変なタイトルだぁ!
まず私が目標にしたのは、道の発見である。
街道でも獣道でも、何でもいい。
これからの方針が欲しかったのである。
しかし、現実は無常であった。
小高い丘に登って確認してみたのだが、道はどこにも見当たらない。
偶然、荷馬車かなにかが通りがかって、私を近くの街に運んで行ってくれるという私の目論見、いや願望は打ち砕かれてしまった。
もう少しゆっくり見たかったが、あの怪鳥がくるといけない。
私は空をにらみながら、丘を降り始めたのです。
後から考えると、全く馬鹿なことをしたものです。
ここは平原で、見通しがいいと思い込んでいたのですから。
丘を下り降りている最中、私がまず気づいたのは異変だった。
なにか、妙な気配を感じたのである。これからよくないことが起こるというような確信があった。
あるいは生存本能か。死の前の走馬灯か。
そんなじっとりとした嫌な汗が背中を伝い落ちたのである。
空への警戒も忘れて、私は周りを見渡した。
自然と、手に持つ棒に力が入る。
草以外何も見えない・・・?
いや、違う。草が遮っているだけだ。
この背があまり低くない草むらに、敵はいる。
そう確信した。ずっと私を付けていたのだ。
草むらを注意深く観察するが、風で揺れるばかりで何も見えない。
いやそれよりも、どこから来る?
迎え撃つか?
素人の私が?
・・・無理だ。
私は、私の中の合理的な考えに従って一目散に走りだした。
どこにいけばいいかなどわからない。今はただ逃げなければ。
影はいきなり草から飛び出してきた。
一匹は前方から、もう一匹は背後からである。
つまり私は挟み撃ちにあっていたわけだ。逃げるのが全然遅かった。
よく観察する暇もなく、そいつは僕の喉笛をかみつぶそうととびかかってきた。
「うわぁぁあぁぁぁぁ!」
ほとんど悲鳴を上げながら、反射的にそいつを手の槍モドキで思い切り殴打する。
そいつはバランスを崩し、地面にたたきつけられた。
少々黒っぽいそいつは見た目は狼のように見えた。
しかし、狼ならば、首から先が二又に分かれていることなどあり得るだろうか?
二頭の狼たちは、その四つの頭で私をじっと見つめていた。
私は、全速力でその場から離れた。
草原から、木々が立ち並ぶ森に逃げ込んだが、こいつらは見逃してくれる気配はない。
ザシュザシュと嫌な音を立てて、よだれをまき散らしながらケルベロス達(二つ頭だが)は追ってくる。
体が大きい分、普通の狼よりは遅いようだが、体力が尽きいづれ追いつかれてしまうだろう。
まして、二匹!どうやってこいつらをまけばいいんだ?
「ぐぅぅぅるぅうううううう!?」
土まみれの方が、私の右側につき、左頭を噛みつかせてくる。
木々にぶつけようとするが、もう片方の頭がしっかり前を見ているため、全然うまくいかない。
私は一つ舌打ちをする。しかし、そんなことをしている暇は私にはなかった。
もう一匹が飛びかかってきたのである。受け止めようとした右腕を噛みつかれてしまった。
重みと、痛みに倒れかけるが、冷静な思考がそれを止めた。
(倒れれば、そのまま食い殺されて終わりだ・・・。)
私は覚悟を決めて、噛まれたままそいつを木の幹にたたきつけた。
「ぐぅ・・・!?」
当然、傷も深くなるが、叩きつけられた奴は衝撃のあまり思わず口を開いた。
その瞬間を見逃さず、思い切りそいつを蹴り飛ばす。
キャンっと犬のような鳴き声を上げてそいつは飛んでいき、藪の中に落ちた。
その隙を見逃さなかったのは、もう一匹である。
そいつは姿勢を低くし、弾丸のようにタックルしてきた。
二匹でなければ、あいつを追撃して重傷を負わせられたのかもしれないのに・・・。
私は歯噛みをしながら、そんなことを考えてしまっていた。
体勢を崩し、こんどこそ押し倒されてしまった。
顔面に噛みついてくるのを頭を振って躱したが、もう一つの頭も噛みついてくる!
とっさに右腕を差し出し、防御する。
どうせもう動かない右腕だ。左腕まで失うわけにはいかない。
そいつは右腕を噛んだまま、振り回す。
右腕がちぎれそうな痛みに襲われ、涙で視界がゆがんだ。
しかし、左手には得物があるのだ。
火事場の馬鹿力であろうか。跳ね上げるように左手が動かすと、
槍モドキがそいつの頭に突き刺さっていた。
やわらかい目の部分から侵入し、頭部に入り込んでいたのである。
・・・即死だ。
私はそう思った。
しかし、現実はどこまでも無常だった。
そいつの右頭は、まるで平気な顔をして噛みついてくる。
(・・・!?こいつら、頭が片方でも活動できるのか!?というか、痛がっているそぶりもない!!痛覚まで別なのか!?)
私は焦って槍モドキを引き抜こうとした。それがいけなかった。
槍モドキは半ばから折れてしまったのである。
(武器が・・・!!あと三つも頭があるのに!?)
暗い絶望が、わが身を支配する。
人生に疲れたとか。生きるのがつらいというような。
そんな重苦しい感情が吹き飛ぶような絶望。
すなわち死の予感である。
大口開けた醜悪な顔が、近づいてくるさまがスローモーションに見えた。
で、あればその行動は本能であったのだろうか?
いや、彼は覚悟を決めていた。死ぬまであがき続ける覚悟をである。
少年は左腕の、折れた柄の部分を、その大口に押し込んだ。
その口には大きすぎたため、無理矢理にである。
大口は閉じ切らず、私の顔面には強烈な腐臭を放つよだれだけが到達する。
しかし、しょせん木製。ケルベロスは腹立たし気に、噛み砕こうとする。だがその一瞬を見逃さなかった。
左手を大きく広げそいつごと回転する。狼よりは大柄とはいえ、ケルベロスはそれに抗えず逆に下に敷かれる形となった。
そいつは横目で私を睨めつけながら、柄をバキバキとかみ砕いた。
しかしもう関係ない。体勢を立て直した私は、ぐったりとしたそいつの左頭を踏みつけた。
右頭が下の状態で、左頭を踏みつければ、こいつは攻撃ができない。
地面と、左頭のサンドイッチになってしまっているのである。
強みが完全に裏目となってしまった。
「ぐるぅ!?ぐぐぅぅ!!」
ケルベロスは焦ったように吠え、体をくねらせるが、こっちも死に物狂いである。
必死に押さえつける。
そして・・・、痛覚は別かもしれないが、体を共有している以上、血液は共有しているだろう。
私は左頭に刺さったままの、折れた槍モドキに狙いを定め、思い切り蹴飛ばした。
グシュッと嫌な音がして、直後激しい出血!!
脳がかき回された左頭からは、おびただしい血が出ていた。
ケルベロスは一瞬ビクンと体が跳ねさせ、小刻みに震えて、そしてついに止まった。
「・・・死んだ。」
肩で息をしてそいつを見下ろす。
初めて、こんな生き物らしいものを殺してしまったとか、罪悪感を感じる暇はなかった。
まだ終わっていないのだ。もう一匹いるのである。近くの草むらがガサガサ言っている。
私は、傷ついた右腕をかばいながら走り出す。
生き抜く覚悟を決めたのだ。せめて、精いっぱい生きなくては。
私は走り出し、少し駆けて・・・、そして疑問に気付いた。
追ってきていない?
もう一体の足音が止まっていたののである。
私は足を止めて、振り返った。
・・・喰っていた。
さっきまで相棒であるかのように振る舞い、共に襲ってきたそいつが、死骸を喰っていた!
何食わぬ顔でそいつは旧友の屍をむさぼっている。
恐らく助かったのだろう。そいつは食べ終われば満足して、立ち去るに違いない。
しかし・・・何とも言えぬ気持ちのまま、私は立ち尽くしていた。
死闘が終わったのを感じ、気が緩んでいたのだろうか。
私は空から大きな影が下りてくるのに気がつかなかった。
「クゥェェェェェェェエアァァァァァ!?」
甲高い声がこだまし、一瞬で怪鳥が来たのだと理解する。
木々を蹴散らし、枝葉をへし折りながら巨体が飛来する。
私はそいつを見た瞬間、どうしようもないと悟ってしまった。
体が硬直し、動かなくなる。
(覚悟を決めたばかりであるというのに・・・!)
しかし、そいつは私ではなく、ケルベロスをつかんで飛翔した。
「グウゥゥルゥ・・・」
そして抵抗する暇もなく、足でバラバラに引き裂いたのである。
ケルベロスはそのまま、適当に捨てられ、地面に激突していくつかの血だまりになった。
・・・あいつは食う気もなかった。ただ遊ぶため、手慰みのために殺したのだ。
私は急に日当たりがよくなってしまった木立のなかにへたり込んだ。
そういうことができる食物連鎖の頂点。
私の世界で、それは人間だった。
しかし、この世界ではどうだ?
ただのちっぽけな蟻ではないか。
私は、この世界に絶望した。しかし、同時にだからなんだとも思った。
いずれ皆死ぬのだ。
これは諦観ではない。覚悟だ。
いずれ私は悲惨に死ぬだろう。しかしそれまで懸命に生きるという、どうしようもない覚悟だ。
「おーーい。そこのアンタ!!怪鳥が来てたが、怪我ぁないかい!?」
遠くで荷馬車に乗った、商人らしき女が呼んでいた。
どうしようもない少年はいつのまにか、『道』にたどり着いていた。
ケルベロスに突き刺さる槍モドキ・・・。
廃材の癖に堅すぎる・・・。
妙だな・・・。