Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第15話 新たな都市、新たな仲間

 一夜明けると、町は血の海だった。

 そこかしこに散らばるホーリーネイション兵の遺体と、掃討戦を続ける侍たち。

 侍側の勝利によってこの戦いは幕を下ろしたと言える。

 辺り一面に散らばるホーリーネイション兵の遺体から鹵獲した武具は、酒場のおばちゃんが買い取ってくれると言うので全てお金に変えた。

 さらにワールドエンドで仕入れたサケの残りも全て売り切ることで、所持金はあとちょっとで10万catに届くかというところまで増えた。

 昨日の夜には金庫のお金がないって言ってたはずだけど、侍たちが祝勝会でもしたのかな。

 おばちゃんに礼を言い、すみれの眠る2Fに戻る。

 まだしばらく起きる気配はない。

 俺も普通に動ける程度には回復しているが、まだちょっと手足が痺れているので、すみれが目を覚ますまで、もう一眠りすることにしよう。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「よお、もう怪我は大丈夫なのかい?」

 

 旅支度を整えた俺とすみれに、傭兵さんが訊いてくる。

 

「はい、おかげさまで」

 

 酒場のベッドで数時間ほど休んでいる間に怪我はすっかり良くなった。

 応急処置キット、一体どんな成分が含まれているのだろう。

 普段気軽に使っているが、これも古代のオーバーテクノロジーとか使われているんだろうか。

 

「2人とも思ったより早く回復して良かった。今から出発すれば、陽が落ちる前にはショーバタイに着けると思うぜ」

「そういう傭兵さんこそ怪我は大丈夫? 俺たちが撤退した後もしばらく戦い続けてたのに」

 

 そう訊ねると、当たり前だと笑い飛ばされた。

 

「こっちはプロだぜ? それに侍も一緒に戦ってくれてんだ、多少の怪我はあっても、お前らほどの大怪我はしてねえよ」

「そりゃ良かった。それじゃもう出発しようか」

 

 ドリンを出て東に進むと、すぐに景色が変わってきた。

 足元が砂になり、砂塵が止むことなく吹き続ける砂漠となる。

 こんな場所に本当に大きな街ができたりするものだろうか、方角を間違ってないだろうかと不安になってくる。

 

「傭兵さん、本当にこっちで合ってますよね? 道、間違ってないですよね?」

 

「ああ、もうすぐ着くぜ。ってか地図持ってんだろう?」

 

 地図を見ればわかるだろうと言う傭兵さん。

 いやそうなんだけど、どうしても不安と言うか。

 

「ほら、もう着いたぜ。そこがショーバタイの街だ」

「え。うわいつの間に」

 

 砂塵が一瞬だけ途切れた瞬間、その向こうに巨大な城壁が見えた。

 思ったよりもすぐ近くにそびえる城壁にぶつかりそうに感じて、思わず足を止めそうになる。

 もちろん実際にはぶつかるほど近くってわけではないのだけど、城壁の巨大さと突然現れたことによる錯覚でそう感じてしまうのだ。

 

「びっくりしたわ。砂漠ってほんの少し先でも見通しが利かないのね。急に野盗なんかに襲われたら大変そう」

 

 すみれも同じように感じているらしく、そびえる城壁を茫然と見上げていた。

 

「さて、とりあえず街についたわけだし、都市連合までの護衛依頼はこれで終了ってことでいいかい? まあ2日の契約期間は後ちょっとだけ残ってるから、何かあれば呼んでくれれば駆けつけるが、この街の中にいる限りは安全だろ。さすがにホーリーネイションもここまではやってこねえしな」

「そうね、ありがとう。あとは大丈夫だから、傭兵さんも街でゆっくりしてて頂戴」

 

 傭兵さんと別れて、街に入る。

 確か家を買ってそこを鍛冶場にしろって話だったな‥‥‥いや、まずは資材屋を覗いていこうか。

 ここでは安くて大量の鉄板が買えるって話だったはず。

 わざわざこんな砂漠の真ん中まで来て、ガセネタでしたとか笑えないからな。

 家を買う前にそこはちゃんと確認しておいた方がいいだろう。

 

「えーっと、資材屋、資材屋は‥‥‥あった! あの店かな」

 

 ずいぶん広い街なのでちょっと迷いそうになったが、門のすぐ近くの建物が資材屋だったようだ。

 無駄に街の中をうろうろしてしまった。

 

「こんばんは。ここで鉄板って売ってますか?」

「おやいらっしゃい。こんな遅くに買い物かい? もう閉店準備にかかってたとこなんだが」

「はは、悪いねオヤジさん。俺たちついさっき街に着いたばっかりでさ‥‥‥あれ?」

 

 陳列されてる商品を見て、首を傾げる。

 

「どうしたの、みこと。ちゃんと鉄板売ってた?‥‥‥あら、これって」

 

 すみれも商品を覗き込んで、俺と同じように首を傾げる。

 確かに鉄板は売っていた。

 売ってはいたが‥‥‥全然安くない!

 数も少ない!

 これならワールドエンドで買った方が良かったんじゃないか?

 まさかほんとにガセネタだったのか。

 

「ん? どーしたよお客さん。うちの商品がどうかしたか?」

「いや、この鉄板なんだけど。都市連合だと鉄板が安くて大量に買えるって噂を聞いてここまで旅してきたのに、なんか話が違うなーって」

「安くて大量の鉄板? ああ、そりゃストーンキャンプのことだな。門を出て南にほんのちょこっと行った先にある採石場さ。そこの直売店で買えば、大量の鉄板を安く仕入れることができるぜ。と言ってもこの時間じゃもう店じまいしてるだろうし、見に行くなら明日にしな」

 

 あ、良かった。

 ガセネタってわけじゃなくて、店が違ったのか。

 

「それにしてもお客さん、大量の鉄板なんて何に使うんだい? 普通は数枚の鉄板がありゃ十分だし、うちの店で買ってくれてもいいだろうに」

 

 店員のオヤジさんが興味深そうに尋ねてくる。

 

「ああ、ちょっと鍛冶の修行をしたくって。練習用にたくさん鉄板がいるんだよ」

「ほお、鍛冶師のタマゴってわけかい。鍛冶場はもうあるのかい?」

「いや、まだだ。さっきも言ったとおり、さっきこの街に着いたばかりさ」

 

 肩を竦めてそう答える。

 

「おお! だったら丁度いいや。この『本』、買っていってくれや。鍛冶場の作り方なんかも載ってる貴重な本だぜ?」

 

 そう言ってオヤジさんは数冊の本を勧めてくる。

 そういえばワールドエンドのマスターも言ってたっけ。

 店で売ってる本が必要とかなんとか。

 お金ならあるし、とりあえず1冊だけ買ってみるか。

 値段もそう高いものじゃない。

 

「あいよ、毎度あり! あんたの気に入りそうな本、入荷しとくからよ。またいつでも寄ってくんな!」

 

 本を買って、店をでる。

 とりあえずその本を眺めてみた。

 この本で鍛冶場が作れるようになるのか。

 持ち上げてみたり、逆さにしてみたりする。

 

「? みこと、何をしてるの?」

「ああいや、買ってから気付いたんだが、俺、文字読めないんだよな‥‥‥」

「あら奇遇ね。私も読めないわ」

「‥‥‥」

「‥‥‥」

 

 気まずい沈黙が流れる。

 え、どうしろと。

 

「ばっ、バカじゃないの!? なんで文字も読めないのに本なんて買ってるのよ!」

「し、仕方ねーだろ! オヤジさんがこの本で鍛冶場が作れるって言ってたんだから! 買うしかないじゃんか!」

「だとしても順序があるでしょう!? 本を買うなら、まず読めるように勉強するとこから始めなさいよ!」

「い、今更どーやって勉強すりゃいいんだよっ! 先生なんていねーぞ!?」

 

 おそらく世界一レベルの低い言い争いを始める俺とすみれ。

 通りすぎていく人々が哀れみとか蔑みとか、そんな感情のこもった視線をぶつけてくる。

 中には「あっははははっ!」と指差して大笑いしてくるヤツまでいた。

 ‥‥‥あれは、女の子?

 

「あっははは。面白いね君たち! 文字も読めないクセに本を買っちゃう人間がいるなんて傑作だ! ねえ、その本読めないならもう要らないでしょ。ボクに頂戴?」

「な、なんだよ失礼な子供だな。この本は俺が買ったんだ、簡単に人に譲れるか」

 

 急に現れた子に面くらいつつも、これは渡さないぞとその子の手の届かない位置まで本を高く掲げる。

 

「おいおい、ボクを子供扱いしないでおくれよ。そっちの方が失礼じゃないか。言っておくけどボクならその本を読んであげられる。悪い取引じゃないだろう?」

 

 取引? 読んであげる? 何を言っているのだろう、この子は。

 

「はあー。まったく、物分かりの悪い兄さんだ。文字の読めない君たちの代わりに、ボクがその本を読んで、いや『研究』してあげようって言ってるのさ」

「研究? ただ本を読むだけで研究なんて、大袈裟な」

 

 俺がそう言うと、その子はムッとしたように唇を尖らせて。

 

「大袈裟なもんか。本は知識の宝庫だよ。その知識を読み解き、記された技術を現世に顕現させる。これこそ研究だろう!」

「現世に顕現‥‥‥! なんかかっこいい! よくわからないけどかっこいいわ!」

 

 なぜかすみれが食いついた! すみれって、そういうの好きだよな。

 

「おお、分かってくれるかい同志よ!」

「わかる! すっごく分かるわ!」

 

 おーい。

 俺を置いてけぼりにして、なんか2人が意気投合し始めたぞ。

 

「ええと、つまりお前にこの本を渡せば、俺の代わりに読んでくれるって、そう言ってるのか? そりゃ有難いが、お前にメリットがないんじゃないか?」

 

 放っておくとどんどん脱線しそうだったので話をまとめにいく。

 

「なにもタダで読んでやるとは言ってないさ。もちろん礼金はもらう。2500catだ。もしそれが高いと思うなら、せいぜい自分で読めるように頑張って勉強しておくれ」

「う。そう言われると高いとは言えないが‥‥‥けどその本の値段、せいぜい300catだぞ? さすがに1冊読むだけで本の10倍近くの金額はないんじゃないか?」

 

 チッチッチ、とその子は指を振る仕草をして見せた。

 

「たった1冊だけなんてケチな事は言わないさ。ボクとしてもたくさんの本を読ませてもらえる方が嬉しいからね。君たちが望むなら10冊だろうと100冊だろうと読んであげるとも。それなら文句ないだろ? おっと自己紹介が遅れたかな。ボクはイズミ。研究者を目指してスポンサーを募集しているところさ」

「スポンサーねえ。難しい事言ってるけど、要するに本が読みたいから買ってくれって事かしら?」

 

 すみれがどストレートに一行で纏めてくれた。

 イズミも苦笑いしながら、それに頷く。

 

「‥‥‥身も蓋もない言い方すると、そういうコト。でも君たちだって本が読めなくて困ってたんだろ? ならwin-winじゃないか」

「まあ、確かに。俺たちとしても助かるな」

「よし、契約成立! これからよろしく頼むよ、お2人さん!」




第15話まで読んでくれた方、ありがとうございます。3人目の仲間、イズミ加入回です。レッドさんを楽しみにしてた方、もうちょっとだけお待ちください。
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