アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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12/16 修正


渡り鳥

――――――懐かしい夢を見た

 

『……変な顔』

 

『あ、いえ、あの、悪口とかそういう事ではなくてですね』

 

『……まあ、そういう顔をしてるよな』

 

『その、何だか痛みにでも耐えてるような、苦しそうな感じがして』

 

『いい、大して気にしてない』

 

『……すいません、いきなり』

 

『何、よくあることだ、ああ、よくあるんだ』

 

『…………失礼しました』

 

『気にするな、それで、リスカムとか言ったな』

 

『あ、はい、今日から教官に付いていただけるとのことでしたが』

 

『そうだな、面倒を見てやる、ひよっこ』

 

『はい、よろしくお願いします』

 

『しかしまあ、戦えるのか?お前』

 

『……一応、試験は合格してます』

 

『正直、兵士としては色々足りん、体格とか、活力とか、威厳とか』

 

『遠回しに小さいって言ってません?』

 

『言ってる、よくも戦う気になったもんだ、苦労するぞ、人並み以上に』

 

『ええ、言われました、色んな人に』

 

『理解した上で進むのか、へえ……』

 

『なんです、じっと見てきて』

 

『……リスカム、聞きたいことがある』

 

『なんでしょう』

 

『お前は、なんのために戦う、何を見ている』

 

『……どういうことです?』

 

『何、ここに入った理由を聞きたい、それだけだ』

 

『これは、何かのテストですか?』

 

『違う、俺個人が気になってる』

 

『そうですか……』

 

『ほら、聞かせろ、どんな理由でも笑わんから』

 

『……別に、そんな可笑しい理由ではないですよ』

 

『なら聞かせろ、聞いてみたい』

 

『……特別、大したことがあった訳ではありません』

 

『……………………』

 

『人を護りたいと、そう思ったんです、ただ、漠然と』

 

『そりゃなんでだ、事件に巻き込まれでもしたのか』

 

『違います、ただただ、そう思ったんです、護りたいと、命を、失わせたくないと』

 

『ふーん』

 

『こんなご時世ですから、どこで何が起きてもおかしくない、いきなり天災に見舞われたり

 何か、不幸なことが起きたり、誰にも予期できないことが起こると思うんです』

 

『そうだな、世界なんざそういうもんだ』

 

『それで、その時に自分に何ができるか、思ったんです』

 

『で、何ができる』

 

『いやあの、これからの話ですよ? 出来るかどうかは』

 

『ああそうか、すまん、続けてくれ』

 

『……せっかちですね、コホン、まあそれで、考えたんです

 そんなことが起きた時、誰か助けが来るか』

 

『……………………』

 

『助けが来なければ、どうなるか』

 

『死ぬな』

 

『率直ですね…………でまあ、そういう事があると思うんです、だから、決めたんです』

 

『何を』

 

『自分が助けになろうと、誰かを護れるようになろうと』

 

『……漠然としてるな、確かに』

 

『ええ、自覚はしてます、でも、それが本意です』

 

『まあ、間違えた思想ではないな』

 

『ありがとうございます、それで私は思うんです、先輩』

 

『……………………』

 

『命より大切なものはこの世界にないと、そう思うんです』

 

『……正しいな、確かに』

 

『それに気づいて、護りたいと思ったんです、今を生きている人々を自分の手で護りたいと、そう考えたんです』

 

『まっすぐだな、随分と』

 

『そうでしょうか、単純と言われたことがありますが』

 

『いや、まっすぐだ、恐ろしいほどに、正直だ』

 

『……先輩?』

 

『ああ、すまんな、気にするな、お前には関係ない』

 

『はあ、そうですか』

 

『……これを、俺に見ろというか、あの爺さん』

 

『どうしたんです、奇妙なものを見る目で見て』

 

『悪い、ちょっと不可思議な話だったんでね』

 

『……そうですか?』

 

『そうだ、さてリスカム、楽しい楽しい訓練を始める前に、大事な話がある』

 

『大事な話?』

 

『ああ、お前、俺を呼ぶときに先輩って呼ぶな』

 

『……何故?』

 

『気持ち悪いから、鳥肌が立った』

 

『呼ばれたことないんですか?』

 

『ああ、どいつもこいつも俺のことを変態とかドスケベとか呼ぶからな

 そういう敬称は慣れてない』

 

『変態?』

 

『安心しろ、いつかわかる』

 

『いや、教えてくださいよ、あなた普段何をしてるんですか』

 

『なに、少しばかりセクハラをかましてるだけだ、それはいいだろう』

 

『よくないです』

 

『とりあえず、そうだな……気軽にレイヴンと呼んでくれ』

 

『……レイヴンさん、こうですか?』

 

『違うな、さん、はいらん』

 

『いいんですか?』

 

『別に上下関係をはっきりさせる理由が俺にはない、呼び捨てでいい』

 

『……なら、そうします』

 

『オーケーだ、じゃ、とりあえず方針でも決めるか』

 

『あの、一ついいですか?』

 

『ん? なんだ』

 

『あなたの名前、どういう意味です?』

 

『なんだ、わからんか』

 

『あまり聞いたことないので、人の名前にしては雰囲気が違いますし』

 

『そうだな、人に付ける名前じゃないし』

 

『……あなたの名前ですよ?』

 

『ああ、だから名乗ってる』

 

『名乗ってる?』

 

『おっと、気にするな、関係ない事だ』

 

『はあ、それで、どういう意味なんです』

 

『なに、カラスだよ、空を飛んでるカラスだ』

 

『カラス? あの黒い鳥の?』

 

『そうだ、昔、飛んでいる姿が嫌に目立ってたからそう決めた』

 

『……飛びたいんですか?』

 

『まあ、そうだな、ある意味あってる』

 

『飛んでどうするんです? 旅でもしたいんですか?』

 

『……勘がいいな、お前』

 

『始めて言われました』

 

『まあいい、それで飛んでいきたいんだ、俺は』

 

『何故です、意味があるとは思いませんが』

 

『俺にはある、この名はそういうものだった』

 

『……どんな意味があったんですか?』

 

『簡単な事象だ、奴らのように渡るんだ』

 

『渡る?』

 

『そう、渡るんだ、人が奴らをそう呼ぶように、俺もそう呼ばれてみたかった』

 

『……………………』

 

『渡り鳥、そう呼ばれている様に、俺も、いつか……』

 

『……その』

 

『ああ、悪い、忘れろ、大したことじゃない』

 

『……わかりました』

 

『さて、お喋りはここまでだ、お前を立派な兵士にしてやろう、まずは体作りだな。そのペチャパイをどうにかしてやろう』

 

『事案ですね』

 

『冗談だ、ま、それなりに厳しくするから覚悟しろ、リスカム』

 

『……ええ、了解です、レイヴン』

 

――――――酷く、懐かしい夢だった

 

 

「……………………」

 

暗い自室で、一人、身を起こす

 

「……今これを見ますか、まったく」

 

随分懐かしい夢だった

レイヴンと初めて会った時の、意味があるかわからなかった会話

彼があの時、何を思っていたか、自分には理解できなかった

 

「……元気にしてますかね、あの人」

 

彼は昔からああだった、何処かを遠くを見て、憂いていた

許しを請うような、失くしたことを後悔しているような

割り切れない、そんな顔

 

「暴れてるんですかね、今も、この先も」

 

彼は彼の道を行っているだろう、いつかの願いに、報いるために

 

「止まってる暇は、ないですね」

 

立ち上がる、洗面所に向かい、顔を洗う

寝起きの頭を切り替える、呆けてはいられない

彼にいつか誇る為に、歩き続けなければ

 

「さて、今日も一日、頑張ろう」

 

 

 

 

 

「リスカム! 早く早く!」

 

「待ってくださいリンクス、急ぐ必要はないですよ」

 

ロドスの廊下をリンクスと二人で歩く

今日は大事な話がある、彼女に関する大事な事

 

「ドクターも書類の整理をしなければいけません、早く行っても迷惑です」

 

「あ、そっか」

 

横をリンクスが元気よく歩いている

その姿に、いつかのような不安定さは見当たらない

記憶の混濁はなくなり、自我もはっきりとしている

精神鑑定の際も、異常はないといわれた

いま隣を歩くこの少女が、本来の彼女の姿なんだろう

 

「ほら、ゆっくり行きましょう」

 

「はーい」

 

手を伸ばす、それに握り返してくる

 

「しかし、それでいいんですか?」

 

「? なんのこと?」

 

「上着です、新品を頼むことも出来たんですよ」

 

「うん、大丈夫」

 

彼女は今、とある上着を着てる

背中にBSWのロゴが印刷された、どこか着古されたもの

彼女の体には合わない、ぶかぶかの上着

 

「これがいいの、これでいいの」

 

「まあ、それならいいですが」

 

いつか、誰かが来ていた上着、懐かしい代物

誰かにあげていいと言っていた、なら特別怒られることもないだろう

 

「リスカムリスカム、これ凄いんだよ! 沢山ポケットがあるの!」

 

「ええ、軽く異次元ですから、それ」

 

「お菓子がたくさん詰めれるよ!」

 

「持ち歩くのはいいですが、仕事中に食べないでくださいね」

 

視線をリンクスの頭に移す

そこには、花を模った髪飾りが付いている

彼が贈った、彼の名残

彼と彼女の確かな繋がり、きっと、忘れない為の

 

「さて、着きましたか」

 

「えーと、入る前はノックだよね」

 

ドクターの執務室にたどり着く

ドアを開ける前に、一度話しておく

 

「リンクス、一応確認しますが、あなたはBSWの研修生として扱われます」

 

「うん」

 

「今日はその配属の正式な通達をされる日です、知った顔だからと言って失礼のないように」

 

「はーい」

 

「よろしい」

 

ノックをする、小気味いい音が響く、ドクターの声が聞こえる

 

「どうぞ」

 

「失礼します」

 

「失礼しまーす」

 

「伸ばさない」

 

「はーい」

 

「仲良くやっているようだな」

 

ドアを開けて中に入る、中にはドクターがいる

いつものように書類と睨めっこしている

 

「BSW特別駐在オペレーター、リスカム、召喚に応じ参上しました」

 

「ああ、よく来てくれた」

 

「わたしもいるよ、ドクター」

 

「わかっているよ、リンクス」

 

書類の束を置き、こちらに顔を向ける

 

「さて、堅苦しいことは早く済ませてしまおうか、ではリンクス、よろしく頼む」

 

「うん、えーと」

 

少し考え、深呼吸をして話し出す

 

「BSW特別駐在オペレーター、現場研修生、リンクス

 本日よりロドス・アイランドとの契約に則り、ドクターの指揮下に配属されます」

 

「双方の同意のもとに君にはロドスの作戦行動において狙撃オペレーターとして我々の作戦行動に参加してもらう」

 

「はい、うけたわま……うけた……うけ…………?」

 

「うけたまわります」

 

「あっと、承ります、これからよろしくお願いします!」

 

「ああ、期待している、精進してくれ」

 

「頑張ります!」

 

これが、大事な話

今日、正式にロドスに彼女が配属された

BSWの本社に脅迫状が届けられ、上層部がてんやわんやしながらいつの間にかやってきた彼から説明を受けたらしい

とある少女をBSWに入れると、聞かなきゃ真っ赤にすると

一応、詳しいことは話したらしいが一部の良識ある人は反対したらしい

まあ文字通り一蹴されたらしいが

それでも承諾されたのは、彼がBSWから確かな信頼を得ていたからか、脅迫のほうが大きかった気もするが

 

「リスカム、基本的にはバニラと同じ扱いだな?」

 

「ええ、研修生として扱ってあげてください」

 

「わかった」

 

そう言っていくつかの書類と、簡単な署名をする

 

「これでいい?」

 

「ああ、あとはこちらでやるだけだ、ありがとう」

 

「それで、最初の仕事はいつ?」

 

「それはまだ決まってない、とりあえず今日は……まあ、ゆっくりしていてくれ」

 

「はーい」

 

この先、彼女の出番はあるだろう

あの狙撃能力は戦闘において確かな強みになる

ドクターもそれはわかってる、出番はある

 

「リスカム、わたしは頑張るよ!」

 

「ええ、その時はお願いします」

 

その時、彼女を護るのは自分の役目だ

バニラやジェシカ、フランカ達と共に戦うことになる

きっといいチームになるだろう

 

「さて、後はこれか」

 

「ドクター、何を見てるんです」

 

これから先の事に決意を固め、この後どうするか考えていると

ドクターが何やら書類との睨めっこを再開した

 

「その、ストレイドに渡されたもので困ったことがわかってね」

 

「ああ、何か渡されたと言っていましたね」

 

「あれの検査結果が出た」

 

彼がドクターに託したもの、巾着袋

その中身は一見、ゴミにしか見えないものだったという

 

「なんでしたっけ、鳥の羽根と……」

 

「黒い、何かの欠片だ」

 

入っていたのは、黒い羽根と、正体のわからない欠片

渡されたときにゴミではないと言われ調べたらしいが、一体何だったのか

 

「なんだったんですか、彼が手渡したぐらいですから大事なものだと思うんですけど」

 

「……大事と言えば大事だが、まだ確証が持てない」

 

「それは欠片ですか?」

 

「ああ、どうにも不穏な気配がするんだが……どう役立てたものかね」

 

欠片の方はその内判明するようだ、ただそうなると

 

「羽根は何だったんです」

 

「わからん、作り物ということはわかる」

 

まるで鴉の羽根のようなもの

片側が薄く赤くなった、奇妙な羽根

 

「お守りか何かだろうか……」

 

うんうん唸っている、捨てる気はないらしい

なら問題はないだろう、用途は不明だが

 

「それでは、私達はこれで失礼します」

 

「ああ、そうだ、ついでにいいだろうか」

 

「はい、なんでしょう」

 

邪魔をするのもどうかと思い退散しようとしたら呼び止められた、何か用だろうか

 

「明日、BSWの人が来るんだ、上層部のあのご年配」

 

「ああ、あの人ですか」

 

「お爺ちゃん? 明日くるの?」

 

「そうだ、君の配属に関する確認と、ストレイドのことを聞かせてくれと頼まれてね」

 

「心配なんでしょうね、あの人も」

 

「そうなんだろうな、それだけ影響の大きい男だったよ」

 

どうやらご老人が来るらしい、となると何を言われるか、予想はつく

 

「ついででいい、応接室に不備がないか確認してもらっていいか?」

 

「ええ、了解しました」

 

「頼んだ」

 

「頼まれましたー」

 

承諾する、二人で執務室を後にする

 

「……しかし、大変なものを託されたな」

 

ドクターのそんな声が聞こえた

 

 

………………………………

 

 

「ねえリスカム」

 

「なんでしょうか」

 

「リスカムは髪飾り付けないの?」

 

応接室までの廊下を歩く

 

「ええ、普段から付けて歩くには向かないので」

 

「なんだっけ、体質が原因なんだっけ」

 

「はい、アーツの使用時に壊れてしまいそうなので」

 

他愛のない話をしながら歩いていく

 

「むう……せっかくお揃いなのに」

 

「そうですね、確かに勿体ないです」

 

髪飾り、リンクスと同じ、とある花を模ったもの

彼からついでに渡された、彼の名残

 

「そうだ、リスカム」

 

「はい」

 

「今度一緒にお出かけしようよ!」

 

「お出かけ……ですか」

 

「うん、お買い物でもお散歩でも、なんでもいいから一緒にいこ? 髪飾りをつけて、一緒に」

 

「いいですね、なら今度の休日に行きますか」

 

これを贈った意味はなんだったのか

贈られた意味は、どうしてだったのか

 

「やった! 約束だよ!」

 

「ええ、約束です」

 

きっと、彼の優しさだったのだろう

覚えていていいと、忘れてくれなくても構わないと

遠回しの思いやりだったのだ

最後、彼は笑ってくれた、笑顔を向けてくれた

そこには苦しみも、悲しみも存在しなかった

本当の意味で、笑ってくれていた

 

「リスカム、ストレイドの事、思い出してるでしょ」

 

「ええ、そうです、散々迷惑をかけてくれましたから、次会えたらどうしようかと考えてました」

 

自分には、出来たのかもしれない

あの苦しみを、あの顔を、少しでも和らげることが

 

「そうだね、色々やっちゃったからね」

 

「ええ、やってくれましたよ、あの男は」

 

きっと、出来たのだろう

 

「……また、会えるかな」

 

「いつかきっと、会えますよ」

 

二人で向かい合う

そうして、笑いあう

 

「とうちゃーく」

 

「さて、手早く済ませましょう」

 

そんな話をしていたら応接室に着く

扉に手を伸ばし、鍵を開ける

 

「……………………?」

 

「? どうしたの?」

 

「……いえ、なんでもありません」

 

回して気づく、何かおかしい

鍵を開けた時特有の、ガチャリとした感覚がしない

気のせいか、そう思いながら開ける

 

 

 

「邪魔してるよ」

 

 

 

「……は?」

 

「……え?」

 

そこには、男がいた

黒髪、赤目、黒い上着

 

「……え、その、あの」

 

「なんだ、ここに用があるんじゃないのか」

 

「いえ、ありますけど……」

 

身体的特徴のない、種族のわからぬ男

その男が、応接室のソファで寛いでいた

 

「……ストレイド?」

 

「なんだ、ボケっとして、俺に構わず続けるといい」

 

「いや、なんであなたがここにいるんです」

 

ここにはいないはずの、旅立っていった傭兵

 

「いちゃ駄目か」

 

「……駄目では……ないですが」

 

「へ? …………え?」

 

レイヴンが、何故かいた

 

「なんだよ、幽霊でも見るような目をして」

 

「……何故、ここに?」

 

「んなもん決まってるだろ」

 

不敵に笑いながら天井を指さす

 

「忍び込んだ」

 

「いや、そうではなく、いえ、聞き流せることではないですが」

 

「いいだろ、行動許可証あるんだし」

 

「ええ、持っていましたね、でもそういう事ではなく」

 

「なんだ、はっきり言え」

 

「わかりました、はっきり言います」

 

「……ふぇ?」

 

 

「なんでここにいるんですか!?」

 

「えぇぇぇぇぇぇ!?」

 

 

「やかましい、叫ぶな」

 

「叫びます、驚きます、何故ここにいるんです」

 

「なんだよ、いいじゃねえか、ソファに寝っ転がるぐらい」

 

「……本物?」

 

「ああ、本物だ」

 

まるで当然のように言う

いや、確かに状況的にはおかしくない

彼は飛べる、タイミングを計って甲板にでも降りたってしまえば正規の入り口を通る必要はない

なら特別彼の存在を知られることはない、いや、違う、重要なのはそこではない

 

「あの、本当になぜここに?」

 

「別に、大した理由じゃない」

 

言いながらソファを叩く

 

「このソファ、気に入った」

 

「……はい?」

 

「羽休めに丁度いい、いい感じの触感だ」

 

「……そんな理由で?」

 

「こんな理由だが、何か変か?」

 

なんだろう、二度と会えないと思っていた男が何故か目の前にいる

しかも、常人では考え付かない理由で

はたして自分はどうすればいいのか、怒ればいいのか、呆れればいいのか

 

「え、その、ストレイド……」

 

「なんだ、お前もリスカムも呆けやがって、そんなに不思議か」

 

「だって、お別れだって……」

 

「ああ、お別れしたな」

 

「なら、もう会えないんじゃないかって……」

 

「何を言ってる、別に会わないとは言ってないだろ」

 

「へ?」

 

「俺はただ、お前を置いてっただけだ、それっきりとはいってない」

 

「……いや、そうですけど、そうですけどね」

 

「なんだ、勘違いしたのか」

 

そういえば会わない、とは言っていない

本当に置いていくとしか、言っていない

 

「……えと、じゃあ」

 

「たまにお邪魔させてもらうよ、ここが空いてる時に、勝手に寝っ転がってる」

 

「……いったいこれは、どうすればいいんでしょうか」

 

頭を抑える、果たしてどうすればいいのか、わからない

 

「ああ、そうだ、リスカム」

 

「……はい、なんで――――」

 

頭痛に襲われていると呼ばれた、そのまま彼に顔を向けて

 

パンッ!

 

乾いた音がした

 

「……………………」

 

「この前の借りだ、ふざけたことしやがって」

 

「……リスカム、大丈夫?」

 

顔が濡れる、何か異臭がする

 

「俺にやり返したらどうなるか、知らないわけじゃなかったろうに」

 

随分懐かしい、二度と味わいたくなかった感覚

 

「ほら、痴態を晒して走るといい、目撃者が少ないといいな」

 

唐辛子を鼻で齧らせられたような、そんな臭い

 

「――――――!!」

 

 

 

 

 

「……リスカム、行っちゃった」

 

「ふん、自業自得だ、あのアマ」

 

「……ストレイド、ロドスに来るの?」

 

「ん? 違う、勝手に来てやってるだけだ」

 

「そうなの?」

 

「ああ、ま、奴らがどうしてもというなら色々手伝ってやるがな」

 

「……えっと、ストレイド」

 

「なんだ、リンクス」

 

「わたし、こういう時なんて言えばいいの?」

 

「別に、笑えばいいじゃないか、また会えたなって」

 

「……いいの?」

 

「いいんだよ、人は喜ぶものだ、嬉しいなら、しっかり笑え」

 

「……そうだね、うん」

 

「よし、その調子だ、いい顔だぞ」

 

「うん、うん」

 

「それで泣いてなきゃあ、マシなんだがなあ……」

 

「うん、大丈夫、泣いてない、泣かない、わたしは」

 

「そうかい、じゃ、見なかったことにしてやる」

 

「うん、ありがとう」

 

「礼を言うなよ、そこで」

 

「ありがとう、ストレイド」

 

「やれやれ、そうだ、リンクス」

 

「ん? なあに?」

 

「聞きたいことがあったんだ、お前に」

 

「わたしに?」

 

「ああ、聞くの忘れたからな、改めて聞きたい」

 

「何を?」

 

「お前の名前、リンクスでなく、お前の親が付けた、本当の名前」

 

「わたしの、名前……」

 

「約束は果たしてるだろ、リンクスって呼んでやってる」

 

「うん」

 

「なら、聞く権利があるな」

 

「うん」

 

「よし、なら聞かせてくれ、お前の名を、お前の口から」

 

「うん! ストレイド、わたしはね」

 

「ああ」

 

「わたしの、本当の名前はね――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――暖かい夢を見た

 

『……すとれいど』

 

『なんだ、寝袋はあっちだぞ』

 

『さむい』

 

『そうか?』

 

『さむいの、なんだか』

 

『……風邪ではない、と』

 

『すとれいど、いっしょにねていい?』

 

『まあいいが、チビ、こっちにこい』

 

『……あったかい』

 

『そうかい』

 

『……すとれいど、いつもひとりなの?』

 

『ん? 何の事だ?』

 

『いつもひとりで、ねているの?』

 

『ああ、俺以外にこの車に人はいないぞ』

 

『さびしい』

 

『まあ、そうだな』

 

『……わたしも、ひとり?』

 

『……そうだな』

 

『……さびしい』

 

『そうか』

 

『……………………』

 

『……チビ、一ついいか』

 

『…………なあに?』

 

『お前をチビチビ呼ぶのが正直不便なんだ』

 

『うん』

 

『だから、名前を付けようと思う』

 

『……わたしに?』

 

『ああ、名前、いいだろ、仮の名だが』

 

『……どんなの?』

 

『ほう、受け入れるか、器量が広いな』

 

『どんななまえ?』

 

『なに、かっこいい名前だ』

 

『なんていうの?』

 

『いいだろう、名付けてやろう』

 

『うん』

 

『リンクス』

 

『……りんくす』

 

『そう、リンクスだ』

 

『…………リン、くす』

 

『惜しい、もうちょっとはっきり言ってみろ』

 

『………………りんクス』

 

『ほら、もう一回』

 

『リンクス』

 

『よし、言えたな』

 

『……リンクス、かっこいい』

 

『そうだろう、ビビッと来た、きっと天啓だ』

 

『……どういういみ?』

 

『意味? 知りたいか?』

 

『うん、しりたい』

 

『……そうだな、まあ、少し早いか』

 

『?』

 

『リンクス、これは山猫だ』

 

『ねこ?』

 

『そう、山猫、いまはこれだけ覚えておけ』

 

『……?』

 

『本当の意味を知るには、まだ早い』

 

『ほんとう、のいみ』

 

『リンクス、いつかお前はこの名の意味を知る時が来る』

 

『そうなの?』

 

『ああ、ま、今知る必要はない』

 

『……わかった』

 

『リンクス、お前がいつか、この名を果たしてくれることを、願っている』

 

『どういうこと?』

 

『気にするな、言ってみただけだ』

 

『……うん』

 

『ほら、もう寝ろ、明日は早いぞ』

 

『うん……』

 

『いつか、果たしてくれ、リンクス』

 

『………………すぅ』

 

『……ああ、いつかきっと、繋いでくれよ、大事な絆を』

 

 

 

 




ストレイドの印

黒く変色した何かの欠片
それは、いつか誰かの頭上で輝いていたもの、その名残



漆黒の羽根

鴉の羽根を模した作り物、集めればとある傭兵団に通貨として利用できる
彼らは神出鬼没の組織として雇われの間で囁かれている
戦地に現れいつの間にか消えている目的が不明瞭な組織
渡り鳥の巣、彼らはそう呼ばれている

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