Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第29話 アーマーキング

 テックハンターの街、ワールドエンド。

 高い山の頂上付近にその街はある。

 

「ずいぶん久しぶりな気がするわね、この街も」

「ああ。懐かしいな」

 

 すみれと笑い合って、ラム酒を換金する為に近くの酒場へ。

 そこにイズミが聞いてくる。

 

「ねえねえ、サイエンス本部ってのはどっちだい? イヨさんって人にボクも会ってみたいんだけど」

 

 えーっと、この街の奥の‥‥‥そう言ってサイエンス本部の場所を指で指そうとしたところ、リドリィが割って入る。

 

「今日は急いで遺跡まで進むって話したじゃないか。観光は帰りに‥‥‥って、ああそうか。朝はイズミはいなかったっけ。ええと、今日の予定をもう一度確認すると‥‥‥」

 

 今朝俺とすみれに話した予定を、イズミとレッドにもう1度説明するリドリィ。

 彼女が説明してくれている間に、俺たちはラム酒を換金することにする。

 

「よう! あんたらかい。久しぶりだな。都市連合ではうまくやってんのかい?」

「ああ。見ての通りさ」

 

 そう言って俺は横目でチラッとイズミたちに視線を流す。

 なるほど、うまくやってるみてえだなと酒場のマスターは納得したように頷いた。

 

「今日はこのあとすぐにウェンドの河を下って遺跡に向かう予定なんだ。土産話、期待しててくれ」

「ははっ、そうかそうか。ずいぶん頼もしくなったじゃねえか。ただ、くれぐれも無理だけはするんじゃねえぞ。ま、分かってるとは思うがな」

 

 酒場のマスターに礼を言い、寝袋と応急キットを買い足してイズミたちに合流する。

 着いたばかりのワールドエンドの街に別れを告げて、南へ。

 森を抜け、しとしとと雨が降り続く地域に出る。

 このまま南へ進めばモールさんの避難小屋、小屋の手前から東に見えてくる川がウェンドだ。

 ‥‥‥モールさん、きっと相変わらずなんだろうな。

 俺たちはウェンドの川へ入り、泳いで川を下る。

 船なんてものはない。

 最初は泳ぎ方が分からず、ちっとも前に進めなかったが、割とすぐにコツを掴んでそれなりに泳げるようになった。

 俺たちの中で一番飲み込みが早かったのがイズミだ。

 

「なるほど、力任せに泳ぐんじゃなく、水圧の差を利用するんだね。水をかき分けることによって生まれる水圧の変化、そこに生まれる水流にうまく体を乗せてやれば‥‥‥」

 

 イズミの言ってる言葉の意味はよく分からなかったが、その泳ぎ方をマネすれば速く泳げるのは分かったのでマネして泳ぐ。

 そうして泳ぐうちに、川に沈んだ数件の建物が見えてきた。

 

「おっ、見えてきたね。あれがアーマーキングのお店だよ」

 

 川に沈んだ建物を見ながらリドリィがそう言うのだが‥‥‥いやいや、流石に冗談だよな?

 だってどう見ても廃墟だぞ?

 それにここ、川の中だよ?

 こんな場所で商売なんか成り立つわけがないじゃないか。

 そう思ってリドリィの顔を振り返ってみるも、彼女は至って真面目だった。

 笑えばいいのか呆れればいいのか‥‥‥とにかく俺たちはどうリアクションすればいいのか分からないまま、その建物に辿り着く。

 近づいてよく見てみると、その建物は完全に水没しているわけではなく、入口だけはかろうじて水面の上に顔を出していた。

 ちなみに建物全体は30°ほど傾いているので、入り口が顔を出していると言っても大半が水に沈んでいるのは変わらない。

 うん、やっぱりどう考えてもおかしい。

 いやもう、考えるまでもなくおかしい。

 そんな建物にリドリィは平然と入っていき。

 

「よう。元気してたかい、アーマーキング?」

「おや、久しぶりじゃないか。この通りピンピンしてるよ、リドリィ」

 

 ‥‥‥店員らしき人物と普通に会話していた。

 あまりに普通に会話してるので俺の感性の方がズレてるんじゃないかと不安になってくるが、俺間違ってないよね?

 普通、川に沈んだ建物で商売なんてしないよね?

 あれ、なんか以前にも似たような感想を抱いた気がするぞ。

 あれは確か‥‥‥そうだ、避難小屋で樽の底からメモが出てきた時だ。

 詳しくは第12話参照。

 

「何ぼーっとしてるの? 早く中に入ったら?」

「あ、ああ」

 

 リドリィに促されて店(?)の中に踏み込む。

 店内は想像してたよりは綺麗だった。

 別にあちこちに物が散乱している、という訳ではなく、一応整理されてまとめられていたし、川の水が内部にまで浸水していることもなかった。

 そして店員を務める、アーマーキングと名乗る人物は。

 

「あっ、スケルトンだ!!」

 

 すみれが指を指して声をあげる。

 イヨさんと同じ、機械でできた種族。

 

「いかにもスケルトンだが、できれば名前で読んで欲しいものだね。私にはアーマーキングという名があるのだから。そうだろう、人間?」

 

 憮然とした様子で指を指されたアーマーキングが言う。

 いや表情が変わらないので憮然としてるかどうかは分かりづらいんだけど。

 でも、やっぱり機械でもちゃんと感情はあるんだな。少なくとも呼び名を気にする程度には。

 

「あ‥‥‥そうね、失礼だったわね。私はすみれ。このお店では何を売っているの?」

「そりゃもちろんアーマーさ。アーマーキングのお店だからね」

 

 アーマー、つまり防具。

 興味をそそられて、俺もショーケースを覗き見る。

 防具店と店主は言うけど、防具だけでなく武器も色々置いてある。

 装備品全般を取り扱っているらしい。

 並んでいる防具は高品質等級と熟練等級が大半を占め、あとは少数の傑作等級がいくつか。

 革防具ならすみれでも作れるが、ここでは鉄製の鎧や鎖帷子も並んでおり、どれも頑丈そうだ。

 ‥‥‥ただまあ、鉄製の鎧はちょっと重いというか、正直リバースを脱出した直後の頃を思い出すのであまり着たくないというか。

 ‥‥‥いや、いい防具だよ?

 正規兵の鎧がほぼ鉄製であることからも分かるように、防具として優秀なのは分かるんだ。

 ただ、どうしても空腹で倒れそうになりながら歩き回ったあの頃の記憶がね、うん。

 すみれも同じ気持ちなのか、若干苦笑いを浮かべながらショーケースを覗いていた。

 

「おや、お気に召さなかったかい? これほどの防具を扱う店は、大陸中探したって他にないと思うけどね?」

 

 アーマーキングの言葉を受けて、レッドが答える。

 

「品自体はいいと思うんだが、流石に高すぎるって。これじゃ手が出せねーよ」

 

 レッドが言うように、鉄製鎧を除いて革鎧に絞って考えても、値段がやはりネックだった。

 高品質までならすみれでも作れるので、買うとするなら熟練等級か傑作等級が候補に上がるのだが、そのどちらもやたら高いのだ。

 鍛冶で稼いでいる俺たちでさえ高いと感じるのだから、普通の冒険家ならまず手が出せないはずだ。

 この店で売っている防具を手に入れようと思えば、それこそ本格的に商売をしている商人か、あるいは。

 ‥‥‥ふと俺の脳裏にシノビシーフギルドのメンバー達の顔がよぎる。

 盗みを生業にしているシノビシーフたち。

 店内に意識を戻せば、やたら強そうな警備スケルトン。

 ‥‥‥なるほど。

 もしかしてこの店が川の中にあるのって、「盗っ人は決して生かして返さんけえの! ぐわははは!」的な意味合いだったりするのだろうか。

 

「そうか、それは残念だ。‥‥‥けど手が出ないからといって、盗みに走ったりはしないでおくれよ。ここの警備兵は普段は無害だが、盗人に対しては‥‥‥ふふふふふ」

 

 意味深な言葉と共に不敵に笑うアーマーキングさん。

 俺の想像が半分以上当たってて逆に驚いた。

 むしろそこは外れていて欲しかったぜ。

 盗めるもんなら盗んでみろと挑発されているようでもある。

 

「ね? 面白いお店でしょ」

「あ、ああ。そうだな」

 

 リドリィの言葉に、俺は曖昧に頷くことしかできない。

 ホーリーネイションでスケルトンが悪魔として一方的に迫害されてるの、理不尽だと思ってたんだけど‥‥‥もしもアーマーキングさんみたいな人が街中で商売してたら、そりゃ追い出したくもなるだろうな。

 差別の始まりなんて、案外そんなものなのかもしれない。

 ウィンドウショッピングを一通り楽しんでから、俺たちは再び遺跡へと進む。

 アーマーキングのお店のすぐそばにある浅瀬から崖の上まで足場が組まれており、その足場を登れば目的地の遺跡が目の前に広がる事になる。

 今日はもうすっかり暗くなっていたので、足場の近くの浅瀬にテントを張って一休みすることにした。

 明日はようやく遺跡探索だ。




 第29話まで読んで頂き、ありがとうございます。Kenshiのゲームをやっていると、自分の信じていた常識を根本から覆されることがよくあります。アーマーキングさんのお店もその1つ。これは個人的な考察なのですが、これから訪れる遺跡って地理的にはホーリーネイション領なんですよね。にも関わらず、そこに古代の科学書が残されている。そしてアーマーキングさんは元々そこで商売していた。‥‥‥ひょっとして昔のホーリーネイションには差別なんてなくて、科学を忌避してもいなかったのでは。そんなことをひっそり考察するのも楽しいんですよね。ああ妄想が止まらない。
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