アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里   作:Thousand.Rex

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Those who burn themselves

「ちょっとっ! いつまで追ってくるのよアレッ!」

 

同時刻、他のメンバーが例のナニカに追われている頃

 

「ヒィィィィッ!?」

 

セラフィムとバイソン、この二人も周りと同じように例のナニカに追われていた

 

薄暗く街灯すらない裏路地、そこで響くのは二人の忙しない足音と不気味な羽音

それに重なるように耳を突いてくるのは固い肉が地面にぶつかるような跳躍音

 

「クッソッ……! 埒が明かない!」

 

セラフィムが振り向いた先には追われ始めた時に比べ大きく肥大した虫の群れ

それらは皆、他に目をくれずに二人の事を追っている

正確には、一人、彼らの液体に触れてしまった少年を追っている

 

「あぁぁぁぁぁ! こっち見てるぅ!」

 

一見二人を見ているような無数の複眼は、不幸にも顔が緑の液体に濡れてしまったバイソンだけを見つめている

どうしてそうなっているか、おそらくは先の金髪幼女の説明の通りなのだろう

詳しいことまではちゃんと聞いていなかったから成分の詳細まではわからない、だが虫たちを誘因することになっている要因はバイソンだ

 

「……くっ!」

 

なら、単純に自らの保身のみを考えるのであればここで彼を切り捨ててしまえばいい

そんな考えがセラフィムの脳裏をよぎる

 

だが彼には随分世話になっている、単に愚痴を聞いてもらった程度の話だが彼女にとっては大きなことだった

流石に見捨てるような真似はしたくない、二人で並んで虫たちからの逃走を続ける

 

その時だった

 

二人が走る通りの端、道を区切るように伸ばされた用水路

その落下防止の蓋の一つ、それが突如として爆発したのだ

 

「え? ちょ、何よ!?」

 

いきなりの出来事に注意がそちらに向いてしまう

大きな水しぶきをあげながら弾け飛ぶ用水路、その中心には確かに人影があった

 

「……っ! あなたは!?」

「そ、その人は?!」

 

困惑を隠せずにとっさに立ち止まり人影に二人の視線が集中する

 

「フン……。やり過ぎだな、彼女も」

 

そこにいたのはスーツの男だった

逆巻く飛沫の中から現れた男は余裕綽々といった態度で二人に近づいてくる

それは例の追手でなく、逆に彼らに立ち向かった鴉の仲間

無様にも用水路に飲み込まれていったさして役に立たなかったキザな男

 

「乙ダルヴァ!!」

「違ぁう!」

 

水没王子、ここに再臨す

 

「違うって……どうみてもさっき沈んだ自信家でしょ? え、何? まだ沈んでたの?」

「違うと言っている!」

 

セラフィムの中々な辛辣な言葉に若干声を荒げて返す男

そして一度咳ばらいをし、落ち着いて話し始める

 

「Miss セラフィム、私はオッツダルヴァなどと言う男ではない」

「は? 何言ってるのよ。どうみてもさっきの男でしょ?」

 

どうやら沈んでいたことは否定しないらしい

代わりに先ほど聞いた男の名を間違いだと言ってくる

多少の苛立ちを見せつつ男に言及するセラフィム、男はそれに動揺せずにはっきりと答えた

 

「オッツダルヴァは死んだ、ここにいるのはマクシミリアン・テルミドールだ」

 

そうして名乗りを上げる姿には虚偽を伝えているようなそぶりは見えない

それどころか初対面の時よりイキイキしている気さえしてきた、どうやら仮面を被っていたらしい

 

「って、マズッ!」

 

随分不審な登場をかました男への疑問を募らせていたがここで重要な事を思い出す

そもそも二人が走っていたのは例の虫から逃げおおせるためだ、そして今、二人は足を止めている

 

ということは、つまり

 

『キチキチキチキチキチキチキチキチキチキチキチ!!』

 

「「ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

逃げてきた方向を振り返る二人、そこには数えるのも億劫なほどの群れが迫ってきていた

思わず叫び声をあげてしまう、だがそんな事をしている余裕は二人にはない

急いで走り出す、その直後

 

「やれやれ、あの男の頼みでなければ手は出したくなかったのだがな」

 

男が懐から何かを取り出した、それは二つの小銃だった

先端に消音用のアタッチメントが付いた機関短銃、男はそれを構え群れに向かって一斉掃射する

空気の抜けるような音が連続して響く

散りばめられた弾は全て虫たちに飛んでいく、着弾した虫は次々と爆散する

少し前の醜態が嘘に思えるような華麗な銃裁きで群れを圧倒していく男

 

「そんな事できるなら最初からやりなさいよ!」

「何のことかわからんな、君と私は初対面だ」

 

どうやら前回の事はなかったことになっているらしい、いや、別人という扱いにしてほしいのか

男の不審な態度にセラフィムは少し警戒する、何を考えているのか見当がつかないのだ

ネストは一応彼女の味方をしてくれてはいる

だがそれは無償の信頼に値するかと言うとそうではない、そもそもネストの頂点にあの傭兵がいる以上警戒はしておいて間違いではない

目の前にいるのは紛れもなく、”死告鳥”の仲間なのだ

 

そんなセラフィムの態度を余所に群れを打ち倒していくテルミドール

 

「えっと、セラフィムさん、今の内に逃げるのはどうでしょうか?」

「……そうね」

 

肉片がばら撒かれる様を横目に見ながらバイソンが提案する

セラフィムは少し考え

 

「……ここは、任せていいのね?」

 

テルミドールにそう問う

 

「無論だ」

 

一言答える、その手は時折リロードを挟みながらも虫の侵攻を押さえている

 

「……わかった、行くわよ」

「あ、はい」

 

そのまま二人はその場を離れようとする、直後

 

「……っ! 今のは!?」

 

轟音が周囲に響く

 

音は近い、音源は近いらしい

辺りを見回すと建物の隙間から薄っすらと煙が上がっている

 

「……爆発、ですか?」

「チッ……、これだから手間だと言ったのだ」

 

同じ音が聞こえていたのだろう、バイソンは音の正体に気づきテルミドールは舌打ちをする

 

そして目の前の群れの様子が急変する

 

「変態め、愛玩動物は愛でれる程度に抑えておけ!」

 

今まで馬鹿正直に突っ込んでいただけの虫たちの動きが変わる

ある虫が高高度まで飛び上がり急降下によるダイブを試みる

それに反応し大きく下がるテルミドール、虫はそのまま彼が先ほどまでいた位置に墜落する

虫の体は瞬時に霞み、代わりに二度目の轟音と生物を焼き殺せる熱が舞い上がる

 

「……は?」

「なっ……!」

 

予想だにしていなかった光景に呆気にとられるセラフィム、それとは対照的に状況をいち早く理解するバイソン

無理もない、珍妙な生態の虫だと侮っていた生き物が突如として危険物だと警告してきたのだ

 

「セラフィムさん、ここから退きましょう!」

 

だが呆けたままではいられない、バイソンがセラフィムに声をかけ退却を促す

 

「貴様ら、ここは私に任せて逃げるんだな」

 

それに応じるようにテルミドールが殿に名乗り出る

 

「え、ええ、わかった……」

 

まだ状況を理解していないのか、それともあまりに常軌を逸した虫の行動に精神を持っていかれたのか、若干臆した態度のセラフィム

それでもこれは命の危機だと理解できたのか、バイソンと共にその場から逃走する

 

「……行ったか。まあ、逃げ足は奴ほどではないな」

 

遠ざかる二人を見送るテルミドール、その前には明らかな攻撃態勢に入った虫の群れ

 

一度マガジンを抜き満タンまで入った弾筒に入れ替える

そうはさせまいと虫の一匹が突撃する

 

「…………終止」

 

しかし、その虫は誰にも当たることはなかった

虫が勢いよく体をはねさせ跳躍した瞬間、蒼い光が虫の胴体を泣き別れにする

 

「真改か、どこにいた」

 

テルミドールが蒼い光を発した存在に声をかける

そこには一人のサルカズがいた、その手には一振りの刀が携えられている

 

「………………」

 

サルカズは何も言わずにテルミドールの隣に立つ

 

「相変わらず無口だな。まあいい」

 

一言、呟く

銃口を静かに群れに向ける

 

「さて、いこうか」

 

再び空気の抜ける音がした

 

 

 

……………………

 

 

「……え、あれって生き物よね?」

「はい、そうです」

 

あの場をテルミドールに任せ撤退した二人、その後ろからは誰も追っては来ていない

どうやら彼は食い止めてくれているらしい

 

「いや、爆弾蜘蛛とかいるけど……あんな躊躇なく爆発する?」

 

セラフィムは未だに例の爆発の衝撃から抜け切れずにいた

 

「……狂ってるわね、よくもあんな生き物が生まれたものね」

「そうですね、そもそもどうしてあんな生態なのか……」

 

新手が来ていないかを確認しつつ速度を緩める、流石にいつまでも走りっぱなしでは疲れてしまう

一度休憩をいれたい、ならいまが丁度いい時だろう

動きは止めずにゆっくり歩きながら一息入れる

 

「熱量のある自爆って……、何に使うのよあんなモノ」

「……わかんないです」

 

そして先ほどの虫への疑問を口にする

彼女があの虫にここまで固執するのはよほど衝撃だったからだ

 

「……だけど、普通は自爆なんか、何の目的もなしに編み出したりはしないわよね」

 

少し前の例の虫とその関係者と思われる少女の登場を思い出す

 

『キサラギちゃーんだよ♡』

 

「…………あの状況であの自己紹介、大物ね」

 

出てきたのはヒーロー着地を決めた後にあざといポーズをとった金髪幼女

ちょっと可愛かったと思ったのはセラフィムの心の中だけの話である

 

一度その感想は頭から叩きだす、今考えたいのは彼女への評価でなく何故あんな虫が存在するかだ

 

「……思い出すには、禍々しい顔だったわね」

「……そうですね」

 

ノミのような体に、小さい脚が申し訳程度についた虫

大きさは人の頭ほど、大量に現れた所を見るに繁殖しているらしい

しかしあんなモノ、自然に生まれてくるような生き物か

 

一応、似たような生き物に爆弾蜘蛛が存在する

だがあちらは見た目は蜘蛛、生態も蜘蛛、あくまで蜘蛛からの進化形なのだ

名前の通りに爆発するからと言ってもあの虫とはどうも違う

そもそも蜘蛛の方は死ぬ間際に自爆するのであり自分から自爆はしない、あちらはあくまで最後っ屁なのだ

あの虫とは違う、攻撃手段ではない

 

同じようなものに爆弾蜂こそいるが

 

「あっちもあっちで、縄張りに入った奴への過剰防衛だしなぁ……」

 

蜂もあくまで巣から敵を遠ざけるための行動、彼らだって好き好んで爆発しない

自爆を戦闘における常套手段としていた虫とは違う

 

「……何かひっかかる、なんだ……」

 

違和感がある、他の二匹に比べても異様な行動に何かの疑問が出てくる

すると、うんうん唸るセラフィムの横で同じように考えていたバイソンが

 

「あれですかね? あの女の子が飼ってて、そう言う風に仕込まれてる、とか」

 

そう言った

 

「……仕込まれてる?」

 

その一言に、ある答えがよぎった

 

「いや、仕込まれている割には、予備動作がなかった」

 

本来、自爆する類の獣を使役する際、調教師が存在する

その調教師は獣に主を教え、戦い方を教える、使役獣とはそういうものだ

そして先頭に駆り出される蜂や蜘蛛は調教師から自爆のタイミングの有無を叩き込まれる

 

それは蜘蛛のように死ぬ間際だったり、蜂のように標的を指し示された時だったり

行動に出る前に必ず条件が出てくるのだ

なら、それが先ほどの虫にあったか

 

「……防衛本能? 説明はつくわね。だけど、自然に生まれた生き物がそんな進化するかしら」

「えっと……?」

 

更に思考を深めていくセラフィム

その考察は、とある答えへと辿り着く

 

「……まさか、まさかぁ……。だとしたら狂人よ」

「あの、何かわかったんですか?」

 

セラフィムが独りごちるさまが気になったのか、バイソンが聞いてくる

 

「いえ、ね。ある可能性が出てきて、ね……」

「可能性?」

 

気になっているのだろう、少し興味がありそうに聞いてくる

それに根負けしたわけではないが、自身の考えを否定してほしかったのもあっただろう

先ほど辿り着いた答えを言ってみる

 

「その、あの虫って人為的に生まれたんじゃないかって……」

 

直後、嫌な音が響いた

 

「……げっ」

「この音は……」

 

何か硬い物が跳ねるような音、それと一緒に聞こえてくる羽音

ついさっきまで後ろから迫ってきた音が、再び近づいてくる

 

「あの独善者、もうやられたの……」

 

後ろを振り返る、そこには例の虫がいた

大規模な群れをつくり二人に迫ってきている

 

「ヤバッ……! セラフィムさん! 逃げましょう!」

 

バイソンがすぐさま逃げようと提案する、だが

 

「……もういい加減、苛立ってきたわね」

 

セラフィムは、動かない

 

「ちょっ、セラフィムさん?!」

 

彼女のその行動に慌てふためくバイソン、その目の前には群れが来ている

 

「に、逃げましょう!」

 

急いで逃げ出そうとバイソンがセラフィムの腕に手を伸ばす

 

その時だった

 

「……あ」

 

突如、赤い光が舞った

 

まるで火の粉のように、彼女自身の体を燃やし尽くすように煌めく光

 

一度追っ手を撒くために使われた、加速紛いと言っていた粒子

 

それは彼女の体だけでなく、彼女の光輪と

 

その背にある物、六枚の羽へと伝搬していく

 

「……そうね、これが手っ取り早い」

 

「セラフィム、さん?」

 

彼女はゆっくりと、腰に下げた散弾銃を手に取る

 

中折れ式の三連装、持ち手と銃身の繋ぎ目が折れ、筒の中があきらかになる

 

そこ三つ、弾薬を込める

 

「バイソン、下がっていなさい」

 

銃身を振り上げ接合部は元通りに繋がる

 

同時に、赤い光が銃へと伝って行く

 

銃口を構える、その先には、群れがいる

 

「吹っ飛ばすわ」

 

紅い光が、けたたましく木霊した

 

 

………………………

 

 

「……よし、成功した」

「………………」

 

後に残ったのは、大きく抉れた路地と

 

「あーでも、やりすぎたわね……」

 

先ほどまで群れていた肉片、あちこちに散らばる粒子の欠片

 

「……なんて火力だ」

 

そして自らを燃やす、一人の天使

 

 

熾天使が立っていた

 

 




最近どうして投稿が遅いのか?

……本編の執筆速度がおかしかったんだよ



AC用語解説

マクシミリアン・テルミドール

ACfAに登場するリンクス、機体名はアンサング
ORCA旅団の旅団長、ACfAのストーリーにおける重要人物
企業連の作り出した偽物の平穏を脅かした張本人、fAの物語は彼の一声から大きく動き出す
あとどっかの赤い弓兵みたいな声してる

『最悪の反動勢力…、ORCA旅団のお披露目だ』

『諸君、派手に行こう』

一体どこの何ダルヴァなんだ……



真改

AC4 ACfAに登場、機体名はスプリットムーン
とあるルートに置いて上の方と一緒に出てくるリンクス、そして真のボス
機体構成はマシンガンにブレードを持った高機動型
追加ブースターのせいで超早え、あと怖い
この人、月光を恐ろしい速度でブンブンしてくるんだよ……

『……終止』

終止以外に何喋ったっけ?


ちなみに、投稿が遅れてるもう一つの理由ですが
この話、おまけの話なのに進め方が本編以上にデリケートなんです
下らないギャグに走れる分まだ余裕はありますがその内またフルシリアスになります
助けてくれ……作者の頭がスポンジボブになっちまう


時折ps4のダクソ3でフリーデ前に逃亡騎士のサインがあったなら
それは恐らく、私です(耐久値ゼロ、カット率まさかの一割、自殺行為をしております)


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