AM5:00、オクランの盾。
俺は部下の大声で叩き起こされた。
「報告します、ヴァルテナ様! 『ナルコの誘惑』が落とされました!」
ドンドン、と扉をノックする音が響く。
眠気を吹き飛ばすには十分な報告だった。
「入れ。詳しい状況の説明を頼む」
ベッドから出て扉の鍵を開けると、板金鎧を着込んだ部下が入ってきた。
彼には、左腕がなかった。
腕だけではなく、全身に無数の傷を負っていた。
『ナルコの誘惑』の生き残りだろうな、と察する。
「お疲れ。激戦だったらしいな。まずは楽にしてくれ。鎧も脱いでいいぞ」
「はい、ありがとうございます」
俺の言葉にそう答えると、彼は鎧を脱いで椅子に腰掛けた。
「順番に聞いていこうか。襲撃があったのはいつだ?」
「昨夜です。日付が変わる少し前に衛兵が不審人物を見つけ、問い詰めたところ交戦となりました。1度は撃退に成功しましたが、兵員を補充する間もなく2度目の襲撃が行われ‥‥‥防衛部隊は全滅しました。力及ばず、申し訳ありません」
「謝る必要なんかねーさ。必死に戦ってくれたのは見りゃ分かるんだからさ。んで、どんなスゲーやつにやられたんだ?」
俺の問いに、少しだけ迷いながら、彼は答える。
「5人組で、ええと、その‥‥‥」
どうにも歯切れが悪い。何か言いづらいことでもあるのだろうか。
‥‥‥まあ防衛任務を失敗したんだ、言いづらいことの1つや2つはあるか。
「なんだ、言ってみろ。怒ったりしねーからさ」
「え、ええと。その‥‥‥そのうち1人は、痴女の格好をしたスケルトンでした」
「‥‥‥え、なんて?」
ふざけてるのか?
いや、部下の顔は大真面目だ。
「せ、正確にはパンツを丸出しにした女の姿の、スケルトンでした」
「そ、そうか」
そうか、としか言えない。
他に何を言えっていうんだ。
想像以上にヤベーやつに襲われてんじゃねーか。
「そして残りの4人のうち2人は、名前を名乗っておりました。すみれと、みことと」
「へえ、尋問でもしたのか?」
「いえ、聞いてもいないのに勝手に名乗りだしました。それはもう楽しそうにノリノリで」
「‥‥‥」
「お気持ちは分かりますが、事実です。ヴァルテナ様」
「そ、そうか。もしかしてそいつら、バカなのか?」
「さて。一見バカっぽく見えましたが、どうでしょう。引き際を見極める判断の正確さは敵ながら見事でした。おそらくバカを演じて油断を誘う作戦だったのでしょう」
部下の報告を受けて。
確かに油断を誘うためにあえて弱そうに振る舞ったり、バカそうな口調を使ったりといった作戦は存在する。
けれど油断を誘うためにパンツ丸出しでうろついたり、聞かれてもないのにノリノリで名前を名乗ったりっていう作戦は初耳だ。
いや誰も使ったことのない作戦だからこそ読まれづらいというのはあるかもしれないけどさ。
それにしたって、ねえ?
俺のみたところ、こいつは作戦とかじゃなく、本当にバカだ。
そして頭のいい仲間が別にいるとみた。
「きっと他にも仲間がいるはずだ。そいつらの居場所を探るとするか」
「ああ、それでしたら目星はついております。おそらくバストかと」
「へえ。やるじゃねーか。仕事が早いな」
「いえ、それも本人が自分から喋っていましたので。バストを守るとかなんとか」
‥‥‥。
本当になんなんだ、こいつらは。
ただの賊ではなさそうだが。
つーかみことって、セタのおっさんが探してたやつじゃねーか。
「りょーかい。報告は受け取った。お前は回復するまで休養に専念しろ」
「はい、ありがとうございます」
立ち上がり、宿舎へ戻ろうとする兵士。
片腕を失ったまま、彼は今後どうやって戦うのだろう。
‥‥‥まあ、いい。
それを決めるのはあいつ自身だ。
俺が口を出す事じゃないな。
それよりも、だ。
俺は机に向かい、手紙にペンを走らせる。
セタにこのことを知らせてやらねーとな。
文面はどうしようか。
‥‥‥ま、テキトーでいいか。
『よお、セタのおっさん。みことの居場所が分かったぜ。多分バストだ。ただし、たかが逃亡奴隷だと思って舐めてかかると、痛い目に遭うかもよ?』
幕間の物語、読んでいただきありがとうございます。ナルコの誘惑への襲撃によって、ついに開戦の狼煙が上がりました。メタ的に言うなら、友好度が赤くなりました。次回もよろしくお願いします。