れた噂、黒い鳥が火種を消して回っているという

聞く人によっては不快なもの

偽善者だと、正義の味方を気取るのかと

本人もそう言われていることには気づいている

それでも、彼にとっては必要な事なのだろう

成すべきことを成すために

 

「レイヴン、聞かせてもらえませんか?」

 

「なにを」

 

「あなたの企み、BSWを離れてまで始めた、大事な事」

 

「わかったんだろ? なら言う必要はない」

 

「そうですね、それでも聞きたいんです、あなたの口から、あなたの願いを」

 

「……どっかの爺さんみたいなことを言う」

 

「あのご老人もあなたが心配だったんですよ」

 

「なら放っておけ、野たれ死ぬようなことはねえんだから」

 

煙草を吐き捨てる、指針は決まったらしい

 

「リスカム、世界は存外脆いものだ」

 

「……ええ」

 

「それでいて、存外甘い、故も知らぬものに信用を向けてしまうほどに」

 

それは、いつかの国のことを言っているのか

彼を信じ、願いを託した彼の故郷

 

「たとえどれだけの罪を犯していようが、その信頼は無下にしてはいけない」

 

「それは、人として、ですか?」

 

「違う、俺が人足り得ないという事だけは確かな事だ、そこは間違えるな」

 

「なら、何者として、信頼に返すんです」

 

「決まってる、俺としてだ」

 

あの国は彼に大きな影響を与えた

残酷な結果だけでなく、彼が知らずのうちに秘めていた、大切な願い

それに、気づかせることが出来た

 

「俺は死告鳥、そうあり続ける、誰の為でなく、俺の為に」

 

「そうして、各地で暴れ回るんですね、その名を広めるために」

 

「そうだ、そうして刻み付ける、戦争なんか起こしたら殺して止めてやると」

 

「やられる側はたまったものではありません」

 

「起こす方が悪い、こんな世界で喧嘩する方が悪いんだ。俺はそれを、ちょっと過激な方法で終わりに導くだけ」

 

「過激すぎです」

 

「だが効果的だ、それに奴らも気づくだろう」

 

「世界の敵が存在すると?」

 

「ああ、共通の敵がいるなら、一時的にも手を組む組織や国が出てくる。ロドスと龍門みたいにな」

 

「知ってるんですね、その話」

 

「俺の情報網をなめるな」

 

これは一つの自己犠牲なのだろうか

彼がこの手段をとったのは、殺した者たちへの償いだ

 

「まあそうやって一度でも手を組めば小さいとはいえ繋がりができる。それを放り捨てられるほど人は無情じゃない」

 

「仮に敵対してもすぐに戦争は起きない、随分適当ですね、トップの方が戦いたがりだったらどうするんです」

 

「その時こそ俺の出番だろ、たとえ一国であろうと、容赦なく潰す、それが俺の役割だ」

 

「思いきりましたね、文字通りあちこち飛び回ることになりますよ?」

 

「ああ、それでいいんだ、それがこいつの役目なんだよ」

 

翼から大きく火の粉が飛び散る

黒く、まるで鴉を思わせる、大きな羽

 

「この翼を手に入れた責任が、俺にはある。そうしていつか、託したものに報いるための、責任が」

 

「……ええ、あなたらしい考え方です」

 

「そうでもしなけりゃ、あいつらに顔向けできん、あいつらに許しを請うことが出来ないんだ」

 

あの国は彼を許した、だが彼は納得できていない

だから、納得するために、彼らの善意に報いるために、彼は戦うと決めたのだろう

そうすることで、きっと自分を許すことが出来ると

だけど、彼の進む道は幻想に近いものだ

歩いてたどり着くことなど、到底できない

だからこそ、選んだのかもしれない

歩いて渡れぬなら、飛んで渡ると、そう決めたのだろう

 

「……レイヴン、それは、酷く遠く、過酷な道のりですよ」

 

「ああ、わかっている、到達できない可能性も、よくわかってる」

 

「終わりがあるかも、わからない道のりです」

 

「わかってる、だとしても、俺は行く、例え鵬程(幻想)と笑われようと、辿り着くことが出来ない万里(獣道)だろうとも」

 

「それでも、やるんですね」

 

「ああ、俺はやるぞ、リスカム」

 

 

「俺は殺す、この世の殺意を体現する」

 

「争いのあるところに現れ、悉くを殺し尽す」

 

「たった一つの例外として在り続ける」

 

「そうして、わからせてやるんだ、この哀しい世界に」

 

「こんな終わりのない病気の蔓延する世界で、争ってる暇はないと」

 

「人同士で殺し合ってる暇はないと、手を取り合えと」

 

「死告鳥という化け物がのさばる世界で、殺りあってる時間はないってな」

 

 

「……どうしてそこで、素直に言えないんですかね」

 

「それが許されないからだ」

 

随分と、回りくどい

正直に助けて周ると、言えばいいのに

 

「それに、口だけの奴より、行動で示した方が本気だってわかるだろ?」

 

「ええ、そうですね、それが殺戮でなければ素直に許せるんですが」

 

「そいつは無理だな」

 

この人は結局、善人なのだ

あの日、崩壊した国と同じ末路を見たくないからと

救われていい人が死んではいけないと、なら自分が止めると

 

「確かに、外道ですね」

 

「こんなものが正道であってたまるか、人の屍を踏み越えて進もうというんだ。誤りだよ、これは」

 

「それがわかっているなら……いえ、どうせ言っても聞きませんか」

 

「ああ、聞く理由はない」

 

優しく笑いかけてくる、本当に、回りくどい男だ

だけど、それは優しいからこそ、遠回しにいうのだろう

彼が目指すもの、そして消えた理由はわかった

ただ一つ、不明瞭な事がある

 

「レイヴン、一つ、わからないことがあるんですが」

 

「なんだ、いまなら無償で答えてやるぞ」

 

「おや、優しいですね」

 

「それで、なんだ」

 

「いえ、あなたがそう志したのは、あの日、ですよね」

 

「そうだ、あの崩壊に、その理由に、無性に腹が立ったから、それを否定したくて決めた」

 

「それで、BSWに入って、しばらくいたんですよね」

 

「四年ぐらいか、あのクソジジイに嵌められて仕方なく在籍してた」

 

「でも、やめようと思えばやめれたんですよね」

 

「そうだな、あの爺さんを納得させれば、すぐにでも出ていけた」

 

「ならよりによって、どうしてあのタイミングだったんです?」

 

「というと?」

 

「なんで、私の研修生の終了日だったんですか?」

 

「なんだ、怒ってるのか」

 

「ええ、怒っています、せめて一言、挨拶ぐらいは欲しかったんですよ」

 

「仕方ないだろ、キリが良かったんだから」

 

「それは私の面倒が終わったからですか?」

 

「そ、ちょうどいいだろ、ひよっこが一人前になって、隣につく必要がなくなった

 なら思い残しはない、抜けるにはベストのタイミングだった」

 

「……あなたになくても、私にはあったんですが」

 

「ん? 何か不都合でもあったか?」

 

「大ありです、あの日、あなたに最初に伝えようと思ったんですからね」

 

「無事終了したって? そんなこと言われなくてもわかってる、教えてたのは俺だぞ」

 

「それでもこう、教官としては聞くべきだったのでは?」

 

「形だけの教官だ、大して何もしてない」

 

「その割には、結構口うるさかった気がします」

 

「そうでもない、あれがまともな教官ならもっとうるさい、そう、あの爺並みに」

 

「あなたにあの武術を教えたのはあの人でしたか……」

 

「他に誰がいる」

 

まあそんなことだろうと思っていた

あの日の彼は、本当にあっという間に消えてしまった

勝手に納得して行ってしまうあたりが彼らしい

それでもこちらは納得できていない

 

「それで、どうしてあの日だったんです」

 

「別に、深い理由はない、強いて言うなら、あれかね」

 

「あれ?」

 

こちらを見る、感慨深いものを見る様に

 

「いや、ある日、新人にこう言われたんだよ」

 

「新人? 私以外にも見たことがあるんですか?」

 

「まあまて、話を聞け」

 

「はあ……」

 

「それでだ、初めて顔を合わせた時、こう言われたんだ」

 

「その人に? なんて言われたんです?」

 

「何、一言、失礼な事を言われた」

 

 

「変な顔をしてますね、ってな」

 

 

「……変な顔、ですか」

 

「ああ、初対面でいきなり言ってきた、随分失礼な奴だとカチンと来たな」

 

「……………………」

 

なんだろう、身に覚えがあるような

 

「覚えてるか? リスカム」

 

「……なんか、思い出せそうで、思い出せないと言いましょうか」

 

「そうか、なら――」

 

「へ?」

 

突如、体を浮遊感が襲う

 

「無理やり思い出させてやるよ」

 

「ぎゃああああああああああ!!」

 

いきなり手を離された、体が落ちていく

地面が近づいてくる、ぶつかる、そう思った瞬間

 

「まだ終わらんぞ、もう少し楽しんでいけ」

 

「ひっ! ま、まってくだ――――」

 

「断る」

 

もう一度彼に捕まり、上昇する

そうしてまた、空から落とされる

 

「ほうら、紐なしバンジーだ、滅多に出来んぞ」

 

「すいません! 思い出しました! だからやめてください!!」

 

「ハハハ! 照れるな照れるな、たまには馴れあおうじゃないか」

 

「……何をやっているの、あの人」

 

「楽しそうだなー、頼めばわたしにもやってくれるかな?」

 

何度かそうして弄ばれる、どうやら彼の怒りを買っていたらしい

 

 

 

 

「……すいませんでした」

 

「わかればよし、いきなりとんでもないこと言いやがって、驚いたぜ、あの時は」

 

そういえば言った気がする、初めて会った時

随分と、不思議な雰囲気の人だったから、酷く悲しい顔をしてたから

 

「……それで、あれがどうして関係してるんです」

 

「なに、あれでお前の本性がわかったんでな」

 

「本性?」

 

そんな一言で何がわかったのか

 

「リスカム、俺はその時確信した」

 

「何をです」

 

「別に、この世界も捨てたものではないんだと」

 

「……そうですか」

 

「お前のような、まっすぐに人を見る奴がいるなら、きっと変わってくれるだろうと、確信できた」

 

「……それが、どう関係してるんです?」

 

「言った通りだよ、お前は人を護ることが出来る人材だ。他の連中と同じように、あそこに居る奴らのように」

 

下に目を向ける、そこにはロドスの人々がいる

 

「人を護れるなら、世界も護れる、なら、動きだせると、そう確信した」

 

「……そうですか」

 

「ああ、少なくともお前は、俺の願いを叶えてくれている。昔と変わらず、人を護っている、救うことが出来ている」

 

「……私は、そんなに立派な人ではありません」

 

「立派だよ、お前は、理念を貫いている、俺にはできないことを、成し遂げている」

 

彼に出来ない事、護ること、それは彼にとって覆すことの出来ないことなのだろう

 

「喜べリスカム、お前はこの大罪人の信頼に応えた数少ない奴だ」

 

「……なるほど、私はとうに願われていたんですか」

 

「ああ、立派な呪いをかけてやった、光栄に思え」

 

「ええ、誇りに思います」

 

どうやら後押ししてしまったのは自分らしい

複雑な気分だ、喜べばいいのか、嘆けばいいのか

 

「さて、そろそろ降りるか、随分人が集まっちまった」

 

「質問攻めですね、これは」

 

下にはいつの間にか他の人も集まっている、作戦は終了したらしい

 

「……アイツは、答えを出してくれたかね」

 

「ええ、きっと、見出してくれましたよ」

 

こちらを見上げる中に、リンクスがいる

その目に絶望は感じられない、確かな光が灯っている

 

「レイヴン、わかっていますね」

 

「ああ、負けちまったからな、お別れのセリフを考えておくかね」

 

この後、彼は彼女から答えを聞く

彼女が、リンクスが、何者になったかを、見定めるために

 

「……リスカム」

 

「なんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「頼んだ」

 

「頼まれました」

 

 

 




鵬程万里


遥かな道のりを表す言葉
鵬(おおとり)が飛んでいくような、酷く遠い、たどり着くことすら不明瞭な道のり
鵬とは伝説上の大きな鳥、その翼は三千里、羽ばたけば、九万里に到達するという
この言葉はこの鳥が飛んでいく道の長さを示すもの、その伝説を、伝説足らしめるもの
この偉業を真似ることは、只人では難しい、何も成せずに朽ちてしまうだろう
それでも、旅立つ者はいる、酷く遠い願いをもって、飛ぶものはいる
だからこそ、この言葉は生まれたのだろう
その旅路に、救いがあるようにと、きっと、至ることが出来るようにと
残されたものは願い、飛び立つものは休むことなく飛び続ける
いつかきっと、成し遂げるため
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