Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第51話 ナルコの誘惑 侵入編

 ブルームーンを出発した翌日の夜。

 俺たちは『ナルコの誘惑』直前にたどり着いていた。

 

「お疲れ様、サヤ。鎧重かっただろ?」

 

 後ろからついてきているサヤにそう声をかける。

 

「い、いえいえこれしきのこと」

 

 とサヤは強がってるが、その膝がガクガクしているのでやっぱりキツかったらしい。

 2人分の鎧を1人で運んでくれたもんなあ。

 

「それじゃ、サヤはしばらく休憩しててくれ。俺とすみれで忍び込んでみるよ」

「はいー、どうぞお気をつけて」

 

 そう言ってサヤはカバンを置くと、焚き火を起こしてテントを設営し始めた。俺とすみれはカバンから鎧を取り出して着替えるのだが。

 

「‥‥‥あれ。この鎧って、こんなに軽かったっけ。なんか、記憶にあるより重くないような」

「そうね。重いことは重いんだけど、この程度だったかしら‥‥‥?」

「いやいやメチャクチャ重いですって! 歩くだけで精一杯ですってば!」

 

 サヤがツッコミを入れてくる。

 うん、以前に着た時は俺たちも歩くだけで精一杯だったはずなんだけど、今なら別に走れるし、なんならこれを着たまま戦っても平気な気がする。

 いつの間にか、体力ついたなあ。

 

「そろそろ行こう。それじゃまず俺から行くか」

 

 背筋を伸ばし、基地に入る。

 基地は街道を挟んで左右に分かれており、向かって右側に兵士達が休むための宿舎がある。

 そして左側にあるのが‥‥‥えっと。

 なんだろうあの建物。

 何に使ってる建物なのかは分からないが、とにかく大きな建物が1軒だけある。

 そして建築様式が現代の物じゃない。

 建物の周りは城壁で囲われており、その門はしっかり施錠されてる。

 ‥‥‥なるほど。

 怪しいのはこっちだな。

 まずは閉じた門を開けるため、ピッキングに挑戦する。

 と、すぐに周囲の兵士から注目された。

 うーん。

 いくら変装してるとはいえ、やっぱ怪しまれるよなあ。

 堂々としてれば案外大丈夫かもしれないと思ったが、甘かったか。

 

「おい、何してるんだお前?」

「ああ、実はセタ様からの密命でね。『任務の内容はたとえ仲間であっても口外するな』って命じられてるんだ。だから悪いんだけど、そういった質問は直接セタ様から聞いてくれない?」

 事前に打ち合せておいた通りの言い訳を並べる俺。何か聞かれたらこう答えておけ、とレッドから教えてもらった言い訳だ。

 ちなみにセタが住んでいるスタックの町まで、片道で半日はかかる。

 

「密命? そ、そうか。密命なら仕方ないな‥‥‥」

 

 あ、納得してくれた。

 ちょっとチョロすぎるんじゃないかな。

 それだけセタの名前の影響力が大きいって事だろうか。

 そうこうしているうちに解錠に成功する。

 手招きですみれを呼んで、2人で中へ。

 

「ずいぶんとあっさり侵入できるのね。ちょっと拍子抜けしちゃったかも」

「そうだな」

 

 門から少し歩いて建物内部へ。

 と、何かが動く物音がした。

 こっちにも兵士がいたのだろうか。

 

「あ、お疲れさん。実はセタ様の密命で‥‥‥」

「みこと危ないっ!」

 すみれに突き飛ばされるようにして、床を転がる。

 直後。

 

 ドガシャァァン!!

 

 強烈な破砕音が、ついさっきまで俺が立っていた場所から響いた。

 兵士ではない。

 ロボットだ。

 蜘蛛のような姿をした、警備スパイダー。

 後に知ることになるのだが、2Bがずっと戦っていたものと同じロボットだ。

 

「って、なんだよこれは! なんでホーリーネイションの軍事基地にロボットがいるんだ。教義的に、ロボットはタブーのはずだろっ!」

 

 言いながらも、なんとか起きあがろうと‥‥‥いや間に合わない!

 起きるのは後だ、まず避けないと!

 ごろごろと床を転がるようにして警備スパイダーの追撃を回避。

 鋼鉄でできた蜘蛛の脚が、それまで俺がいた床を深々と抉り取る。

 なんつー馬鹿力だよ。

 こんなのとまともにやり合えるやつなんて、それこそ同じロボットぐらいなんじゃないのか?

 

「すみれ、まずいぞこれは! 一旦退くか!?」

「嫌よ!」

 

 あれ、即答で否定されたぞ?

 見るとすみれは既に刀を抜き、警備スパイダーに正面から切り掛かっていた。

 

「ふふっ、久々の強敵じゃない。最近は反乱農民とか奴隷商とか、数ばかり多い雑魚の相手ばかりで飽きてたのよね。いい修行になりそうじゃない」

 

 ‥‥‥いやあの、すみれさん?

 俺たちその数ばかり多い雑魚に、1度負けてるんですが。

 警備スパイダーは目標をすみれに切り替え、鋼鉄でできた脚を振り上げる。

 

「見切った!」

 

 その巨大な脚が振り下ろされる直前に、すみれは1歩分だけ右側へサイドステップ。

 ギリギリで避けてみせる。

 

「どんなに強烈な攻撃でも、当たらなきゃどうってことないわね!」

 

 袈裟斬り。

 右に寄せた重心を戻しつつの、右上から斜めに斬り下ろすような1撃。

 見事にカウンターが決まる。

 が、効いてるのかこれは。警備スパイダーは血も出ないし痛がるそぶりさえ見せないので、どれだけ効いてるのかよく分からない。

 少なくともカウンターの1撃で倒せるほど弱くはないってことは分かった。

 ええい、こうなったら俺もやるしかないか!

 すみれが時間を稼いでいる間に重くて動きにくい鎧を脱ぎ捨て、いつもの装備に着替えた俺は、一気に駆け寄って間合いを詰める。警備スパイダーが再びこちらに向き直り、脚を振り上げるが。

 

「勝負の最中によそ見だなんて、ナメたマネしてくれるじゃない?」

 

 すみれの中段突き。背後から機体の中心部を貫くような一撃に、流石の警備スパイダーも一瞬、動きが鈍る。脚を振り上げた体勢のまま、ガクっと崩れるように重心を落とした。

 

「ナイスフォロー、すみれ!」

 

 俺は速度を落とすことなく駆け寄り、警備スパイダーの腹から突き出るように伸びたすみれの狐太刀に左足を乗せ。

 そのまま階段をかけ登るような動作で、警備スパイダーの頭部に右の膝蹴りを叩き込む!

 そう、この技は!

 

「シャイニング・ウィザードォォ!」

 

 警備スパイダーの首がおかしな方向に曲がり、隙間から電子部品の基盤を覗かせた。

 

「や、やったか!?」

 

 その電子部品を強引に引きちぎることで、その警備スパイダーは完全に沈黙した。

 ‥‥‥だが。

 

「いいえ、まだよ」

 

 油断なく刀を握るすみれ。

 彼女の視線は、既に沈黙した警備スパイダーなど見てはいなかった。

 彼女の視線の先にあったのは。

 

「2体目、だと‥‥‥」

 

 たった今倒したのと同じタイプの警備スパイダーがもう1体、襲いかかってきた。




 第51話、読んで頂きありがとうございます。次回『ナルコの誘惑 発覚編』(仮題)お楽しみに。
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