第37話 喪失
ストーンキャンプが壊滅した。
こういう事は、たまにあるらしい。
奴隷商とは、とにかく恨みを買いやすい職業だ。
奴隷商のキャンプがいつ誰に襲われたって不思議じゃないと、イズミが話してくれた。
例えば反乱農民。
彼らは自分より裕福な者を妬み、嫉み、恨んでいる。
チャンスさえあれば、奴隷商の施設に襲いかかるくらいは平気でやってのけるだろう。
例えば風魔忍者。
彼らは弱者の味方を自称している新興勢力だ。1
0人の奴隷を解放する為なら、20人の奴隷商を平気で殺してみせるだろう。
例えば反奴隷主義者。
彼らの考えは実にシンプルだ。
ただ奴隷制度が気に入らない。
だから殺す。
そういう単純明快な思考をする連中だ。
‥‥‥そういった連中が暴力を振りかざし、奴隷商の施設を襲撃するのは珍しい事じゃない。
頭では分かってるんだ。
理解している。
でも。
それでも。
納得する事なんて、出来なかった。
鉄板を買いに来ると、いつも愛想良く出迎えてくれた。
買い出しの道中でスキマーに襲われたりすると、仲間の奴隷商を集めて総出で守りに来てくれた。
そんな奴隷商の店員さん。
名前すら知らない彼の遺体は、ズタズタに引き裂かれて砂の上に転がっていた。
誰にも埋葬される事なく。
「一体、何があったんだろうな‥‥‥どうしてこんな事に」
どうして、と口にしながらも、その答えはなんとなく想像がついた。
別に難しい話じゃない。
彼らが嫌われ者だったからだ。
彼らが奴隷商だから。
奴隷商は嫌いだから。
きっとそんな単純で分かりやすい理由で襲われたのだろう。
「‥‥‥俺が初めてあの店員さんに会った時、あの人、こう言ってたんだ。こんな砂漠の中で都市連合が国としての体裁を保てているのは、俺たちのおかげなんだぜって。あの時はただの軽口だと思ってたけど、案外本気で国の未来を考えてたのかもな。大量の鉄板の使い道を聞かれた時、俺が鍛冶師を目指してるって伝えたらさ。あの人、すごく応援してくれたんだよ」
そして、購入した鉄板で鍛え上げた刀を見せると、大したもんだと感心して、まるで自分のことのように嬉しそうにしていた。
「‥‥‥埋葬してあげよっか。ボクもこの人には、世話になってたんだ。色々相談に乗ってもらったりして。だから、せめて弔ってあげたい」
「そうだな」
イズミの言葉に頷き、スコップで穴を掘る。
すみれとレッドも、何も言わずに手伝ってくれた。
「せめて、どうか安らかに」
砂を盛っただけの簡単な墓の前で、俺たちは手を合わせた。
さて。
これからどうしようかな。
元々俺たちがショーバタイに住むようになったのは、このストーンキャンプが近くにあったからだ。
それがなくなった今、ショーバタイに住み続けるメリットはない。
鉄板の仕入れ先がなくなった以上、鍛冶の修行を続けることはできないわけで、そうなると作った武器を売って得ていた収入もなくなる。
そのことを皆に相談すると。
「収入なら、賞金首を捕まえればいいじゃない。だって私たち、バウンティハンターなんだから」
狐太刀の柄を握り、すみれが言った。
「このストーンキャンプを襲ったのが誰なのか、私には分からないわ。反乱農民なのか、風魔忍者なのか、それとも反奴隷主義者なのか。けれど、誰だって同じよ。みんな賞金首には変わりないわ。だったら斬ればいい。バウンティハンターとして」
すみれが狐太刀を鞘から抜く、と同時に斬った。
居合という技らしい。何もない空間への素振り。
何も斬ってないはずなのに、何かを斬ったと思わせるような迫力のある一閃だった。
「‥‥‥私の刀は、斬れるかしらね。反乱農民を。風魔忍者を。そして、反奴隷主義者を」
狐太刀を鞘に戻しながら、呟くように尋ねるすみれ。
‥‥‥正直、どうだろう。
反乱農民なら、どうにか相手になると思う。
けど残りの2つは厳しいんじゃないだろうか。
噂でしか知らないが、相当の手練れが揃っていると聞く。
そう伝えると。
「そう。だったらもっと強くならないとね、仇を打つためにも。‥‥‥よく知る人を失うのって、こんなにも辛いことなのね」
仇打ち。
その気持ちは俺にも分かるが‥‥‥誰が仇か分からないのに、それっぽいのを全員斬るというのは、ちょっと違うんじゃないだろうか。
どう声をかけたものか俺が迷っていると、イズミが言う。
「‥‥‥まあ仇打ちについては置いといて。収入の為に賞金首を狩るのは賛成だよ。この都市連合は、稼げない者は生きていけない。その過程で自然と強さも身に付くんじゃないかな」
「そうだなっ、とりあえず帰って飯にしようぜ!今日もオレが美味い飯作ってやるからさっ!」
レッドもそう言い、今日はとりあえずショーバタイに帰ることになった。
「‥‥‥する事がないな」
ショーバタイの自宅に戻って。
いつもなら食事の後は日課となった鍛冶の修行に精をだすところだが、あいにく鉄板がない。
ショーバタイの資材屋にも売っているものの、値段も高いし数も少ない。
値段についてはまだいい、だが数の少なさはどうにもならなかった。
「‥‥‥散歩でもするか」
何もせずじっとしていると、ついストーンキャンプの事を考えそうになる。
なんでもいいから、何か行動したかった。
「あ、みこと。ちょっと待って」
そんな俺に声をかけたのはレッドだった。
「なあ、みこと。すみれの様子なんだけどさ。ちょっと気になったんだけど」
「ああ、うん。ストーンキャンプでの事な」
それは俺もちょっと気になっていた。
「やっぱり、みことも気づいてたんだな。あいつが前からバウンティハンターに憧れてたのは知ってるよ。その為に賞金首を狩るってのも分かる。けど、さっきのすみれは、なんか‥‥‥なんだろう。あーくそっ、うまく言えねえ!」
頭を掻きむしりながら喚くレッド。
でも、言いたいことはなんとなく分かる気がする。
今までのすみれは、もっと無邪気に、ただ純粋に強さに憧れていた。
たとえ刀を振って誰かの命を奪ったとしても、決して憎しみなどの負の感情に任せて刀を振るうことはなかったと思う。
そんな純粋さ、ひたむきさに惹かれて、俺はすみれを好きになったんだ。
‥‥‥あ、もしかして『どこが好き?』って聞かれた時、これを言えば良かったのかな。
今更気づいても遅いけど。
まあそれはさておき。
さっきのストーンキャンプのすみれの姿や、居合の剣筋からは、そんな純粋さが失われているような気がしたのだ。
賞金首を倒す。
強くなるために修行する。
やることは今までと何も変わらない。
けど、なんだかとても大事なところが変わってしまっている。
そんな感覚がついてまわるのだ。
「‥‥‥なあ、みこと。オレは今まで都市連合で、いろんなヤツを見てきた。最初はオレと一緒に銅を掘っていた放浪者が、生きるために死体漁りを覚え、いつの間にか人を斬ることを覚えて、そのうち顔色ひとつ変えずに追い剥ぎを行うようになっていく‥‥‥そんな姿を、いくつも見てきたんだ。オレは、すみれにはそんな風になって欲しくねえ」
「ああ、俺もだ」
リバースを脱出したばかりの頃、最初に見かけた小屋で躊躇うことなく盗みに手を染めようとしたすみれを思い出す。
人の心なんて、案外弱いものだ。
「もし、すみれが道を踏み外しそうになったら。その時はみこと、お前がすみれを支えてやってくれ。多分、それが出来るのはみことだけだから」
「ああ。任せとけ」
俺は握り拳を作ってみせる。
そして、同じように拳を握るレッドと、互いにコツンと拳をぶつけ合った。
「サンキューな。すみれなら、さっき外に出てったぜ。少し体を動かしたいんだとさ」
「分かった、探してみるよ」
そしてレッドと別れ、街の外に出る。
ただの散歩のつもりが、なかなかの難題を背負わされた気がするな。
ま、いいさ。
第37話、読んでいただきありがとうございます。今回から第二章となります。今回名前の出ている風魔忍者は、ancforest氏のmod、Fuma Ninjasにて追加される勢力です。日本語対応で完成度の高いmodなのでオススメです。そして次回は幕間の物語。お楽しみに。