Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第5話 夢を見て、現実を知る

「朝ね」

「ああ、朝だな」

 

 一晩中星空を眺めて過ごした俺たちは、見ればわかることを、意味もなく呟きあった。

 意味のない会話が、何故か不思議と心地よい。

 そんな静かな時間に、たっぷりと身を任せた後。

 

「ねえみこと。これからどこに行く?」

 

 先にそう聞いてきたのはすみれだった。

 

「さあね。アテなんかないが、どこにだって行けるさ。なにせ、俺たちはもう自由なんだから」

 

 遠くの空を見ながら、そう答える。

 

「そうね。自由なのね、私たち。ねえ、それじゃあみことは、何がしたい?」

 

 どこに行きたいかの次は、何がしたいか。

 特に深く考えることなく、思いついたままを言ってみた。

 

「そうだな‥‥‥まずは、腹いっぱい飯を食いたい。都市連合の貴族が食ってるような、極上の贅沢な飯をな」

 

「ああ、それはいいわね! お酒も飲みたいわ。私、まだ飲んだことないもの」

「そうか、実は俺もなんだ。でも、歩哨がすっごく美味しそうに飲んでた酒なら知ってる。ビールって言うんだ」

「ビール‥‥‥それって甘いの?」

「いや、どうやら苦いらしいぜ。でも、その苦いのが美味しいらしいんだ」

「くすっ、変なの。でも面白いわね。私も飲んでみたい」

「ああ、飲めるさ。他に何かやりたい事あるか?」

 

 まだ飲んだことのないビールの味を夢想しながら、広い世界に思いを馳せる。

 

「そうね。賞金稼ぎになりたいわ。かっこよく言うなら、バウンティハンター」

「ぷはっ、それはまた大きく出たな。すみれ、武器なんて使えるのか?」

「これから使えるようになるのよ。そして大陸最強の剣士になって、悪い奴らをどんどん捕まえるの」

「そりゃすげえ。だったら俺は鍛冶職人になりてえな。大陸最強の剣士であるすみれが、大陸最高の鍛冶職人になった俺の刀を振り回すんだ。もちろん、刀には俺の銘が入ってる」

「ふふ。調子の良いこと。みことだって、武器なんて作れないでしょう?」

「これから作れるようになるのさ」

 

 2人でそんな話をして、笑い合った。

 もちろん2人とも本気じゃない。

 鎧を着るだけで走ることすら出来なくなるような、痩せこけた逃亡奴隷が、大陸最強の剣士だなんて。

 最強どころか、鉱山の歩哨にさえ敵わない。

 彼ら正規兵との格の違いは、鎧を着て歩くだけで思い知らされた。

 でも、それでも。

 2人でそんな夢想じみた話をしていると、本当になれそうな気になってくる。

 夢くらい見たっていいじゃないか。

 

「さて、そろそろ出発しましょう。いっぱい話したら、またお腹が空いてきちゃったわ」

「そうだな。と言っても食料を買う金もないし、買えそうな町も見当たらない。どうしたものかな」

 

 愚痴をこぼしつつも、歩き出す。

 いつまでもここでじっとしている訳にもいかない。

 ガチャリガチャリと、歩くたびに板金鎧が音を立てる。

 20kgくらいありそうな鎧の重さが、ずっしりと肩にのしかかる。

 

「ねえみこと、これ‥‥‥重いわ」

「そうだな。めっちゃ重いな」

「脱いで良いかしら?」

「ホントは俺も脱ぎたいが‥‥‥この鎧、売れば金になるぞ。今日の食事代くらいにはなるはずだ」

「そう。脱ぎ捨てる訳にはいかないのね」

 

 走ることもできず、てくてくと歩き続ける。

 歩いているうちに陽が昇り、太陽がじりじりと板金鎧を照らし出す。

 まるで、鉄板で蒸し焼きにされている気分だ。

 

「ねえみこと、これ‥‥‥暑いわ」

「そうだな。めっちゃ暑いな」

「脱いで良いかしら?」

「ホントは俺も脱ぎたいが‥‥‥俺たち、文無しなんだ。食料もない」

「そう。生きるのって、大変なのね」

 

 そしてまた、てくてくと歩き続ける。

 

「ねえみこと、これ‥‥‥」

「なんだ、今度はどうした?」

「これ、持ってよ」

「なんだってぐわあああ!!」

 

 20kgの鎧を押し付けられた!

 重いなんてレベルじゃねーぞ殺す気か!!

 

「あー、やっと解放されたわ。死ぬかと思った」

 

 鎧を脱いで下着姿となったすみれが、さらに俺の肩にのし掛かる!

 まて、死ぬ! ホントに死んでしまう!!

 

「待て待て待てって! せめて自分で歩け!」

「え? 若い女の子が半裸でもたれかかったら、普通の男の子だったら喜ぶんじゃないかしら? おかしいわね‥‥‥」

「状況によるだろ! 大体板金鎧のせいで、肌の感触なんて分かんねーよ!」

「そう? でもまあ筋トレになるって思えば悪くないでしょう。いつまでも弱いままじゃいられないもの、私たち」

「お、降りる気はないってか‥‥‥?」

「あ、ほら! あそこに小屋が見えるわ。あの小屋に着くまで頑張りましょう?」

 

 すみれが指差す方向には、確かに小屋らしき建物が見えた。大した距離ではないはずだが、今の俺には10マイル以上離れた距離のようにも感じられた‥‥‥

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「さてさて、お邪魔しまーす」

 ようやく小屋に辿り着いた俺を、少しばかり離れた場所で休ませながらすみれは小屋の扉を開けた。

 もちろんすみれは下着姿のままだ。

 彼女曰く、もし危険な場所だったら、鎧を着ていては逃げられないから、らしい。

 確かにこういった人里離れた小屋はゴロツキのアジトだったりする可能性もあるが、すみれは一体どこに羞恥心を置き忘れてきたのだろう。

 人が住んでいた場合、突然訪ねてきた下着姿の女をどう思うだろうか。

 しばらく外で様子を見ていると、すみれが戻ってきた。

 

「大丈夫、ちょうど留守にしてるみたいだったわ。中には誰もいないわよ」

「そ、そうか。誰もいなかったか。そいつは良かった、本当に良かった」

 

 あらゆる意味でホッと安心して、俺もその小屋に入る。

 小屋の中にはいくつかの調度品と、食料があった。

 食料はまだ新鮮だ。

 普通に食べることができる。

 民家だろう。

 家の主は買い物にでも行ってるのだろうか。

 

「ほら、見てこれ、ミートラップよ! こっちにはグロッグ? って言うお酒もあるわ! すごい、早速やりたい事が1つ叶ったわ!」

 

 嬉しそうにミートラップとグロッグを持ってくるすみれ。‥‥‥んん?

 

「なあすみれ。お前‥‥‥」

「それにほら! じゃーん! 重たくない普通の服も置いてあったわ! これで鎧に潰されそうにならなくて済むわね。もらって行きましょう!」

「なあお前‥‥‥ドロボウになる為にリバースを出たのか?」

「!!」

 

 すっかりはしゃいでいたすみれは、俺の一言でピシリと凍りついた。

 どうやら効果的だったらしい。

 

「‥‥‥」

 

 何も言えなくなって沈黙してしまったすみれに、静かに語りかける。

 

「すみれ。お前は、世界最強のバウンティハンターになるんだろう? 悪い奴らを捕まえるんじゃなかったのか?」

 

 俺がそういうと、すみれは小刻みに肩を震わせて。

「う、うう‥‥‥だって、だって!! 歩いてるだけでお腹は減るし、お金だってないのよ! 鎧は重くて、暑くて、苦しくて! さっき小屋の扉を開ける時だって、ホントはすっごく恥ずかしくて! でも鎧着てたら、いざという時走り出すこともできなくて! だから、だからあ!!」

 

 だから、無人だとわかって、ついはしゃいでしまった。

 そんなことを言っているようだったが、後半からは完全に泣き声になって、きちんとした文章の体をなしていなかった。

 

「‥‥‥すまん。言いすぎた」

 

 泣き出したすみれの頭を撫でてやりながら、思い出す。

 そう言えば俺が昔住んでいたスタックの町も、町からちょっと離れたら飢えた野盗が出没していた。

 野盗のくせにまともな武器も鎧も持たず、ボロボロの布切れを着て、ボロボロの棒切れを振り回しているおかしな集団だ。

 そして俺が銅を掘っているのを見ると、食料を寄越せと叫んで走り寄ってくるのだ。

 でも俺が走って逃げると、子供の足にすら追いつけずに、やがて諦めてしまう。

 当時、俺はあの連中のことが理解できなかった。

 心底、おかしな奴らだとバカにしていた。でも。

 

「‥‥‥」

 

 今、俺の胸に顔を埋めて泣いているすみれを見て、思う。

 あいつらもきっと、野盗になんかなりたくなかったのかもしれない。

 野盗になる前は、彼らにも夢があったのかもしれない。ボロボロの布切れを着ている連中の中には、確か女もいたはずだ。

 彼女はどんな気持ちで、それを着ていたのだろう。

 そんなものしか着るものがなく、それでも生きる為に町の周りを走り回って。

 

「‥‥‥なあ、すみれ。お前は、野盗になんかならなくて良い。なっちゃいけない」

「ひっく、だって、だってえ」

「俺がすぐに町を探してきてやるよ。だからすみれ。お前はしばらく、ここにいろ。町が見つかるまで、ここで休んでてくれ」

 

 民家のベッドにすみれを寝かしつけ、外に出る。‥‥‥さて。

 ひとっ走りするとしますか。パンツ一丁で。




 第5話まで読んでくれた方、ありがとうございます。作中に登場するビールですが、バニラ環境では登場しません。Missile氏のmod、Expansion of Food Cultureによって追加されるお酒です。他にも美味しそうな料理がたくさん追加されるオススメのmodですので、気になった方は1度お試しくださいませ。
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