「それじゃ、今回の予定ルートをおさらいをしよう」
テーブルに地図を広げて、予定ルートを指でなぞる。
「まずドリンに寄ってラム酒を仕入れて、ワールドエンドで売る。ここまでは以前の遺跡探索と同じだな。で、このワールドエンドで傭兵を雇う。雇用代金はラム酒の売却益で十分足りるはず」
「ブルームーンの防衛戦力としての傭兵だね。何事もなければそれでいいし、何かがあってからじゃ遅すぎる。用心に越したことはないからね」
イズミが俺の言葉を補足するように説明を足してくれる。
今回、チームを2つに分けて行動することにした。
『ナルコの誘惑』に向けて出発する俺・すみれ・サヤの3人と、ブルームーンに残るイズミ・レッドの2人。
今回雇う傭兵には、ブルームーンを守ってもらうことにする。
「ああ。そしてワールドエンドからモールさんの避難小屋へ行き、そこでホーリーネイションの歩哨の鎧を回収する。リバース脱出の際に使った鎧がまだ残ってるはずだ。この小屋にはベッドもあるし、泊まって行ってもいいな。そこからウェンドの川沿いを南下した先が目的の『ナルコの誘惑』だ。以前探索した遺跡の、もっと南側だな」
ちなみに今回は川を泳ぐのではなく、陸路で歩いて行く予定だ。
「歩哨の鎧で変装して侵入する、ねえ。本当にそんなに上手くいくのか?」
「大丈夫よ、リバースでは上手くいったもの」
不安そうに尋ねるレッドに、自信満々に答えるすみれ。
「あ、あのー。その鎧って2つしか無いんですよね? 私の分は? 私、基地に近づいたら襲われたりしません?」
戸惑った様子で聞いてくるのはサヤ。
「大丈夫。サヤの役割は荷物持ちと、もし想定外の事態になった時の救助要因だからさ。サヤには離れた場所でバックアップに控えていてもらうから、安心してくれていい」
「あ、それなら安心ですねっ」
ホッとした様子で笑みを浮かべるサヤ。
「しっかし、ホーリーネイションの軍事基地なんかに、本当に研究資料があったりするのか? ホーリーネイションの教義だと、科学技術は忌むべき悪魔の技術ってことになってるはずだが」
レッドが首を捻って疑問を投げかけると、イズミがそれに答える。
「断言はできないけど、高確率であると思うよ。ナルコの誘惑‥‥‥ナルコってのは忌むべき悪魔の名前さ。わざわざ基地にそんな名前をつけるんだ。教義に反したものがそこにあったって不思議じゃない」
イズミの言葉に俺も頷く。
「ところで、イズミは本当に留守番でよかったのか? 研究資料を1番楽しみにしてるのはイズミだろ?」
「ああ、いいんだ。ボクは他にやっておきたいこともあるし、気長にここで待たせてもらうことにするよ」
ちなみにイズミのやっておきたいことというのは、この拠点の拡張らしい。水耕栽培用に新しく建物を建てて、そのついでに拠点を囲む壁も改築するのだと話していた。
「資料が届いた後は研究にかかりっきりになるだろうからね。先にできることはやっておきたいのさ」
「とかなんとか言いつつ、オレと2人きりになりたいだけだったりしてー」
からかうようにレッドが言うと、イズミが真っ赤になって慌てていた。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
困惑する俺、すみれ、サヤ。
レッドとイズミが最近仲がいいのはなんとなく気づいてはいた。
友達以上恋人未満のような、そんな雰囲気を時々感じるんだけど、実際のところどうなのだろう。
今朝もレッドの髪をイズミが整えてたし。
「べっ、べべべべ別にそんな事、そんな事っ!」
そんな事、超ありますと言ってるようにしか見えない。
イズミがパニクってるのって相当レアだな。
自分が死にかけてる時でもここまでパニックにはなってなかったと思うけど。
レッドがなんだか申し訳なさそうな顔で「すまん、イズミならもうちょっと上手に誤魔化すと思ってた」なんて言いながら頭を掻いていた。
思いつきで人を窮地に追い込むの、やめてあげて?
「‥‥‥ふむ」
そんなイズミの様子をまじまじと見つめて、サヤが呟く。
「‥‥‥まあ私は恋愛の経験などありませんし、そんな私からのアドバイスなどありがた迷惑かも知れませんが。けれど1つだけ。もしお二人が世間体とか一般論とか、そのようなものを気にされてるのでしたら、それは全くナンセンスだと断言致します」
いつになく真剣な表情で、そう言葉を紡ぐサヤ。
「元奴隷の私だからこそ、そう思います。世間体という鎖は、奴隷の足枷よりも重いものでしょうか。私はそうは思いません。ありもしない鎖に縛られた気になって、自分の人生を棒に振る‥‥‥そんなの、すごく勿体無いですよ。あなたたちには、せっかく自由がありますのに」
そこまで言ってから、ふにゃっと表情を緩める。
いつもの、ふざけ半分の笑顔で。
「なーんて、偉そうなこと言っちゃいましたね、私。ありもしない鎖に縛られていたのは私も同じですのに。‥‥‥あの檻から担ぎ出してくれたこと、これでも感謝してるんですよ、イズミさん。だから今度は私が、イズミさんを縛る鎖を断ち切りたいなーなんて。そんな事を考えちゃったりしたわけです」
あははー、と笑ってカバンを担ぐサヤ。
「さあ。そろそろ出発しましょう! まずはドリンですねっ!」
「あ、ああそうだな。そろそろ行こうか」
‥‥‥サヤ、もしかして照れてるのか?
いつも掴みどころがなくて何を考えてるのか分かりづらいところのあるサヤだけど、今の言葉はきっと本心なのだろう。
「サヤ」
出発の準備を済ませて出かけようとする背中に、イズミが声をかける。
「ありがとう」
短いながらも、誠意のこもった声だった。
サヤはニコッと笑顔を返して。
「何をおっしゃいますやら。それは私のセリフですよ」
そして、俺たち3人は冒険に出かける。ホーリーネイションの軍事基地『ナルコの誘惑』を目指して。
同じ頃、デッドランドでは。
1人の冒険家と1体のアンドロイドが旅を続けていた。
「これで、トドメッ!」
2Bの振る刀で両断される警備スパイダー。
今のが最後の1体だ。
「どう、リドリィ。私1人で全部倒したよ」
「ああ、うん。すごいね2B。何週間もかかったけど、嘘は言ってないよね」
疲れた顔で答えるリドリィ。
「たったの数週間。一千年以上の寿命を持つ私たちにとっては、大した時間じゃない」
「そーですか」
やはり疲れた声のリドリィ。
「‥‥‥なぜ戦ってないリドリィが、私よりも疲れているの?」
「‥‥‥さあ。人間だから、じゃないですかねえ」
「? 分からない。やはり人間を理解するのは難しい」
アンドロイドに疲労の概念を伝えることの難しさに、リドリィは頭を抱える。
「それはそうと、次はどこに向かうか決めてあるのかい、2B? あたしはいい加減、この酸性雨から出たいんだけどさ」
「‥‥‥だったら、北の方に行くのはどう? 大陸の北には漁師の街があるって聞いた。私もそこで漁をしてみたい」
地図
第50話、読んでいただきありがとうございます。地図情報を文字で伝えるのって本当に難しいですね。結局また挿絵に頼ることになりました。なんだかんだでとうとうこの物語も50話です。ここまで続いているのは応援してくださっている読者のお陰に他なりません。いつもありがとうございます。