アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
セラフィム達がAMIDAご乱心に巻き込まれていた時間から少し後
「……情報通りであれば、この付近に……」
ホシグマと数名の警官たちは例のフルフェイスと遭遇すべく歩みを進めていた
「しかし、やはり道理が通らない」
彼女は先ほどからずっと振り払うことが出来ない問答に頭を悩ませている
「何故、わざわざ一人で出てきたか……」
どうして囮になってまでこちらの注意を引きつけるのか
そもそも乗るかどうかもわからぬ相手のはずだ
法の番人とは確かにこうして危険因子を狩るために存在している
だが必ずしも動くわけではない、必要があれば動くのが法なのだ
確かにフルフェイスの男は脅威ではある、単騎で多数を潰せるような輩だと聞いた
しかしそれは、こうして狙いをつけてまでとりにいくべき首なのか、否、断じてそうではない
こう指揮したのはチェンだ、その男を追えと言ったのは彼女だ
意味はあるのだろう、彼女は聡明な人だ、間違えるようなことはしない
「恐らくは、正体を探れという事だろうか」
例の組織の目的と、ストレイドという傭兵との繋がりを確かめる
これが上司から密かに課せられた任務だろう
ある意味で相手から接触を望んでいる状況だ、絶好の機会ではある
相手も不必要に荒事を起こすような者でもないらしい、あくまでサポートに徹している
ならば話し合う余地もあるだろう
幾人かの警官を連れ目的地へと歩を進めていく
そうして、見えてくる
「………なるほど、これは一筋縄ではいかないな」
人気のない通りの中心に陣取る、大柄な男
その顔はフルフェイスのヘルメットで隠れていて仔細はわからない
だが彼が例の人物で間違いないだろう
その証拠に、一振りの剣を携えて堂々と立っている
まるで待ち構えるように、こちらを試すように
「あなたが、件の人物で相違はないですね?」
じっと彼女たちを見つめる男、表情はわからない
誰に視線を向けているかも確認は出来ない
男は何も話さず、静かに頷く
「ここに我々を誘導した意図は」
ホシグマが質問を投げかける
だが何も喋らない、答えることはしない
ただ黙って彼女たちに顔を向けている
「答えるつもりはないようですね」
沈黙している男の態度にしびれを切らし、捕縛しようとホシグマが武器を構える
その時
「……ん?」
フルフェイスの男が何やら動き出す、待てと言うようにゆっくり手を突きだしてくる
何かしようとしているのか、それとも時間稼ぎか
警戒を維持し一定距離を保って様子を見る
すると男は懐から何かを取り出した、それは――
「……手帳?」
手持ちの、小さなメモ帳だった
ポケットに入る程度の小さな物、続けてペンを取り出し何かを書き込み始める
そして見えるように突きつけてくる
彼我の間には距離がある、何を書いてあるかを読むには近づかなければいけない
もしかしたら間合いに敵を入れるための
だが訝しんでいるだけでは事は進まない
仕方なく接近する、相手の一挙一動に目を配りつつゆっくり近づく
そして手帳を読み上げられるだけの距離に来る、はたして手帳にはこう書かれていた
――初めまして
「……あ、はい、初めまして」
見た目によらず流麗な線で書かれたそれは、挨拶だった
ホシグマの返答を聞き次のページをめくる
――私はワイルドキャットと言う、ただのしがない傭兵だ
「え、ええ、どうも、小官はホシグマです。龍門近衛局の一職員であります」
もう一度ページがめくられる
――此度はこのような騒ぎに巻き込んでしまい申し訳ない
「いえ、こちらもこうして治めるのが仕事ですので……」
――ここまで大事にするつもりはなかったのだが、物事は円滑に進まぬ物、どうか非礼を詫びさせてほしい
「……はぁ、そうですか」
前情報とは打って変わって紳士的な対応をしてくる男
一戦交えるかもしれないと緊張していた彼女には少々予想外な出来事だった
面食らってしまい歯切れの悪い返事を返す、それを謝罪に対する否定と取ったのか
「ん? 何を――――ッ!?」
男は突如膝を曲げた
続けて上半身を前に倒し、両手を地面に置く
そしてそのまま、ゆっくりとお辞儀する
人はこれを、土下座と呼ぶ
「待ってください! いきなり何をしているんです!」
男のいきなりの行動にさらに驚くホシグマ、その後ろでは
「おいおい、土下座させてるぞホシグマさん」
「あちゃー……怒らせると怖いもんなぁ」
「あのメット頭、何やらかしたんだ」
遠巻きに見ていた警官たちがさもホシグマがそうさせたとでもいうような話をしている
「ちょっ! 違います! 小官がさせている訳ではありません!」
必死に否定する、だがこの状況は傍から見たら彼女がさせているように見えなくもない
「あなたも黙ってないで弁明をしてください!」
肝心の男は何も言葉を発さず黙々と体制を維持している
「うわー、カンカンじゃん」
「夜中とはいえこんな通りの真ん中で土下座させられるとか……」
「ホシグマさん、やっぱ鬼だなー」
どれだけ言い繕っても噂は独り歩きを始めてしまう
「待って! 違うんです! 話を聞いてください!」
しかし彼女の声は届かない
結局、彼女の口から許しの言葉が出るまで男の土下座は解かれることはなかった
…………………………………
「いいですか、土下座とは確かに謝罪の意を表す行為ではあります」
その後、フルフェイスの男、もといワイルドキャットはホシグマから説教を食らっていた
「ですがそう軽々しくしていい事ではないのです」
内容としては先ほどの土下座に関する正しい知識の説法である
つい先ほどまで危険視されていた男は正座してホシグマの言葉を静聴している
「それは本来最敬礼に属するもの、さっきの話はそこまでするような話ではありません。あなたが己の行いに許しを請いたかったという気持ちはわかります」
ワイルドキャットは時折頷きながら、依然として喋りはしない
後ろで待機していた警官たちは全員沈黙している、その頭には大きなたんこぶが出来ている
「聞いていますか? ワイルドキャット殿」
ホシグマの問いかけにまた頷く、しっかりと聞いてはいるらしい
だがそれ以外にリアクションがない、喋ってくれればまだやりやすいのだが
「はぁ、わかりました、言いたいことは言いましたので、これ以上は言うだけ無意味でしょう」
嘆息しながら説教を切り上げる
ワイルドキャットも頃合いを見て立ち上がる、そんな男の姿をもう一度注視する
大柄な体に引っ付いた怪しいヘルメット、バイザーは酷く暗く、中身は見えない
種族もわからない、輪っかがない辺りからサンクタではないだろう
だからと言って尾があるわけでもない、いったい何者なのか
それに、もう一つ気になるものもある
「それで、何故帯刀しているのですか? 聞いた話では先ほどは持っていなかったはずですが」
その質問に応える様に手帳を取り出しまた何かを書き始める
そして再び突きつけてくる
――ストレイドから言われたんだ
「…………」
――近衛局は容赦がない、平気で一般人に刃を向けてくる野蛮な連中だと
「……どこが一般人ですか、どこが」
彼の中での一般の定義が気になってきた
ワイルドキャットがもう一度ペンを走らせる
――それで、用心の為に持っていた
「その用心は必要ありません。我々は無意味に傷つける行為は致しません」
返答を聞き、少し考えた後また書きなぐる
――後、戦いたくもあった
「……はぁ」
――相当できる剣士と盾使いがいると聞かされている。あわよくば双方と一戦交えたい
そう書き込むと、持っていた剣がカチャリとなる
見てみると片手がすでに触れられていた
刀のようなフォルムの灰色の鞘に収まった剣、その鍔には指がかけられている
うっすらと抜かれた隙間からは蒼く光る刀身がちらちらしている
「……申し訳ございませんが、決闘はオフの日に」
――オフならいいのか?
「休暇が重なれば、ですが」
心なしか彼の周囲がパーッ! っとなった気がする、喜んでいるらしい
「そんないつ来るかもわからない話はおいてください」
ワイルドキャットが剣から手を離す、どうやら戦闘狂の類らしい
多少の分別があるのは救いだろうか
「それで、どうしてここに? 何故囮になるような行動を?」
ここでようやく本来の話が出来る、一度した質問をもう一度聞いてみる
ワイルドキャットは何も言わずに手帳に書き込み始める
その様子に、彼女もいい加減気になっていたのだろう
「あの、喋れないのですか?」
何か訳ありなのかもしれないがこのようなコミュニケーション手段は手間がかかる
ストレスが溜まるという訳でもないが少々もどかしい、どうにかできないかと思って聞いてみる
彼は少し考え、返答を示してくる
――喋れはする
「では何故……」
――ただ、怖いと言われた
「怖い、ですか」
――昔、喉を潰された
「……それは、無礼な事を聞きました」
――気にしていない、なるべくしてこうなったんだ
突然の解答に少し罪悪感を感じてしまう、本人は気にしていないようだが不便だろう
だが怖いとはどういうことか、聞き返そうとすると
「…………アァ…アァァ…………」
「ッ!?」
突如、おどろおどろしい音が聞こえてくる
「ワタシ……ハァ……コンナフウニシカ…ハナセナイィ……」
壊れた機械から発せられたような、なのにどこか生物味を感じさせる重低音
それが目の前の男から発せられていると気づくのには時間はかからなかった
「し、失礼、筆談でいきましょう」
耳に入れるには確かに聞き苦しい、目の前の傭兵を侮蔑するわけではないがこれは話さない方がいいだろう
彼もそれを知って筆談で通しているようだ、ここは彼の気づかいに甘えることにする
そしてまた、手帳を突きつけてくる
――先ほどの質問だが、これは確かに私が意図してやったことだ
何故陽動を行ったか、の返答だろう
続けてページがめくられる
――大した理由ではない、さっきも伝えた通り一戦交えてみたかったのと
「……話を、したかった?」
ホシグマが読み上げた文章に、ワイルドキャットは静かに頷く
「話とは、なんでしょう」
――なんの面白みのない話だ、だが伝えておいた方がいいと、マギーに言われた
「マギー?」
――私の知り合いで、超一流の情報屋だ
「超、ですか」
―― 一度戦場から離れたにもかかわらず未だ戦場で生きる強い女性だ。あなたも話してみればわかるだろう
「まるで話してみないかと誘っているようですね」
――それはいい、これが終わったらどうだろうか。とあるバーで飲んでいる最中だったのだ
「……あの、喉が潰れてるのにお酒を嗜んでいいんですか?」
――問題ない、呼吸器系と食道の管は分けられている
「いや、そういうことではなくて」
――メンテナンスの手間はあるが、依然と変わらず飲み食いできるのはいい
結構マイペースなのかもしれない、それとも人と話すのが好きなのか
咳払いをする、一度話を戻しにかかる
ワイルドキャットもお喋りが過ぎたのかと反省したのか、しばらくの間黙って手帳に書き込み始める
「…………」
五分ぐらいか、そこそこ経った頃合いに三度手帳を掲示してくる
――あなたは、我々の名を知っているか?
「我々、ですか」
――そうだ、レイヴンズネストと言う傭兵団に聞き覚えは
「……カラスの巣、ですか?」
その返答に否定が飛んでくる
――渡り鳥だ、カラスではない
「……カラスも、同じ渡り鳥では」
――そうだが、違う。カラスの名は彼だけのものだ
「……彼、とは」
――ストレイド、知っているのだろう?
その質問に首肯する
どうやら彼との関係性を隠すつもりはないらしい
「あなた方は、彼の部下のようなものなのですか?」
ページが捲られる
――違う、同業者だよ。基本は
同業者とは、傭兵と言う意味でだろう、では何故彼を助けるのか、問おうとして、まためくられる
――そして同時に、賛同者でもある
「……賛同者?」
手帳は静かに、淡々とめくられていく
――理解は出来ないだろう、だが聞いて損はない
――いずれ、嫌でも耳に入る
――そうなるのが、我らの望みなのだから
「望み?」
ワイルドキャットは何も話さない
だがその真意は、確かに手元に表されている
――知っておくといい、レイヴンズネストとは何者か
――知っておくといい、どうして彼がカラスなのか
――知っておくといい、渡り鳥と鴉の差異を
手帳は流れるようにめくられていく
この話よりも先にその後の話ばかりが構想に出てくる、そのせいでなかなか進まない話でした
後よりも続きを書くのが最優先だろうに、本編の頃からこの辺りは直らない
まあ終わり方決めてから書いてるのでそうなるのは必然なのでしょうが……
後、最近知り合いに言われた事があるんです、この小説について
知人「お前、これ、あらすじ詐欺だよ」
そうでもないよ、うん、詐欺ではない
以上、私事でした
ホシノがほしいの