Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第一章
第1話 2人の召使い


 俺の仕事は、鉱山で石を掘ることだ。

 5歳のガキの頃から、ずっとこの仕事をしている。

 最初は辛いだけだったが、10年目ともなるともう慣れたものだ。

 俺がまだ新入りだった頃は、見張りの歩哨たちからよく怒鳴られたものだったが、今では気さくに軽口を叩き合う仲である。

 つまり一言で言うなら、割と居心地の良い労働環境。

 

 とはいえ、そう感じている者は少数派だろう。

 多くの仕事仲間達は、早くこの鉱山から逃げ出したいと考えているようだ。

 それもそのはずで、ここは強制労働施設だからだ。

 リバース鉱山と呼ばれるこの鉱山で、俺を含めた召使いが朝から晩まで鉱石を掘り続けている。

 ちなみに召使いというのは、いわゆる奴隷のことだと思ってくれていい。

 一切の人権を剥奪され主人の所有物となるという点で、奴隷と何も変わらない。

 それでも違いを挙げるとするなら、俺たち召使いにとっての主人はオクラン神‥‥‥神様だという点か。

 神に使える召使いだから、奴隷とは呼ばない。そういう理屈だ。

 

 俺はなんとなく、周りで働く仕事仲間をざっと見渡す。

 シェクと呼ばれる亜人種が大半で、残りがヒト種の女性。

 俺のようなヒト種の男性は、ゼロ。

 一方、見張り役を務める歩哨は全員がヒト種の男性。

 これはこの鉱山を所有する国、聖国ホーリーネイションの教義によるものだ。

 その教義によるなら、亜人種は闇の化身であり、女性は男性を誘惑する魔女である。

 純血のヒト種の男性だけが、オクラン神に愛される資格をもつのだ。

 とはいえ、亜人種や女性に対して慈悲がない訳ではない。

 召使いとして神に仕えることで、来世ではヒト種の男性として生まれ変わることができると言う。

 その転生を支援するための施設がここ、リバース鉱山だ。

 リバースとはもちろん、転生を意味している。

 

「この狭い鉱山で一生、働き続けろか。神様の為とはいえ、なんとも理不尽というか‥‥‥」

「そう思うんだったら! この前の話、ちょっとは考えてくれる気になった!?」

「うおっ!」

 

 まさか返事があるとは思ってなかったので、思わず体を仰け反らせてしまった。

 落としそうになったつるはしを、なんとか握り直す。危ない。

 うっかりつるはしを手放したりしようものなら、今日は食事抜きとかになりかねないのだ。

 

「えーっと、この前の話って言うと、その」

「もちろん、ここを脱走するって話よ」

「‥‥‥」

 

 俺はさりげなく周囲に視線を巡らせた。近くに歩哨の姿はない。

 

「‥‥‥その話はもう、断っただろ。他を当たってくれ」

 

 そう言って、俺はまたつるはしを振る作業に戻った。

 

「意気地なし。それじゃ、あんた一生ここで暮らす気なんだ?」

 

 俺の隣で同じようにつるはしを振りながら、挑発するように言う女。

 もちろん、俺と同じ召使いだ。

 

「お生憎さま。俺は見ての通り純血の男なんでね。転生する必要なんてないのさ。君らと違って、真面目に労働して闇を払えば、じきにここから出られるんだ。こそこそと脱走なんてしなくてもね」

「‥‥‥じきにって、いつよ?」

「さあて、ね。だがもう10年になる。そろそろ出れる頃だと信じているよ」

「どーだか! 10年も閉じ込められてるなら、もう諦めた方がいいんじゃない? いつか出られるなんて、嘘かもしれないって考えないの?」

 

 つるはしを振る手が、止まった。

 考えなかった訳じゃない。

 それどころか、何度も何度も考えた。

 いつかここから出られる。

 それは、脱走の意思を挫くための嘘なのではないかと。

 実際10年も同じ鉱山で働いていれば、鉱山の地理どころか警備体制までしっかり記憶してしまっている。

 そんな人物を四六時中見張り続けるよりは、甘い嘘で脱走の意思そのものを削いでしまう方が効率がいい。

 俺は、そんな嘘に乗せられているだけなんじゃないか。

 そんな不安から、つい、手を止めてしまった。

 

「こらあ! そこっ、誰がサボっていいと言ったあ!!」

 

 歩哨の怒鳴り声が響く。

 リズミカルに石を掘るつるはしの音が乱れれば、数十メートル向こうからでも歩哨が目ざとく見つけて飛んでくる。

 

「すっ、すいません! サボってないです! ほんとにサボってなんかないです!」

 

 慌ててつるはしを握り直し、えっさほいさと石を掘る。

 それを見て歩哨は、怪訝に首を傾げた。

 

「お前は、みこと? 珍しいじゃないか。模範的な召使いのお前が仕事をサボるなど。いや、お前はそんなヤツじゃないな。お前は仕事をサボるような人間ではない。そうだろう?」

 

 確認するように、そう尋ねてくる歩哨。‥‥‥嫌な予感がした。

 とはいえ、今この場でこの質問に対してNOと言えるはずもない。

 ええまあ、と肯く以外にどうしろと言うのか。

 

「と、いうことはだ。みことを誘惑するような、汚れた女が側にいるということになるな。んん?」

 

 歩哨のゴツい手が、どすん、と肩に置かれた。

 俺の隣でつるはしを振っていた、痩せこけた女の肩に。

 チッ、と女が舌打ちしながら、顔をそらした。

「ああっ!? なんだその態度は! やはりお前か。お前がみことを誘惑したんだなっ! 来いっ、その性根を叩き直してやるっ!」

 

 歩哨に引きずられるようにして、連行される女。

 彼女がこれからどんな目に合わされるのか、それをなるべく考えないようにしながら、俺は夜まで石を掘り続けた。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 丸一日働き続けたら、今日の仕事は終わりだ。

 帰って食事をもらい、明日の朝を待つ。

 帰ると言っても、俺たち召使いに部屋とベッドが用意されている訳ではない。

 檻の中に入れられて、そこで朝を待つのだ。

 鍵のかけられた檻に入って、今日の食事である干し魚を咀嚼していると。

 

「‥‥‥この、薄情者ぉ」

 

 そんな恨みがましい声と視線が、隣の檻からかけられた。

 

「そんな目で睨まないでくれ。せっかくの食事がマズくなるだろう?」

 

 なるべくそちらを見ないようにしながら、残りの干し魚を頬張る。

 と言うのも、檻に入るときにチラッと見てしまったのだが、昼間に連行された女が隣の檻の中でボロきれのような有様で倒れていたからだ。

 すでに辺りは真っ暗ではっきりとは見えないが、それでもかなりの乱暴を受けた形跡が見て取れた。

 服だけはちゃんと着ていたので、そこだけは良かったと素直に思う。

 

「マズいんだったら私に頂戴よ。私なんて食事抜きよ?」

「悪いな、もう食っちまった。尻尾だけなら残ってるが、食うか?」

 

 俺は食べ終わった干し魚の尻尾をひらひら振って見せながら、憎まれ口を叩いて見せた。

 愛想を尽かして俺のことを嫌いになってくれたら、それでいい。

 それでこの女も、これ以上乱暴を受けることはなくなるだろう。

 そう思ってのことだったが。

 

「っ! うん! 食べる! ありがとう!」

 

 目をキラッキラさせて掌を差し出してきやがってくれました。

 そうか、そんなにお腹減ってたのか。

 掌に魚の尻尾を乗せてやると、ポリポリと音を立てて食べ始めた。

 それはもう、実に美味しそうに。

 

「ふはー、御馳走様っ」

 

 ものの10秒ほどで魚の尻尾を食べ終えると、女は満足そうに口元を拭った。

 さすがに可哀想になってきた。

 干し魚、半分残しておいてやればよかったかな‥‥‥

 

「それでさ。脱走の件なんだけど」

「まだ言ってるのか、それ」

「当たり前でしょう!? 毎日こんな目に合わされて、それでもまだここに留まりたいなんて思う方がどうかしてるわっ」

「そりゃそうかも知れんが‥‥‥って、ちょっと待て。毎日だと?」

 

 俺は耳を疑って、思わず聞き返した。

「そ。もう毎日。幼い頃は大人しくしてれば辛い目に合うこともほとんどなかったけど、身体が成長するにしたがってだんだん回数が増えて、最近じゃもう毎日。ほんとうんざりよ」

「‥‥‥」

 

 彼女をまじまじと見つめる。

辛い目と言うのが具体的にどんなことを指しているのかは、聞いてはいけない気がした。

と言うより、聞きたくなかった。

 

「? 何よ?」

 

 何を今更驚いているのかとばかりに首を傾げてくる彼女。

 

「い、いやだってさ。俺はそんなこと、1度もないぜ? そりゃ仕事はしんどいし、サボってりゃ怒鳴られるし、たまに殴られることだってあるけどさ」

「あー、それはあなたが男だからでしょ。基本的に男に対しては親切だからね、歩哨の奴ら。‥‥‥もしかして知らなかった?」

「全然知らなかった。いや歩哨が男に対して親切なのは知ってるし、君らが俺と比べて酷い扱いされてるのも気付いてたけど、まさかそこまでなんて」

 

 彼女は深々とため息をついて、大袈裟に肩を竦めて見せた。

 

「はあー。いいわねぇ、男に生まれた人は。こんな施設に送り込まれるような犯罪者でも、ちゃんと人間として扱ってもらえるんだもんねえ」

 

 彼女の言う犯罪者とは、俺のことを言ってるのだろう。

 ここリバース鉱山に送り込まれるのは、亜人種か、女か、あるいは犯罪者だ。

 ヒト種で男の俺がリバースで働かされているのだから、すなわち俺は犯罪者ということになる。

 

「おいおいちょっと待てよ、人を凶悪犯か何かみたいに。言っとくが俺は、後ろ暗いことなんて何もしてないぜ?」

「へー。それじゃなんでこんな所にいるのよ。こんな檻の中に」

「いや、それは‥‥‥それはだな。その、笑うなよ?」

「うんうん。笑わないから話してみ?ちゃんと聞いてあげるからさ」

 

 そう言って話を促す彼女の瞳は、暗闇の中で、とても優しげに輝いて見えた。

 そして、俺は語る。10年前の出来事を。

 俺がこの鉱山に入れらることとなった、5歳の頃の出来事を。




 と言うわけで、Kenshi小説です。読んでくださった方、ありがとうございます。初めて小説なんて書いてみましたが、いかがでしたか。少しでも面白かったら、笑ってください。つまらなかったら、笑ってやってください。まだこんな序盤で判断できねーよって方は、どうぞ続きを応援してくださると幸いです。
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