夕刻。
私たちの拠点に武装した奴隷商の一団が訪れた。
その数、ざっと30人。
「ここか。話に聞いた通りだな。リストにも載ってない」
「ええ。早速やっちまいましょう。情報では相手は武装こそしてるものの軽装で、人数も少ないそうですぜ」
奴隷商たちが小声で何かを話し合っている。
目の前にここの住人がいるのに無視するなんて失礼な。
挨拶もできないのかしら。
「何をこそこそ話してるのよ? 用事があるなら私が聞くけど?」
「そうそう。せっかく来たんだ、まずは茶でも飲んでいかないか? 歓迎するぜ?」
私の隣でレッドがそう言う。
わざとらしい演技だとは思うけど、みことがどうしても「いきなり斬りかかるのはダメだ、一応は形だけでも対話してみよう」と言って譲らなかったので仕方ない。
レッドの言葉に、奴隷商のリーダーらしき男は苦笑いを浮かべる。
「いやいや、別に茶はいらんよ。それに、わざわざ話すようなこともない。‥‥‥おい、始めるぞ。武器を取れ」
「へい!」
彼の部下らしき男が腰に帯びた武器に手をかけようとするが、それはあまりにも遅すぎた。
私は1歩踏み込むと同時に、抜き打ちでそいつの腕を切り飛ばす。
「な‥‥‥ぎゃああっ!」
肘から先を失った部下が今更気づいたように悲鳴をあげる。
居合の練度が着実に上がっているのを実感できた。
まずは1人。
「すみれの躊躇のなさと思い切りの良さは、つくづく頼もしい限りだよなー。味方で良かったぜ」
ようやく武器を構えたレッドがそう言ってくるけど、正直レッドは判断が遅すぎると思う。
殺気を感じた瞬間に、相手を斬るか逃げるか判断して行動に移さないとダメじゃない。
「怯むんじゃねえ、お前ら! 相手は女がたった2人だろうが! 数で押せばどうとでも‥‥‥」
「たった2人? その不正確な情報は誰から仕入れたんだい?」
叫んだリーダーの胸に、風穴が開く。
ストームハウスの屋上に設置したクロスボウ砲台からの、イズミの狙撃だ。
仕留めたか、と思ったけれど、よくみるとまだ息があった。
微妙に心臓からずれていたようだ。
運のいいやつ。
まあ、後でゆっくりトドメをさせばいいか。
これで2人目。
「あ、あのあの、私は一体どうすれば‥‥‥」
「サヤもここから撃ちまくってくれればいいよ。ボクの『つまようじ』を使うといい」
そう言ってイズミが愛用の『つまようじ』をサヤに渡すのだが。
「わ、私クロスボウなんて触ったことすらないですっ! 当たるわけないですようっ!」
「当てる必要なんかないからとにかく撃ちまくるんだよ。ただひたすら、引き金を引き続けるだけの簡単な作業さ。あれだけ敵がいるんだから、何発かは当たるだろうし」
「わ、分かりました!」
頷いて手当たり次第に乱射を始めるサヤ。
これに慌てたのは奴隷商だ。
なにせ、どこに飛んでくるか分からない『つまようじ』の乱射に紛れるようにして、確実に頭や心臓を狙ってイズミのクロスボウ砲台の狙撃が飛んでくる。
イズミの狙撃で、さらに2人仕留めた。
これで4人。
「お、おい! 誰かあのクロスボウを黙らせろ! あのストームハウスに突入しろ!」
奴隷商の中の誰かが叫ぶ。
その声に応えるように別の誰かが扉を蹴破り、中に突入して。
「ぐはあああっ!」
冗談のような勢いで吹っ飛ばされて扉から出てきた。
みことは、室内戦では本当に頼りになる。
5人目。
「な、中にもう1人いたぞ! 男が1人だ!」
「くそっ、たった1人増えたくらいで‥‥‥」
口々に喚く奴隷商だが、みことは動揺すら見せずに真っ直ぐに立って彼らを見つめる。
「この場を守るくらい、たった1人で十分なのさ。試してみるか?」
余裕すら感じさせる堂々とした佇まいに、多くの奴隷商が動きを止めた。
うん、ちゃんとカッコいい。
やればできるじゃないの、みこと。
‥‥‥私がみことに新しい服を渡した時、彼がとったポーズは今思い出しても『それはない』としか言いようがないものだった。
なにせ、両手を上げて片足を膝蹴りのように掲げる、いわゆる『荒ぶる鷹のポーズ』でドヤ顔決めてたのよ、あいつ。
どういうセンスしてるんだろうか。
まあ、みことの残念なポージングセンスは今は置いといて。
事前にイズミが決めてくれた陣形はとても有効だった。
屋外の敵はイズミのクロスボウで仕留め、屋内に入ってきた敵はみことが相手をする。
私とレッドの役割は、一度に大量の敵をストームハウスに突入させないための足止めだ。
「よそ見してる余裕なんて、ないんじゃねーのか!?」
レッドの大鎌による1撃。
突入しようとストームハウスの入り口に集まってた奴らを、まとめて薙ぎ払う。
3人が倒れ、2人が大怪我を負った。
仕留め損ねた2人は私の刀で切り飛ばして、これで10人。
‥‥‥あ、ストームハウスの中からまた2人吹っ飛ばされてきた。
みことにやられたのか。
12人。
この調子で残りも‥‥‥
ガッ!!
後頭部に、鈍い衝撃が走る。
油断した。
「けっ、手こずらせやがって‥‥‥いつまでも調子に乗ってんじゃねえ!」
首だけで振り向くと、片腕の無い奴隷商が棍棒を振り上げていた。
私が最初に斬ったやつか。
まさか復帰していたなんて。
ガツン、と再びの衝撃。
世界が回る。
ドサリと何かが倒れる音をどこか他人事のように聞いていると、口の中に血の味が広がった。
‥‥‥これは、やばいかもしれない。
「よっしゃあ! このまま仕留めろ!」
倒れた私を容赦なく踏みつけ、棍棒を叩きつける奴隷商。
そうか。
奴隷にするため、トドメは刺さないつもりか。
こうも多人数でこられると、起き上がることすら難しい。
「すみれっ!! くそっ、邪魔だどけえ!!」
みことの声が聞こえる。
気持ちはすごく嬉しいけれど、有利だった室内を飛び出してこの人数相手にどこまでやれるだろうか。
対多人数戦は、みことの苦手分野だ。
気づけばイズミの援護射撃も止まっている。
みことの守りを失って攻め込まれたか。
‥‥‥そんな風に冷静に戦況を分析している自分に今更気づいて、少々驚く。
戦いに身を置きすぎたせいで、傷つくことにも傷つけることにも慣れすぎたのだろうか。
だが。
「へっ、女のくせに刀なんか振り回しやがって。おっ、これ意外と上等なモンだぜ? どっから盗んできたんだ?」
奴隷商が、私の狐太刀を奪い取る。
流石にそれには、冷静でいられない。
必死に腕を伸ばす。
届かない。
「か、返、せ‥‥‥」
それは、私のものだ。
みことが私のために作ってくれた、私だけの‥‥‥
カシャン。
薄れゆく意識の中、私が最後に聞いたのは。
奴隷商が私の足に足枷を取り付ける、金属質な音だった。
「戦況はどうかな?」
「はっ。奴隷商どもが優勢です。わりと善戦しましたが、ここまででしょう。エースの剣士が倒れました」
部下が淡々とした口調で報告する。
「噂ほど大したこともなかったか‥‥‥いや、むしろ少人数で大部隊を半壊させたことを褒めるべきかな」
バスト地方に新興勢力が拠点を築いたらしい。
その噂は瞬く間に広がっていた。
というか、ハイブの行商人があちこちで言いふらしていた。
まったく、おしゃべりが好きな連中だ。
そしてこの辺りではそれとは別に、もう1つの噂もある。
最近になって頭角を表しつつある賞金稼ぎ、アウトサイダー。
特筆すべきはその逃げ足の速さと撤退の判断の正確さ。
だがそれだけではない。
決して侮ることの出来ない実力者であり、ついこの前シミオン砦をたった4人で壊滅させたとの情報が入っている。
バスト地方の新興勢力と、最近頭角を現し始めた賞金稼ぎ。
この2つを結びつけるのは容易かった。
そしてこのタイミングでポート・ノースから進発した奴隷商の一団。
近くに拠点を構える我々風魔としても、到底無視できる話ではなかった。
しばらく離れた場所から部下に様子を探らせていたのだが、そろそろ限界か。
これ以上は持ちそうにないな。
「よし、私たちも行くぞ。彼らを救援する」
「はい。‥‥‥けれど、本当によろしいので? あいつらは賞金稼ぎです。シミオン砦のように、このミズノト村もいずれ奴らに襲われるやも知れませんよ?」
「心配は無用。『かも知れない』で敵を増やし続けるリスクに比べれば、大したことのないリスクだ。それにあいつらがもし恩を仇で返すような連中なら、その時は容赦なく斬り捨てるまでさ」
「はい、そうですね。サミダレ様」
名前を呼ばれて振り返る。
私を信頼しきった瞳で見つめる部下。
彼の期待に応えるためにも、無様なマネはできないな。
「では参ろうか。風魔忍者所属ミズノト村代表、サミダレ。出陣するっ!」
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【挿絵表示】
第44話、読んでいただきありがとうございます。次回はなるべく年内にもう1話書き上げることを目標にしております。ただもし年内に書けなければ、年始は少々多忙ゆえ投稿が遅れるやも知れませぬ‥‥‥あまりお待たせしないよう頑張りますので、応援お願いいたします。