反乱農民に勝利した俺たちは、近くにあるストートの街に来ていた。
憲兵に賞金首を引き渡し、休憩と食事を兼ねて酒場に寄ってみると、何人かと客が話をしていた。
「なあ、知ってるか? あの賞金稼ぎの噂」
「んー、なんだそりゃ。その辺にいる賞金稼ぎとは違うのか?」
「いや俺も直接知ってる訳じゃないんだ。だがストーンキャンプの奴隷商人から聞いた話だと、毎日のようにやってきて、奴隷たちにまざって鉱石を掘っているらしい」
「そりゃまた、ずいぶん変わってるな。そんな変人の集団なのか?」
そこにまた別の客がやってきて話に加わる。
「あー、それなら俺も聞いたことあるぜ。たしか『都市の秩序を守るため』とか『制度の破壊を防ぐため』とか言って、反乱農民に殴りかかったって噂を聞いたな」
「なんだ、貴族の犬か」
そんな噂話が聞こえてきた。
驚いた様子ですみれが言う。
「き、貴族の犬‥‥‥!? 私たちって、そういう風に認識されてるの!?」
単に利害が一致しているだけで、貴族にゴマをするつもりはないんだけどなあ。
でも、やっぱ第三者からみたらそう見えるのか。
賞金首を届けたら、侍たちからも感謝されたし。
フォローするようにイズミが言った。
「まあ、貴族の敵と言われるよりはよっぽどマシさ。犬にすらなれない負け犬の遠吠えなんて、気にする必要ないよ」
「‥‥‥大きな声で言うなよ?」
揉め事を起こさないように、一応イズミに釘をさしておく。
特に聞かれた様子はないな。セーフ。
とりあえず席につき、各々好きな料理を注文する。
「さて、それじゃ食事を取りながら、今後の方針を決めていこう。ボクたちもそれなりに実力もついてきたし、そろそろ遺跡調査に挑戦してみようと思う」
イズミが3人の顔を見回しながら言う。
全員、迷いなく頷く。
大丈夫だ。今の俺たちならいける。
もし仮にダメでも、逃げるだけならどうとでもなる。
そんな自信がついていた。
そして、そんな俺たちの会話に割り込むように現れた、もう1人の女の人。
「へえ。君達も冒険家なのかい? いいねえ、遺跡調査!」
‥‥‥えっと、どちら様?
俺が疑問に思っていると、レッドがポンと手を打った。
「あーっ! 思い出した! 武器屋ですれ違った、金欠の人だ!」
ああ、あの時の。
レッド、よくそんなの覚えてたな。
すみれとイズミも、『ああ、あの時の』といった様子で顔を見合わせる。
「‥‥‥金欠の人って呼び方は勘弁してよ。リドリィって名前があるんだからさ」
不満げに呟きつつ、その女の人‥‥‥リドリィは俺たちと一緒のテーブルにつき、ラム酒を注文した。
「悪いとは思ったんだけど、会話が聞こえてきたもんでね。君達、今の話からすると遺跡調査は初めてなんだろう? いいとも、いいとも。冒険家の先輩として、お姉さんが力になってあげようじゃないか」
先輩ってことは、リドリィは冒険家なのか。
たった1人で世界を冒険なんて、ずいぶん逞しいんだな。
そう言うとリドリィは首を横に振って。
「そんな事はないさ。ただ運が良かっただけだよ。実際、剣の腕も逃げ足の速さも、君達には遠く及ばないさ。そうだろう、噂の『アウトサイダー』さん?」
「え。そ、そうかな‥‥‥」
人からそんな風に言われるなんて想像もしなかった事なので、ちょっと動揺してしまう。
他人から見下されるだけだった召使い時代には考えられなかった事だ。
すみれなんてパアァっと表情を輝かせている。
うん。人から認められるのって、嬉しいもんだな。
「それで、剣の腕も逃げ足も劣るリドリィさんがボクたちにどんな力になってくれるっていうんだい?」
トゲのある言い方をするのはイズミ。
彼女が初対面の相手にこういう失礼な態度を取るのは、ある種の心理的な駆け引きの1つなのだと最近になって分かってきた。
もし今後行動を共にする場合、些細な事でキレるような人間では面倒くさい。
そこで敢えてこうした態度を取る事により、相手の人柄をある程度把握しようとしているのだろう。
つまりイズミは、リドリィと今後一緒に行動することを想定しているという事。
言葉とは裏腹に、リドリィのことを高く評価しているとみた。
「随分と手厳しいねえ、お嬢ちゃん。けど、こんなあたしでも案内役くらいはしてあげられるよ? 遺跡がどこにあるのか、どんな危険があるのか。途中に補給地点はあるのか、戦利品はどこで売り捌くと得なのか。冒険に一番必要なのは強さじゃない、知識だ。そしてそうした知識は、自分の足で世界を歩いてみないと身につかないものさ」
イズミの顔に、ニンマリとした笑顔が浮かぶ。
合格、という事だろう。器が広く、論理的で社交的。
遺跡調査の際にはぜひ協力してもらいたい助っ人だと判断したらしい。
「なるほど。君の言う事にも一理あるね。だけどそんな貴重な知識をタダでボクたちに教えてくれるなんて、君は随分とお人好しなんだね?」
だからと言ってすぐに『ぜひ協力してくれ!』とか言い出さないのがイズミだった。
駆け引きというものをよく知っている。
イズミのような子供が都市連合で生きていくには、そうした術も身に付けないといけなかったのだろう。
「あはは、まー実は下心があってさ。1人で冒険家なんてしてると、その、お金がね? 遺跡のお宝にありつければ一攫千金も夢じゃないんだけど、1人だとリスクも大きいわけでさ。そんな時に噂の『アウトサイダー』が遺跡調査を計画してるなんて聞いちゃったらさ、あたしも1枚かませてくれってなるじゃん? 分け前とか欲しいじゃん?」
なるほど。遺跡調査の案内をしてくれる代わりに、戦利品の分け前が欲しいと。
非常に納得のいく話だった。
「そういう事か。分かった。その申し出、有り難く受けさせてもらうよ。ただその前に、ちょっと作りたい防具があってね。遺跡調査はその後で‥‥‥」
「待ってイズミ」
話を進めていたイズミを遮るように、すみれが待ったをかける。
「予定変更よ。シノビシーフで買った設計図の防具を作るのは、遺跡調査の後にしましょう。あまり待たせちゃ悪いもの。‥‥‥それに私も、今の実力が他の冒険家と比べてどれくらいなのか、早く試してみたいわ」
そんなすみれの言葉を受けてイズミは苦笑し、逆にリドリィは表情を明るくした。
「と、まあ聞いての通りさ、リドリィ。君の準備さえ良ければすぐに出発できるけど、どうする?」
「もちろん! すぐに出発しよう!」
「‥‥‥となると寝袋を買ってこないとな。あと食料も最小限しか持ってきてなかったから買い足さないと。テントを作るための布地もあった方がいいな。えーっと、あと必要な物は‥‥‥」
急遽決定した遺跡調査に備えて、俺は必要なものを考えていく。
急に決まったとはいえ、準備はできる限り整えないとな。
「あはは、そっちの男の子はずいぶん慎重なんだね。うん、冒険家としては悪くない傾向さ。それじゃ、道中でそういった買い物ができるルートで行ってみようか」
そう言ってリドリィが示したルートは次のような物だった。
まず目的地はリバース鉱山のすぐ近くを流れる、ウェンドと呼ばれる川の上。
そこに古い町の遺跡があるのだそうだ。
そこへ向かうルートとして、まずドリンに向かう。
そこで食料を買い足して朝を待つ。
次にワールドエンドに向かい、寝袋と布地を購入。
必要なら医療キットもそこで買える。
そこからウェンドの川を泳いで南下、川の途中に掛けられた足場を登ってすぐの場所に目的の遺跡があるそうだ。
俺たちが都市連合へと来た道順をそのまま逆にたどる形になる。
「リバースのこんな近くにも遺跡があったのね。全然知らなかったわ」
「川の途中には面白い店もあるから、退屈しないと思うよ。ドリンでラム酒を買っていけばワールドエンドで高く売れるから、交易にもなる。仮にその遺跡がハズレでも、決して損はしないって寸法さ」
リドリィの説明に俺たちは頷く。
交易で確実に利益が約束されてるってのはいいな。
どう転んでも損がないなら、しっかり準備を整えることができる。
そうしてリドリィを加えた俺たち5人は、最初の中継地であるドリンを目指して歩き出した。
第26話、読んでいただきありがとうございます。長かった下積み時代を終え、いよいよ冒険らしくなってきました。この物語も虐げられるだけの弱者の物語から、力をつけ始めた新米剣士の物語へとシフトしていきます。どうぞ引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。なお作中で言及されているウェンドの河の階段は、undernier氏のmod、Taming the Wend - Giant Stairwayによって追加されたものです。
※行程表
【挿絵表示】
挿絵でマップを表示するアイデアは他の方のkenshi小説からパク‥‥違う、参考にさせて頂きました!