「よし、新しい刀の完成だ。待たせたなすみれ」
俺がそう言うと、待ってましたとばかりにすみれが飛んできて刀を手に取る。
まあ性能としては前に使ってたものと同じなんだけど、ちょっとだけ変わったところもある。
銘だ。
実はレッドから簡単な平仮名を教えてもらって、刀に俺の銘を入れてみた。
「うわあ、ヘッタな字だね。もうちょっと上手に書けなかったのかい?」
横から覗き込んできたイズミが遠慮なく酷評してくる。
「う、うるさいな。覚えたばかりなんだから仕方ないだろ!? 金属の刀身に文字を刻むの、メチャクチャ難しいんだぞ!」
「そうでもないけど?」
そう言ってイズミが手の平サイズの鉄板に『イズミ』と彫ったネームプレートを見せてくる。
文字を教えてもらう際に、面白がってイズミが彫ったものだ。
いや、確かに上手だけど!
『イズミ』と『みこと』じゃ難易度が全然違うだろ!
『み』とかもう無理だろ!
誰だよこんな複雑な文字考えたの!
「だからカタカナにしておけって言ったのに」
「いや、なんかそれは負けた気がするから嫌だ」
そんな風に俺がイズミと言い争っている間、すみれは新しい狐太刀をじっと見つめて。
「‥‥‥ねえみこと。もしかして私の刀が盗品だって言い掛かり付けられたの、気にしてた?」
「ん、まーな。あの時すみれ、随分と悔しそうな顔してたし。それに元々、いつか銘は入れようと思ってたんだ。練習するなら早いうちがいいだろ。あと、実はもう1本刀を作っててな。大太刀って言うんだけど」
そう言って新しく作った大太刀をすみれに見せる。
レッドの大鎌に匹敵するほどのリーチと引き換えに、防御を捨てた作りの巨大な刀だ。
正直、すみれの長所である防御を捨てるのはどうかとも思ったものの、普段は今まで通り狐太刀を使い、この前の襲撃のような場合のみ大太刀で切り込む、などと使い分ければ戦略の幅が広がりそうだと思ったのだ。
幅さえ広がれば、あとはイズミあたりがその中から最適な戦略を考えてくれるはず。
「うわ、重そう‥‥‥私に振れるかしら?」
「まあレッドもなんだかんだデカい大鎌使いこなしてるし、いけるんじゃないか? 使いにくけりゃ売ってお金にしてもいいし、試してみるだけならタダだろ?」
「まあ、それもそうね」
頷いてすみれは手にした大太刀をカバンにしまおうとするのだが‥‥‥ここで問題が発生した。
「ねえ、みこと。これ‥‥‥カバンに入らないわ。大きすぎて」
「‥‥‥入らないな、うん」
「ダメじゃない」
‥‥‥まさかこんな罠があったとは。
大きなカバンに買い換えようか。
いや、でも大きなカバンを担いだまま戦うのってすごく戦い辛そうだよな。
戦力アップのための新しい刀なのに、そのせいで戦い辛くなってたら本末転倒だ。
うーん、どうしよ。
俺たちが悩んでいると、意外な人物が声を上げた。
「あ、あのっ! その大きな刀ですけど、私がお持ちしましょうか!?」
サヤだ。
ちなみにポート・ノースから出てきた際に、俺たちと一緒に髪を直してもらっている。
もうハゲてない。
黒髪のショートボブで、着ている服も熟練等級。
どうみても奴隷には見えないし、俺たち自身もサヤの奴隷設定を忘れつつある。
「私は戦いになってもどうせ役に立てませんし、だったらせめて荷物持ちくらいはさせて欲しいな、なんて」
「それはもちろん構わないけど、いいの? 危険な遺跡とかにも行くことになると思うけど」
すみれが念を押して聞いている。
確かに普段のスキマー狩りとかで大太刀を持ち出すことなんてないだろう。
それが必要になるのは大人数との戦闘が予想される場合だ。
敵が大人数ということは、たとえ荷物持ちであっても必然的に戦闘には巻き込まれるわけで。
ただでさえ戦闘経験がないのにそんな大きなカバンを抱えていては一方的にボコられるだけだろう。
「はい、もちろん。安全な場所で1人で留守番ってちょっと退屈だと思ってましたし。せっかく檻の外に出られたんですから、もう少し広い世界を知ってみたいなーなんて。最近はそんな風に思えるようになってきたんです。そう思えるようになったのは、すみれさん達のおかげなんですよ。だから、これくらいの恩返しはさせて下さい」
恩返しも何も、鉄を掘るための労働力として雇っただけなんだから気にしなくてもいいのに。
特別感謝されるようなことをした覚えはないのだけど。
でもまあ、せっかくだしその好意には甘えておこう。
「よし、ならこれからは、荷物持ちはサヤにお願いするか。で、次の目標はどうする?」
これまでは、奴隷商の仇打ちを目標に据えて、そのための訓練を行なってきた。
けど、今となっては少々事情が変わってきている。
「そうね‥‥‥とりあえず、仇打ちは今はいいかしらね。まずはイズミがやりたがってる、えーっと、水耕栽培ってのに必要な研究資料を探しましょうか」
すみれがそう言うと、サヤが少々驚いた顔で言った。
「おや、意外ですね。すみれさんならきっと、『風魔の拠点にカチコミじゃー』とか言うと思ってたのですが」
「‥‥‥あんたは私をどういう目で見てるのよ。それに、風魔は仇じゃないわよ。サミダレさんがはっきり否定してたし」
「え。そりゃあ聞かれて素直に『私がやりました』なんて答えるわけないと思いますが。それで納得したんですか、すみれさん?」
「納得したわよ。文句でもあるっての?」
‥‥‥どうもこの2人、ウマが合わないみたいなんだよなあ。
年齢の近い女の子同士なんだから、できれば仲良くして欲しいところなんだけど。
そんな事を考えていると、不意にサヤの口から衝撃発言が飛び出した。
「文句というか、ええっと‥‥‥。うん。今ならもう言っちゃっても良いかも知れませんね。実は私、ストーンキャンプが誰に襲われたのか、全部見てるんですよ。あの場所で何が起こって、彼らが誰に殺されたのか、全部知ってます」
「「「えっ!?」」」
俺とすみれとレッドが驚きの声をあげる。
イズミだけは「まあ、そんな気はしてた」と頷いていた。
「な、なんで今まで黙ってたのよ。前に聞いた時は知らないって‥‥‥というか誰なの、ストーンキャンプを襲った犯人は!?」
矢継ぎ早に質問するすみれ。
「そうですね。順番に答えていきますと、なんとなく黙ってたほうがいいような気がしてたんです。でも今のすみれさんの様子を見ると、今なら事実を話しても受け止められるんじゃないかと思いまして。そして最後にストーンキャンプを襲った犯人ですが‥‥‥もうこの世にはいません」
そして、サヤは語ってくれた。
あの日ストーンキャンプで起きた事を。
キャラバンと砂忍者のいざこざから始まり、ちょっとした手違いから奴隷商が巻き込まれて大乱闘に発展して、そして誰もいなくなった。
なんというか‥‥‥誰を恨めばいいのか分からないような話だった。
仇打ちに熱くなってた頃にこんな話をされても、きっとどこに怒りをぶつければいいのか分からず困惑するだけだったかもしれない。
今なら頭も冷えて、冷静に聞くことができたけど。
「‥‥‥と、こんなところです。今まで黙っていたこと、本当に申し訳ありません」
最後にそう言って話を締めくくるサヤ。
「‥‥‥まあ、いいわよ。そういう理由だったら。私たちの気持ちを優先してくれたって事でしょ。ありがと」
すみれがそう答えると、またしてもサヤは意外そうに。
「おや、驚きました。すみれさん、ちゃんとお礼なんて言えたのですね」
「だからあんたは私をどういう目で見てるのよ!?」
大声でサヤを怒鳴りつけるすみれ。
‥‥‥やっぱりこの2人、相性悪いよなあ。
「ま、まあそういう事なら、今後は研究資料がありそうな遺跡を探して、水耕栽培を目指すって事でいいか」
取りなすように2人の間に割って入る俺。
といっても研究資料がありそうな遺跡なんてどこにあるのやら。
手がかりがほとんど無いんだよなあ。
「手がかりになりそうなのは、前に遺跡探索で見つけた地図に載ってるこの『ナルコの誘惑』だけね。ホーリーネイションの軍事基地らしいけど‥‥‥」
地図を広げながらすみれがそう言う。
ホーリーネイションの軍事基地。
まともにぶつかり合えば苦戦は必至だろう。
‥‥‥あれ、でもちょっと待てよ。
俺たち、リバース鉱山から逃れてきたわけだけど、あそこも実質ホーリーネイションの軍事基地みたいなものだよな?
つまり、まともにぶつかりさえしなければやりようはあるって事で‥‥‥ひょっとして、あの時の方法がそのまま使えたりするんじゃないだろうか。
「なあ、すみれ。その『ナルコの誘惑』について、今ちょっと思いついたことがあるんだが」
「あら奇遇ね。私もちょうど『ナルコの誘惑』について考えてたのよ。上手くいけば、きっと」
「ああ、上手くいけば、ここは」
「私たち「俺たち2人で探索できそうだな」よね!」
「「「え?」」」
イズミ、レッド、サヤの3人が「何またアホなこと言ってんだこいつら」みたいな顔で声をハモらせた。
随分失礼だな君たち。
第49話、読んで頂きありがとうございます。長らくお待たせしました。最初は単に労働力として雇ったつもりの仲間が、気がつくといつの間にかかけがえの無い仲間の1人となっている。kenshiプレイヤーなら心当たりがあるかと思います。次回はもう少し早く投稿できると思いますので、引き続き応援よろしくお願いします。