第56話 開戦
「良い知らせと悪い知らせ、どちらから聞きたいですか、イズミさん?」
拠点に戻ってきて早々、サヤからそんなことを聞かれた。
「ええと。‥‥‥じゃあ、まず良い知らせから」
「はい。じゃじゃーん。イズミさんが欲しかった研究資材、たっぷりと手に入りましたよ。AIコアもほらっ。これで水耕栽培にも手が届きますね」
サヤがカバンを開けると、予想よりも遥かに多くの科学書やAIコアが出てきた。
大戦果だ。
これは確かに良い知らせだろう。
「それじゃ、悪い知らせは?」
聞きながら、戻ってきたメンバーの顔ぶれを確認する。
みこと、すみれ、サヤ。
うん、全員無事に帰ってきてる。
誰かが命を落としたとか、そういう最悪の報告ではなさそうだ。
他にリドリィとアンドロイドの女性もいるけれど、増える分にはそこまで問題はないかな。
「はい。私たち全員、ホーリーネイションから指名手配されちゃいましたっ! しかもここにいらっしゃるスケルトンの仲間だと思われてるようで、ホーリーネイションの巡回部隊から目が合うなり悪・即・斬! の勢いで攻撃を受けていますっ! いやー、帰ってくるの結構大変でしたよ? まあ私は戦闘中、ずっと隠れてたのでそれほどでもないんですけど」
なんでそんな楽しそうなんだよ。
サヤだけ元気そうな割に他のみんながボロボロなのはそういう訳か。
‥‥‥というか。
「ねえ、なんでそんなことになってんの!? こっそり侵入する作戦だったよね!?」
「いやー、俺も最初はその作戦だったんだけどな? 途中でサヤが見つかって、なんだかんだで勢いで基地を制圧してたというか」
「勢いで制圧って何!?」
みことの言葉に思わずツッコミを入れる。
一旦逃げてもう1度忍び込めばいいだけだろうに。
少なくともボクならそうする。
「そうは言ってもほら、やられたら倍にして返したいじゃないの。おかげで良い経験も積めたし。ねえ?」
悪びれることもなくあっけらかんと言うすみれ。
追随するようにサヤも、
「私が斬られて、本気で怒ってくれるすみれさん。結構カッコよかったですよ?」
なんて言ってる。
妙に嬉しそうなのはそのせいか。
「まったく。遠征のたびに何かしらトラブルが生まれるのはどういう事なのさ。これじゃあのんびり農業ばかりしていられないじゃないか。まあ、解決策はいくつかあるけど」
「解決策?」
そんなものがあるのかと、先を促してくるみこと。
「うん。まあお金があれば解決はできるよ。ここからだと結構遠いけど、スワンプ地方にいる調停者にお金を積むことで関係を修繕‥‥‥」
「却下よ」
言い終わる前にすみれに却下された。
まあ、そうなるだろうなって気はしてたけど。
「‥‥‥じゃあ、解決策2つ目。ホーリーネイションと全面戦争をして勝利する。浮浪忍者の人たちと協力したり、お金で傭兵を集めたりすれば、どうにか戦っていけるとは思う。けど‥‥‥」
ちらっ。
横目でレッドを見る。
レッドは何も言わずに成り行きを見守っていた。
「あら、それいいわね! もう随分と前の事になるけど、浮浪忍者のモールさんからも頼まれてたのよ。いつか故郷を取り戻すために協力して欲しいって。ようやく助けてもらった恩返しができるのね!」
「すみれっ、ちょっとはレッドの気持ちだって考えたらどうなんだいっ! ホーリーネイションの幹部には、レッドのお父さんが‥‥‥!」
能天気にはしゃぐすみれの姿に、つい声を荒げてしまう。
「むぅ、そういうイズミこそ、少しは私の気持ちだって考えてくれたっていいじゃない。私、生まれてからずっとあの国の兵士から酷い扱いを受けていたのよ? イズミの故郷だって、ホーリーネイションのせいで。復讐したいとか思わないの?」
「そ、それは‥‥‥だけど、それでもっ!」
ぽん、と肩に手が置かれる。
レッドだった。
「‥‥‥いいさ。どうせ向こうから襲ってくるなら、降りかかる火の粉は払うしかないんだ。これに関しては、もう誰が悪いってわけじゃない。強いて言うなら、敵を作りすぎたホーリーネイションが悪いとしか言えない」
「ほらレッドもこう言ってるじゃない。ありがとうレッド、分かってくれると信じてたわっ!」
嬉しそうにはしゃいでギュッとレッドを抱きしめるすみれ。
ああっ、ボクだってまだした事ないのに!
‥‥‥じゃなくて。
ええと。
冷静になれボク。
抱きしめたことはないけどキスならしてるから。
余裕でボクの勝ちだから。
あれ、違うな。
そんな話じゃなかったような‥‥‥何の話してたっけ?
そこに、雇っていた傭兵の1人がやってきた。
「取り込み中に失礼しやす。噂をすればなんとやらですかね。ホーリーネイションの軍がこちらに向かってやすぜ」
クイっと顎で見張り台を示す傭兵。
きっとその見張り台に登れば、迫ってくるホーリーネイションの軍が見えるのだろう。
板金鎧を着た兵士の集団。
あの日のことが、嫌でも脳裏に蘇る。
降りかかる火の粉は払うしかない。
それはその通りだ。
立ち向かわなければ、殺されるだけ。
「‥‥‥平和って難しいね、ほんと。難しすぎて嫌になるよ」
「全くだな」
ボクの肩を抱きながら、レッドが小さく同意してくれた。
第56話、読んで頂きありがとうございます。今回から第三章となります。予定ではこの章が最終章となりますが、最後までどうぞお付き合いくださいませ。