「日が落ちてきたね、2B。デッドランドってのは日中でも薄暗いってのに、夜になったらほんと真っ暗になるから困るよ」
「そうだね。そろそろ野営の準備でもして‥‥‥ん?」
あたしの言葉に頷いた2Bが、何かを見つけたように顔を上げる。
釣られてそちらを見ると、焚き火の灯りが見えた。
テントを設営して、焚き火のそばに腰を下ろしている女性が1人。
黒髪のショートボブで、かなり上質な防具を身に纏っている。
熟練の冒険者だろうか。
「おや珍しいね。こんなところで焚き火だなんて。旅人さんかな。丁度いい、ご一緒させてもらおうよ」
「賛成。たった1人で旅をしている者なら、きっと腕利き。頼りになるはず」
2Bもそう言ってくれたので、その女性に近づいて声をかけてみる。
「すいませーん。私たちも旅の途中なんだけど、夜が明けるまでご一緒させてもらえませんか?」
「えっ‥‥‥ええまあ、私は別に構わないんですけど、その‥‥‥」
その女性は何か言葉を探すようにしながらチラチラと2Bを見ながら‥‥‥いや違うな。
正確には2Bのパンツを見ながら。
「変態さんですか?」
‥‥‥うん。
気持ちは分かるよ。
スカート履いてないもんね。
けど、もうちょっと言葉探そうよ。
途中まで頑張って言葉探してたじゃん。
なんですぐ諦めちゃうの。
もうちょっと頑張ろうよ。
「あーいや、2Bのコレは別に趣味って訳じゃなくて‥‥‥気にしないでっていうのも難しいとは思うんだけどさ。変態じゃないからそんなドン引きしないでくれない?」
「なるほど。では気にしないことにしますね。どうぞこちらへ」
あっさり納得して焚き火の側へと手招きしてくれる女性。
素直っていうか、物分かりがいいっていうか。
きっと1人より3人でいる方が安全、という打算が働いたのかもしれない。
実際冒険していると、そういう打算は結構あるものだ。
1番大事なのは協力できるかどうか。
それが最優先で、相手がどんな格好してるかとかは割と些細なことだったりする。
‥‥‥まあそれにしたって、2Bのこの格好を些細なこととして片付けるのはどうかとは思うけどさ。
「ありがと。あたしリドリィっていうの。よろしく。んでこっちはアンドロイドの2B。スケルトンって呼ぶと機嫌悪くなるから注意してあげて」
「あら、わざわざご丁寧に。私はサヤと申します。よろしくお願いしますね」
お互いに挨拶を済ませたところで、お腹も空いてきたし肉でも焼こうか、とカバンの中を漁ってみるのだが。
あれ、生肉がない。
食料は多めに用意してるはずなんだけど‥‥‥と、そこまで考えて、気づく。
ここ数週間、ずっと2Bに付き合ってたから食料の補充ができてない。
普段なら絶対に食料が尽きないように準備しているのだが、まさかこんな強引な戦いをするなんて思ってなかったからなあ。
「あー、えーっと、サヤさん? 初対面でこんな事頼むのも悪いんだけど、その‥‥‥」
「あら、もしかして食料が尽きちゃったんですか? しょうがないですねー。はい、どうぞ」
にこりと笑ってサヤが差し出してくれたのは、ブロック型栄養食。
通称カロリーメイトだ。
「ありがとうっ、ほんと助かるよ。あ、お金は‥‥‥」
「ふふっ、別にいいですよお金なんて。私も1人で食べるより、2人で食べた方が美味しいなって思ってましたから」
そう言ってサヤも自分の分のカロリーメイトを取り出す。
余裕のある言動は、やはり腕利きの冒険者を思わせる。
「カロリーメイトは、メイプル味が1番好きですね、私は。温もりがあるっていうか、ホッとする味というか。牛乳とすごくよく合うんですよね」
そんな事を言いながら牛乳パックを開けるサヤ。
メイプル味が好きとか変わってるなあ。
ちなみにあたしはフルーツ味派だ。
「ところでさ。サヤはどうしてこんな所で野営してるの? 少し歩けば、向こうに街も見えるのにさ」
「街? ああいえ、あれは街ではなく軍事基地のようで。‥‥‥あ」
顔を上げたサヤに釣られてそちらをみると、板金鎧を着た兵士がこちらにやってきていた。
あの鎧、確かホーリーネイションの‥‥‥?
「おい。あんたら人ん家の庭先で何してんだ? 悪いが不審な者は近づかせるなと‥‥‥あん?」
兵士の視線が2Bを見つめる。
あ、マズいかも。
「貴様! スケルトンだな! 痴女の格好したスケルトンとはいい度胸だ。我々の教義への宣戦布告と受け取るぞ!」
「お、おい待て! 私はスケルトンではないし断じて痴女でもない! ただスカートを履いてないだけだ!」
「それが痴女でなくて何なのだ!」
聞く耳も持たず武器を取り攻撃してくる兵士。
‥‥‥うん、ごめん2B。
あたしもちょっとフォローできない。
「わわっ、私は無関係ですっ! この変態さんとはさっき会ったばかりの通りすがりで‥‥‥!」
サヤさん見捨てないでっ!
他人のふりしないでっ!!
「黙れ! そんな言い訳が通用するか! 侵入者だ! 皆の者、侵入者を捕らえよ!」
兵士が叫ぶ。
宿舎から次々と兵士が飛び出してきた。
‥‥これは、マズいかもしれない。
兵士が大きな剣を振り上げ、サヤめがけてその剣を振り下ろす。
ガキィン!
大きな金属音が響き、兵士の剣が止まる。
剣を受け止めて見せたのは、突如サヤの前に躍り出た黒髪の剣士。
長い髪をなびかせた、女剣士だ。
私はその剣士の背中に見覚えがあった。
見覚えがある、はずだ。
けれど以前見た時とは違う。
あの時とは比較にならない程の、肌をひりつかせるほどの闘気。
まるで別人のような、それ。
「すみれさん!! 助けに来てくれたんですね!」
サヤの声を聞いて、ようやくそれが本当にすみれなのだと確信できた。
私と別れた後、一体何があったのか。
この短期間で、何が彼女をそこまで成長させたのか。
「当然でしょ。荷物持ちに倒れられたら、せっかくの戦利品を持ち帰れないじゃない」
憎まれ口を叩きながら、何倍もの人数の正規兵相手に1歩も引かず、刀を構えるすみれ。
その頼もしい姿に、あたしは状況も忘れてしばらく見とれていた。
第52話、読んで頂きありがとうございます。GWということで思ったよりも筆が進みました。次回『ナルコの誘惑 激闘編』(仮題)お楽しみに。