夢を見ていた。
綺麗な川の畔に、死んだはずの父さんが佇んでいた。
「やあイズミ。随分大きくなったなあ!」
生前と全く変わらない姿、変わらない声でそう言う父に。
「やあ父さん。そっちはまったく変わらないね。まだ成仏してなかったのかい?」
昔と比べて、少々ひねくれた口調でボクはそう答える。
「ははっ、まあな。遺したお前のことが心配でなあ」
「まったく、心配性だね。ボクのことなら、もう心配いらないよ」
大切な人もできたしね、と隣に立つレッドを見て。
「ほお。そうか、そうか。そちらの方は、イズミの友達かい?」
そちらの方、と言って父がレッドの方を見る。
友達かあ。
間違ってはいないけれど、ただの友達で終わりたくもない。
‥‥‥まあ、いいか。
どうせボクの夢なんだから、ボクの都合のいいように紹介しておこう。
「友達、とはちょっと違うかな。レッドは、ボクの恋人だよ」
「ほう?」
少しだけ驚いた顔をする父さん。
即、家族会議という展開にはならなかったので安心する。
なったらなったで、目を覚ました後の話のネタにはなりそうだけど。
「だ・れ・が・恋人だよっ」
べちん、とレッドからこめかみをデコピンされた。
痛い。
夢の中でくらい、ボクの都合に合わせてくれたっていいじゃないか。
デコピンの後で、レッドは小さく「‥‥‥あ」と呟きながら父さんの方を気にしていた。
「ははっ、そうか‥‥‥そうか‥‥‥」
眩しいものを見つめるように、目を細める父さん。
「だからね。せっかく来てもらったところ悪いけど、お迎えはまだいいよ。そっちにはまだ行けそうにないからさ」
「ああ、そうだな。‥‥‥逞しくなったな、イズミ」
その言葉を最後に、父さんの姿は薄れていく。
だんだんと姿を消していく父を見送る。
寂しさを感じなかったわけではないけど、それでも笑顔で見送ることができた。
やがて、その姿が完全に見えなくなってから。
「さて。帰るか、イズミ。オレ達の居場所にさ」
「うん、そうだね。帰ろう、レッド」
「あ、目が覚めたんだね。まだ起きあがらない方がいいよ」
目を覚ますと、サミダレさんからそう声をかけられた。
だんだんと記憶が戻ってくる。
ボク達は奴隷商と戦っていて、そこにサミダレと名乗る風魔忍者が現れて‥‥‥そこで、ボクは気を失ったんだった。
ふと自分の格好を見れば、傷口にはしっかりと包帯が巻かれていた。
全身怪我だらけなので、まるでハロウィンの包帯男だ。
いや女だから包帯女か。
‥‥‥包帯女って、そんなのいるのか。
あまり聞いたことないけど。
「服は今、私の部下に洗濯させてるよ。血塗れだったからね」
「‥‥‥そう」
起き上がらない方がいい、とサミダレさんに言われたので引き続きベッドに横になると、隣のベッドでモゾモゾと人が身じろぎする気配があった。
レッドだ。
レッドもボクと同じように包帯で巻かれていた。
包帯女。
‥‥‥なんか、セクシーだ。
自分の時はあまり思わなかったけど。
「‥‥‥ねえレッド。そっちのベッドで寝ていい?」
なるべく不安そうな声を演じてそう言ってみる。
「いいぜ」
よしっ! 言質とった!
言ってみるもんだなあ。
自分のベッドから抜け出しレッドの布団の中に飛び込む。
その途中、レッドが包帯しか身につけてないボクの格好に驚き、次いで自分自身も包帯しか身につけてないと気づいて更に驚いていたけど、気にせずその胸の中に飛び込んでゆく。
怪我もたまにはいいものだなあ。
「ちょ、ちょっと待てイズミ! 服はどうした、オレ達の服は!」
「服ならサミダレさんの部下が洗濯してくれてるらしいから、安心して」
「安心できねえよ!」
ボクたちがそんなやりとりをしていると、サミダレさんが。
「‥‥‥騒がしい怪我人共だな。もうしばらく寝ていろ」
と呟いてため息をついていた。
「そういえば、他のみんなは? ボク達の他にあと3人いたと思うんだけど。みこととすみれと、サヤはどこに?」
サミダレさんにそう尋ねると、彼女は首を横に振って答えた。
「分からない。私たちが到着した時には、お前達2人しかここには居なかった。多分、連れて行かれた後だろう。‥‥‥間に合わなくて、すまなかった」
連れて行かれた。
それは、奴隷商に捕まったということか。
ならば行き先も予想がつく。
おそらく、ポート・ノースだ。
3人とも生きていて、場所も分かってる。
なら大丈夫だ。まだ慌てるような時間じゃない。
「謝らないでよ、サミダレさん。むしろ礼を言わせて欲しい。助けてくれて、ありがとう」
「いいって事さ。具合も悪くなさそうだし、我々はもう行かせてもらう。仲間が心配なのは分かるが、無理はするな」
そう言ってサミダレさんは立ち上がると、ベッドのそばに1輪挿しの花瓶を飾っていった。
青みがかった、藤色のバラの花だ。
「‥‥‥それは?」
「ブルームーン。見舞いの品だ。花言葉は、『不可能を成し遂げる』だ」
それだけ言い残し、サミダレさんは立ち去っていく。
入れ替わるようにして入ってきたシェクの男性が、綺麗になった服を置いて、すぐにサミダレさんの後を追っていった。
「ブルームーン、か」
いつだったか、本で読んだことがある。
元々青いバラというのは、遺伝的に決して作ることができないと言われていた。
その為、青バラの花言葉は『不可能』『夢は叶わない』というものだった。
けれど長年の研究の末、その不可能を覆した天才がいた。
それをきっかけに青バラの花言葉も別の意味を持つようになり、先ほどサミダレさんが言った意味で使われるようになった、と。
「いいね。ブルームーン」
「いいって、何が?」
聞き返してくるレッド。
「この拠点の名前だよ。まだ決めてなかったでしょ。ブルームーンって名前にしようよ」
「ああ、確かにオシャレな名前だよな。俺も賛成だぜ」
よし、これで賛成2票。
あとは捕まった3人のうち1人でも賛成してくれたら、多数決でこの名前に決定できるな。
そんな風に考えていると、レッドが不安そうに呟いた。
「あいつら‥‥‥大丈夫かな」
みこと達のことだろうか。
ある意味で奴隷施設は砂漠で最も安全な場所でもあるから、それほど心配しなくていいはずだけど。
せっかく捕まえた奴隷に危害を加えるようなことはしないはずだ。
ボクがそう言うと、レッドは首を横に振って。
「いや、そうじゃなくてさ。すみれが大人しくしてるかなーって」
「‥‥‥あー、そっちか」
確かに、ちょっと不安だ。
大人しく奴隷商に従って目立たないようにしていてくれた方が助けやすいんだけど、どうかな。
みことが一緒なら無茶はしないと思いたいけれど。
そこまで考えて、みことが奴隷商に捕まった時のことを思い返す。
すみれが倒れた後、みことはわざわざ有利な室内から飛び出して、集団戦が苦手にも関わらず奴隷商に向かって飛び込み、大声を上げて奴隷商の注意を引いていた。
今思うとあれはみことらしくない。
確かにみことはバカなところもあるけれど、考えなしに動くような人間ではないのだ。
むしろ慎重に考えて、考えた結果ズレまくった結論に着地するようなタイプのバカである。
あんな、自分からわざわざ捕まりにいくようなマネをするなんて‥‥‥いや待て、まさか自分から捕まりに行ったのか?
確かにそう考えると辻褄が合う。
すみれが1人で捕まったらどんな行動に出るか予測がつかないけれど、隣にみことがいればある程度はコントロールができるのだ。
すみれは、みことの言うことなら割と素直に受け入れる。
「イズミ? どうしたんだよ?」
「あ、あー。うん。多分大丈夫。ボクの予想通りなら、きっとすみれも大人しくしてるよ」
我ながら、バカバカしい予想だとは思う。
けれどそのバカバカしい事を大真面目にやってのけるのが、あのバカだ。
新年明けましておめでとうございます。第46話、読んでいただきありがとうございます。次回はみこと視点でポート・ノースからお送り致します。