アークナイツ.Sidestorys 鵬程万里 作:Thousand.Rex
「……非合理な話ね」
チラチラと光る赤光に照らされる夜の路地
見ようには幻想的な景色の中でセラフィムが静かに呟いた
「詩人だって? 物語を語るのはいいけれどマシな話はなかったのかしら」
嘲る様に、荒唐無稽な話だと言うように
だけど、けしてその話全てを否定しないように、哀しい顔で
「どうせ謡うなら、恋物語とか英雄譚とか庶民受けするものにしなさいよ」
「私も、そう思うよ」
モスティマの口から伝えられた渡り鳥の群れの存在意義
それは、到底常人が理解できるものではなかった
バイソンは何も言えずに押し黙っている、年若く未来に夢見る彼には、彼女が
レイヴンズネストと呼ばれる傭兵団が、それらを先導する鴉が見ている世界は、けして万人に見えていい世界ではない
「だけどこれが彼らだよ、世間で義賊だなんだと言われている渡り鳥の本性だ。彼らが戦争根絶に動いていたのは自分たちが起こす戦争を唯一のものにするため」
「下手なテロリストよりも、
「それは、捉え方と言い方次第。それこそ個人の思想に委ねられるね」
これは善と悪の在り方に一度でも疑問を抱いた者にしかわからない
生と死に深い理解をしてしまった者にしか、わかってはいけない話
「狂った話ね、あなた、よくも奴の友人になんてなったものよ」
「悪い人ではないからね、天秤にかければ善良に傾くよ」
モスティマは普段と変わらぬ態度で話している
他人に比べて特殊な人間関係を築く彼女にはそういった問題はどうでもいいのだろう
「傾いたところでわずかでしょう? それじゃかけた所で意味はない」
「わからないよ、もしかしたらガクッといくかもしれない」
セラフィムは、先ほどまでと何も変わらない
溜息をつき頭を抱える、これからどう行動するか考えているようだ
「驚かないのかい?」
「何に」
モスティマの問いに疑問符を返す
「驚くことのほどじゃないでしょ。そもそもが謎に包まれてた組織よ、何を考えていたっておかしくないわ」
彼女は冷静に自身の考えを口にする、その様相に震えも驚愕もみられない
近くでは未だに何を言えばいいのかわからないままのバイソンがいる
「お姉さん、君は随分落ち着いてるね」
「?、だから何がよ」
もう一度繰り返された問いに同じ答えを返す、モスティマもそれ以上は何も言わない
そんな彼女の様子を訝しみながらセラフィムは壊れていない方の道を見る
「おや、行くのかい?」
「そりゃぁ行くわよ、ネストとやらが何者にせよ私には関係ない。今の私に重要なのは私が欲しい情報を手に入れられるかどうかよ」
「よほど大事な人らしいね、前に会った時に私にも聞いてきた」
「そうね、色んな人に聞いてる、しらみつぶしにね」
この紅いサンクタはどうやら合流するつもりらしい、虫の群れは消え追手もいない
あのタイミングで例の金髪幼女が割って入ってきたのはある意味正解だったのかもしれない
視界的にむごたらしい惨状こそ起きたが今まで休憩なしに続いていた追いかけっこは中断されている
一息つけるのにも態勢を整えるのにも、ストレイドと合流するにしてもこの場を置いて機会はない
チェンが告げた残り時間がどれだけ残っているかはわからない、動くなら早い方がいい
セラフィムはストレイドを捜しに走り出す
「一つ、いいかな」
ただその足はモスティマの一言で止めることになる
「……何かしら」
「用と言うほどの事じゃないよ、気になったんだ」
ニヤニヤと笑う少女に未だ不信を募らせながら聞き返す
モスティマは何の事もなく聞いていく
「君、どうしてそこまでして捜すんだい?」
セラフィムが何故ここにいるのか、それは件の捜し人が関係している
彼女にとって何者かはこの場の誰も聞かされてはいない、彼女にとってその人物がどれだけ重要かも、彼女は一言も話していない
「言う必要、あるかしら」
「ないね、でも捜してるって言う割には必要最低限の手伝いしか要請しないだろ?」
「……そうね、その通りよ」
必要最低限とはどういうことか、それは人捜しにおける必要な行動の事を言う
まず人を捜すうえで重要なのは名前と容姿、それから対象の足取り、そして最後に見た地域
これが最も重要で最初の足掛かりになる、この要素がクリアされていなければ始めることすらできない
彼女の人捜しはどの要素もクリアできていない、手元にある情報は古い写真一枚だけ
これでは捜すにしても手立てがない、それこそ彼女がやっているようにしらみつぶしに行くしかない
彼女もそれを理解してストレイドの条件を呑んだのだ、もとより頼るべきは数と足だけだと
だがその割には彼女は積極的に協力を求めない、あくまで知っているかを聞くだけ
一応探偵を雇ったことはあるがそれでも期間がある、いつまでも手伝ってくれるわけではない
結果としてこの人捜しは彼女一人でやっていることになる、非効率的だ
なのに必要以上に聞くことはない、友好関係の有無もあるだろうがそれでも消極的に過ぎる
「正直、私達みたいな仕事の人でも難しいよ。バイソンもそう思うだろ?」
「え? あ、いえ、あの僕はまだ詳しい話は聞いてないんですけど……」
「ああそうなのか、ならついでに聞いてみたらどうだい? 馬鹿にはしないけど、絶望的だ」
言われてセラフィムを見つめるバイソン、その視線に気づいたのか、単に言われた通りに見せようと思ったのかセラフィムが上着のポケットから一枚に写真を取り出す
何も言わずにバイソンにそれを見せる、その顔は随分と複雑そうだ
見せられたバイソンは珍しく顔をしかめさせる
「あの、これっていつぐらいの写真ですか?」
「二十年以上前」
そこに追い打ちを食らい唖然としている、それもそうだ
彼女が言った年月どおりなら年が経ちすぎている、彼女の捜し人は写真に写っている様な見た目ではない
「いつから捜してる?」
「……確か、周りは高校に通い始めた頃だから……十年ぐらいは捜してるわね」
「十年!?」
彼女は長い事この無謀な人捜しに挑戦していたらしい
「うん、お姉さん、正直ね、時間の無駄だと私は思うよ」
「無駄ではないわ」
「いいや、無駄だよ」
セラフィムの否定に更に否定を重ねる
そもそも人捜し自体かなり難しい話になる、原因は何であれ足跡が消えた人を捜すのだ
多少のヒントがなければ形も見えない迷宮だ、とうに諦めておくべき事象なのだ
なのに彼女は捜し続けていたらしい、十年と言う時間を捨てて、そしてこれからも彼女は時間を捨てていくのだろう
生きているかもわからない、仮に生きていたとしても、もう他人に近い人の為に
「どうしてそこまでするんだい、君だって叶わないだろうとは思っているんじゃないのかい?」
「…………」
セラフィムは何も言わず写真をしまう、問われたことに答えぬままその場を去ろうとする
「あ、セラフィムさん、待ってください!」
バイソンが呼び止めるが振り返らない、どうやら話はこれで終わりと言いたいらしい
モスティマは静かにそれを見守り笑っている
バイソンはついていこうと慌てて走り出す、その時だった
ゴトリ、と何かがずれる音がした
続けて聞こえてきたのは、羽音
三人とも音の方へと振り返る、そこにいたのは
「……キチキチ」
例の虫、橙色の体色の羽を開いて飛ぶ種類
崩れた瓦礫に埋められていたのか、這い出てくるように蠢いている
羽は引っかかっているのか、微かな土ぼこりを巻き上げながらよちよちと歩いている
「……生き残り、か」
セラフィムはその様子に言葉を溢し、何か別の景色を見る様に目を細めている
そしてもう一度振り返り元の道を行こうとする
「ちょちょ、セラフィムさん! 後ろ後ろ!?」
「へ?」
そのまま行こうとしたらどこか慌てた様子のバイソンに声をかけられる
何に慌てているのか、確認しようと振り返った時には手遅れだった
振り返った彼女が覚えていた光景は
「はえ?」
何故か彼女の顔に向かって飛んできている虫と
「いたぁっ!!」
無駄に綺麗な夜空と
「へぶぅっ!?」
チカチカと明滅する視界と、どこか鈍い音と
「キチキチ」
六つの光る点と、奇妙な鳴き声
そして、後頭部に当たる硬い感触だった
…………………………
「……随分と、過激な思想を持っていたようですね」
――まったくだ、初めて聞いた時は驚いた
一方ホシグマとワイルドキャット、とその他諸々の警官たち
彼女らは先ほどまで静かにワイルドキャットがつづった文字を眺めていた
そこに記されていたのは、とある傭兵団の在り方と、いつかきっと来てしまう終わりの在り様
けして平和的ではない、酷く退廃とした彼らの所業
黒い鳥、そう呼ばれるモノの怒りを伝える渡り鳥
それこそ謡うように広めるのだと、少しでも眩しく、誰かの目に、耳に、その魂に刻まれるようにと
たった一人の為に集まった大多数の傭兵達の未だ小さい
「何故、話したのですか?」
――既に選ばれているからだ
「誰がです」
――あなた達と、その頭領だ
「……隊長が、ですか? いったい何に……」
突然の告白とその理由について問い詰めようとするホシグマ
だがそれは
「ホシグマ」
「……隊長」
チェンの来訪により中断される
「隊長、そちらはどうでし…………?」
「ホシグマ、無線で全員に連絡しろ。今回の件に出張ってるメンバー全員だ」
「……は、はい、了解しました」
颯爽と合流した上官にそちらの状況はどうだったかと聞こうとする
しかし、その言葉は彼女の傍に居る見慣れぬ男と
「やあ、初めまして。フォグシャドウと呼ばれている、ただの傭兵だ」
「あ、はい、小官はホシグマと申します」
「ホシグマか、ふむ、聞いた通りの風格だな」
「自己紹介なら後にしろ、まずは撤収準備が先だ」
「撤収、ですか」
変わり果てた姿になったチェンを見て止まってしまった
「…………」
「早くしろ、これ以上時間をかけるだけ無駄だ」
彼女がストレイドと話した事柄よりも、何故撤収する手はずになったかという事よりも
どうして角先からかかとまで真緑になっているのか、それが気になって仕方ないのである
「あの、その姿はぁ……いったい?」
「……気にするな」
ケープを上から羽織っているためそこまで目立たないが近づくとよくわかる
緑色だ、びっくりするほど緑色である。ここまで模範的な緑はない、そう断言できるほどに
「無線を突然切った事に関係があるんですか?」
「まあ、あるにはある。だが聞くなら後にしてくれ、今日は無駄に疲れた」
「隊長が疲れた……ですと!?」
完璧超人と言われているあのチェンが疲労しているという事実もまたホシグマから疑問を放棄させる手伝いをしている
「さて、私の出番はここで終わりだな。これ以上のエスコートはいらないだろう」
「ああ、世話になったな、フォグシャドウ」
「気にしないでくれ、大したことじゃない」
ツンツン
「ん、どうしたキャット。ああ、いや、お前もここまででいいそうだ、後は相応しい面々が終わらせてくれる予定だと」
――終わらせてくれる予定か、終わらさせる算段の間違いだろう
「ああ、その通りだ。困った団長殿だな」
見るとワイルドキャットとフォグシャドウも引くつもりらしい
事の仔細はわからないがこの騒ぎは終結に向かっているようだ。悪いことではない
ただ、気になるのは
「あの、隊長。何があったんですか?」
「些事だ、気にするな」
碌に説明もせずに撤収しろと言うチェンと、その顔色
物理的にでなく心象的に悪く見える横顔に心配になった
チェンは答えずなんでもなかったように振る舞う、それでも隠せないほどには何かに動揺している、ここにはいない何かに
それは恐怖からきているのか、また別の感情か
幾度聞いたところで彼女は答えないだろう
「……了解です、各員に撤収命令を下します」
ホシグマには、ただ従うことしか出来なかった
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「傭兵、一体貴様には何が見えている」
「地獄だよ、必要で、必然な、邪悪の業だ」
「それでは結局、貴様が否定するものと何も変わらないぞ。いいのかそれで」
「いいんだよ、これでいい。言葉で語るなどという理想郷に囚われる暇はない」
「……貴様はどうして、そう矛盾したがる」
「答えなら、示した。あの日に見せてやったろう? あの方舟の連中と共に見たはずだ」
「ならば余計に考えろ、ここで私を敵に回す理由もない筈だぞ」
「いいじゃないか、俺は破界者でお前達が再世者。その時が来たら揃ってくるといい、逃げも隠れもしはしない、受けて立つ」
「違う、言いたいことはそんな事ではない。ロドスの人々の信頼を裏切るのかと聞いている」
「裏切る? 信頼しろと言った覚えはないな」
「いままでのは虚勢だった、ということか?」
「選別してたのさ、俺の求める答えを示してくれる可能性を。それともなんだ、今更情が移ったなどというつもりか? 碌に知らぬ他人に、思考の読めぬ男に、まさか友情なんぞ覚えたわけでもないだろう」
「覚えるわけがない、だがな、ロドスは信じているぞ。貴様ほどの男が気づかない筈がない」
「どこかのひよっこみたいなことを言う、ならば同じ言葉を返してやろうか? その信頼に意味はないと告げてやろう」
「……貴様」
「いいね、イイ目だ。あの時の甲板と同じ、己が善における裁断者であると理解した者だけが出来る正しい目だ。そういう意味では龍のお嬢ちゃん、お前は最初から合格ラインだ」
「…………」
「まあ安心しろよ、動き出すにはまだ足りない、この世界はまだ捨てられるようなモノじゃない」
「まるで、神を気取っているようだ。傲慢な男だな、
「……龍の嬢ちゃん、俺は
「
「安心しろ、安心しろよ、俺がそうして貴様らの前に現れる限りは問題はない。方舟の連中と共に安穏と過ごしているといい」
「黒い羽根が方舟に落ちてくる時まで、せいぜい生き長らえる方法を考えろ」
「鉄仮面も、にゃんこ先生も、キラーラビットも、それを見越しているぞ」
「お前が奴らの同胞として近い道を行くというのなら」
「いつか、俺を殺してみせろ。己が復讐に駆られるだけの器でないと証明しろ」
「……貴様、どこまで知っている」
「どこまでもさ、可愛いお嬢さんの事は知りたくなる性質なもんでね」
「気味が悪いな」
「そうだな、まあせいぜい励むといい。あの腹黒に一泡吹かせられるようにな」
「……関係のない話題だ」
「あるさ、大いにな。奴の思惑がどうあれ龍門はとっくに対象内だ、行くべきだった道は逸れている。このままなら、俺が行くぞ」
「それを許すと思うのか」
「許したくないなら、足掻くんだな。可能性があるというなら見せてみろ。怒りに呑まれず、憎しみに焼かれずにいられるならな」
「貴様に言えることか、弔うことも知らずに呑まれ続ける男に」
「おっと、これは耳が痛い。だがまあその通りだ、そうする資格もないことだしな」
「…………」
「別にいいさ、俺はとうに捨てている。反面教師にでもするといい、こうなりたくないならな」
「私は、そんな風にはならない」
「ああ、こんな風には、けしてなるな」
「…………」
「さて、こっちはこっちで合流し始めるかね。始めちまったもんは終わらせないとな」
「…………」
「ああ、大丈夫だ。もういい加減に終いにする、せいぜい平和的に終わることを祈っとけ」
「…………」
「お前は…… とりあえずその酷い有様をどうにかしろ。本部にでも戻ればシャワーは浴びれるだろ。早くしないとまた来るぞー」
「…………」
「一応、一人誰かつけとくとして……ってさっきからなんだ、どいつもこいつも人の顔見て黙りこくりやがって。言いたいことがあるなら聞くが」
「……傭兵」
「なんだよ」
「貴様は、一体何者だ」
結構前に書き上がってたんですよ
タイトルが、思い浮かばなかった
そして着々と終わりに向かっているネストの話、予定通りなら後五、六話ぐらいで終わらせる予定です(終わらなかった前例アリ)
ストレイドとリンクスのセリフ集も考えつつやっているのでのんびりやってます
ちなみに、熾天使の読みは”しょく”でも”し”でもいいらしいのですが私の小説だと後者になります。ちょっとした理由があるものでして、それはまあいいでしょう
では失礼
ナリタブライアンでうまぴょいしたい