「ねえみこと、この服着てみてよ」
すみれからそう言って渡された服を受け取る。
ついさっき、すみれが作成したものだ。
装甲付きダスターコート、その熟練等級。
動きやすさと装甲を両立した設計の武術家用コートだ。
新しい服に初めて袖を通す瞬間って、やっぱりワクワクするよな。
なんだか新しい物語が始まる予感みたいな。
「ど、どうだ? 似合ってるか?」
コートに袖を通し、すみれの前でカッコいいポーズを決めて見せるのだが。
「‥‥‥うん。まあ似合ってるんだけど‥‥‥そんな変なポーズ取らなくていいわよ? みことは体格いいんだから、真っ直ぐ立ってる方がカッコいいわ」
「なっ、そうなのか!?」
すみれの隣ではサヤも、うんうんと同意するように頷いている。
カッコつけるのって難しいな。
いつかスマートにカッコよく決めれるようになるのだろうか。
「ねえみこと。私の服も見てよ。似合ってるでしょ?」
そう言ってくるりと回ってみせるすみれが着ているのは、ブラックレザーアーマーとブラックレザースカート、同じく熟練等級。
体のラインが強調された女の子らしい服装で、可愛らしく、スカートの先から覗く太ももがセクシーでもある。
「ああ、最高だな! 惚れ直したぜすみれ!」
「や、やめてよ恥ずかしいって」
照れて赤くなるすみれ。
可愛い。
隣でサヤが「はいはい、バカップルバカップル」と冷めた目でツッコミを入れていた。
ははーん、さては羨ましいんだな?
「大丈夫だぜ、サヤ。いつかきっとサヤにも素敵な相手が見つかるさ」
「そうよ。諦めるのはまだ早いわ」
「‥‥‥こいつら殴りたいです」
奴隷とは思えないような暴言を吐いてくるサヤ。
日を追うごとに遠慮がなくなってきたな。
まあ心を開いてくれているみたいで、俺としては嬉しいけれど。
「見た目もいいけど、防具としての性能も上がってるんだよな? また遺跡巡りにでも出かけてみるか? 前よりは安定して戦えそうだし」
「遺跡巡りもいいけど、私は風魔忍者が気になるわね。近くにある風魔の拠点にカチコミかけてもいいかも。それで、もしストーンキャンプを襲ったのが風魔なら、この刀でアヘアヘ言わせてやるんだからっ!」
すみれが刀を鞘から少しだけ抜いて、その刃を光らせる。
狐太刀のMk1等級。
こちらも以前よりずっと質の良いものに仕上がっている。
「‥‥‥敵討ちですか。まあ、止めはしませんが‥‥‥」
そんなすみれを見て、複雑そうな表情で呟くサヤ。
「何よ? まさか『復讐なんて虚しいだけ』だのなんだの言うつもりじゃないでしょうね?」
「あ、いえ。そういう訳では。ただ奴隷商の方達は、私達にとっては決して良い人ではありませんでしたから。だからあまり気乗りしないなーって。ええ、それだけですよ」
‥‥‥なるほど。
つまり俺たちに例えるなら、リバース鉱山の歩哨の敵討ちに必死になってる人間を眺めるようなものか。
それなら確かに、複雑な表情になるのも無理ないのかもしれない。
「一応聞くけど、サヤはストーンキャンプが誰に襲われたのか、本当に何も見てないんだよな? ヒントになりそうなものとか、手がかりとかも無いか?」
「ええ、何も。なにせ私はずっと檻の中で震えていましたから。‥‥‥お役に立てず、申し訳ありません」
スッと視線を外して、申し訳なさそうに俯くサヤ。
「いや、いいんだ。気にしないでくれ。‥‥‥でも遺跡巡りにしてもカチコミにしても、サヤも一緒に連れて行くのは流石に危ないよなあ。かといって1人でここに留守番させるのも、もっと危なそうだし」
「そうね。遠征の間はサヤにはショーバタイのロングハウスで休んでてもらうってのはどう? あそこならシノビシーフもいるし、かなり安全だと思うわよ」
「なるほど。暇だったら皮をなめしたり銅を掘ったり、やれることも多いもんな」
俺とすみれがそんな風に相談していると、サヤが割って入る。
「あ、あのー。さっきから聞いていると、奴隷を1人残して出かける相談をしてるみたいですが。私が逃げ出すかもとか考えないのですか?」
そんな事を言ってくるサヤに、俺たちは首を傾げる。
「へ? 逃げたかったのか? 不自由ない暮らしが提供できてると思ってたんだが‥‥‥」
「と言うかサヤ、行くアテなんてあるの? まあアテがあるなら別に止めないけど」
「‥‥‥すみません何でも無いです」
それっきり黙ってしまうサヤ。
ストーンキャンプでの暮らしがどんなものだったのか、なんとなく察せてしまうな。
客に対しては愛想のいいおっちゃんでも、それだけって訳でも無いんだろう。
シミオンが言っていた、『奴隷商なんてみんなクズばっかり』という言葉の意味が、今になって少し分かった気がした。
と、そこで街まで武器を売りに行っていたレッドとイズミが戻ってくる。
「ただいまー。お、新しい服似合ってるじゃん。丁度よかった」
「おう! 着心地もなかなかだぜ。けど、丁度よかったってのは何だ?」
俺が尋ねると、イズミが答えてくれる。
「さっき街で聞いたんだけどね。ポート・ノースから武装した奴隷商の一団が出発したそうだよ。彼らは真っ直ぐここ、ボクらの拠点に向かっているそうだ」
「‥‥‥なんだって? 奴隷商が、一体何をしに?」
「そりゃあもちろん、仕事だろうね。奴隷商としての」
「‥‥‥‥」
奴隷商としての仕事。
奴隷が掘った鉄や石を行商する‥‥‥というわけでは無いだろう。
産地直売で安価な品を供給できるメリットを自分から捨てる意味がない。
だとすると、新たな奴隷の獲得といったところか。
けど、なぜ? 奴隷商の人達とは、割と良好な関係だったハズだけど。
「みこと。ボクらが良好な関係だったのは奴隷商じゃない。ストーンキャンプの商人と良好だっただけさ。そしてそのストーンキャンプは今は無く、奴隷商の人達はその穴埋めのために、新たな奴隷を獲得する必要がある。ここまでは理解できたかい?」
「いや、まあ‥‥‥そうかもしれないけど。でもそんな理不尽な。俺たちは奴隷商の敵討ちのためにシミオンと戦って、さっきもすみれと風魔忍者の拠点に攻め入ろうかって話してたばかりなんだぞ?」
「きっと向こうはそんな事は知らないし、知ろうともしないだろうね。ポート・ノースの奴隷商とボクらは、面識さえ無いんだから」
「‥‥‥」
イズミの言葉に、俺は何も言えなくなる。
確かに敵討ちは俺たちが勝手にやってるだけで、別に頼まれたわけではない。
けど、だからっていきなり攻めてくるか普通!?
まず先に対話とかあるだろ!?
混乱する俺に向かって、サヤが追い討ちをかける。
「みことが奴隷商に対してどのようなイメージを持っているかは知りませんが‥‥‥奴隷商とは、そういうものです。上客に対しては愛想良くにこやかに接していても、その裏では力ずくで攫ってきた人間を働かせて利益を得ている。それが、奴隷商の仕事ですから」
「くっ‥‥‥」
もちろん、頭では理解していた。
奴隷商が決して綺麗な仕事ではないと。
けれど同時に仕方ないとも思っていた。
奴隷にされた人には可哀想だが、それが都市を維持するためには必要なのだと。
だけど。
「‥‥‥ふふっ、上等じゃないの」
黙って話を聞いていたすみれが、口を開く。
その右手は、既に狐太刀の柄を握りしめていた。
未だに気持ちの整理が追いつかない俺と違って、すみれはもうやる気のようだ。
彼女の瞳に、静かな怒りが宿る。
「来たければ来るといいわ、奴隷商。待っててあげる。ただし‥‥‥生きて帰れると思わないことね」
第43話、読んでいただきありがとうございます。何が正しくて何が間違っているのか。そんなものは見る角度や立場によってコロコロと変わってゆくものです。きっと世に絶対の正義などないのでしょう。だからこそ、せめて自分の気持ちにだけは嘘をつかずに、真っ直ぐに生きる。それが自由というものなのかも知れませんね。次回もどうぞお楽しみに。