Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第31話 手合わせ

 遺跡を後にした私達4人は、チャプチャプと水をかき分けながら川を北上していく。

 リドリィは陸路で南に向かったようだ。

 無事だといいな。

 やがて川を泳ぎ切ろうというところで、魚の焼ける香ばしい匂いが漂ってきた。

 魚の良い香りに釣られてみれば、そこには川に向かって釣り竿を垂らす女性の姿。

 っていうかモールさんじゃないの、あれ。

 

「あれ、モールさん? 何してるの?」

「あら久しぶり、すみれちゃん。ふふん、何だと思う?」

 

 そう言いながら釣り竿をクイクイと引っ張ってみせるモールさん。

 

「‥‥‥魚釣り?」

 

 川から陸に上がり、濡れた服を絞りながらモールさんに歩み寄る。

 バケツの中で、新鮮な魚が泳いでいた。

 

「そう! 私は考えたの。なぜ避難小屋が誰にも使ってもらえないのか。そしてついに1つの答えに辿り着いたわ。それはズバリ、鮮度よ!」

 

「鮮度ですか」

 

 ああ、この人絶対に何か間違えてるなーと感じながらも、とりあえず話は聞いてみる。

 

「ええ。集落からこの小屋までお酒や食料を運んでいては、どうしても運んでいる途中で鮮度は落ちるわ。リバース鉱山を脱出した召使いさんが外の世界に溢れんばかりの期待を抱いて、ついに見つけた避難小屋。けどそこに用意されていた食事が、鮮度の落ちたイマイチな料理ばかりだとしたらどう? きっとその召使いさんはがっかりして、こんなボロ小屋には用はないとばかりに行ってしまうに違いないわ!」

 

 そんなことは無いと思う。

 私はめっちゃ喜んだし。

 けど突っ込んでも無駄なんだろうなあ。

 モールさんの話はさらに続く。

 

「だからこそ私は、ここで釣れた魚を小屋に並べることにしたのよ。集落から運ぶんじゃなく、ここで釣ってその場で焼く! 見てみて、このまま刺身にしても食べられそうな新鮮なお魚を! そして辺りに広がるこの香ばしい香り! お腹を空かせた召使いさんが、この香りを無視できるはずがないわ。これなら、今度こそ必ず使ってもらえるはず!」

「‥‥‥わー、すごいなー」

 

 モールさんは一体何と戦ってるんだろう。

 そんな風に私が呆れていると、レッドが隣に寄ってきて尋ねてくる。

 

「‥‥‥なあ、今モールさんって呼んでたけど、この人がモールさん? 浮浪忍者の?」

「うん。っていうかレッド、モールさんのこと知ってるの?」

「そりゃ知ってるよ。親父から何度か聞かされたもん。けどなんつーか、聞いてた話とだいぶ違うっつーか」

 

 レッドの言葉に、みことが首を傾げる。

 

「レッドの親父って言うと、セタだよな。一体どんな風に聞かされてたんだ?」

 

 みことがそう聞き返すと、「ん、セタ?」とモールさん。

 そういえば浮浪忍者はホーリーネイションから迫害された人の集まりだって言うし、上級審問官セタはいわば宿敵みたいなものになるのね。

 名前を出したのは失敗だったかな。

 

「ええと、確かいくつもの犯罪を重ねる極悪人で、多額の懸賞金もかかってるとかなんとか。まあ子供の頃に聞いた話だし、そこまで詳しいわけじゃねーけどよ」

「えっ、そうなの!? 懸賞金って、いくらくらい?」

 

 そう聞き返すと、モールさんは手をパーに広げて「これくらい」と言ってみせた。

 5万cat、ということか。

 この前倒した反乱農民の男が大体2,500catだったから、それのおよそ20倍ってことになる。すごい。

 

「ああ、そっか。すみれちゃん、今はバウンティハンターになったんだもんね。よしっ、どれくらい腕をあげたか、お姉さんが見てあげよう!」

 

 モールさんはそういうと、小刀を取り出して構えてみせる。

 

「って、いいの? 私の武器、一応真剣だし、寸止めとかもまだ出来ないんだけど‥‥‥」

 

 そう言いながらも、私もまた、狐太刀を抜いて構える。

 モールさんと戦える。

 そのことに、自分でも不思議なくらいワクワクしていた。

 ある程度自信がついてくると、どうしても試したくなる。

 今の自分がどれくらいなのか。

 自分の全力がどれくらい通用するのか。

 

「うん、へーきへーき。当たるわけないから、全力で打ち込んでいいよー」

 

 ‥‥‥‥‥。

 ちょっとムカついた。

 よし全力でいってやる!

 モールさんに悪気はないんだろうけど、ナメられるのって結構ムカつくのね。

 

「なら、遠慮なくっ! とうあっ!」

 

 上段に刀を振りかぶり、駆け寄りざまに振り下ろす。

 加速の勢いと体重を加味した全力の振り下ろし。

 モールさんはそれに対して小刀で受けの姿勢をとるけど、構わない。

 そんな小刀ごと叩き切るつもりで力一杯振り下ろした。

 ガキンッ、と金属音が響き、鍔迫り合いの体勢になる。

 叩き切ることはできなかったか。

 けど、まだここからだ。

 グッと刀を押し込む。

 

「ふうん。すみれちゃん、集落にいた時と比べて、ちょっと荒れた?」

「‥‥‥そうかな。あまり自覚はないけど、そうなのかも」

「うん。人を斬って、変わったんだね」

「!」

 

 動揺。

 それが刀を通して伝わり、バレる。来るっ!

 私は刀を押し込むのをやめ、全力で後方に飛び下がる。

 刹那の後、目の前をモールさんの小刀が掠め、前髪を数本もっていかれた。

 ‥‥‥ギリギリでかわせたのか、それとも最初から前髪だけを狙った斬撃だったのか。

 認めたく無いけど、モールさんの余裕のある表情からして後者か。

 距離をとって構え直す。

 

「とはいえ、悪い変化ってわけでもないわね。むしろ剣士として成長できてるとも言えるわ」

「ちょ、卑怯よモールさん! そうやって言葉で動揺を誘うのはっ!」

 

 私はそう抗議するものの、モールさんは何言ってんだこいつ、みたいな顔で。

 

「戦いに卑怯も何もないわよ。口八丁手八丁、勝つために使えるものは何でも使う。すみれちゃんは戦場で相手に対して、今のは卑怯だから無しーとか言う気なのかしら?」

「くっ」

 

 確かにモールさんの言う通りだ。

 相手がいつでも正々堂々と戦ってくれるとは限らない。

 私は正々堂々と誇れる勝ち方をしたいけれど、相手も同じ考えとは限らないのだから。

 

「ふ、ふんっ。けど同じ手にはもう乗らないわよ。もう1度っ!」

 

 再び上段に構えて、先程と同じように駆ける。

 今度はモールさんは受けの姿勢を取ることなく、こちらに駆けてきた。

 すれ違いざまのカウンターを狙うつもりだろうか。

 けど刀のリーチはこっちの方が長い。

 相手の間合いに入る前に振り下ろせば!

 

「とうっ!」

 

 全力で狐太刀を振り下ろす。

 が、届かない!?

 モールさん、狐太刀の間合いに入るほんの1cm手前で、地面に足を食い込ませるような急ブレーキをかけた!

 私の狐太刀は空振りして、その勢いに引っ張られてつんのめるように姿勢を崩す。

 

「さっきも思ったんだけど、力で斬ろうとしすぎ。刀は力で斬るんじゃなく、技で斬る武器よ」

 

 言いながら、モールさんが私の後頭部を小刀の柄でコツンと叩く。

 たいして強い力ではなかったものの、すでにバランスを崩していた私はそれだけで見事にすっ転んだ。

 

「うーん。まだまだかな。30点」

 

 割と辛辣な評価を下しながら、モールさんは小刀を鞘に収めたのだった。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「うーん。反乱農民の部隊にも勝って、遺跡も攻略して、結構自信はついてたんだけどね」

 

 起き上がって、服についた砂を払いながら呟く。

 結構強くなったと思ってたけど、30点かあ。

 大陸最強への道は遠いなあ。

 

「そうね。実際、強くなってるよ。思ってたよりも成長が早くて、ちょっと驚いたもん」

 

 モールさんはそう言ってくれるが、思ったよりも成長が早くて、それで30点かあ。

 集落にいた頃は何点だったんだろう。

 3点くらいかな。

 

「あ、そうだ。話は変わるんだけどさ。すみれちゃん、今日は集落に泊まって行かない? 久しぶりに皆会いたがってると思うから」

「え、いいの? あまり集落の場所は知られたくないんじゃ‥‥‥」

 

 レッドとイズミの方に視線を向けながら答える。

 

「うん。すみれちゃんとみことくんの友達なら、まあ信用していいかなーって。それに凶悪犯のイメージも払拭しておきたいしね」

 

 モールさんから視線を向けられたレッドは、少し気まずそうに視線を逸らして。

 

「あ、あはは‥‥‥なんか悪ぃな、オレの親父がおかしなことばっか言いふらしてるせいで」

 

 そんな言い訳めいたことを呟いていた。




 第31話まで読んでいただき、ありがとうございます。

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