都市連合領は、訓練相手には困らない土地だ。
反乱農民、スキマー、ガル、人狩り、砂忍者。
探せばいくらでも訓練相手が見つかるし、探さなくても向こうから襲ってきてくれる。
そして障害物のない走りやすい地形と、こちらの姿を隠してくれる砂嵐。逃げるのも楽だ。
ある程度距離を離してから息を潜めて気配を殺していれば、すぐに見失ってくれる。
ただ、何事にも例外はあるわけで。
「くそっ、しつけー野郎だなっ!」
今、俺たちは人狩りに追われていた。
何故追われてるのかって、喧嘩を売ったからだ。
10人くらいの小隊に挑んで、そのうち6人をノックアウトする事ができた。
少しずつ実力がついてきてるのを実感できる。
だがこちらも怪我がひどく、すみれに至っては足に深手を負って立つことすら難しい状況だ。
ちなみにそのすみれは、今は俺が肩に担いでいる。
「まったく。いつも自分たちがやってる事をやり返されたくらいで、そんなに怒らなくてもいいだろうに。勝手な連中だな」
そう言いながら街に逃げ込む。
これで後は侍たちが人狩りを倒して‥‥‥くれなかった。
え、この街の門番、人狩りをスルーしたぞ。
ちなみに人狩りとは、人攫いを生業にする者たちのことだ。
力のない者をさらって奴隷商に売りつける商売をしている者たち。
「ははははっ! アテが外れて残念だったなあ!? 仲間の仇、取らせてもらうっ!」
「そんなに仲間が大切だったらちゃんと治療してやれよ! まだ死んでねーよ!」
言いながら街を駆け回るが、どの住民もそっと視線を逸らすだけで関わろうとしない。‥‥‥まあ、当然か。
追ってきてるのは1人だけだからこのまま俺たちだけで戦ってもなんとかなりそうな気もするが、実はそう簡単な話でもない。
戦うとしてもレッドは片腕を怪我してすでに武器が振れないし、俺も怪我のせいでまともに武術が使えない。
大きすぎるレッドの武器は片手では持ち上げられないし、武術も怪我をしてるかどうかでその威力が大幅に変わってくるのだ。
イズミのクロスボウは街中で使うと誤射が怖いし、すみれは戦える状態じゃない。
それに対して追手の人狩りはほぼ万全に近い状態。
いくら装備で勝っていると言っても、ここで戦うのは危ない橋を渡ることになるだろう。
「どうする!? どうにか振り切るか、それとも戦うか?」
俺は一緒に逃げるイズミに判断を任せた。
イズミは俺たちの中で最年少だが、こういう時の判断力は一番信頼できる。
常に冷静で、無理なく現実的な作戦を的確に示してくれるのだ。
「そうだね。仕方ない、ここはお金の力に頼ろう。酒場に傭兵はいたかい?」
「ダメだ、こっちの酒場にはいねえ! いたのは戦力になりそうもない漂流者だけだ!」
一足先に酒場に走っていたレッドがそう返す。
「そう。ならあの人たちに頼ろう。ちょっと値は張るけど‥‥‥どうせ、そのうち世話になるつもりだったしね」
あの人たち、と言ってイズミが指さして示したのは、町の中で一際背の高い建物だった。
確か、シノビシーフギルドの建物だ。
入会金さえ払えば誰でもギルドの仲間に入れてくれるという組織。
「と、言うわけでさっそく入会させておくれ。はい入会金、10,000catどうぞっ」
「ようこそシノビシーフへ!」
イズミがギルドの人にお金を渡し、さくっと入会を済ませる。めっちゃスムーズだった。試験とか身分証明とか、何もなかった。本当にお金だけで入会できるのか。
「みこと! 話は取り付けたから早く中へ!」
「おう!」
俺たちは言われるままにその建物に逃げ込むと、中にはシノビシーフの人たちが、ええと‥‥大勢。
数えるのが面倒になるくらいのシノビシーフのメンバーがその建物に詰めていた。
続いて俺たちを追っていた人狩りも建物の中へ。
そして。
「ほう。うちの新入りにちょっかい出すとは、いい度胸じゃねえか」
「ここが何処だか分かってんのか。覚悟はできてるんだろうな、ああん?」
そして、シノビシーフのメンバーに囲まれて表情を真っ青に変える人狩り。
自分がどんな状況に置かれているのか、ようやく気づいたらしい。
その後の彼の顛末については詳しく語る必要もないだろう。
彼はひどい目にあった。
その一言で十分だ。
「シノビシーフギルド。中に入るのは初めてね。どんな設備があるのかしら」
脚に添え木をして歩けるようになったすみれが、興味深そうに建物の中を見て回る。
俺も興味があったのですみれと一緒に探索してみた。
俺がシノビシーフについて知っているのは、入会にお金がいるということと、入会すれば何かと便利なギルドだということだけだ。
だが、便利らしいとは聞いているが具体的に何がどう便利なのかよく分からなかったのと、別に入会しなくてもそれほど困ることもなかったせいで、今まで入会を保留していた。
「あ、見て。ベッドがあるわ!」
「おお! 怪我もしてたとこだし、ちょうどいいな。えーっと、宿代はいくら払えばいいんだっけ?」
町の酒場だと1人あたり200catだが、ここはどうだろう。同じくらいの金額ならいいのだけど。
そんなことを考えていると、シノビシーフのボスらしき人がやってきて説明してくれた。
「ああ、金ならもう貰ってるから、好きに使ってくれて構わんぞ。入会金にベッドの使用権も含まれてるからな」
「へえ、そりゃ有難いな!」
実は実戦訓練において、地味に痛いのがベッドの使用料だ。
一泊200catと聞けば大した金額ではないと思うかもしれない。
しかしこれが大きな罠で、4人で休むと800cat。
つまり戦って休んでを10回繰り返すだけで8,000catだ。
一回あたりの使用料が安いせいで気軽に使っていると、いつの間にかお金が減っている、なんてことになりやすい。
そう考えると、入会金の10,000catってめちゃくちゃお得なのでは?
「後は訓練用のダミー人形と専門ショップがあるが‥‥‥ダミー人形に関しては今のあんたらには必要なさそうだな。あんなオモチャで練習する段階はとっくに超えてるって面構えだ。まあ、ショップとベッドだけでも気軽に使っていってくれ」
それだけ伝えるとボスは背を向けて去っていこうとし‥‥‥その途中で、ふと思いついたように足を止めた。
「‥‥‥そういや、最近になって頭角を表し始めた4人組のバウンティハンターがいるって噂になってたな。もしかして、あんたらか?」
「え? えーっと、どうだろ? まだ噂になるほどの腕じゃないと思うけど」
けど4人組のバウンティハンターってところは当たってるんだよな。
活動始めたのも最近だし。
「ああ、噂になってるのは腕っぷしじゃないんだ。引き際の見定めと速やかな撤退が噂になっててな。本気で逃げに徹したあいつらは誰にも止められないって噂だ」
あー、うん。俺たちだ。
‥‥‥ええと、褒め言葉として言ってくれてるんだよね?
そう尋ねると、ボスは何を当然のことを、といった様子で続ける。
「あったり前じゃないか。それは俺たちのようなシーフにとって、最も重要とされるスキルだぞ? 胸を張って誇っていい!」
「シーフじゃなくて、バウンティハンターなんだけども」
「似たようなものだろう。金品を狙うか犯罪者を狙うかが違うだけで、引き際が肝心なことには変わるまい?」
まあ、それもそうか。
元々はただの逃亡奴隷に過ぎなかった俺たちが、いつの間にやら他の組織からも一目おかれる存在になっていたことを嬉しく思う。
まあ欲を言うなら、本当は剣の腕とか鍛冶の技術で一目置かれたかったってのはあるけども。
「しっかし。なるほどなあ。まさか噂のバウンティハンターが、俺たちのギルドに入会してくれるとはな。あんたら、勢力名はなんて言うんだ? あるいはチーム名とか」
「ああ。そういえばまだ考えてなかったな。街に戻ったら考えようって話してたとこだったし、今決めちまうか。皆はなんか、いい案ある?」
俺はすみれ、レッド、イズミを順番に見回していくが、特に意見はなさそうだった。
いや正確にはすみれが『魔剣の使い手』とか『闇を司る者』とか色々言っているが、イズミとレッドの2人がものすごく嫌そうな顔をするので流石に採用できない。
仕方ない、ここは俺が気の利いた名前を考えてみよう。
「‥‥‥それじゃ、こんなのはどうだ。『アウトサイダー』。はみ出し者とか、組織や常識に囚われない者って意味さ。俺たち4人にぴったりだと思うんだが」
俺がそう提案すると、3人は互いに顔を見合わせた。
あれ、不評だった?
悪くないと思ったんだけどな。
「いや、確かにぴったりかもしれねーけどさ。自分からはみ出し者を名乗るのかよ。‥‥‥ふふっ、でもまあ、俺たちらしいって言えばそうかもな」
レッドがそう言う。
続いてイズミも。
「それじゃあ何か? ショーバタイに戻ったら家の表札に『アウトサイダー』って掲げるのかい? ここははみ出し者の家ですって?‥‥‥あっははは、うん、悪くないね! 最高にクレイジーだ!」
「そうね。私も賛成! 今日から私たちは、アウトサイダーを名乗ることにするわ!」
そんなわけで、俺たちの勢力名がアウトサイダーに決まった。
はみ出し者の、バカな名前だ。
第24話、読んで頂いてありがとうございます。勢力名は中二病でも恋がしたいの曲「OUTSIDER」から頂いています。すごくいい曲で、もし筆者が作家ではなく動画製作者として活動していたなら間違いなくこの曲をテーマソングに使っていただろうなって曲です。