‥‥‥読めないなあ、あいつの行動だけは。
奴隷商に捕まったすみれが、次にどんな行動にでるか。
いくつかのパターンをシミュレーションしていた俺だが、そのどのパターンとも違う光景が目の前で繰り広げられていた。
「あっははは! 圧倒的じゃない、このパワー! ほら、鉱石がこんなにどっさり!」
巨大なドリルを操作しながら高笑いするすみれがそこに居た。
ああ、そういえば機械とか好きだったよね。
すっかり忘れてたわ。
「あ、ああ。すごいな。拠点でちまちまとつるはし振ってたのとは大違いだ」
「でしょでしょー。このドリルさえあれば、指一本であっという間よ。ほら、みこと。せっかく掘ったんだから、鉄板に加工してきてよ」
「おう、任せとけ」
‥‥‥って、あれ?
なんで真面目に働いてるんだろう、俺たち。
ってかこれ、拠点でやってた作業と何も変わらないんじゃ‥‥‥
「ま、まあいいか。って、おお! この加工機もすごいぞ! 操作しなくても、勝手に鉱石が鉄板に延ばされてくぞ!」
「え、全自動ってすごくない!? いつか私たちの拠点にも欲しいわねっ!」
すごい。
これが産業革命ってやつか。
産業革命の意味よく分かってないけど。
他にも、掘り出した石材をその場で直接建築資材に加工するドリルとか、ハイテクな機械がいっぱいあった。
多分ストーンキャンプにも同じようなものはあったんだろうけど、普段は買い物するだけでじっくり見て回ったりしなかったからなあ。
あちこちに点在する機械を触りながら、その機能についてすみれと談笑しあっていると、監督役の奴隷商が俺たちのことを噂していた。
「な、なあ。この前捕まえたあの奴隷、ちょっと変じゃね?」
「いや、真面目に働いてくれてるんだからほっとけよ。というか関わるな。知ってるか? あの奴隷を攫ってきた部隊、最初は30人の大部隊だったんだが、生きて戻ってきたのはたったの3人だって話だぜ。残りの27人は生死不明で未だ戻らず、だとよ」
「え、何それ怖い」
‥‥‥人を化け物みたいに噂しないで欲しい。
けど、3人っていうのはなんだろう。
すみれを担いできた奴と、俺を担いできた奴と。
あと1人は‥‥‥
「おう、やっと目を覚ましたか。ほらさっさと働け、一緒に捕まえた2人はもうとっくに働きだしてるぞ」
「あの2人と一緒にしないでくださいようっ! あれだけ殴られたら、普通なら3日くらいは寝込みますっ!」
いた。
サヤも捕まってたのか。
ふらふらした足取りで檻から出てきた。
まだ怪我が治ってないらしい。
いずれここから脱出するとしても、もう少し後の方がいいな、これは。
「あっ! みこと! それにすみれも! お二人ともご無事で何よりですっ」
そうして走り寄ってきたサヤが、俺たちの方を見て。
「‥‥‥お揃いですねっ」
綺麗に坊主に剃られた頭を指差してそう言ってきた。
こいつ、人がせっかく触れずにいた事をっ!
「わ、わざわざ口に出して言うことないでしょうっ! 人が頑張って気にしないようにしてたのに!」
「そ、そうだぞ! 俺だって、リバースにいた頃は歩哨たちからこっそり『クリリン』なんてあだ名つけられて、小さい頃は結構ショックだったんだぞ! 実はそれなりに傷つくんだからなっ!」
俺たちがそう抗議すると、サヤは申し訳なさそうに顔を伏せて。
「あら、申し訳ございません。けどご存じですか? 噂によると、どんな強敵でもワンパンで倒してしまう最強のヒーローもハゲなのだとか。そう考えると、なんだか格好良いと思いません?」
ハゲって言った!
こいつ今、躊躇うことなくハゲって直球で言った!
顔伏せてるから分かりにくいけど、絶対笑ってるだろサヤ!
「カッコよくないわよ! 私が目指してる最強はそういうのじゃないの! もっとこう、クールでワイルドで、ちょっと危険な感じの、そう、そういうロマンなのっ!」
そしてすみれのロマンは俺にも分からん。
いつか理解できる日は来るだろうか。
そうこうしていると、街の外からイズミとレッドがやってきた。
「‥‥‥思ったよりも楽しそうだね、3人とも。急いで駆けつける必要もなかったかな?」
ちゃんと髪のある2人がちょっと羨ましい。
「おう! この通りピンピンしてるぜ。サヤだけまだ怪我が酷そうだけど、怪我が治ったら夜を待って抜け出すから‥‥‥」
「いや、別に危険を冒して抜け出す必要なんてないよ」
苦笑しつつイズミは首を横に振って、奴隷商人を呼びつけて。
「ねえおっちゃん。ここにいる3人の奴隷、売って頂戴。はい、これお金ね」
「はいよ。毎度ありー」
‥‥‥え?
カチャリ、と。俺たちに繋がれていた足枷は、拍子抜けするほどあっさりと外された。
あれ、こんなあっさり?
普通さ、ここからドキドキハラハラの脱出劇とか、そういう展開になるんじゃないの?
俺がこっそり考えてた脱出プランとかどうなるの? ねえ?
「都市連合では、お金さえあれば大抵の問題が解決できる。みことだってそれが分かってたから大人しくしてたんじゃないの?」
「え、いやまあ、それは。あ、あはは‥‥‥」
分かってなかった、と言える雰囲気でもなかったので、愛想笑いで誤魔化しておく。
かくして俺たちの奴隷生活は、半日で終了した。
「ただいまー。久しぶりの我が家‥‥‥って言うほど久しぶりでもないか」
拠点に戻ってきた俺たちは、ポート・ノースで製作した鉄板を収納容器にまとめる。
ついそのまま持ってきちゃったけど、別に咎められなかったし、いいよね?
こっちは刀も奪われてお金まで支払ってるんだから、鉄板くらいは譲ってくれてもいいだろう。
俺たちが作業して作った鉄板だし。
「あら? 何かしらこれ‥‥‥ バラの香り?」
さっそく刀を作り直そう、と思っていると、すみれが何かを見つけていた。
ベッド脇に飾られた1輪の花。
バラのようだけど、ちょっと変わった色をしている。
バラといえば俺は赤色のイメージが強いんだけどな。
「綺麗な花でしょ。風魔の人が救援に来たついでに看病までしてくれてね。見舞いの品だってさ」
イズミがそう説明してくれる。
「風魔!? なんで風魔が、私たちを助けるのよ‥‥‥?」
「なんでも何も、奴隷商と争ってたらそりゃ僕らの味方についてくれるんじゃないかな。敵の敵は味方ってことじゃない?」
なんてことないように言ってくれるイズミだけど、すみれの表情は複雑だった。
実は俺もだ。
味方だと思ってた奴隷商に襲われ、敵だと思ってた風魔に助けられた。
おまけに綺麗な花まで飾ってくれるなんて。
「ブルームーンって名前のバラさ。青みがかったすみれ色の花といい、この強い香りといい、なんだかすみれにピッタリの花じゃないか。うん、とてもよく似合ってる」
イズミがわざとらしいくらいに「とてもよく似合う花だ」と誉めてくる。
まあこんな綺麗な花を似合うと言ってくれるなら、決して悪い気はしないよな。
最初は複雑な顔をしていたすみれも、だんだんと嬉しそうに表情を緩ませてくる。
やっぱり女の子だなあ。
「そうだ! せっかくだしこの拠点の名前もこの花にあやかって、ブルームーンって名前にしないかい? すみれがこのチームの顔みたいなものだし、ピッタリなんじゃないかな!」
「そ、そうね‥‥‥! ちょっと恥ずかしいけど、そこまで言われちゃ仕方ないわねっ‥‥‥!」
「よしっ、これで賛成票、3人目!」
イズミがガッツポーズしていた。
よく分からないけど、どうしてもこの名前をつけたかったらしい。
うん、全然いいんだけどね。
すみれも嬉しそうだし。
第47話、読んで頂きありがとうございます。最近新しいkenshi動画が増えて嬉しい反面、全部見てると時間がないのが辛いところですね。