あっという間にドリンについた。
あれ、この街ってこんなに近かったっけ。
「君たちが歩くのが早いんだよ。さすが、噂どうりの健脚だね。お姉さん、ついて行くので精いっぱいだよ」
ぜーぜーと息を切らしてやってくるリドリィ。
あれ、そんなに急いだつもりはないんだけどな。
イズミが思いついたように言う。
「そっか。ここのところ毎日のように走り回って訓練してたから、知らないうちに脚力がついていたのかもしれないね。明日からはリドリィさんを先頭にして、ペースを合わせて歩こうか」
「ああ。そうしてくれると助かるよ。いやー疲れた。早速酒場で一休みさせてもらおうか」
そう言ってリドリィは酒場へと入っていく。
‥‥‥この酒場で初めて実戦を経験したんだよな、俺とすみれは。
ホーリーネイションの軍勢と。
今にして思えば、ろくに作戦も立てず、まともな武器も防具もない中でよくやったもんだと思う。
作戦の重要性も知らず、武器や防具の価値すら分かってないからこそ、あんな無茶なことができたのだろう。
大怪我だけで済んだのは、かなり運がいい方だったに違いない。
そんな事を思い返しながら、リドリィに続いて酒場の門を潜ると。
「いらっしゃい。‥‥‥おや、あんたたち! 元気そうで何よりだよ!」
「どうも。お久しぶりです」
覚えていてもらえたことにちょっとした嬉しさを感じつつ、店員のおばちゃんに挨拶する。
「そりゃ覚えてるさ。何せ、こんな寂れた町だろ? 客自体がかなり少ないんだ。お客さんの顔は全員覚えてるよ。そっちの子は、もしかしてイズミちゃんかい? 大きくなったねえ」
おばちゃんの視線につられるように、俺たちもイズミの方を見る。
そういえばイズミの故郷はバストだって言ってたっけ。
そして、既に故郷も両親も失ったとも。
「おいおい、その言い方はやめて欲しいな。おばちゃんは、ボクが子供扱いされるのが嫌いなこと知ってるはずだろう?」
「はいはい、そうだったねえ。ごめんねえ、年とると物忘れがひどくてねえ」
「‥‥‥なんか、口調がまるで親戚の子供をあやす時のそれなんだけど」
憮然とした様子で言うイズミだが、おばちゃんは特に意に介した様子もなく続ける。
「イズミちゃんはあたしにとって親戚みたいなもんじゃないか。‥‥‥ごめんねえ、この店の儲けがもっとあれば、あたしがイズミちゃんの世話をする事だってできたんだけどねえ。ほんと、力になってあげられなくて悪いねえ」
「その話は何度も聞いたし、謝らなきゃいけないのはおばちゃんじゃなくてホーリーネイションさ。それに、今は強力なスポンサーも見つかった。何も心配いらないよ」
スポンサー、と言ってイズミが俺とすみれを紹介するように手で示したので、あ、どうもと俺たちは頭を下げる。
どうやら俺が想像してたより、おばちゃんとイズミは深い仲らしいな。
ご近所さんだったとかかな? ちなみにレッドとリドリィは話に全くついてこれないようで、向こうのテーブルで2人で呑み始めていた。
「そうかい、そうかい。まさかあんた達がイズミちゃんとねえ。あたしも店を畳まず、細々とでも続けてて良かったよ。あの時にサケを買い取ったお金が、そんな風に役に立ってたなんてねえ」
「俺たちだって驚いてますよ。おばちゃんとイズミが知り合いだったなんて初耳です」
「みこと、私たちは向こうで呑んでましょ。イズミとおばちゃんにも、つもる話があると思うし」
すみれが俺の袖を引いてそう言う。
そうだな、と俺も頷いてレッドとリドリィに合流した。
イズミはカウンター席でしばらくおばちゃんと話をしているようだ。
そういえば、俺ってイズミのこと、殆ど知らないよな。
研究が大好きな、頭が良くてちょっと生意気な女の子。
俺がイズミについて知っているのはそれくらいだ。
どんな人生を送っていたのかも、なぜ研究が好きなのかも聞いたことがない。
まあ研究が好きな理由は案外、すみれが剣士に憧れるのと同じで、かっこいいからとかそんな理由かもしれないけど。
一夜明けて。
今回は別にホーリーネイションが夜襲をかけてくることもなく、平穏無事に朝を迎えた。
「おはよう。それじゃ朝食を食べたら、早速出発しようか」
リドリィがそう声をかけてくるので、俺は荷物を最終チェックする。
食料はちゃんと買い込んだし、交易用のラム酒も買えるだけ買った。
バックパックの重さも、うん。大丈夫だ。
問題ない重さである。
「うん、大丈夫だ。今日はワールドエンドまで行くんだったかな?」
「いや、ワールドエンドで補給品を買ったら、そのまま遺跡まで進もうと思う。実はウェンドの川は大陸屈指の安全地帯で知られていてね。河の途中にある店でおかしなマネでもしない限り、そうそう危ない目に遭うことはないんだよ。だから、遺跡の直前でテントを張って、明るくなってからすぐに遺跡を調査する。こうすることで、遺跡に危険な敵がいてもすぐに気付けるって寸法さ」
リドリィが言うには、川下りは慣れてないと相当な時間がかかるようで、朝にワールドエンドを出発しても遺跡に着く頃には夜だった、なんてこともあるらしいのだ。
当然、何が潜むか分からない遺跡で夜を迎えるのは良くない。
それで遺跡の直前で一旦キャンプ地を設けるのが安全を確保するコツなんだとか。
なるほど、寝袋はこういう時に便利なんだな。
「となると、ワールドエンドに着いてもあまりのんびりしてられないのか。ちょっと残念だな」
懐かしい知り合いと話せると思ったんだけど。
「それなら帰りにもう一度ワールドエンドに寄って、その時にするといいんじゃない? 遺跡で見つけたお宝は、テックハンターの街で売ると高値がつくことが多いからね。遺跡での武勇伝を土産話に聞かせてやれば、あの町の住人なら喜ぶと思うよ」
そう言って、リドリィは朝食のドライミートを頬張った。
俺たちもそれに倣って、それぞれ食事を摂るのだが‥‥‥あれ。
イズミとレッドの姿が見当たらない。
けどベッドにもいなかったから、少なくとも俺より先に起きてるはずなんだけどな。
リドリィやすみれに聞いてみても、今朝は見かけてないらしい。
散歩に出かけてるだけなら良いのだけど。
もう少し待ってみて、戻ってこないようなら探してみるか。
俺はおばちゃんに追加のドリンクを注文して時間をつぶす。
「‥‥‥なんか、ずいぶん落ち着いてるね? 普通、仲間が姿を消したらもっと慌てるんじゃないの? この辺には人攫いとか、あとカニバルとかもいるんだよ?」
リドリィが不思議そうな顔をしながらそんな事を聞いてくる。
ひょっとしてリドリィが危険を承知でソロでの冒険を続ける理由って、仲間がいると守れなかった時に後悔するとか、そんな理由だったりするのだろうか。
「まあ可能性はあるけど、そんなに心配しなくていいと思うぞ。この街は侍が守ってるし、物音ひとつ立てずにあの2人を誘拐できるヤツがいるとは思えないし」
「そうね。2人とも、自分の身に危険が迫ってる時に大人しくしてるような性格じゃないものね。私もきっと散歩か何かだと思うわ」
そう言ってすみれも同意する。
そうしてしばらく時間を潰していると、バーの扉が開いてイズミたちが戻ってきた。
「おっと、もう皆起きてたんだね。おはよう。もしかして待たせちゃったかい?」
「いや、ほんの少しさ。ところでイズミ、朝からどこに行ってたんだ?」
俺が尋ねると、イズミは街の外に視線を向けて答える。
「‥‥‥お墓参りさ。ボクの両親のね。さあ、みんな揃った事だし、そろそろ出発しようか」
次の目的地、ワールドエンドに。
そしてその先の遺跡へ。
遠くを見つめながら、イズミはそう言った。
第27話、読んで頂いてありがとうございます。次回はイズミちゃんが主人公です。お楽しみに!