Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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幕間 上級審問官ヴァルテナ

「ご報告申し上げます、ヴァルテナ様!」

 

 部屋に入るなり敬礼してそう告げる審問官に辟易しながら、俺は応える。

 

「あー。いい、いい。俺がそういう堅苦しいのは苦手なの知ってるだろ? んで、何の知らせだ?」

 

 俺がそう言うと審問官は敬礼していた手を下ろすのだが、それでも敬語は止めようとしない。

 彼だけでなく、国中のほぼ全員が似たような態度で俺と接してくる。

 上級審問官ってのは、友達も作っちゃいけないのかねえ。

 

「は、はい。以前より捜索命令の出ていた脱走した召使いの2人についてです。それらしき人物をドリンで見かけたと報告がありました」

「おお! そいつぁよくやったな! セタの野郎も喜ぶと思うぜ! で、そいつらはもう連れてきてるのか?」

 

 セタ。

 俺とタメ口で語り合うことのできる、今となっては唯一と言っていい友人だ。

 年はセタの方が俺よりも一回り上だが、よく一緒に酒も飲む仲である。

 まあセタのやつはあれで泣き上戸で、酔いが回るといっつも娘の事を語りながら泣いてるのだが‥‥‥おっと話が逸れたな。

 今は脱走奴隷の話だっけ。

 

「いえ、それが‥‥‥取り逃しまして、現在はおそらく都市連合内部に逃げたものと思われます。申し訳ありません」

「はあ!? 取り逃したってお前、たかが脱走奴隷だぞ!? どこに逃げられる要素があるってんだ?」

「申し訳ありません。報告によると、ドリンに侵入して目標を確保しようとしたところ、町を守る侍と戦闘になり部隊は壊滅したとあります。あと脱走奴隷ではなく、脱走した召使いです。一応」

 

 侍と戦闘になった、か。

 脱走奴隷を捕まえるだけなら、そんな必要はないはずだ。

 目標が街を出るまで待てばいい。それをしなかったという事は。

 

「ああ、なるほど。脱走奴隷を確保するついでに町も落とそうとして失敗した訳か。二兎追うものは一兎も得ずってやつだな」

「はい、おそらくは。あと、脱走した召使いです。一応」

「りょーかい。分かった分かった。捜索隊は引き上げさせろ。都市連合に逃げられちまったら、さすがに手が出せねえ」

 

 皇帝とセタにも、作戦失敗の報告を届けないといけないな。後で伝令を走らせるとするか。

 

「かしこまりました。それで、その‥‥‥」

「あん? まだ何かあんのか?」

 

 伝令に持たせる文章をどうするか考えていると、審問官が言いにくそうにしながら告げてくる。

 

「いえ、作戦に失敗した部隊長の処罰についてです。いかがいたしましょう」

「はあ? そんなもんいらねーよ。人間なんだから失敗くらいあんだろ。いちいち処罰してたらキリがねーっての」

「し、しかし。功を焦っての失敗であるなら、何らかの処罰をせねば示しがつきません。前例を作ってしまえば、今後、部下を無駄に死地に向かわせる部隊長が出てこないとも限らないのですから」

 

 彼の言葉にも、一理ある。

 ああもう、メンドくせーな。

 

「あー。そうだな‥‥‥だったら便所掃除だ。失敗した部隊長には帰投後、一週間の便所掃除を命じる。それで処罰って事で」

「かしこまりました」

 

 一礼して部屋を出る審問官。

 ‥‥‥やれやれ。

 『上級審問官』か。

 偉くなれば、何だって思い通りになると思っていた。

 地位と権力と武力があれば、この世界で好きに生きられるのだと、そう思っていた。

 だから必死になって武技を磨いたし、国が定める『オクランの教え』とやらも律儀に守って今の地位を手に入れた。

 ‥‥‥その為に、司祭が邪悪だと判断した者は、躊躇う事なく火に放り込んだ。

 たとえそれが何の罪もない少女であっても。

 その成果もあって今の俺には、地位も権力も武力もある。

 ‥‥‥それなのに。

 

「なーんか。思ってたのと違うなあ」

 

 高い給料をもらって、国中から尊敬され、たった一言命令すれば百を超える部下が俺のために命をかけて戦う。

 そう聞くと羨ましいと思う者も多いだろう。

 かくいう俺も、自分がこの立場になる前は羨ましいと思っていたさ。

 だが、実際になってみるとどうだ。

 時折訪れる旅人の方が、俺よりよっぽど自由でイキイキとしているように見える。

 10年前、セタの娘さんがここを通った時もそうだ。

 胸いっぱいに希望を詰め込んだような、キラキラした瞳をしていた。

 その旅路に水をさしたくなくてつい行かせちまったが、あれは失敗だったかなあ。

 長くても1週間くらいで帰ってくると思ってたのに、ちっとも帰ってこないんだもん。

 セタのおっさんが泣き上戸になったの、あれからだっけ。

 ‥‥‥都市連合で、うまくやってんのかなあ、あのお嬢ちゃん。

 わりかしうまくやってそうな気もするし、そううまくいかないような気もする。

 書きかけだった手紙に視線を戻す。

 セタへの伝令に持たせる文章は‥‥‥こんな感じでいいか。

 

『悪りぃ、失敗した。また今度飲みに行こうぜ、奢ってやるからさ』




 幕間の物語ヴァルテナ編、読んでくださりありがとうございます。次回の投稿は諸事情により遅くなりそうで、1ヶ月ちょっと間が開いてしまいそうです。一応レッド視点での話を予定しているので、気長にお待ちいただければ幸いです。
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