イヨさんか。
いい人だったな。
また今度、お茶でも飲みながらゆっくり話せるといいな。
あれ、でもスケルトンってお茶飲むのかしら?
それはともかく、勧められた通り酒場に向かおう‥‥‥と思ったけど、その前にちょっと寄り道。
サイエンス本部を出てすぐ左手に、弓矢を象った看板のお店があった。
レンジャー店というそうだ。
弓が売ってるのかな。
買うお金はないけど、ちょっと見ていこう。
「ようこそいらっしゃい。うちは冷やかしでも大歓迎だよー。買ってくれるなら超・大歓迎だよー」
「ふふ。面白い店員さんね。ここでは弓を売っているの?」
そう尋ねると、店員さんはチッチと指を振る仕草をして見せた。
「お嬢さん。今時弓なんて時代遅れもいいとこさ。最近の流行はクロスボウってんだ。こいつさえあれば、棒切れ振り回してる野盗なんざあっという間に蜂の巣さ!」
「クロスボウ? それは弓とどう違うの? 見たところ同じように見えるけど」
「もっとちゃんと見ておくれよ。ほらここ、弓にはないトリガーがついてるだろ。力を入れて弓を引かなくても、誰でも簡単に指一本で矢が放てるって寸法さ。初めて使うなら、この『つまようじ』なんてどうだい。単純な構造だから初心者でも連射が効く。値段も安くて入門にぴったりさ」
最近は武器もいろいろ工夫されてるのね、と陳列されているクロスボウを眺める。
構造が単純なものは威力や射程が短いが、その分すぐに次の矢を発射できる。
複雑な構造のものは威力が高く射程も長いが、扱い慣れてないと次の矢を準備するのに手間取る事になる。
例外もいくつかあるけれど、基本はそういう傾向のようだ。
総合的に見て、良い武器だと思う。
「もう少しお金が貯まったら、1つくらい買っておくのもいいかもしれないわね。また来るわ」
「おう! 次は何か買ってくれよ」
レンジャー店を出て。
次はどこに寄っていこう。
やはり武器繋がりで、武具店を覗いていこうか。
「ようこそいらっしゃい、旅人さん。旅を続けるなら、うちの武器がオススメだよ!」
このお店でも、いろんな武器を売っていた。
大きくて重い武器から、小さくて軽い武器までよりどりみどりだ。
「お客さん、さっき向こうのレンジャー店に寄ってたでしょう? ダメダメ、クロスボウなんてやめときな。あんなの、近寄られたらガードする事すらできないし、矢が尽きたら戦う事もできなくなる欠陥品さ。かと言って大量の矢を持ち運べば、それだけでカバンがいっぱいになっちまう。男なら黙って近接武器だぜ。こいつに限る!」
「あら残念ね。私、女なのよ」
「おっとこいつは一本取られたな。けどお前さん、その腰にさしてるのは刀じゃないのかい?」
武器屋は私の腰の大苦無を見てそう言った。
軽くて使いやすいけれど、決定打にはなりづらい武器だ。
「そうね。安かったからとりあえず買った武器なんだけど、畑を荒らすラプターにさえ勝てなくて困ってたのよ。もっといい武器はないかしら?」
「うーむ。そいつは難しい注文だな。もちろんもっといい武器ならいくらでもあるぜ。だがお前さんが勝てないのは武器のせいってわけじゃなさそうだな。武器ってのは奥が深い。きちんと使いこなせなきゃ、どんな業物だって宝の持ち腐れだ」
「そう。‥‥‥レンジャー店の店員さんは、クロスボウなら誰でも簡単に使いこなせるって言ってたわね。やっぱり私にはクロスボウが良いのかしら」
そう言って外に目を向ける仕草をすると、武器屋は慌てた様子で言葉を続けた。
「わー、待った待った、最後まで話を聞いてけって。きちんと使いこなすためには訓練あるのみなんだが、その訓練に適した武器ってのもあってな。お前さんの持つ大苦無なんかがまさにそれなんだ。せっかくそんないい武器持ってるんだから、諦めるのは勿体ねえよ」
「へえ。そんなにいい武器なの、これ? 錆びてるけど」
腰に刺した、安物の錆びた大苦無をみる。
お世辞にも良い武器には見えない。
「錆びてるかどうかは訓練に関係ねえよ。強くなりたいなら、とにかく何度も繰り返し刀を振るしかない。軽くて小型のその刀はそういった反復練習にちょうど良いのさ。隙が少ないから、ガードした直後に反撃に移ったり、攻撃の後すぐにガードしたりって事もやりやすい。騙されたと思って、もう少しそいつで練習してみたらどうだ、お前さん」
「そこまで言うなら、もう少し頑張ろうかしら。でも変わった店員さんね? 新しい武器を勧めるんじゃなく、今の武器で練習しろだなんて。商売にならないんじゃない?」
「そんな事はないさ。お前さんの腕がもっと上達したら、俺も胸を張ってもっと高価で強い、実戦向きの刀を勧められるからな。それに俺はクロスボウってのが嫌いなんだよ。最初に言っただろ、男は黙って近接武器だってな!」
たっぷりウィンドウショッピングを楽しんでいると、時刻はもう正午を過ぎていた。
このまま寄り道ばかりしていたら、さすがにみことを心配させてしまいそう。
そろそろ酒場のマスターに話を聞きに行くとしよう。
「お邪魔しまーす」
4軒ある酒場のうち、1番大きなお店に入る。
話を聞く前に、とりあえずお酒を注文して。‥‥‥て、安いっ!
「え、すごく安くないっ!? 今って何かセールでもしているの?」
「あん? まあ他の街で買うよりはちょっと安いかもな。っても、そんなに驚くような差じゃないはずだが」
ちょっと安い、なんてものじゃない。
例えばグロッグなら集落で買うと693catだが、この酒場で売られているのは481cat。値段に1.4倍以上の差があるのだ。
それを伝えると。
「へえ。そりゃすごい。きっとその集落の物価が高いんだろうな。どこの集落か知らないが、交易で一儲けできるんじゃねーか?」
「ええ、そうするわ! ここのお酒、このお金で買えるだけ頂戴!」
「あいよ、毎度あり!」
財布を空にして、グロッグ7つを購入。
そう言えばあの集落では物資が不足してるって話を聞いたような。
それで値段が上がってたのかな。
「あとそれと、イヨさんから話を聞いたんだけど、マスターは古代の遺跡に詳しいのかしら?」
「おお! イヨさんの紹介だったか。まあ詳しいってほどじゃないさ。フラッドランドにいくつか遺跡が点在してるのを知ってるくらいだな」
フラッドランド。
確か地図によると、集落の西側に広がる地域がそう呼ばれていたはず。
錆び付いた何かの残骸が転がっているのを見かけた。
「その遺跡って、私でも探索できるのかしら?」
「よせよせ、できるわけねーよ。そんな錆び付いた武器に、防御性能なんか期待できないペラッペラの服。遺跡にたどり着けるかさえ怪しいな」
「そう。やっぱりそうよね。変な事言ってごめんなさい。‥‥‥イヨさんから、鍛冶をするなら遺跡から見つかる古代の遺物の研究が必要って言われたんだけど、簡単にはいかないわね」
肩を落としてそう呟く。
「何だ、鍛冶がしたいのか? 別に刀を打つだけなら、この街に売ってる本で十分だぜ?」
「え!!」
「イヨさんが言ってたのは、高性能な武具を作ろうとした場合の話だろ。性能に妥協するなら、店に売ってる本で十分だ。街の中に家を買って、そこを自分の鍛冶場にしちまえばいい。むしろ刀の材料の鉄板の入手の方が大変だろうな」
「鉄板。そう言えば集落で掘っている鉄は武器の材料になるって言ってたわね。あの鉄鉱石で鉄板が作れるかしら」
「はっは。そりゃ時間と手間をかければ出来ないわけじゃねえけど、賢いやり方とは言えないな。鉄を掘るにも時間がかかるし、その鉄を鉄板に加工するのも大変だ。鍛冶の修練には、それこそ何百って数の鉄板が必要になるんだぜ?」
う。
それは確かに大変そう。
いくらみことの夢のためとはいえ、何百もの鉄を掘り続けるなんてしたくない。
それじゃ召使いの頃と何も変わらないじゃない。
「鉄板を大量に仕入れるなら、都市連合に行くのが一番だな。この街で護衛の傭兵を雇えば道中の危険もないし、あそこなら安くて大量の鉄板が仕入れられる。作った刀を卸す店もたくさんあるし、鍛冶を志すなら一度行ってみるのをお勧めするね。‥‥‥ところでここに、ちょうどその都市連合の地図が売ってるわけだが」
「あら商売上手。お酒の交易で稼いだら、傭兵さんを雇って行ってみようかしらね」
「おう! その時はうちで地図も忘れずに買っていきなよ!」
ワールドエンド。
大収穫の街だったな。
お酒を安く買えたこともそうだけど、何よりも情報が1番の収穫だろう。
いろんな話が聞けて、本当によかった。
早く集落に戻って、みことに話してあげよう。
第10話まで読んでいただいた方、ありがとうございます。お酒の値段に関しては、グランエシル氏のmod、Trade Price Overhaulによってバニラから変更されております。旅の目的が増える良modですが、金策がかなり楽になってしまうので万人受けするとは言い切れないかもしれません。ご利用は計画的に。