Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第20話 幼なじみ

 カンッ、カンッと、鍛冶場にてみことが鉄を叩く音が響いている。

 オレはそれを隣で眺めていた。

 

「毎日ご苦労さんだね。調子はどうだい、みこと?」

 

 まずまずかな、と言ってみことは完成した杖を見せてくる。

 その武器のランクは修理品等級。

 名前だけ見ると弱そうだが、実のところその辺の野盗が持つ武器よりもちょっと上くらいの品質だ。

 武器としても十分に実用可能なレベル。

 

「そろそろ杖ばかりじゃなくて、もっとまともな武器も作ってみたいと思ってるんだけどさ。レッドは何か、使ってみたい武器とかある?」

 

 みこと達と数日一緒に過ごしているうちに、呼び方も『レッドさん』から『レッド』へと変わっていた。

 イズミも含めて皆呼び捨てで呼び合ってるし、なんか自然とそうなった感じだ。

 

「うーん。そう言われてもなあ。別に武人じゃないんだし、極端に重すぎたり弱すぎたりしない限り、違いなんて分からねーし。‥‥‥ああでも、強いて言うなら迫力のある武器がいいな! 威圧感があって、見るだけで相手が逃げ出すようなやつ!」

 

 そう素直にリクエストしてみる。

 うん、ナメられないってのは重要だよな。

 特にこの都市連合では。

 

「そっか。つまり見た目重視ってことだな。ストートの街に武器屋があるらしいんだが、みんなで買い物に行かないか? 気に入った武器の設計図があったら、作ってやるよ」

「お、おう‥‥‥なんだか悪ぃな、世話になっちまって」

 

 気にすんなって。

 そう言って笑うみこと。

 昔と比べて、ずいぶんたくましい男の子になったな、と思う。

 昔はもっとこう、その‥‥‥オブラートに包んで柔らかい表現で言うなら可愛らしいと言うか、もっとストレートに言うのなら平和ボケしたアホっぽい子供と言うか。

 そんな感じが抜けて、代わりに慎重さと筋肉が身についているように感じた。

 体格も一回り大きくなっていて、それでいて損得勘定なしに他人のために動ける優しさは昔と変わってなくて。

 ‥‥‥彼は、本当に気付いてないのだろうか。

 私が昔助けたシェリーだということに。

 彼は私を庇ったせいでリバースに送られ、そこで何年も過ごしてきた。

 やっぱり、恨まれているだろうか。

 もしも私がセタの娘だと名乗ったとして、その後も今のように笑顔を向けてくれるだろうか。

 

「‥‥‥? どうしたんだよ、レッド。急に黙っちまって」

 

 怪訝そうに首を傾げて聞いてくるみこと。

 もしかして表情に出てただろうか。

 思考をかき消すように軽く首を振る。

 

「いや、なんでもないさ。なあ、みことはなんでリバースを脱走したんだ?」

 

 そんなリスクを犯さなければ、今頃はスタックの家族の元に帰ることだってできただろうに。

 声には出さず、内心で呟く。

 

「んー、そうだな。俺が脱走したかったというよりは、すみれを逃したかったからかな。あのままだと一人で無茶しそうでさ、ほっとけなかったんだよ」

 

 なるほど、と納得する。

 確かにそれはちょっと分かるかも。

 すみれはちょっと、他のヤツとは違う気がする。

 初めて会った時から、そんな感じがしていた。

 なんとなく気になると言うか、放って置けないというか。

 ‥‥‥けど。

 

「けどさ。それって家族の元に帰ることより大事だったのか? いや、もちろんみことはスゲーと思うぜ。他人のためにそこまで必死になれる奴なんてそういねーよ。そのおかげでオレ達もこうして会うことができた。けど、脱走犯になったら二度と家族の元に戻れないって、分かってただろ? みことの帰りを待ってる奴だって、居たんだろ‥‥‥?」

 

 オレがそう尋ねると、みこともそうだな、と頷いて。

 

「けど。それでもすみれを放っておけなかった。助けてやりたいって、俺が思ったから。俺は自分の気持ちに嘘をつけるほど、器用じゃなくてね。‥‥‥それに俺の父さんは正義感の強い男でね。もし助けを求めてる女の子を見捨てて帰ってきたなんて言ったら、すぐ追い出されちまっただろうさ。そんな腰抜けは俺の息子じゃないーってね」

 

 そんな風に、笑って言ってみせた。

 一丁前に男の顔しちゃってまあ。

 リバースでの労働が彼を成長させたのか。

 それとも、すみれが彼を変えたのか。

 

「俺はさ。背中丸めて生きていくなんて嫌なんだよ。胸を張って生きろ。胸を張れる生き方をしろ。それが、父さんが俺にたった1つ求めたことだった。だから俺は、何があってもその父さんの教えだけは守っていくって決めてるんだ」

「そっか。いいお父さんなんだね」

「ああ。自慢の父さんだ。紹介できないのが残念だぜ」

 

 そう、素直に父を称賛するみことを‥‥‥ちょっとだけ、羨ましく思う。

 父のことをそんな風に思えたら、どんなに素晴らしいだろう。

 そんな風に思えるような父親だったら、どれほど良かったことだろう。

 

「そうね‥‥‥残念だわ」

「へっ?」

 

 あ!

 やば、口調が昔に戻ってた!!

 みことがめっちゃ『え、急にどうしちゃったの?』みたいな顔で見てきてる!

 なんとか誤魔化さないと‥‥‥でもこれ、誤魔化せるのか?

 いや、やるしかない!

 

「な、なーんてな! 男の子ってこういうのが好きだったりするんだろ!? あ、でもオレじゃ似合わねーか! あははははっ!」

「‥‥‥」

「あ、あはははは」

「‥‥‥」

 

 あの。

 真顔でじっと見つめるのやめて欲しいんですが。

 せめて何か言って。

 

「‥‥‥もしかして、シェリー?」

 

 あ。バレた。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 その後。

 オレ達はいろいろな話をした。

 どんな話かって、いろいろだ。

 最後に会ったあの日から10年間。

 その間にあった、いろいろな事を語り合った。

 みことは、リバースに送られたのはレッドのせいじゃないから気にするな、と言ってくれた。

 そう言ってもらえて、ほっとしている自分がいる。

 けどまさかリバース鉱山で彼女を作ってるとは思わなかったな。

 そう言ってやると、みことは。

 

「へっ? い、いやすみれとは、彼女とかそんな関係じゃないが」

 

 などと言い返してきた。

 え、付き合ってないの?

 絶対に付き合ってるものだと思ってたんだけど。

 そこにイズミも加わってくる。

 

「何照れてんのさー。隠さなくてもいいじゃん、今更さー」

 

 ‥‥‥それはそうとタイミングいいな、イズミ。

 おそらくずっと会話を聞いてて、口を挟むタイミングを伺っていたとみた。

 

「いや、だから本当に俺たちは付き合ってなんか」

 

 なおも否定を続けるみこと。

 オレとイズミは顔を見合わせる。

 もし本当にみことの言うとおり、2人は付き合ってないのだとしたら‥‥‥ひょっとしてオレにもまだチャンスある?

 そんな風に考えていると。

 噂をすればなんとやら。

 鉄板の買い出しに出ていたすみれが帰宅した。

 

「ただいま〜。鉄板重いー、疲れたあ」

 

 鉄板を目一杯まで詰め込んだバックパックを床に投げ出して、そのまま座っているみことの膝の上にダイブするすみれ。

 これはあれか、膝枕って奴か。

 

「おー、サンキューなすみれ。肩凝っただろ?」

 

 そんなすみれに驚くこともなく、当然のようにみことがそのまますみれの肩や背中をほぐすようにマッサージ。

 ‥‥‥うん、無理!

 チャンスなんてねーわ!

 むしろこれで付き合ってないとか絶対ウソだろ!

 

(なあイズミ。どう思うよこれ)

(どうって言われてもさ。付き合ってるでしょ。隠せてるとでも思ってるんじゃない?)

 

 ひそひそとイズミと囁き合う。

 やっぱりそうだよなあ。

 

「な、なんだよ?」「ん? どうしたの?」

 

 視線に気づいたみこととすみれが、顔を上げて聞いてくる。

 いやお前らこそ何してんだよと聞いてやりたい。

 

「あー、うん。もういいや。最初の話に戻るけど、ストートへの買い物にはいつ行く? 設計図、買いに行くんだろ?」

「わ! ついに本格的な武器製作に取り掛かるのね! 私はやっぱり刀がいい! 研ぎ澄まされてて、スパスパッて斬れるやつ!」

 

 すみれが目を輝かせて言う。

 

「あー、ボクはいいよ。ちょっと前にクロスボウ買っちゃったんだ。だからこれで」

 

 イズミは『つまようじ』と呼ばれるクロスボウを取り出してそう言う。

 名前から想像できるように弱っちい武器だが、実は扱いやすさはピカイチで意外にも人気のある品だ。

 使いやすいクロスボウといえば、これかレンジャーの2択だろう。

 

「ってことは、レッドの武器とすみれの刀の2本分で良いのか。お金も‥‥‥うん。十分足りるな。今から行くか」

 

 そう言ってみことは腰を上げ、出かける準備をする。

 みことの膝に頭を乗せていたすみれはゴロンと床に転がった。

 

「ボクは欲しいものもないし留守番しながら研究の続きを‥‥‥いや。でも『つまようじ』の試し撃ちもしてみたいな。 道中の野盗やスキマー相手なら遠慮なくぶっ放せるし‥‥‥うん、やっぱりボクも一緒に行くよ」

 

 そんなわけで。

 皆で揃って買い物となった。

 4人で揃ってどこかに行くってのは初めてかもしれない。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 ストートの街は、ストーンキャンプを超えてそのまま南西に行った場所にある。

 距離的にはバークよりも近い。

 

「で、ここが武器屋か。やっぱ侍の町なだけあって、刀系の武器が充実してるな。すみれ、気に入ったのはあるか?」

「そうねえ。大太刀とか野太刀もかっこいいけど、もうちょっとシャープなのもいいかも‥‥‥あら、これ?」

 

 そうしてすみれが手に取ったのは、狐太刀。

 狐太刀と書いてコダチと読むらしい。

 基本性能は野太刀と同等でありながらスケルトンに対しても比較的刃が通りやすく、さらに軽くて丈夫な鍔により防御もしやすいといった、いわゆる野太刀の上位互換的な性能。

 そして性能だけでなく造形も細部に拘っていて、うん。オシャレだ。

 

「これいいかも! うん、私これがいい!」

「よし、じゃあ決まりな。レッドはもう決めたのか?」

 

 そう聞いてくるみことに、オレは1本の武器を手に取って。

 

「おう! 見ろよコレ! かっこよくね?」

 

 そうしてオレが手に取ったのは、鎌だ。

 人の身長をゆうに超える、巨大な大鎌。

 農具を改良して戦闘に使えるようにしたものらしいが、これがまた大した迫力を醸し出している。

 まるで死神みたいだ。

 ちなみにこの十年ですっかり今の口調に慣れてしまった為、今更『昔の話し方でいいよ』と言われても戻せなくなっていた。

 とはいえ昔のことを思い出しながら話していると無意識に昔の口調になってたりするのだけど。

 

「お、おお。構わないけどその大鎌、使いにくくないか?」

「何言ってんだよ。そんなの使い慣れちまえばどうとでもなるだろ? それに使いにくいって事は、敵から見れば受けにくいってことさ。何よりほら、かっこいいし! 迫力あるし!」

 

 迫力大事。

 ちょー大事。

 

「そっか。結構重そうだけどまあ、レッドが良ければいいか。案外すぐに決まったな」

「そうだな。それじゃまたショーバタイに戻って、設計図をみながら武器を作れば‥‥‥ん? おっと悪い」

 

 店のカウンターの前で話し込んでいたら、いつの間にか背後に別の客が並んでいたのに気づいて慌てて場所を開ける。

 ずいぶんと背の高い、体格のいいお姉さんだ。

 

「ああ、別に気にしないで頂戴。あたしはただのウィンドウショッピングだからね。‥‥‥買うお金もないし」

 

 そうしてお姉さんはカウンターでひとしきり武器を眺めたあと、「うん、買うお金がない‥‥‥」と呟いてUターンして店を出ていく。

 ‥‥‥なんだろう、他人事なのに妙にやるせないと言うか、背中が寂しいと言うか。

 

「ま、まあ買い物は終わったし、ショーバタイに戻りましょうか」

 とりなすようにすみれがそう言い、オレたちはそのまま帰路についた。




第20話まで読んでいただき、ありがとうございます。そしてお待たせしました。今回登場している武具はChaoticFox氏のmodから使用させてもらっています。見た目もよく、かつバランスを崩さない程度の性能の武器が豊富で重宝させてもらっています。次回はもうちょっと早く投稿できる予定‥‥‥できるといいなぁ(願望
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