Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第9話 イヨという者

 翌朝。先に目を覚ましたのは私の方だった。

 というか、みことがいつまでたっても起きてこない。

 どうしたのだろうと様子を見にいくと、どうやら二日酔いらしい。

 

「あ、頭痛え。飲み過ぎた‥‥‥」

 

 ベッドで苦しそうにしているみことに、コップに注いだ水を差し出す。

 

「大丈夫? みこと、お酒弱いのねえ」

「ありがとな。っていうかすみれは平気なのか? 俺以上に飲んでたと思ったんだが」

「そうね。別に辛くはないわよ。お酒に強い体質なのかしら」

 

 不思議そうにするみことにそう返す。

 彼は羨ましいな、と呟いていた。

 

「まだ辛いなら、みことは今日は休んでてもいいのよ?」

「そりゃありがたいが、すみれはどうするんだ? 一人で修行続けるのか?」

 

 聞いてくるみことに、首を軽く横に振って答える。

 

「ううん。それでもいいんだけど、今日はワールドエンドって街まで出かけてみようと思うの」

 

 そう言って、地図を広げてみせる。

 

「昨日買った地図に載ってたんだけど、ほら。日帰りで帰って来れそうじゃない? 距離的には、ここから避難小屋まで走るよりも近そうよ」

「ほー、確かに近いな。そのワールドエンドには何があるんだ?」

「ふふ、何があるのかしらね。せっかく狭い鉱山を出たんだもの。いろんな街を巡ってみても良いでしょう?」

 

 この集落にはないものが、その街にはあるかもしれない。

 

「分かった。気をつけてな。もし危険な街だったら、すぐに引き返すんだぞ。食料と医療キットも忘れずに持って、あとそれから‥‥‥」

「もうっ、分かってるわ。ただ隣町に行くだけで、心配しすぎよ」

「そ、そうか」

 

 納得しつつも、なおも心配そうにしているみこと。

 ちょっと過保護にすぎる気もするけど、大切にされてるんだなあって感じる。

 

「くすっ。暗くなる前に帰ってくるから安心して。それじゃ、行ってきます」

「ああ。行ってらっしゃい」

 

 それから門番の姐さんに挨拶して門を抜け、地図を確認する。

 ワールドエンドはこの集落から東にまっすぐ行った所だ。

 大して距離もないので、のんびり行くとしよう。

 

「思えば、こんな風にゆっくり旅するなんて初めてかも。今までは追われてたり急かされたり、板金鎧に潰されそうになったり蒸し焼きにされそうになったり。景色を楽しむ余裕なんてなかったものね」

 

 森から山へと、景色が移り変わっていく。

 ワールドエンドは山の上にあるらしい。

 細長い登山道を登っていく。

 高山特有の冷たい空気が、肌に心地よかった。

 そうして登山道を登り切った先で、私はそれを目にすることになった。

 

「え。オクラン像?」

 

 オクラン神を象った像。

 それが街の門の両側に建てられていた。

 まさかこの街はホーリーネイションの管理下にある街なのだろうか。

 確か地図には、テックハンターの街だと書かれていたハズだけど。

 とりあえず物陰に隠れて、そっと街の様子を伺っていると、後ろからやってきた人に声をかけられた。

 

「おや。そこの方、どうなされました?」

「はっ!? いえいえどうぞお構いなく‥‥‥って、うわわわっ」

 

 機械だ! 機械でできた人間がしゃべってる!

 

「はて。そこまで脅かすつもりはなかったのですが。大丈夫でしょうか?」

 

 その機械人間は表情こそ変わらないものの、やや申し訳なさそうな仕草と声のトーンで話してくる。

 

「あ、すいません大丈夫です。機械でできた人間なんて初めて見たので、つい驚いてしまって。都会にはいろんな人がいるのねえ」

「おや。スケルトンを見るのは初めてでしたか。確かに私たちの仲間の大半は、ブラックデザートシティに籠ってますから。無理もない」

 

 スケルトン。

 その名前なら鉱山の歩哨から聞いたことがある。

 その存在は闇そのもので、存在すること自体が許されない悪魔ナルコの化身。

 サーチアンドデストロイ、発見次第、即時破壊が推奨される‥‥‥ホーリーネイションの教義では、そういう事になっている。

 

「これが、噂に聞くスケルトン。すごい、かっこいい。あの、もっとよく見せてもらっても良いですか。わあ、ホントに機械だあ」

 

 全身を覆うメタリックな塗装。

 それでいて滑らかに、まるで人間と同じように動く四肢。

 表情はないくせに、豊かな感情を表すその声。

 そして何より、闇の化身とかいう設定がかっこいい。

 ダークフレイムマスターとか名乗ったら似合いそうだ。

 決め台詞はもちろん『闇の炎に抱かれて消えろ!』。

 うん、いいわね。

 実に素晴らしい。

 

「設定、ですか。確かに宗教というものは、ヒトの考えた壮大な設定とも言えます。なるほど、実に興味深い」

 

 そう言いながら、ガッチャガッチャと関節を動かして見せる人当たりの良いスケルトン 。

「うわあ、やっぱりかっこいい。あれ、でも良いんですか? スケルトンがホーリーネイションの街に近づいて。見つかったら大変な事になりそうですけど」

「はて。ホーリーネイションの街とは一体。ここはテックハンターの拠点ですが」

 

 不思議そうにするスケルトン。

 私は門の前にあるオクラン像を指差して、だったらあれは何? と問いかけた。

 問われたスケルトンは納得したように頷いて。

 

「なるほど。確かにあれはオクラン像ですが、ホーリーネイションとは何の関係もありません。あれを建てるだけで、ホーリーネイションのパラディンたちは納得して帰っていくのですから、実に扱いやすい。私たちのようなスケルトンがこの街で暮らしている事にさえ気づかない」

 

 彼の話によると、この街では数人のスケルトンが暮らしていて、ホーリーネイションでは禁忌とされるテクノロジーの研究をしているそうだ。

 もしそれをホーリーネイションのパラディンに知られると、街ごと滅ぼされかねない。

 そこで考えられたのが、門の前に像を建てる事で敬虔なオクラン教徒をよそおい、パラディンの目を誤魔化すという方法。

 実際にパラディンたちは、像を見るだけで納得して深く捜査することもなく帰っていくのだとか。

 

「そっか、良かった。もしホーリーネイションの街だったら、見つかったらリバースに戻されちゃうところだったわ」

「ふむ。先ほどから街に入ろうとされなかったのは、そういった事情でしたか。ご安心ください、エスコートしますよ。お嬢さん」

 

 親切なスケルトンにエスコートされ、門を通り抜ける。

 大きな街だ。

 酒場が4軒もある。

 酒好きにはたまらない街だろうな。

 

「酒場も良いですが、この街に来たなら何といっても、まずはサイエンス本部を見学される事をお勧めします。そこでは多くの研究者が、古代のテクノロジーや歴史の研究をしております。かくいう私も、そこで働く研究者の助手をしているのです。おっと、申し遅れました。私、名前をイヨと申します」

 

 これはご丁寧にどうも、と私も名前を名乗る。

 イヨさんはとても親切で、この世界の歴史について色々と語ってくれた。

 古代の文明がなぜ滅びたのか。

 それはどんな文明だったのか。

 1人の研究者として、推論も交えて彼の考えを聞かせてくれる。

 ‥‥‥ひょっとしたら、単に語りたかったのかもなあ。

 研究者って、そういうの好きそうなイメージだ。

 

「そういえばイヨさん。現存している刀とかの武器も、ほとんどが過去の遺物らしいですね。‥‥‥今はもう、武器を作ることってできないんですか?」

「いいえ、作れない訳ではありません。確かに過去の鋳造技術は失われ、今残っている技術では大した武具は作れないでしょう。しかし、どうにかして古代の技術を蘇らせることが出来たなら。Edge Typeや、あるいはメイトウと呼ばれる真の業物さえ作り出すことは不可能ではない、と考えております」

「ほ、本当!?」

「ええ。本当です。少し前までは、例え古代の技術を呼び戻したとしても、現代の武具では過去の最高品質の武具には一歩及ばない、というのが我々研究者の通説でした。しかし今では、熟練した職人が正しい知識を元に鋳造した武具は、過去の遺物を完全に再現できる、というのが我々の見解です。‥‥‥もっとも熟練した職人など、もう残ってはおりませんので、証明のしようもない机上の空論なのですが」

 

 机上の空論、とイヨさんは謙虚にいうが、それは理論上可能だということだ。

 

「それでも構わないわ。話を聞かせてくれてありがとう! 後でみことに教えてあげなきゃ。あ、そうだもう1つ。古代の技術を蘇らせるのって、どうすればできるの?」

「それを考えるのが、我々研究者なのです。古代の遺跡から見つかった書物や、AIコアと呼ばれる遺品。それらを研究して、どのような技術体系が組まれていたかを考え、それを再現する。それこそが研究者の役目だと自負しております」

「な、なるほど? 何だかよくわからないけど、とても大変そうってことは分かったわ。まず古代の遺跡を見つけるだけでも大変そうね」

「はい。もちろん大変です。そしてもし見つけたとしても、気軽に遺跡に踏み入ってはいけません。遺跡には多数の殺人マシンが配備されている場合もありますから、例え歴戦の傭兵であっても無策で挑めば、たちまち屍の山と成り果てるでしょう」

 

 殺人マシンだって。

 そんなのがいるのか。

 機械は悪魔の化身とかいうホーリーネイションの教義は、ひょっとしたらそういう機械兵のことを言っているのかもしれない。

 

「けれど、方法がないわけではありません。策を弄して彼らを無力化するもよし、見つからないように切り抜けるもよし。何なら単純に腕を磨いて、多数の殺人マシンを1度に相手にできるくらいに強くなってしまうことでも遺跡の探索は可能です。そしてそれを成すのがテックハンター。この街の住人というわけです。遺跡に興味が湧いたなら、今度は酒場のマスターに話を聞いてみると良いでしょう。彼もまた、優秀なテックハンターの1人ですから」




第9話まで読んで頂き、ありがとうございます。なお実際のプレイ記録では、修行中に大怪我をしたみことを1人放っておいてすみれが観光を楽しんでいるという流れなのですが‥‥‥いやあ、さすがにそのままでは物語にできなかった(苦笑
なお作中で語られたメイトウ作成についてですが、これは自作modによりエッジ3式まで作成できるようにしてあり、さらに大成功でメイトウが作れるようになっています。やはり鍛治職人RPならメイトウ作りたいですから。では次回第10話、引き続きすみれ視点の一人旅をお楽しみに。
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