アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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Stay & Go

「へー、あなた、フェンツ運輸の御曹司なの」

 

「はい、そこまで父に甘えている訳ではないですが……」

 

建物から飛び降りをかました数分後

 

「立派じゃない、誇れる息子を持ったものね」

 

「いえ、未だ父には及びません」

 

セラフィムとバイソンは世間話に興じていた

 

屋上からの飛び降り後、不時着したセラフィム達はそのまま逃走しようと企てていた

建物を一つ挟んだ路地に避難し追手もすぐには追いつけない状況、そこから更に行方をくらませればそれでこの騒動は終わり、命の危機からは抜け出せる

だがそれをある男が止めたのだ、つまらない終わり方だと

 

「それで、将来はお父さんの後を継ぐ、ていう設計かしら」

 

「それはまだ決めることじゃないですし、僕に父の代わりが出来るかは自信がないので……」

 

「あらそう、頭は回る方だと思うけど」

 

それで仕方なく彼らが追いつくのを待つことにしたのだ

追われる側が追う側を待つなど前代未聞の話だがそれが最良だと説き伏せられた

彼女自身、納得は未だに出来ていないが事態収拾の最適解であることは間違いではないのだろう

 

「誠実な子ね、年の割には冷静だったし」

 

「そんな褒められるようなことじゃないですよ」

 

「いいえ、胸を張れる事柄よ、ほらしゃんとしなさい」

 

「は、はい」

 

 

何も出来ずにいる鬱憤を晴らそうにもあの男に出来ることは恐らく存在しない、抵抗は許されず反撃も制限されるこの状況に苛立ちを募らせながら感情の抑制もかねてバイソンと時間を潰すことにしたのだ

 

彼がもっていた菓子を頬張りながら二人でなんでもない会話を繰り広げる、その近くには

 

「まったく、どこかの誰かさんにも見習ってほしいものね」

 

「ははは……」

 

一人、煙草をふかして黙りこくってる男がいる

 

「ストレイドさん、どうしたんですかね」

 

「さあ、高い所が苦手だったんじゃない?」

 

先ほどから彼はこの様子なのだ、奴らが来るまで待機と言ってからずっと煙草を吸っている

別に怪我をしている訳ではない、着地時に一人だけ無傷でいた男だ

六、七階はあったであろう高さから飛び降りて怖じ気つく男でもない、今までの行動を見てもそれはわかる、なら何故だんまりを決めこむのか、それが彼女たちにはわからない

 

「ねえ、あいつっていつもああなの?」

 

ああ、とはストレイドの予測のつかぬ自由気ままな所を言っている

この場において唯一彼を知っているバイソンに聞いてみる、二人の対応を見た限りは顔見知りらしい、問われたバイソンは少し考え

 

「大体あんな感じ…ですね」

 

「そう」

 

こう答える、バイソン自体彼と親しい訳ではない

ロドスの行動支援中に時折姿を見かけるときがあったぐらい、話した事も数度しかない

何やら不穏な話が付きまとう変人、という認識だ

 

「僕も話した事自体は少ないのでよくわからないんです」

 

「ふーん、なら何処で知り合ったか聞いていい?」

 

「え? ストレイドさんとですか?」

 

「ええ、嫌ならいいわ」

 

「いや、僕は構いませんが……」

 

バイソンは口ごもりながら少し離れた所にいるストレイドに視線を向ける

勝手に話していいか、という事だろう

人のうわさ話を広めるのとは違うが一方的に見聞きした話をすることになる、中には解釈の違う話題もあるだろう、そんな事を話していいのか気になったのだろう

話題の可否を求められたストレイドはひらひらと手を振っている、内容は聞いていたらしい、あれは構わないと、そういう事だ

 

「お願いできるかしら?」

 

「じゃあ、まあ、失礼して……」

 

バイソンはセラフィムに彼の知る限りのストレイドの人物像を話すことにした

 

 

……………………

 

 

「隊長、こちらが最後の目撃報告のあった所です」

 

「ああ、わかった」

 

彼女達が込み入った話を始めた頃、龍門近衛局の面々が裏路地に到達していた

 

「各員、近隣の住民から有益な情報を聞きだしてくれ」

 

「「「了解」」」

 

チェン率いる龍門警察、何故彼女たちがここにいるのか

少し前、市民から通報があったのだ、よくわからない集団が騒ぎを起こしていると

夜遅くにやかましいからどうにかしてくれと、そんな感じの通報があった

 

「相手は最後に建物の屋上から飛び降りた、とのこと」

 

「そうか、まあ奴ならできる」

 

「……そうですか」

 

ここにいるのは何人かの警察と、彼ら中でもエリートであるホシグマと

 

「しかし隊長、あなたが出てくる必要はなかったのでは」

 

「気にするな、丁度手が空いてただけだ」

 

龍門警察のトップであるチェンがやってきていた

 

「ですがこの程度の案件であれば小官だけでも対処は可能で――」

 

「気にするな」

 

「しかし、隊長の手を煩わせるのも――」

 

「気にするな」

 

「だからと言って――――」

 

「気にするな」

 

「……はあ」

 

通報の内容自体はチンピラが暴れて周っているようなモノだった

何かの破裂音が聞こえたとか、銃声が聞こえたとか

多少の危険性はあると思い何人かを連れて出動することになったのだが

 

「フフ、今度こそブタ箱にぶち込んでくれる……!」

 

「……………………」

 

だがそれぐらいであれば一般局員でも手に負える、なのに何故チェンがいるのか

それは通報にこんな情報が混じっていたからだ

 

赤いサンクタと人種不明の黒い男が何やら追われていた、と

 

「隊長、まだストレイド殿と決まったわけではありませんよ」

 

「そうだな、だが確実だ、私の勘がそう囁いている」

 

依然あった事件についてはホシグマも聞かされている

とあるテロリストの排除、それに合わせて起きた龍門内での発砲事件

それらにかかわっていた男と、その顛末

そして、彼が最後に何をしたか

 

「覚悟していろ、傭兵……!」

 

「……あまり私情は挟まぬよう、お願いします」

 

最初聞いた時は驚いた、内容も、報告の仕方も

なんせいきなり警察のトップが

 

『顔にドロドロした粘液をぶっかけられました』

 

なんていう報告がきたら驚くしかない、しかも報告主はロドスアイランド

信憑性が高かったせいで随分困惑した、その後被害者たちからの情報でタダのペイント弾と判明した、臭いこそ強烈だったが

 

そのせいだろう、ホシグマの隣では怒りをあらわにしているチェンがいる

彼女がここまで感情を表に出すのは珍しい、いつもは近衛局の顔として、エリートとして毅然とした態度を崩さぬ人なのだが

 

「隊長、せめて判断だけは冷静に願います」

 

「わかっている、そこまで溺れてはいない」

 

出動時、見たことない顔で出ていった彼女が不安でお目付を兼ねてホシグマは一緒にやって来た

警察としての立場こそ忘れていないだろうが何が原因で荒事になるかわからない

何より彼女は赤霄を持ってきている、その肩にぶら下げられた一本の剣は瞬く間に物質を両断するだろう、正直、ストレイド相手に抜かないか気が気でならない、それが本音だ

 

とりあえず最後の目撃地点でいくつかの情報を洗う

まず、これは取引か何かのイザコザで起きた出来事かもしれないという事

追われているのは赤と黒の二人組だという事

追手は銃を所持、二人組の殺害、もしくは危害を加えることが目的

そして――

 

「チェン隊長、ご報告が」

 

「なんだ」

 

「何やら詳細不明の第三勢力が存在しているようです」

 

その二人組に手を貸す何者か

 

「勢力…ということは組織なのか?」

 

「どうやらそのようで、二人組を支援している、と」

 

近隣と警官が集めた情報では二人組の味方と思われる勢力が存在する

彼女達が追いこまれた時に現れ、一方的に追手側を蹂躙したらしい

 

「その組織の目的は?」

 

「いえ、わかりません」

 

「そうか、引き続き捜査を」

 

「了解!」

 

報告を終え周囲の捜査員の所に戻る警察を見送りながら状況をまとめる

その組織は追手側に比べれば実力は上らしい、単騎で暴れ回り追手の半数を減らしたとか

だが彼女たちの味方というなら不自然だ、減らしただけで全滅はさせていない、とか

 

「隊長、どうみます」

 

「…………ふむ」

 

半分を簡単に潰せたならもう半分も問題なくやれるはず、にも関わらず組織は撤退したとか

 

「まるで遊んでいるようだな」

 

「と、言いますと?」

 

「何か、試しているようだ」

 

試しているとは、追手側をか

 

「こう、奴らを追う理由と、覚悟と、その真意、それらを見定めてるように思える」

 

「何のために、でしょうか」

 

「さあな、ただ……」

 

「ただ?」

 

腕を組み、いつかの出来事を見返すように目を細めながらチェンが言う

 

「あの男に、よく似てる」

 

「似てる、ですか」

 

「ああ、どこか目的が不明瞭で、なのに存在を開示し、状況を振り回すことに専念する。あの傭兵と似ている」

 

「ストレイド殿と関係があると?」

 

そう返すとチェンはしばらく黙り込み、思考に移ってしまう

一度置いておこうか、そう考え周囲の警官と同じく聞き込みに戻ろうとする

 

「ホシグマ殿」

 

「ん? オブライエン巡査部長か、どうしました」

 

すると一人の警官が近づいてきた

 

「一つ、小耳にいれておきたいことが」

 

「なんでしょう」

 

「例の組織、どうやらまだ出張るつもりのようです」

 

それはつまり、この先も引っ掻き回すつもりということだろう

 

「なぜわかるんです?」

 

「いえ、近隣住民が怪しい集団を見たという報告がありまして」

 

「それがその組織だと」

 

「はい、二人組の周囲で隠れるように付きまとっているとか」

 

これはあまり喜ばしいことではない、彼らが追手をどうにかするのは問題ない

だがこちらの動きを制限してくる可能性がある、彼らにとっての障害が追手だけとは限らない、余計な存在だと認識されればこちらにも危害を加えてくるだろう

かなり厄介な存在だ、敵でも味方でもない勢力が目標を守護している、どう転ぶかわからない

 

「他に情報は?」

 

「特には、ああ、後一つ」

 

組織への対応をどうするか考えながら報告を聞く

 

「その組織と思われる人物をある地点で見かけたと」

 

「それは確かですか」

 

「はい、なんでもフルフェイスの大柄な男、と」

 

「……そう、ですか」

 

その内容は無視できないものだった

大柄なフルフェイス、といえば例の暴れ回った男だ、戦闘で終始優位に立ちいきなり走り去っていった、と住民から聞いている

 

「以上です、では私は捜索に戻ります」

 

「ええ、何かあれば随時報告を」

 

「了解、それでは」

 

警官を見送りながら頭を悩ませる

どう考えても囮にしか思えない、あれだけ派手に動いた人物が訳もなく姿を現すとは思えない、だからといって無視は出来ないどう動くべきか

報告ついでに相談すべきか、そう考えてチェンを見る

 

「……………………」

 

話は聞こえていたのか、こちらに来いと仕草で示しながら周囲の警官を数えている

そんな彼女のもとに近づく

 

「何か、動きますか」

 

「ああ、二つに分かれる」

 

何人かの警官を分けつつ言葉を続ける

どうやら一度二手に分かれるつもりらしい、片方は二人組を、もう片方はフルフェイスを

効率を重視した計画でいくようだ

 

「隊長、追手はどうするんですか」

 

「それは問題ない、二人組を追えば勝手に奴らには鉢会うことになる」

 

「ですが、そうなると戦力的な問題が……」

 

「ああ、だから二人組の担当は私が先導する」

 

「はあ……」

 

確かに実力的にも問題はない、有象無象程度なら彼女一人でやれるだろう

だがどうにもストレイドを斬りに行く、というようにしか聞こえないのは気のせいか

頭をよぎった不安を払いつつ自身の役割を確認する

 

「小官はフルフェイスを追います」

 

「頼んだ、相手は手練れだ、気を付けろ」

 

「わかりました、では小官はこれで」

 

ホシグマ達は一度、各々の目標を追うことになった

 

…………………………

 

 

「……へー」

 

「僕が知ってるのは、これ位ですね」

 

場所は戻ってセラフィム方面、そこには丁度話をし終えた様子の二人がいた

話された内容は彼とバイソンが何故知り合ったか、普段の彼の人物像はどんなものか

そして、いつかの強襲作戦の内容、その一部始終を聞かされていた

 

「なるほど、噂通りの男ね」

 

「といっても僕は当時の作戦にいたわけじゃなくって、その時の作戦記録を見せられただけなんですけどね……」

 

その内容は常人にとっては想像の出来ない出来事だろう、たった一人の傭兵が十分足らずで百を屠ってみせたのだ、そんな光景思い浮かべられるものではない

だが彼女には想像できるらしい、そこに在るのは畏敬か軽蔑か、少なくとも死を知っている者にしか描くことの出来ない情景だ

 

「あの、怖くはないんですか?」

 

その落ち着いた様子に疑問を抱いたバイソンは一度問いてみることにした、彼とてストレイドの作り上げた光景には恐怖を覚えている、話だけでも異常な男だと理解できた

なら彼女もその筈、戦闘経験が一度でもあるなら人を殺すという行為がどれだけの事かわかるはず

なのに彼はやってのけるのだ、まるで呼吸をするように、まるで命に価値を見出していないように

バイソンの問いに彼女は答える

 

「別に、見た通りの薄情な男、それだけよ」

 

どうやら彼女の目にはその様に映るらしい

確かに薄情といえばそう見える、だがその血に塗れた手は奪うばかりをしている訳ではない

実際ロドスの作戦行動中に彼は何度か人命を優先している、必ずしも殺すわけではない、彼女にもその事は話している、ならば何が彼女の中でのストレイドへの評価を決めたのか

 

「セラフィムさん、聞いてもいいですか?」

 

「ん、何を」

 

それは恐らく、彼女自身の生涯に関係している

 

「セラフィムさんって、普段は何をしていらっしゃるんです?」

 

「……普段、ねえ」

 

聞かれて顔を歪ませる、話しにくいことなのだろうか

特別デリカシーのないことを言ったつもりはないが不都合でもあるらしい

 

「何か不味いことでも?」

 

「いや、不味いって訳じゃないのだけど、その……」

 

はて、何か失礼なことはしただろうか

仕方なく彼女がどうするか決めるまで待つ、その近くでは

 

「……わかった、ポール、そのままいつも通り仕事をしてろ」

 

「?」

 

いつの間にか煙草をやめ誰かと通話しているストレイドがいた

少し気になる、彼がああして個人の付き合いを見せている様は珍しい、聞き耳を立てるわけではないが会話が気になってしまう

 

そんなこちらの意図に気が付いたのか、一度視線を向け、一言通話の相手に言って電源を切ってしまう、そしてこちらに近づいてくる

 

「よう坊や、盗み聞きとは感心しないな」

 

「あ、すいません…悪気はなかったんですが」

 

「まあわかるよ、秘密とは総じて関心を誘う物だ。それが甘ければ甘いほどにな」

 

「……すいません」

 

「気にするな、叱っちゃいない」

 

どうやら彼を出し抜くのは難しいらしい、謝罪をしつつ下らぬ思惑を放り捨てる

ストレイドはそのまま会話に加わろうと未だ顔をしかめるセラフィムに対し

 

「で、普段は何をやってるんだ? フリーターさん」

 

「……………………」

 

「あ、そうなんですか?」

 

見事に的中させる

 

「……違うわ、ムーンライターよ」

 

「言い方を変えただけ、結局本質は変わらないだろ」

 

「失礼ね、昼間しか働かないニート予備軍と昼夜問わず働く勤労者を一緒にしないで」

 

「失礼なのはお前じゃないか?」

 

どうやら何かしらのプライドがあるらしい、別に情けないことだとは思わないが

 

彼女曰く、ムーンライターとのこと

普段はあちこちの都市や集落を渡って日銭を稼いでいるのだとか

 

「いいじゃないか、気楽で」

 

「……そうね、ややこしい人間関係がない分楽よ」

 

「……人間関係」

 

「お、思う所があるみたいだな」

 

「いや、なんでもないです、ハイ」

 

なんでも一つ所に落ち着くのが好きになれないと、そのせいで定職についてもすぐに辞めてしまうのだとか

 

「けして働けないわけではないわ、ええ、勘違いしないで」

 

「なら焦るなよ、無い胸を張ったらどうだ」

 

「そこまで貧しくないわ、蚊に刺された程度よりはあるもの」

 

「ハハハ……」

 

時折話が逸れながらも聞きたいことを聞いていく、そしていきつく

 

「そうだセラフィムさん」

 

「何?」

 

「さっきの赤い光、あれってなんなんですか?」

 

飛び降り時、彼女の体から火の粉のように溢れた光

それは恐らく、アーツの類だろう

 

「別に、つまらないものよ」

 

「と、いうとどういうことだ」

 

彼女の言葉にストレイドが反応する

 

「言った通りよ、大して役に立たない、そのくせ扱いづらい代物」

 

「ほう、興味があるな」

 

いやに食い付くストレイドに訝しみながら説明を始める

 

「簡単よ、例えばこうやって手を合わせる」

 

そう言って手のひらをあわせる、その後先ほどの赤い光が彼女の体から湧き出てくる

 

「で、少し力む」

 

「力む?」

 

「ただの感覚よ、そんな感じにやってるってだけ」

 

「はあ……」

 

セラフィムが目を閉じ集中する、そして

 

「フンッ!」

 

「……ん?」

 

「…………あ?」

 

気合の一声の後、光が散る

 

「……あの」

 

「何よ」

 

「いい感じのそよ風が流れてきたんだが」

 

「ええ、そうね」

 

「……え、これ?」

 

「これ」

 

「……しょうもないな」

 

光が散ったと同時にセラフィムの前方に小さな風が吹く

それは真剣に話を聞いていた二人を拍子抜けにさせていた

 

「あの、これでどうやってあんな跳躍を?」

 

「着地も説明がつかんな」

 

「まあまって、話は終わってない」

 

どうやら続きがあるらしい、おとなしく静聴する

 

「この光はね、とある力場を生んでるの」

 

「力場、ですか」

 

「そ、それでその力場は破裂する」

 

「破裂?」

 

「破裂、爆弾みたいにポンってなるの」

 

「……ああ、読めたぜ、そういう感じか」

 

「あら、頭が回るのね」

 

「まあな」

 

彼女のアーツは空気を操っているような感じだという事

普段は微弱な風を生む程度だがある手法を使えばかなり効果が上がる特性だと

 

「こんな風に空き缶を手で持つとする」

 

そこらにあったゴミ箱から適当なサイズの缶をとる、そしてもう一度光を纏う

 

「で、さっきの具合で力む」

 

誰もいない方向に腕を向ける、再び光が散る

同時に独特な音が鳴り響く

 

「わっ!」

 

「……ほう」

 

先ほどとは打って変わり勢いよく風が吹き荒れる、その衝撃で持っていた缶が吹き飛んでいく

まるで弾丸を撃ちだしたかのように彼方へと飛んでいく

 

「ドヒャァ!だな」

 

「ええ、ドヒャァ!ね」

 

「ドヒャァ?」

 

「「効果音」」

 

何処か気の抜けた音を立てながら飛んでいった缶は付近の建物の壁に当たりひしゃげている

気のせいか、壁にめり込んでいるように見えなくもない

 

「あの、どうやったらこんな差が出るんですか?」

 

「別に、使い方の問題よ」

 

曰く、力場を発生させた際一か所に凝縮して放つとこのように威力が変わるらしい

今の空き缶の場合、手と缶の間に力場を生成、破裂と同時に缶を手放し発射した

 

「で、それをジャンプに合わせて使ったわけか」

 

「そうよ、タイミングがシビアで使いづらいし、曲がりなりにも爆発だから痛いのよ」

 

「なるほど、歯を食いしばってたわけだ」

 

その応用で彼女は建物へ飛び移る際に足の裏に発生させ跳躍距離のかさましに使ったと

着地の時も当たる寸前に使ったらしい、それで落下速度と衝撃を緩和させたと

 

「なんだ、便利じゃないか」

 

「どこがよ、使うたびに体を痛めるなんて不便じゃない」

 

「それぐらい我慢しろよ、代わりに得られる機動性は魅力的だろ」

 

「まあ、そうだけど……」

 

なんでも一瞬の加速であれば移動の後押しに使える攻撃には向かない補助に長けたアーツとのこと、ただしその場合体にもろに食らうらしくそこそこ痛いらしい

 

「だけどね、正直微妙なアーツなのよ、我ながら」

 

「そうか?」

 

「そうでしょ、普通アーツって言うのは炎が出たり大気の水分を操ったりバチバチ電気だしたり」

 

「まあ派手なのが多いな」

 

「でしょ? なのに私はこれ」

 

そう言うと三度彼女の体から赤い光が溢れ出る

 

「これが精々目につく程度、よっぽど集中しなきゃ役に立たないし効果音がうるさいし、体は痛いし割には合わないし……」

 

「不服なのか」

 

「そうよ、強いて利点をあげるならアーツユニットを介さなくていいってところかしら」

 

「そうなんですか?」

 

「ええ、なんでも私の血筋の特有のアーツとか」

 

「血筋? ご家族も似たようなアーツをお持ちなんですか?」

 

血筋の物という事を聞いてバイソンが家族の事を聞く、だが

 

「……ええ、そうらしいわ」

 

「らしい?」

 

「そうね、らしいの」

 

まるで見たことがないように言う、それを不思議に思い

 

「あの、ご家族の方は――」

 

つい、聞いてしまう

 

「――――その、失礼な事を聞きました……」

 

「構わない、失言はこっちが先だった、気にしなくていいわ」

 

彼女の家族の話を聞いた途端、彼女が顔を曇らせたのがわかった

多分、そういうことなのだろう

 

「気にしないで坊や、あなたは悪くない」

 

気にするなと彼女は言う、何があったのかは言わないが彼女の家族はどうやら既に故人らしい

 

「ほら、あんまり落ち込まないで」

 

「いえ、無礼を働いたのは僕なので……」

 

きっと何かの不条理が襲い掛かったのか、少なくとも彼女はその現実を受け入れているらしい

 

「大丈夫、ずっと昔の出来事よ、今更嘆くことじゃない。ええ、嘆いてみせることではない」

 

依然として落ち込んでいるバイソンをなだめようとするセラフィム、だがこのままではいつまでも彼は俯いたままだろう

それが面倒だったのか、それとも埒が明かないと思ったのか

 

「ほら、そんな可愛い顔をしないで、あなたで充電したくなっちゃうでしょ」

 

「へ?」

 

「……ふむ」

 

そんな事を言い出した

 

「充電?」

 

何故こんな状況でそんな単語を使ったのか、バイソンにはわからない

ただストレイドは理解しているらしく

 

「セラフィム、この坊やにそれは早い」

 

「ああ、そうよね、その手の事には疎そう」

 

「……えっと……?」

 

一人置いてけぼりを食らうバイソンを見据えながら話を切り上げる

 

「それで、奴らはまだ来ないのかしら」

 

周囲を見回しながらセラフィムが言う

 

一度撒いてから数十分は経っている、いい加減追いついてきそうなものだ

だが一向に姿を現さぬ追手に多少の不安が出てくる

 

「これ、諦めてたりしないわよね」

 

先程の立ち回りを見て機動性はこちらが上と判断し追跡を辞めた可能性を指摘する、それに対し

 

「いや、まだ追ってきてるらしい」

 

そう答えが返ってくる

 

「何? さっきの電話はお仲間さん?」

 

どうやら彼が通話をしていたことには気が付いていたらしい、先ほどの電話に対して言及する

 

「いや、知り合いだ」

 

「でもネストの人でしょ? 多分だけど」

 

「そうだな、ちょいと有力な情報をくれた忠犬だ」

 

「なら仲間じゃない」

 

「いいや、あいつらと俺は仲間じゃないよ」

 

「? どういうことよ」

 

その妙な言い分に疑問を浮かべつつ話を戻す

 

「まあいいわ、で有力って事は他に何か言ってたの?」

 

「ああ、少し面倒なことになった」

 

「面倒っていうと、予想外の事態が起きたとかそんな感じ?」

 

「そうだ、龍門警察が動き出した」

 

「「は?」」

 

随分重要な事を軽く言う

 

「まって、警察がいるの?」

 

「ああ、どうやら俺たちを追ってるらしい」

 

「なんで? 私達被害者よね?」

 

「だからこそだろ、被害者の身元の確保という大義名分を担ぎこの騒ぎの元凶をとっ捕まえる。そういう腹積もりだろう」

 

「だからどうしてそうなるの?」

 

「そうさな…理由は思いつくが、随分恨みを買ったもんだ」

 

どうやら彼は警察に恨まれる心当たりがあるようだ、それを彼女が知ることはないが

 

「気にするな、いいじゃないか、強制終了という新たな選択肢が取れるようになったんだから」

 

「……まって、それで警察に捕まって終わったら、その場合も……」

 

「ああ、ゲームオーバー、捜し人の件は無しだ」

 

「……理不尽よ、まったく」

 

敗北条件が追加されたことに顔をしかめさせる、彼女にとって今日は厄日なのだろう

 

その後どうしようか、追手が来たらどう対処するか悩みつつ周囲を見張る、すると

 

「……ん、ストレイド、あれ、知り合い?」

 

「ん? ああ、そうだな」

 

路地の向こうからこちらに手を振ってくる三人組が現れた

 

ストレイドは軽く手を振り返し、あちらが合流するのを待つ

 

「久しぶりねーストレイド」

 

「ああ、久しいな、ロザリィ」

 

「リーダー、お久し振りです」

 

「団長、あの、ここでのんびりしてていいんですか?」

 

「平気だRD、レオン、奴らはもうちょいかかるんだろ?」

 

「はい、こちらに接敵するにはもうしばらくかかります」

 

合流するやいなや一斉に話し始める二男一女の三人組

女性の名はロザリィ、その隣で落ち着いた態度でいるのはレオン

他の二人に比べ嫌にビクついているのはRD、ネストのメンバーとのこと、情報収集のエキスパートらしい

 

「とりあえずは数は減った、片づけた連中もネストの面子が回収してるわ」

 

「連中は未だ諦めていない模様、まったく、しつこい連中です」

 

「まあ億越えの賞金首だ、狙わない手はないさ」

 

「「……………………」」

 

現状整理の為に来たのだろう、今裏路地に起きている件についての情報をストレイド、ロザリィ、レオンが三人でまとめ始める

その中には聞いたことのない話や追手の細かな状況、中には龍門警察の動向すら含まれていた

その情報過多な状況についていけずセラフィムとバイソンはおとなしく見守っていることにする

 

「で、猫君には囮になるって言われたから自由にさせたけど、それでいいわよね?」

 

「構わない、あれで結構お祭りごとが好きだからな、一度の介入じゃ満足できないんだろう」

 

「お祭りですか、相変わらずですね、あなたは」

 

「……こうやって見ると、確かに組織の王なのね」

 

「みたい、ですね」

 

一応バイソンは事の経緯は伝えられている

レイヴンズネストと呼ばれる組織が存在すること

セラフィムがネストを尋ねに龍門のある店に訪れたこと

ストレイドがその組織の長だったこと

その取引の最中、突如として襲われたこと

 

「本当に後手なんですか?」

 

「ええ、その筈」

 

急襲を受けた以上対応は受けに回る、なのだが最初から今に至るまでストレイドの優勢は崩れていない、彼が真に窮地に陥ったことは現時点で一度もない、それは彼の鋭い観察眼とよく回る頭もあるだろう

だがネストの存在も大きいのかもしれない、現に彼の手の届かぬ事象は彼らが行っているらしい

 

「じゃ、キャットには適当に対処しろと言っておけ」

 

「はーい、任せといて」

 

「お任せください、それであなたは?」

 

「さっきまでと変わらない、あいつらが来たら走り回る、それだけさ」

 

「了解です」

 

「……終わった?」

 

三人の会話に区切りがついたと思われるタイミングで話しかける

 

「ああ、これで後は奴さんを待つだけだが……と」

 

「だ、団長…!」

 

すると、遠くから見馴れてきてしまった集団が現れた

 

「ようやく来たか、さてボチボチ動くかね」

 

「……いっそのこと全員片づけてくれない?」

 

「すぐに終わったらつまらないだろ」

 

RDが怯える様を見ながらのんびり動き出す

走り出そうとし、何か思いついたように一度振り向く

 

「そうだ、お前もちょっと遊んできたらどうだ」

 

「へ?」

 

その視線はRDに向けられている

 

「何、この人戦えるの?」

 

「いやいや! 無理です!」

 

「なんだ、仮にもフォグシャドウから鍛錬を受けてる身だろうに、自信がないのか」

 

その突然の無茶ぶりに慌てふためくRD、どうやら戦える身ではあるらしい

だが乗り気でないのか、首をブンブンと振って拒否する、それを

 

「いいじゃないかRD、たまにはリーダーに成長のほどを見せるといい」

 

「レオンさん、あんたまで……!」

 

レオンが後押しし

 

「ほら、リーダーが死んで来いってさ!」

 

「イタイッ!」

 

ロザリィが文字通り蹴り飛ばす

 

「ひ、一人じゃやられちゃいますよ!」

 

「「「ダイジョブダイジョブ」」」

 

「適当ねぇ……」

 

「……なんだか既視感がありますね」

 

上司からの無理難題を言い渡されるRD、彼は辞退しようと抗うものの三人がそれを許さない

 

これがパワハラである

 

「ほら、もう近くまで来てるわよ」

 

「く……! わかりました、やってやりますよ!」

 

とうとう腹をくくったRD、単身スーツの男達の群れに向かって行く

 

「じゃ、俺は行く、お前達は引き続きかく乱と数減らしに務めろ」

 

「はいはーい、頑張って―♪」

 

「ではご武運を」

 

「姐さん! レオンさん! その激励を俺にもくださいよ!」

 

後方で意外と善戦しているRDを尻目にストレイドが動き出す

 

「ちょっと待ってよ」

 

「あ、僕も行きます」

 

その後ろに二人がついていく

 

「坊や、お前さんは来なくていいんじゃないか?」

 

「いや、乗り掛かった舟なので…」

 

「律儀ね、あんまり自分から面倒事を背負い込むものではないわよ」

 

走り出す三人をロザリィとレオンが巻き込まれないように道の端によりながら見送る

 

そうしてセラフィム達の姿が見えなくなる

 

「まったく、自由気ままね」

 

「いつものことさ、あの人らしい」

 

「それもそうね、しかし……」

 

「ああ、あの女性、似ているな」

 

「ええ、感性とか、性格とか、よく似てる」

 

「何者なんだ?」

 

「さあ? マギーとファットマンがついでに調べてるらしいわ」

 

「談笑してないで手伝って―!」

 

RDの悲痛な叫びが響き渡る

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ところでセラフィム」

 

「何よ」

 

「お前、経験人数は?」

 

「……そうね、あえてこう答えるわ、Null(ナル)、と」

 

「そうか、確かにこの質問には意義がないな、あらゆる意味で」

 

「ええ、そうよ」

 

「あの、何の話ですか?」

 

「「気にしない気にしない」」

 

「はあ……」

 




あけおめ!(元日より十八日経過)

言い訳はしません、ですがこれだけは言わせてください

私は鉄血司令官です、鉄血イベに関しては手抜きはしない(キリッ)

まあ元々不定期更新でやっているので続きを待ってる方は気長にお待ちください
では戯言はこれまで、アークナイツに関する私の報告を


Wもウィーディーも来ました、さらにはエリジウムが潜在マックスになりました
ガチャ回数は106回、無課金です
逆によくもここまで引けましたね、我ながら
そして個人的に本命であるマドロックさんまで石の貯蓄が始まることになる…

ちなみに今回、エロスラングが二つあります、気になる人は捜して調べてください
解説は次回に回します、そうしないと後書きが長くなる


AC用語解説

ポール・オブライエン

ACVに登場、機体名は明確には不明だが警備部隊一番機と呼称されている
その機体名が示す通り『シティ』と呼ばれる地域の治安維持を目的と警備部隊の隊長
かなり真面目な性格なのだが扱いが色々不遇、正直職務を全うしてただけの人

『貴様も!! 企業の連中も!! 私の邪魔をする者は、皆死ねばいい!!』

そらキレますわ


ロザリィ

ACVに登場、主人公が所属するレジスタンスを支援するミグラント
ストーリ中ACの補修や弾薬補給をしてくれる、結構守銭奴

『なーに? 呼んだかなー?』


レオン

ACVに登場、ストーリーの最初期におけるレジスタンスリーダーの腹心
故あってリーダーが死亡、その娘を新たに頭に置いたレジスタンスにおいて彼女の後見人のような立場に立つことになる

『悪いな、美人の涙が最優先さ。あばよ…酔っぱらい』

あまりセリフが記憶に残っていない筆者がここにいる


RD

ACVに登場、ロザリィの部下
かなり気弱な面が目立つミグラント、危機察知能力がかなり高い
どこか極東で聞いたことある声してる

       『聞いてくださいよ姐さん。オレ、気づいたんすよ』


           『ゲームに勝つ方法ってやつです』


          『馬鹿なんで、時間かかったっすけど』


          『勝つためには誰かが負ければいい』


              『オレ以外の誰かが』


ACVのストーリーにおいて色々と絶妙な立ち位置に立つ『特別』
果たして『例外』と『特別』の差は何だったのか……


ドヒャァ!!

AC4 ACfAにおけるネクストACのある挙動に関係する音
通称クイックブーストと呼ばれる高速移動なのだがその音がこう聞こえることから偶にドヒャァ!!と表記される、聞こえ方は人それぞれなのであまり気にしなくていい


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