Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第3話 その者、斯く暗躍せり

 私は今日も石を掘る。昨日と変わらず石を掘る。

 

『一緒にここを出よう。必ず成功させるぞ。必ずだ』

 

 寝る前にみことは、確かにそう言った。

 そしてその上で、続けてこう言ったんだ。

 

『ただし、それは今じゃない。とにかく今は寝て、その身体の怪我を少しでも癒しておくんだ。そして起きたら、明日は普段と同じように仕事をする。大丈夫、まっかせて』

 

 何か考えがありそうなその口調からは、自信のようなものが感じられた。

 だから私は今日も、彼の言う通りに仕事をしているという訳だ。

 カン、カンとつるはしの音が響く。

 

「おーい、召使いが倒れたぞー。この前送り込まれた新入りのやつだ」

 

 遠くで歩哨がやりとりしている声が聞こえる。

 別に珍しいことじゃない。

 新入りは体力が続かず、すぐに倒れることも多いのだ。

 しばらくすると、倒れた召使いを肩に担いだ歩哨が走っていくのが見えた。

 まあ、私には関係ない話だ。

 カン、カンとつるはしを振り続ける。

 

「何、また誰か倒れたって? まあ最近暑いからな。熱中症だろう。水を飲ませてやれ」

 

 歩哨が走って行く。

 さっきとは違う召使いがその肩に担がれた。

 私も熱中症には気をつけないとな。

 カン、カンと仕事に精を出す。

 

「おいおい3人目だぞ。今日はやけに倒れる奴が多くないか? どうなってんだか」

 

 歩哨がまた通り過ぎる。

 その肩には、また別の召使いが担がれていた。

 その後も倒れた召使いを担いだ歩哨が、最終的に10人くらい通り過ぎて行った。

 私の周囲だけでこれだから、離れた場所で運ばれた人を含めるともっと多いかもしれない。

 さすがに偶然とは考えにくかった。

 みことが何かしているのだろうけど、一体何をしているのやら。

 やがて日が落ちて、辺りは暗くなり、今日の仕事が終了となる。

 今日は私に難癖をつけてくる歩哨もいなかった。

 まあ、忙しそうだったからな。

 ‥‥‥まさかみことの考えって、歩哨を忙殺させて私を守ろうってこと?

 だとしたら確かにありがたいけど、それって脱走に関係ないような。うーん。

 まあ歩哨が寝入った後で直接聞いてみればいいか。

 早く帰ってご飯を貰おう。

 駆け足で檻に戻っ「待って待って。もうちょっとゆっくり帰ろうよ」て、え?

 後ろから声をかけてきたのは、みこと。

 今までどこで何をしてたんだ。

 彼はことさらにゆっくりと、わざと時間をかけるように歩いていた。

 

「ゆっくりしてる場合じゃないでしょ、みこと。はやく戻らないとご飯、貰い損ねちゃうわ。ただでさえ私、昨日は魚の尻尾しか食べてないのよ?」

「それも考えてあるさ。とにかく歩哨が兵舎に戻るまで、時間を潰したいんだ。歩哨の姿が無くなったら、ちゃんと話すからさ」

 

 だから今は信用して任せて欲しいと、彼はそう言った。

 なので私も、彼に合わせてゆっくり歩く。

 それを追い抜くように、歩哨が傍らを通り抜けて行く。

 仕事の時間はもう終わっているし、檻に向かって歩いている以上、彼らも何も言ってこない。

 ただゆっくり帰路についている、それだけなのだから。

 やがて檻の前に戻ってくる頃には、すっかりひと気が無くなっていた。

 あれだけ走り回っていた歩哨は、全員兵舎で眠りについている。

 起きているのは門番だけだ。

 とは言え門番が起きている限り、私たちは外には出られない。

 

「で、これからどうするつもりなの? そろそろ教えなさいよね」

「ああ、そうだな。まずはこの邪魔な足枷を外そう」

 

 そういうとみことは、自分の足に嵌められた足枷を外して見せた。

 カシャンと、それは最初から鍵なんてついてなかったかのように、あっさりと外れた。

 

「え? え、それ今どうやって」

「ああ。俺は前もって鍵だけ外しておいたんだ。歩哨の目をごまかすために、鍵の外れた足枷をあえて嵌めてただけだし」

「簡単に言うけど! そもそも鍵を外すって、どうやって」

「コツがあるのさ。コツさえ掴めば、割と誰でもできるぜ。ホーリーネイションはテクノロジーを忌避してるからな。アナログで、単純な構造の鍵しか使ってない。だからピッキングで開けることができる」

 

 ほら、ここがこうなってそれがこうで、と鍵の外れた足枷を見せながらその仕組みを教えてくれる。

 なるほど、時間さえかければ、私でもできそうではある。

 

「俺はちょっと他にやることがあってな。悪いけどその足枷は自分で外しておいてくれ。ご飯もちゃんともらってきてやるから、安心しなよ」

 

 そう言うと彼は、歩哨たちの休む建物の1つに近づいて行く。

 足音で彼らを起こしてしまわないように、そろりそろりと慎重に、一歩ずつ。

 何を企んでいるのやら。

 まあ私は、私の役目をこなそう。

 自分の足に嵌められた足枷のピッキングに挑む。

 

 カチャ、カチャ。やはり簡単にはいかない。

 カチャカチャ。なんとなくコツ? が分かってきた気がする。

 カチャカチャカチャ! おかしい、今絶対に開いたと思ったのに!

 カチャカチャカチャカチャ! ああ! 後ちょっと! ほんとに後ちょっとのはずなの!

 ガチャガチャガチャガチャガチャ! よし開いた!

 

「おー、お疲れさん。やっと外せたか。んで喜んでるとこ悪いけど、もう夜明けだぞ」

「え」

 

 気がつくと、空がだんだん明るくなってきていた。

 そろそろ歩哨が起きてくるはず。

 そしてそれは、私たちの仕事の時間を意味していた。

 

「じゃあ、脱走は?」

「今日はもう無理だな。諦めて、明日の夜を待とう」

「そんなあ! やっと、やっとここから出れるって思ったのにい!」

「まあまあ。これ食って落ち着けって。焦って失敗したら、元も子もないだろ?」

 

 そう言ってみことが差し出してきた食べ物は‥‥‥なんだこれ? ほんとに食べ物、なのか?

 

「ブロック型栄養食。俗称でカロリーメイトって呼ばれたりもする。まだ食べたことなかったか?」

 

 みことはそのカロリーメイト? とやらを1口分、私の口元まで持ってくる。

 まあ死ぬほどお腹減ってるから、食糧でさえあるならどんな物だって美味しいはずだ。

 ぱくっとそれに噛り付く。

 

「んんっ! んぅ〜!!」

「いや食いながら喋ろうとしなくていいから。美味かったか?」

 

 こくこく、と首を縦に降って肯定を示す。

 

「そりゃ良かった。盗ってきた甲斐があったな。食べたならそろそろ檻に戻ろう。歩哨が起きてきたら、本格的にヤバい」

 

 こくこく。頷いて素直に檻に戻る。

 あれ、でも今盗ってきたって‥‥‥盗品?

 ‥‥‥ま、いっか。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 そして今日も1日が始まる。

 カンカンというつるはしの音と歩哨の怒号が飛び交う、いつも通りの日常。

 

「サボるんじゃないぞ、もっと急ぐんだ!」

 

 何かと難癖をつけてくる歩哨から、そっと目を逸らす召使い。

 これもいつも通りだ。

 ただ、ちょっとだけ違うとするなら。

 

(なあおい。あの歩哨、なんで裸なんだ?)

(し、知るわけないでしょ。暑かったんじゃないの、きっと)

 

 目を逸らした召使いが、ヒソヒソとそんな会話をしている事。

 そして歩哨の中に、パンツ一丁で仕事をしている者がいる事か。

 まあ歩哨は板金鎧が標準装備だから、この季節は確かに暑そうではある。

 思わず鎧を脱いで仕事をしたとしても不思議ではない。

 ‥‥‥いや不思議だろ。

 無理やり自分を納得させようとしてみたけど、どう考えたっておかしい。

 なんでパンツ一丁なんだ。

 あ、もしかしてみことの仕業?

 昨日の夜、やる事があるって言ってたのはこれのこと?

 だとしても、これは本当に脱走に関係しているのかしら。

 ただ遊んでいるだけのような気が、しないわけでもない。

 

「なあ、さっきから気になってたんだがお前、鎧はどうしたんだ?」

 

 あ、別の歩哨が裸の歩哨に話しかけてる。

 私もずっと気になってたから、盗み聞きさせてもらおう。

 

「ああ、これはな。オクラン様の試練だ。朝起きたら鎧一式がなくなっていたんだが、きっとこれは強靭な精神を鍛えるための、オクラン様の試練に違いない!」

「なっ、なるほど! いいなぁー、羨ましい。俺もオクラン様に試練を授かりたいぜ!」

 

(((んな訳あるかああぁ!!!)))

 

 私と同じように盗み聞きしていた召使いの心の声が、一斉にツッコミを入れたような気がした。

 

「オ、オクラン様の試練‥‥‥! そういうことだったのか!!」

 

 そしてその会話に加わるように現れた、2人目の裸の歩哨!

 信じられる? 2人もいたのよ、裸の歩哨。

 

「実は俺も、朝から鎧がなくてな。訳がわからず、ずっと建物の中に籠ってたんだが、そうか。これは精神を鍛えるための試練なのだな。俺、やるよ! この格好で仕事、やり遂げて見せるよ!」

「ああ、お互いがんばろうぜ!」

「くそう、羨ましいなあ畜生!」

 

 おいオクラン。お前の信者だぞなんとかしろ。




 視点変更の第3話、読んでいただいた方ありがとうございます。今後も時々視点を変えて、みこと以外の視点で物語が語られることがあるかもしれません。Kenshiの世界は登場人物すべてが主人公、視点の数だけ物語が存在するのです。とはいえそう言いつつも次回の第4話では、またみこと視点での物語に戻るのです。
 次回第4話、いよいよこれから脱走劇が始まるわけですが‥‥‥おのれ月曜日、許せん。
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