Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第35話 2人の絆

「ど、どうよっ、ざっとこんなものね」

 

 ゼーゼーと息を切らせながら、斬り伏せた数十匹のカニバルを見下ろす。

 ‥‥‥カニバルの数え方って『匹』でいいのよね?

 少なくともこいつらを『人』で数える気にはなれない。

 見た目はヒトでも、人喰いの化け物共だし。

 

「ふっ、口ほどにもない、奴らだったぜ」

 

 同じく肩で息をしながら、殴り倒したカニバルを見下ろすみこと。

 私の八つ当たりに付き合わせてしまったので、ちょっぴり申し訳ない。

 

「さすがっス、兄貴! あれだけの数を相手に、たった2人で勝っちまうなんて驚きやした!」

 

 そして私たちを称賛する、飢えた野盗の皆さん。

 デートの邪魔ばかりして目障りなんだけど‥‥‥でもまあ、こいつらも実は結構役に立ってたのよね。主に囮として。

 私はともかく、みことは囲まれると途端に弱くなる傾向があるのだけど、今回はこの野盗達が囮としてカニバルを引きつけてくれたお陰でかなり有利に立ち回ることができた。

 

「あなた達も、お疲れ様。助かったわ。‥‥‥怪我、見せてよ。治療しておくから」

「や、そんな‥‥‥俺たちはいいっスよ! お気遣いなく!」

「うるさいわね。練習台になれって言ってるの。黙って傷を見せなさい」

 

 ごちゃごちゃ言ってる野盗を黙らせて、その傷口に包帯を巻いていく。

 うん、ここまで全身ぼろぼろにやられてくれると、練習のしがいがあるわね。

 途中で包帯が足りなくなったので、カニバルが持ってた包帯を奪い取ってまた巻いていく。

 心臓から遠い方から順番に。

 キツすぎず、緩すぎず。

 転がすようにコロコロと。

 

「あ、あの‥‥‥お上手っスね、包帯。お医者さまか何かで?」

 

 私の包帯の巻き方を見て、野盗が褒めてくれる。

 イズミから教わった通りにやってるだけなんだけど、褒められるのは気分がいい。

 

「医者なんかじゃないわ。ただの賞金稼ぎよ。‥‥‥野盗のクセにどこからも賞金かけられてないなんて、あなた達も運がいいわね。賞金さえ掛かってたら、迷うことなく斬ってたのに」

 

 冗談のつもりでそう言うと、野盗は引き攣った笑顔で曖昧に笑ってた。

 私の冗談は、だいたいスベる。

 多分、冗談になっていないからかもしれない。

 

「し、賞金稼ぎっスか。さ、さすがだなあー。てことは、もう何人も悪人どもをバッサバッサと斬ってきたんで?」

「ええまあ。なるべく命までは奪わないように心掛けてはいるけどね」

 

 心掛けてはいる。

 けど、徹底はできていない。

 真剣を使って斬り合っているのだから、そりゃあ事故だってある。

 ‥‥‥うん。そりゃあ、あるのだ。

 ふと、私の愛刀『狐太刀』に目を向ける。

 ついさっきカニバルを斬り伏せたその刃は、月の光を受けて妖しく輝いていた。

 美しい刀だと思う。

 武器屋で見かけて一目惚れし、みことが打ってくれたことで愛刀となった、それ。

 美しいだけでなく、しっかりと人を殺せる刃を備えた、その刀。

 みことはどんな思いでこの刀を打っていたのだろうと、そんな事がふと気になった。

 刀には鍛冶師の魂が宿る。

 そんな話をどこかで聞いた気がする。

 もしそうなら、みことはこの『狐太刀』にどんな想いを込めたのか。

 狐太刀の柄を握り、そんな事を考える。

 

「ちょ、ちょ、ちょっと! そんな憑かれたような瞳でギラギラ光る刀握らないで欲しいっス! マジでシャレになってねえっス!!」

「あ、ごめん。‥‥‥うん、ほんとゴメン」

 

 真っ青な表情で怯える野盗に謝る。

 確かに今の状況とさっきの冗談を合わせれば、怯えてしまうのも無理ないかもしれない。

 そんなつもりじゃなかったのだけど。

 

「‥‥‥ねえ、みこと。なるべく命までは奪わないようにって、みことの方針だったわよね?」

「ん、ああ。甘い考えだとは自分でも思うんだけどな。けど俺は‥‥‥やっぱり、そういうのは嫌なんだよ」

「そうね。みことはそういう人だって知ってるわ。けど、だからこそ不思議なの。そんなみことが、どうしてこれほどの刀を打てたのか。みことが、『狐太刀』にどんな想いを込めたのか」

 

 分からないことは、直接聞いてみるのが手っ取り早い。

 みことは、少し考えるようにしてから。

 

「んー、そう言われてもなあ。『狐太刀』を打ってる時は、すみれの事しか考えてないぞ」

「え、わ、私のこと?」

 

 それはどういう意味だろう。

 私がバッサバッサと人を斬りまくってるところを想像しながら刀を打ってるってことだろうか。

 ‥‥‥それはちょっと、というかかなりフクザツだ。

 

「え、いや驚かなくても。刀を打つときに使い手のこと考えるのは普通だと思うぞ? これ受け取ったら喜んでくれるかなーとかさ。いつだったか、すみれだって俺のためにチョコレート作ってくれたじゃん。本質的にはその気持ちと同じだと思うぞ?」

 

 チョコレートと刀が同じかあ。

 そんなわけないだろ、という気持ちが半分と、ああ、みことらしいなという気持ちが半分。

 そっか。私のことだけを考えて打った刀だから。

 だからこんなにも手に馴染むんだ。

 ‥‥‥ずっとみことの気持ちを信じることができずに怯えていた自分が、バカみたいだ。

 言葉にされなくても、彼の気持ちは『ここ』にずっとあったのに。

 

「それと、大鎌を打ってる時はレッドの事しか考えてないぜ」

 

 ‥‥‥うん、まあそうなんだろうけど。

 そうなんだろうけど!

 それは今は言わなくていいじゃない。

 ホント、女心の分からないヤツ。

 まあ私だって男心が分かってるのかと聞かれたらあまり自信はないので、お互い様なのかもしれない。

 ‥‥‥男心、ねえ。こっちも直接みことに聞いてみるか。

 それが手っ取り早い。

 

「みことは私のこと、好き?」

「あ、ああ。そりゃあ‥‥‥」

 

 コホン、と一度咳払いして。

 キリッ! と頑張ってカッコいい表情を作りながら。

 

「‥‥‥好きだぜ、すみれ!」

 

 精一杯男らしくそう言ってくれるのだけど、そのみことの顔が真っ赤にほてっているせいでつい笑ってしまいそうになる。

 いやいや、笑うところじゃないな、ここは。

 私は笑いを堪える代わりに、ニコリと柔和に微笑んでおいた。

 

「うん。ありがとう」

 

 みことが真っ赤にほてったまま『ふっ、決まったな』みたいな表情で満足そうにしているので、私からはあえて何も言うまい。

 可愛いやつめ。

 なお盗賊達は背を向けて、こちらを見ないように頑張っていた。

 きっとみこと視点では、私たちに気を使って目を逸らしてくれている、という風に見えているのだろう。

 うんそれでいいや。

 盗賊達の肩が小刻みに震えているけど、辺りはすっかり暗くなっているので意識しないと分からないと思う。

 

「それで、その‥‥‥みことは私の、どんな所が好き?」

「どんなって、そりゃあ、その‥‥‥顔とか可愛いし」

「うん」

「‥‥‥そう、可愛いし」

「‥‥‥うん?」

 

 え、顔だけ?

 私、顔だけなの?

 他に惚れる要素ないの?

 いや自分でもそんな気はしてたけど、そうはっきりと現実を突きつけられると流石にショックというか。

 

「い、いや違うぞ! そうじゃないんだ! ただ急に聞かれても咄嗟に言葉にならないってだけで‥‥‥とにかく、すみれが思ってるような、そんなんじゃないんだって!」

 

 慌てて言い繕うみことだが、正直言い訳にしか聞こえない。

 

「そんなわけあるかっ! 私だったらみことの良いところ、スラスラと10個は言えるもんっ! やっぱり私なんて魅力ないんだああぁあ!!」

「い、いやそんな事ないっ! お、おい盗賊っ、お前らもなんか言えっ! こら、急にそそくさと立ち去ろうとするんじゃねえっ!」

「いーもん、分かってたもん‥‥‥私みたいな刀振り回してる荒れた人斬りなんて、女としての魅力ゼロだもん‥‥‥」

「だからっ、あーもう。こーなったら!」

「な」

 

 何を、という言葉が出かかるも、言葉として発する前に私の口は塞がれた。

 みことは力強く私を抱き寄せ、キスをした。

 ‥‥‥キス、された。

 驚いて上半身をのけ反るように逃げようとするも、逃げられない。

 みことの左腕が私の後頭部をガッチリと抱きしめて。

 ああ、みことってこんなに力強かったんだな、なんて場違いな感想が浮かんだ。

 

「‥‥‥‥‥」

 

 どれくらい、そうしていただろう。

 10秒くらいだったような気もするし、10分くらいだったような気もする。

 時間の感覚がひどく曖昧だ。

 分かるのは、心臓が早鐘のようにドキドキしてること。

 そして、唇に残るみことの感触。

 

「‥‥‥魅力がなきゃ、こんなことするわけねーだろ」

 

 そういうみことが今どんな表情をしているのか、私には分からない。

 まともに彼の顔を見ることができなかった。

 

「俺、バカだからさ。咄嗟に気の利いたこととか言えなくて。それで不安にさせて、悪いと思ってる。ごめん」

「‥‥‥‥‥」

 

 私の方こそ、ごめん。

 信じてあげられなくて。

 心の中でそう呟く。

 できれば声に出して伝えたかったけど、今口を開けば「うにゃあああ!」とか「わひゃあああ!」みたいな奇声しか飛び出しそうになかった。

 

「でも、俺は。すみれが好きだ。だからもう『私なんて』とか『私みたいな』なんて、言わないで欲しい。すみれは俺の、自慢の彼女なんだから」

 

 ぎゅっと。

 みことの腕が私を抱きしめた。

 もう1度キスするのかな、って一瞬思ったけど、そんなことはなく。

 ただ抱きしめられただけだった。

 だから。

 

「みこと」

 

 今度は私から、彼の唇にキスをした。




 第35話、読んでいただきありがとうございます。すみれとみことの恋愛パート、これにてひと段落です。次回はレッド視点。どうぞお楽しみに。
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