ブルームーンを出発した翌日の夜。
俺たちは『ナルコの誘惑』直前にたどり着いていた。
「お疲れ様、サヤ。鎧重かっただろ?」
後ろからついてきているサヤにそう声をかける。
「い、いえいえこれしきのこと」
とサヤは強がってるが、その膝がガクガクしているのでやっぱりキツかったらしい。
2人分の鎧を1人で運んでくれたもんなあ。
「それじゃ、サヤはしばらく休憩しててくれ。俺とすみれで忍び込んでみるよ」
「はいー、どうぞお気をつけて」
そう言ってサヤはカバンを置くと、焚き火を起こしてテントを設営し始めた。俺とすみれはカバンから鎧を取り出して着替えるのだが。
「‥‥‥あれ。この鎧って、こんなに軽かったっけ。なんか、記憶にあるより重くないような」
「そうね。重いことは重いんだけど、この程度だったかしら‥‥‥?」
「いやいやメチャクチャ重いですって! 歩くだけで精一杯ですってば!」
サヤがツッコミを入れてくる。
うん、以前に着た時は俺たちも歩くだけで精一杯だったはずなんだけど、今なら別に走れるし、なんならこれを着たまま戦っても平気な気がする。
いつの間にか、体力ついたなあ。
「そろそろ行こう。それじゃまず俺から行くか」
背筋を伸ばし、基地に入る。
基地は街道を挟んで左右に分かれており、向かって右側に兵士達が休むための宿舎がある。
そして左側にあるのが‥‥‥えっと。
なんだろうあの建物。
何に使ってる建物なのかは分からないが、とにかく大きな建物が1軒だけある。
そして建築様式が現代の物じゃない。
建物の周りは城壁で囲われており、その門はしっかり施錠されてる。
‥‥‥なるほど。
怪しいのはこっちだな。
まずは閉じた門を開けるため、ピッキングに挑戦する。
と、すぐに周囲の兵士から注目された。
うーん。
いくら変装してるとはいえ、やっぱ怪しまれるよなあ。
堂々としてれば案外大丈夫かもしれないと思ったが、甘かったか。
「おい、何してるんだお前?」
「ああ、実はセタ様からの密命でね。『任務の内容はたとえ仲間であっても口外するな』って命じられてるんだ。だから悪いんだけど、そういった質問は直接セタ様から聞いてくれない?」
事前に打ち合せておいた通りの言い訳を並べる俺。何か聞かれたらこう答えておけ、とレッドから教えてもらった言い訳だ。
ちなみにセタが住んでいるスタックの町まで、片道で半日はかかる。
「密命? そ、そうか。密命なら仕方ないな‥‥‥」
あ、納得してくれた。
ちょっとチョロすぎるんじゃないかな。
それだけセタの名前の影響力が大きいって事だろうか。
そうこうしているうちに解錠に成功する。
手招きですみれを呼んで、2人で中へ。
「ずいぶんとあっさり侵入できるのね。ちょっと拍子抜けしちゃったかも」
「そうだな」
門から少し歩いて建物内部へ。
と、何かが動く物音がした。
こっちにも兵士がいたのだろうか。
「あ、お疲れさん。実はセタ様の密命で‥‥‥」
「みこと危ないっ!」
すみれに突き飛ばされるようにして、床を転がる。
直後。
ドガシャァァン!!
強烈な破砕音が、ついさっきまで俺が立っていた場所から響いた。
兵士ではない。
ロボットだ。
蜘蛛のような姿をした、警備スパイダー。
後に知ることになるのだが、2Bがずっと戦っていたものと同じロボットだ。
「って、なんだよこれは! なんでホーリーネイションの軍事基地にロボットがいるんだ。教義的に、ロボットはタブーのはずだろっ!」
言いながらも、なんとか起きあがろうと‥‥‥いや間に合わない!
起きるのは後だ、まず避けないと!
ごろごろと床を転がるようにして警備スパイダーの追撃を回避。
鋼鉄でできた蜘蛛の脚が、それまで俺がいた床を深々と抉り取る。
なんつー馬鹿力だよ。
こんなのとまともにやり合えるやつなんて、それこそ同じロボットぐらいなんじゃないのか?
「すみれ、まずいぞこれは! 一旦退くか!?」
「嫌よ!」
あれ、即答で否定されたぞ?
見るとすみれは既に刀を抜き、警備スパイダーに正面から切り掛かっていた。
「ふふっ、久々の強敵じゃない。最近は反乱農民とか奴隷商とか、数ばかり多い雑魚の相手ばかりで飽きてたのよね。いい修行になりそうじゃない」
‥‥‥いやあの、すみれさん?
俺たちその数ばかり多い雑魚に、1度負けてるんですが。
警備スパイダーは目標をすみれに切り替え、鋼鉄でできた脚を振り上げる。
「見切った!」
その巨大な脚が振り下ろされる直前に、すみれは1歩分だけ右側へサイドステップ。
ギリギリで避けてみせる。
「どんなに強烈な攻撃でも、当たらなきゃどうってことないわね!」
袈裟斬り。
右に寄せた重心を戻しつつの、右上から斜めに斬り下ろすような1撃。
見事にカウンターが決まる。
が、効いてるのかこれは。警備スパイダーは血も出ないし痛がるそぶりさえ見せないので、どれだけ効いてるのかよく分からない。
少なくともカウンターの1撃で倒せるほど弱くはないってことは分かった。
ええい、こうなったら俺もやるしかないか!
すみれが時間を稼いでいる間に重くて動きにくい鎧を脱ぎ捨て、いつもの装備に着替えた俺は、一気に駆け寄って間合いを詰める。警備スパイダーが再びこちらに向き直り、脚を振り上げるが。
「勝負の最中によそ見だなんて、ナメたマネしてくれるじゃない?」
すみれの中段突き。背後から機体の中心部を貫くような一撃に、流石の警備スパイダーも一瞬、動きが鈍る。脚を振り上げた体勢のまま、ガクっと崩れるように重心を落とした。
「ナイスフォロー、すみれ!」
俺は速度を落とすことなく駆け寄り、警備スパイダーの腹から突き出るように伸びたすみれの狐太刀に左足を乗せ。
そのまま階段をかけ登るような動作で、警備スパイダーの頭部に右の膝蹴りを叩き込む!
そう、この技は!
「シャイニング・ウィザードォォ!」
警備スパイダーの首がおかしな方向に曲がり、隙間から電子部品の基盤を覗かせた。
「や、やったか!?」
その電子部品を強引に引きちぎることで、その警備スパイダーは完全に沈黙した。
‥‥‥だが。
「いいえ、まだよ」
油断なく刀を握るすみれ。
彼女の視線は、既に沈黙した警備スパイダーなど見てはいなかった。
彼女の視線の先にあったのは。
「2体目、だと‥‥‥」
たった今倒したのと同じタイプの警備スパイダーがもう1体、襲いかかってきた。
第51話、読んで頂きありがとうございます。次回『ナルコの誘惑 発覚編』(仮題)お楽しみに。