オクランプライド。
それは肥沃な大地に覆われたホーリーネイションの領土。
中央には穏やかな河川が流れ、川の近くではいくつもの農家が仕事に精を出している。
この風景を眺めるたびに思う。
ホーリーネイションは平和な国だと。
私の願いはただ1つ。
この風景を守りたい。
ただそれだけだ。
私の名は聖フェニックス62世。
この国の皇帝を務めている。
「フェニックス様。スタックのセタ様から文が届きました。どうぞ」
兵士から渡された書状に目を通す。
内容は、バストに放った斥候が消息を絶ったというもの。
不本意ながら、オクランプライドの平和を荒らそうとする者は多い。
東の都市連合に、南のシェク王国。
西のフォグマン。
北のカニバル。
さらにはこの国を追い出された者たちが組織化し、浮浪忍者なる集団を作り上げている。
そしてつい最近、また新たな脅威が現れた。
そいつらはアウトサイダーと名乗り、バストに拠点を構えていると聞く。
まったく、どいつもこいつも。
我々はただ平和に暮らしているだけだというのに、何が気に入らないのか。
なぜ平和を乱そうとするのか。
「返事はどうされますか、フェニックス様?」
「ああ、すまない。3分ほど待ってくれるか。すぐにしたためよう」
何が気に入らないのかは知らないが、我々の平和を脅かすなら容赦はできない。
文を取り出し、ペンを走らせる。
季節の挨拶と犠牲となった兵士を悼む言葉、それに続いて必要であれば首都からも援軍を用意できることを書状にまとめ、封を閉じる。
時計を確認すると、きっちり3分だった。
「待たせた。伝令にこれを届けさせてくれ」
「かしこまりました」
恭しく頭を下げて退出する兵士。
「‥‥‥先代達も、きっと苦労してこの平和を守ってきたのだろうな」
小さく呟いて、この国の歴史に想いをはせる。
この国の皇帝は襲名制だ。
その代の皇帝が死んだ後、最初に生まれた男子がフェニックスの名を継ぐことになる。
先代の生まれ変わりとして。
もちろん私に前世の記憶などないし、本当に生まれ変わりなのかどうかは知らないが、少なくとも民はその言い伝えを信じている。
ならば私は、その信頼に応えるまでだ。
初代皇帝フェニックスは、それはそれは偉大な王だったという。
当時の人類は、スケルトンの帝国に飼われる奴隷だった。
そんな人類をまとめ上げ、スケルトンの帝国に対して反乱を起こし、ついには帝国を打倒し人類の手に自由を取り戻した英雄。
それが初代皇帝フェニックスだ。
だが自由を取り戻しても、すぐに平和は訪れなかった。
自由を取り戻した人類は、ヒト同士で争うようになった。
裕福な者は貧しい者から搾取し、貧しい者は力のない者から奪い取った。
そして富も力もない者は、闇に紛れて盗みを行ったり、女であれば男を誘惑して貢がせた。
歴代の皇帝たちは、そんな惨状を改善するために宗教を利用した。
清貧を美徳とするオクラン教を国教として掲げ、富を溜め込む貴族を砂漠に追放した。
さらに何事も暴力で解決したがるシェク族も追放した。
盗みを行なう者や男を誘惑する女はリバース鉱山に閉じ込めた。
そうすることで、ようやくこの国に平和が訪れたのだ。
歴代皇帝の長年の悲願を、ついに叶えることができた。
ようやく手に入れた平和を、決して失うわけにはいかない。
だから。
この平和を脅かすものは、殺さないといけない。
誰であろうと、例外なく。
幕間の物語、読んでいただきありがとうございます。次回もよろしくお願いします。