Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第17話 研究者

 ストーンキャンプに買い出しにいった2人を見送った後、ボクは資材屋にて建築資材を3つ購入した。

 本当は建築資材もストーンキャンプで購入した方が安く買えるのだが伝え忘れてしまったし、そこまで数も必要ないので街の資材屋からの購入で十分だろう。

 後、本も買っておこう。

 基本的な家具の設計図に、照明や保管庫についての本。

 その他にも必要そうな物をまとめて買っておく。

 出かける前に2人から「研究に役立ちそうな物があればこれで買っておいて」と1万catをポンと手渡されたことには驚いた。

 あの2人、意外とお金持ちなんだな。

 とてもそうは見えなかったけど。

 

「さてレイアウトだけど。まあテキトーでいいか。最優先の鍛冶場は結構なスペースが必要になるから最奥に配置するとして。研究台は手前の方に設置しておけばいいかな」

 

 鍛冶場用のスペースを開けて入り口近くに研究台を建設。

 その研究台に買ってきた本を仕舞い込み、鍛冶について書かれた本を読んでいく。

 

「ふうん。意外と構造は単純なんだな。建設に必要なのは鉄板6枚か。みこと達が買ってくるはずだから、彼らに自分で組み立ててもらおうか。えーっと後は照明に、保管庫にと。どの本から読むか迷っちゃうなー」

 

 そんなことを呟きながら読書に勤しんでいると、2人が大量の鉄板をバッグに詰めて帰ってきた。

 

「あ、おかえりー。ストーンキャンプはどうだった? つまんない場所だったでしょ?」

「ううんっ、すっごく楽しかった!」

「‥‥‥え?」

 

 すみれが目をキラキラさせながら意外な返答をする。

 いや感じ方は人それぞれだし、すみれの感性にケチをつける気はないけども。

 ストーンキャンプのどこが楽しかったのだろう。

 

「そ、そうかい? まあ楽しめたならそれはそれでいいや。鍛冶場のスペースは、奥の階段の下がいいと思う。作り方をまとめておいたから、これ見て自分で建設しておくれ」

 

 みこととすみれに、自作のメモを渡す。

 本に書いてあった内容を、イラストで分かりやすくまとめた物だ。

 難しい専門書の内容を、子供でも理解できるレベルに落とし込んで『とりあえずこの通りに組み立てれば誰でも建設できる』という感じのメモにしてある。

 

「おおっ、こいつは分かり易いな。さっそく作ってみるぜ」

「私も手伝うわ、みこと。えーっと、ここがこうだから‥‥‥ねえみこと、そっち持って支えてくれる?」

「こうか? ‥‥‥よしっ、後はこいつを‥‥‥」

 

 2人が作業しながら楽しそうに話す声を聞きながら、研究の続きをする。

 研究が実際に形となる瞬間は、やはりなんとも言えない達成感があるな。

 知識はそれだけでは意味がない。

 知識を目に見える形にして、初めて意味がある物になるのだ。

 ふと2人が持って帰ってきた鉄板が床にそのまま置かれていることに気がついた。

 これは研究台の引き出しにでもしまっておけばいいか。

 本来は本をしまうためのスペースなのだけど、スペースが余っているのだから有効活用しない手はないだろう。

 さて、ボクも次の研究に取り掛かるとしようか。

 

「できたーっ、完成!」

 

 ぱんっ、とすみれとみことがハイタッチを交わす音が聞こえた。

 

「ご苦労さん。さっそく鍛冶の修行に取り掛かるかい?」

「ああ! と言ってもまだ作れるのは棒切れくらいか。設計図がないとまともな武器は作れそうにないな」

 

 苦笑いしながらも、ちょっと嬉しそうに『杖』の鋳造に取り掛かるみこと。

 ふふっ、なかなか可愛いじゃないか。

 

「私は何しよっかなー。イズミ、何か手伝うことある?」

 

 手持ち無沙汰になったすみれが聞いてくるが、あいにく文字も読めない人に手伝ってもらえることなんてない。

 仮に本が読めたとしても、研究を人に譲る気はないよ。

 これはボクの領分だ。

 とはいえ、ただヒマなまま過ごすのも面白くないか。

 

「手が空いてるなら、研究資金を稼いでもらえると助かるね。お店の客引きを手伝ってもいいし、街の近くで銅を掘ってもいい。隣町まで足を運んで、交易に使えそうな情報を仕入れてくれてもいい。その辺はすみれに任せるよ」

「資金繰りね。分かったわ。設計図って買おうと思ったら高いものね。やっぱり1番実入りが大きいのは交易かしら」

 

 地図を見ながら町の場所を確認するすみれ。

 

「確かに交易は実入りが大きいけれど、道中で襲われる危険も大きい。もし隣町まで行くとしても、安全第一で頼むよ。急ぐ必要なんて全然ないんだからね」

「そ、そうね。けど隣町に行くだけでわざわざ傭兵雇うのも勿体ない気がするし‥‥‥長旅で足腰も鍛えられてるハズだから、逃げに徹すれば危険も少ないかしら」

 

 地図を見ながらうーんうーんと唸るすみれ。

 確かに都市連合って隣町まで微妙に遠いんだよね。

 傭兵を雇うにはちょっと勿体ない、けど1人で旅するにはちょっと危険。

 

「だったらすみれ。下駄を作ってみないかい? この本に載ってたんだけどさ、これがあれば他の人より少しだけ早く走れるみたいだ」

「え、下駄? そんなの作ったことないけど、素人でも作れるものなの?」

「作業台さえあれば誰でも作れるさ。現に素人のみことが、ああやって武器を作ってるだろう?」

 

 素人で悪かったな、とみことのツッコミが入る。

 こっちの会話もちゃんと聞いていたみたいだ。

 

「ちょっと待ってて。作業台の作り方をメモするから。必要なのは鉄板だけだから問題ないとして、組み立てはこんな感じでっと。よし描けた」

 

 鍛冶場の時と同じ要領で、イラストで作り方をメモにまとめてすみれに渡す。

 ブーツ店があればわざわざ作らなくても安く買えるのだけど、このショーバタイにはブーツ店がないから仕方ない。

 

「ほほーう。よし、とりあえず作ってみるわね。ありがとうイズミ!」

「どういたしましてさ。ああ、資材屋が閉店する前に布地を買っておくといいよ。下駄を作る時に必要になるはずだから」

「うん!」

 

 そうして、陽が落ちるまでボクは研究、ミコトは鍛冶、すみれは作業台の建設と下駄の製造に取り組んだ。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「んーっ、疲れたあ。今日はこんなものかな」

 

 すっかり陽が落ちて暗くなって顔を上げると、みこともすみれもまだ作業に集中していた。

 ボクも人のことは言えないけど、食事も取らずによく頑張るものだ。

 きっと楽しいのだろう。

 研究中のボクも似たようなものだから、よく分かる。

 そういえば今日読んだ本の中にランタンの作り方が載っていたな。

 ボクもちょっと、自分の手で組み立ててみるか。

 余っていた資材でランタンを組み立て、すみれのそばの壁に吊るす。

 そこでやっと気がついたようにすみれが顔をあげた。

 

「わっ、明るい! これどうしたの?」

「作ったのさ。これもボクの研究の成果だよ。ところで下駄はまだ完成しないのかい?」

「うん、後ちょっとなんだけどね。ただでさえ素人の上に暗い中で無理に作業しようとしたから、どうしても時間かかっちゃって。でも明かりがあるなら、なんとか完成するかも!」

「そりゃ良かった。みことも、いつまで頑張ってるんだい? そろそろ休みなよ」

「ああ、そうだな。いやー、どう頑張っても『錆びた屑鉄』ランクの武器しか作れなくって。結構難しいもんだな」

 

 みことはそう言うが、たった半日ハンマーを握っただけの素人がマトモな武器を作れたら、そっちの方がびっくりだ。

 それに鋳造技術を記した本の研究も済んでいない。

 ただ鍛冶場を作って自己流でハンマーを叩いてるだけなのだから、見た目だけでも形になってるのはすごいことだと思う。

 ひょっとして才能あるんじゃないかな、みこと。

 

「それじゃ3人揃ったことだし、遅くなったけど夕飯にしよう。ドライミートでいいかい?」

 

 焚き火を焚いて、生肉を3つ放り込む。

 ここショーバタイでは、わざわざ買ってこなくても門の前に衛兵が倒したスキマーが散らばってることが多いので、基本的に肉に困ることはない。

 

「明日の予定だけど、ボクは研究台をもっと大きなものに作り変えたいと思ってる。研究するものが増えてくると、今の研究台じゃちょっと手狭でね」

「俺は鍛冶の修行の続きかな。一応、錆びた屑鉄でも店に買い取って貰えば、黒字にはなるみたいだ。ストーンキャンプのおかげだな」

「私は、そうねえ。下駄も完成したし、海沿いにあるバークの街まで足を運んでみたいわ。交易に使えるものがあるかもしれないし、海にも興味あるの。泳いだりできるかしら」

 

 この砂漠には、都市連合の大きな街がショーバタイの他に4つある。

 ストート、ヘング、ヘフト、そしてバークだ。

 そしてバークは、大陸の端に位置する海辺の街。

 明日の予定を話し合って、食事の後は3人で眠りについた。




第17話まで読んで頂いた方、ありがとうございます。次回はすみれ視点でバーク観光です。お楽しみに。
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