Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第53話 ナルコの誘惑 激闘編

「2体目、だと‥‥‥」

 

 みことが見つめる視線の先には、新たに現れた警備スパイダー。

 そいつは真っ直ぐ私に向かってせまってきていた。

 1歩ずつ距離を詰めてくるその姿を見ながら、私は過去を思い返す。

 最初に頭をよぎったのは、初めて反乱農民の賞金首を倒した時のこと。

 まだ大して強くもなかった私たちは、4人で協力して、ギリギリの真剣勝負の末に勝利を手にした。

 初めて手にした勝利の感動は、今でも忘れられない。

 次に脳裏に浮かぶのは、奴隷商に叩きのめされた時のこと。

 途中まで優勢に戦っていたにも関わらず、一瞬の油断から不覚をとってしまった。

 地面に押し倒され土を舐める、敗北の苦渋。

 

 そして、今。

 目の前にせまる警備スパイダーを見ながら、思う。

 今度の相手は勝利か敗北か。

 どちらを与えてくれるだろうかと。

 狐太刀を構えながら、ニィッと口角を上げて笑みを作ってみせる。

 

 楽しい。

 

 それが嘘偽りのない本音だった。

 ギリギリの真剣勝負というものは、どうしてこうも人を熱くさせるのだろう。

 そしてこの敵を倒した時、またあの時のような感動が味わえるのだろうか。

 思わず舌なめずりしたくなるのを、ぐっと堪える。

 シミオンとの戦いもなかなかだったが、今回の相手はそれ以上だ。

 期待と焦燥を胸に、迫りくる警備スパイダーを待ち受ける。

 狐太刀の間合いまで、あと3歩。‥‥‥2歩。1歩。

 間合いに入った、と同時に刀を振り抜く。

 剣先で僅かに引っ掛けるような一閃を胸の正面で静止させ、即座に大きく踏み込む。

 斬撃からノータイムで突きへの変化。

 シミオンが使った技の応用だ。

 

 ギイィイン!!

 

 金属を切り裂く嫌な音が響く。

 が、この程度で勝てるほど弱い相手でもないはずだ。

 先ほど対峙した1体目の手応えからそう判断し、油断なく気配を探る。

 巨大な警備スパイダーの脚が、頭上に迫っているところだった。

 

「はあっ!!」

 

 後退し、突き刺した狐太刀を引き抜きつつ、その勢いのまま頭上に弧を描くように狐太刀を振るうことで、迫り来る警備スパイダーの脚を弾きとばす。脚の軌道が僅かに逸れ、床を大きく抉った。

 同時に攻撃がからぶった瞬間を狙っただろうみことのドロップキックが直撃し、警備スパイダーの体勢が大きく崩れた。

 

「よしっ、あともう一息!」

「おうっ! 一気に決めるぞ!」

 

 私の呼びかけに応えるようにそう返すと、みことは蹴り飛ばした警備スパイダーを足場にさらに高く跳躍し、空中で身をよじる様にして半回転。

 天井に足をつけて拳を握り締めるのが見えた。

 まさか、重力を味方につけて殴りつけるつもりか。

 ならばと私は地を這うような低い姿勢で警備スパイダーの足元を斬り払い、注意を引きつける。

 バランスを崩した警備スパイダーは最後の悪あがきとばかりに、その鋼鉄の巨体で私を押し潰そうとするかのように倒れかかってくる。

 そんな警備スパイダーの背後に見えるのは‥‥‥天井を全力で蹴り、重力を味方につけて矢のような速度で接近するみこと。

 私がそのまま駆け抜けるようにして飛び退くと同時に、部屋全体を揺るがすような衝撃と爆音を伴いながら、みことの正拳突きが警備スパイダーの頭部を粉々に粉砕した。

 

「へっへーん。ざっとこんなもんだぜ!」

「うん! やったわね、これで‥‥‥」

 

 これで安心、と思った矢先に。

 

「侵入者だ! 皆の者、侵入者を捕らえよ!」

 

 外から聞こえてくる兵士の声。

 バレた!?

 

「え、なんで!? なんでバレたの!?」

「わ、分かるわけねーだろそんなの! と、とにかく一旦外に出るぞ!」

 

 窓から外を確認すると、宿舎から多くの兵士が飛び出してくるのが見えた。

 もしあの兵士たちが一気にこの建物に殺到したら‥‥‥逃げ道を防がれる。

 戦いの基本は退路の確保。

 イズミがいつも言っていたことだ。

 私たちは急いで外に引き返して、迫ってくるはずの歩哨を返り討ちに‥‥‥あれ?

 

「なあすみれ。変じゃないか? 歩哨の奴ら、全然こっちに来ないぞ?」

「‥‥‥そうね。一体何が‥‥‥?」

 

 疑問に思いつつも門の外に出る。

 兵士は少し離れた場所の野営地に向かっていた。

 襲われているのは、サヤとリドリィと痴女!?

 ‥‥‥いや待って。

 痴女ってなんだ痴女って。

 

「と、とにかく助けるぞ!」

 

 みことが若干目を逸らし、痴女を見なかったことにして話を続ける。

 いや、流石にアレを見なかったことにするのは無理があると思うんだけど。

 そんな場合じゃないってのは分かるんだけどね。

 私はサヤ達の元に駆けつけ、今まさにサヤに斬りかかろうとしている兵士の前に躍り出る。

 

 ガキィン!

 

 間に合った。

 鍔迫り合いの形で、兵士と対峙する。

 

「すみれさん!! 助けに来てくれたんですね!」

「当然でしょ。荷物持ちに倒れられたら、せっかくの戦利品を持ち帰れないじゃない」

 

 別に、サヤのことを心配したわけじゃないし。

 ‥‥‥誰に対してか分からない言い訳を、口の中で呟く。

 

「‥‥‥誰だ、貴様? 我々をホーリーネイションのパラディンと知っていて剣を向けるつもりか?」

 

 国を敵に回すことになるぞ、と言外に言われた気がした。

 けど、そんなの今更だ。

 リバースから逃げ出したあの日から、とっくに国に追われる覚悟はできている。

 それにそんなことより、せっかくだからアレをやってみたいわね。

 

「なんだかんだと聞かれたら!」(私)

 

 そう、反乱農民を相手にした時にやったアレ!

 あの時は結局みことが恥ずかしがって最後までできなかったのよね。

 というわけでリベンジだ。

 

「こ、答えてあげるが世の情け!」(みこと)

 

 打ち合わせもしてないのに、ちゃんと合わせてくれるみこと。

 さすが分かってる。

 

「世界の飢餓を防ぐため」(私)

「バストの平和を守るため」(みこと)

「愛と真実の悪を貫く」(私)

「ラブリーチャーミーなトレジャーハンター」(みこと)

「すみれ!」

「みこと!」

「銀河を駆けるアウトサイダーの2人には」(私)

「ホワイトホール白い明日が待ってるぜ」(みこと)

「‥‥‥にゃ、にゃーんてにゃ」(サヤ)

 

 ふっ、決まったわね。

 最後にサヤが合わせてくるとは思わなかったけど、結果オーライだ。

 

「‥‥‥なんだ、それは? というか恥ずかしくないのか?」

 

 あれ、おかしいな。

 兵士に真顔で問い返されたわよ?

 

「ふふん。このセンスが分からないなんて可哀想。本当はお宝だけ頂いてこっそり帰るつもりだったけど、こうなったら仕方ないわね。ちょっと痛い目に遭ってもらうわよ」

 

 狐太刀を構えてそう宣言する私の隣で、みことが「すまん俺も分からん。というかぶっちゃけ恥ずかしい」とか呟いている。

 帰ったらじっくり話し合う必要がありそうね。

 

「ほざけ! 痛い目を見るのがどちらか、教えてやる!」

 

 斬りかかってくる兵士、その数10、20、いやもっとか。

 囲まれるのも時間の問題だろう。

 1人ずつ相手をしていては、奴隷商の時の二の舞だ。

 出来ればまとめて斬り捨ててやりたいところだが‥‥‥

 

「すみれさん、これを使ってくださいっ!」

 

 サヤが取り出したのは、大太刀。

 

 その冗談みたいに大きな刀を、ぶっつけ本番でこの相手に使えって?

 ‥‥‥いいわね。

 結構好きよ、そういうの。

 私は狐太刀を地面に突き刺し、そのまま狐太刀を放置して大太刀に持ち換える。

 実際に構えてみると、その重さは異常だ。

 20キロはあるだろうか。

 背負って歩くだけならどうにかなるが、これを刀として振り回すなんて出来るわけが。

 

「‥‥‥いや」

 

 いや。出来る。

 この刀を打ったのはみことなんだ。

 彼が私のために打った刀。

 なら、振れないハズがない。

 地に足を食い込ませるように噛ませ、重心を落とす。

 

「はああっ!!」

 

 腕力ではなく、体で横に薙ぐ。

 迫りきた兵士を3人ほど斬り捨てた。

 が、ブレーキが効かない。

 重い刃を無理に止めようとせず、その勢いに任せて体を180度反転。

 私の背後に回り込もうとしていた別の兵士と目が合う。

 やっぱり。

 人数差を最大限に活かして取り囲む、それがホーリーネイションが最も得意とする戦法だ。

 

「ひっ」

 

 眼前に大太刀の切っ先を突きつけられた兵士が、情けない声を上げて動きを止めた。

 隙あり。

 やれるか?

 ‥‥‥いや、背後から迫ってくる別の敵の気配。

 背中を向けたのは悪手だっただろうか?

 

「背中は任せろっ!」

 

 凛とした声を響かせ、アンドロイドが駆ける。

 私の横をすり抜け、背後から迫る敵に向かっていく。

 うん。

 大丈夫。

 私には、頼もしい味方がいるじゃないか。

 ぐっと大地を蹴り、全身を使った突きを放つ。

 それは板金鎧に触れるも止まらず、貫通。

 そのまま背骨まで一気に貫いた。

 屍となったそいつを蹴り飛ばし、次の敵に備えて周囲に視線を飛ばす。と。

 

「っ!!」

 

 目が合った。

 サヤと。

 怯えたように目を見開いて、こちらを見ていた。

 ‥‥‥私は、サヤのあの目が嫌いだ。

 私は、強い人間はそれだけで尊敬されたり憧れられたりするのだと思っていた。

 なのに。

 なのにサヤは、どうしてそんな目で私を見るんだ。

 そんな、恐怖に染まったような目で。

 それが仲間に向ける視線か。

 

「ちっ」

 

 舌打ちをしつつ、大太刀を小脇に構えたまま駆ける。

 次の敵の間合いに入ったところで、足を地面に食い込ませるように急ブレーキ。

 慣性の法則に従うように大太刀が弧を描き、そいつの腹を両断する。

 ‥‥‥サヤの目を見ていると、やはり思い出す。

 リバースにいた頃を。

 一緒に捕まっていた召使いの目を。

 常に何かに怯え、歩哨の機嫌ばかり伺っていたあいつらの目を。

 サヤの目は、あいつらが歩哨を見るときの目と同じなのだ。

 それが、本当に腹立たしい。

 私を、あんな奴らと一緒にするんじゃない。

 

「すみれ! もういい、一旦退却だ!」

 

 みことが叫んでいる。

 確かに私も5、6箇所ほど斬られているものの、傷は浅い。

 咄嗟のガードが効かないので、この程度の傷は受け入れるしかないだろう。

 

「まだ、やれるっ!」

「そうじゃないっ、サヤがやられてるっての!」

 

 みことの言葉に、背後を振り返る。

 足を怪我したのか、地面に這いつくばるサヤ。

 そして、それを目がけて剣を振りかぶるパラディン。

 

「まったく、世話の焼けるっ!」

 

 体ごと振り返り、背負い投げの要領で大太刀を振りかぶる。

 頭上に大きな弧を描いた大太刀は、そのままパラディンの肩を両断、握っていた剣を腕ごと斬り飛ばす。

 

「サヤ、しっかりしなさいっ」

 

 大太刀を納刀し、サヤを担ぎ上げる。

 包囲は既に崩壊しているので、あとは安全な場所まで走るだけだ。

 なのに。

 

「は、はい‥‥‥」

 

 なのになんで、そんな目で私を見るの。サヤ。




 第53話、読んで頂きありがとうございます。大太刀を使った初戦闘、お楽しみ頂けたなら幸いです。GWも終わってしまいましたので、次回以降はいつものスローペースな投稿に戻るかと思います。
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