都市連合ウィークリー。
砂漠の都市で人気の雑誌。
その紙面を飾る2大ニュースが酒場を騒がせていた。
その1つが、『カニバルの首都壊滅! 死神の鎌を操る謎の女剣士の正体は!?』。
正体は、などと見出しで煽っておきながら、赤髪の女性であることと大鎌を武器に使っていたこと以外は何も書かれていない。
他はカニバルに捕まっていた者へのインタビューで記事が埋められていた。
とはいえ、赤髪の女性で大鎌を武器に使っていたというだけで、誰のことかは身内にはバレバレである。
「これ、レッドよね? 昨日は姿を見かけなかったと思ったら、随分と暴れてきたじゃない?」
前回の手合わせから2日後。
すみれが雑誌の記事を見せながら楽しそうに指摘してくる。
すみれは文字が読めなかったはずだけど、イズミに読んでもらったのかな。
「たまには賞金稼ぎらしい仕事もしとかないとな。すみれこそ、カニバル平原から帰る途中、こんな記事を見つけたぜ」
2大ニュースのもう片方。
『リバース鉱山壊滅! 襲撃者の女剣士に直撃インタビュー!』
こちらはすみれがカメラ目線でピースサインしている顔写真が載ってあり、すみれ本人によるインタビューの内容まで記事になっていた。
すみれが元々リバース鉱山で働かされていた奴隷だったことまで語られていて、首を洗って待ってなさい、というすみれの言葉で記事が締めくくられていた。
「ちょっと里帰りしてきただけよ。盛大に歓迎されて、照れちゃったわ」
不敵に笑って見せるすみれ。
今日はすみれと4度目の手合わせだ。
そろそろ勝ちたい。
‥‥‥だけど、その前に気になることがいくつか。
まず俺たちを囲むように傭兵や浮浪忍者の人たちが集まっていること。
そして傭兵たちが賭け事をしていることだ。
「はーい、賭け金はこちら! 今のオッズは8対2ですみれの姉さんが優勢だ! 誰かレッドさんに賭けるやつはいないかー? 一攫千金のチャンスだぜえ?」
「ちょっと待てお前らあ! 何勝手に賭けてんだよ! あとなんでオレが2なんだよ!」
オレが文句を言うと、みことが申し訳なさそうに弁明してきた。
「あー、ごめんな? いつ襲撃が来てもいいように、ずっと傭兵に拠点に常駐してもらってるわけだけどさ。もう1週間近く何の襲撃もないじゃん? 流石に傭兵たちも退屈みたいで、何か娯楽になるようなものはないのかって聞かれてさ。ついすみれとレッドの手合わせのこと教えたら、ちょうどそのタイミングでその記事じゃん? あれよあれよと噂が広まって、賭けまで始まってさ」
「‥‥‥」
まあ、悪気がないのは分かったけどさ。
なんかこう、納得いかないっていうか。
向こうでサヤと一緒にお酒飲んでるのは、確か浮浪忍者のピアさんだったか。
「すみれちゃんがんばれー! あんたに賭けたんだからねー!」
ピア、お前もか。
誰かオレの応援してくれるやつはいないのか。
「レッドがんばれー! レッドに賭けたんだからっ!」
イズミの声援。イズミ、お前も賭けてんのかよ。
「どうだい、みことの兄ちゃん。あんたも賭けてかないか?」
「ん。それじゃすみれに100cat。がんばれよー、すみれ!」
傭兵に勧められて賭けに参加するみこと。
「楽しんでるよなあお前ら!」
まるでお祭り騒ぎの様子についツッコミを入れてしまう。
オレにとっては割と真剣な試合なのに、こんなノリでいいのか。
「何言ってるのよ。せっかくなら楽しまないと損よ? ‥‥‥あら、レッド。その大鎌の柄に貼ってある白いシールって、何かのおまじない?」
「えっ! いやこれは、その‥‥‥な、なんでもねえよ!」
すみれに指摘されて慌てて誤魔化してしまう。
が、オレのその態度は余計にすみれの興味を惹いてしまったようだ。
「? ちょっと見せてよ」
「よ、よせ! 本当になんでもねえって!」
「あら、これって。きゃあ、イズミからの手紙ね! ねえねえ、何て書いてあるの? ちょっと読んでみてよ!」
「よ、読めるかこんな大勢の前で! ただの応援メッセージだってば!」
‥‥‥本当は『きっと勝てるよ。愛してる』というこっちが恥ずかしくなるようなメッセージなのだが、正直に話せるわけがない。
「も、もういいだろっ! ‥‥‥あれ。すみれこそその鞘についてるヒラヒラは、一体なんなんだ?」
「え、なんのこと‥‥‥ああっ、みことのやつぅ!!」
よく見てみると、そのヒラヒラにはすみれの似顔絵が描かれていた。
そうか、みことが描いたのか。
怒ったような口ぶりを演じているけど、急にすみれの頬が赤くなったのは怒りというより、照れだろうな。
「‥‥‥あのー。私たち、一体何を見せつけられてるんです?」
「さあ。すっごく尊いものか、あるいはすっごくくだらないものかのどちらかね」
サヤとピアの話し声で我に返る。
周囲には大勢の傭兵たちと浮浪忍者たち。
‥‥‥コホン、と咳払いを1つ。
「そ、そろそろ始めようぜ、すみれ」
「そ、そうね。修行の成果、見せてもらうわよ」
そして。
2人同時に武器を抜いて構える。
盛大な寄り道をしつつも、オレたちの4度目の手合わせが始まった。
先に動いたのは、すみれ。
真っ直ぐに腕を伸ばして突きを放ってくる。
突きは受け止めるのが難しい。
避けるか、いやきっと避けられた後の展開まですみれは考えているだろうから‥‥‥距離を取るのが正解か。
いや、しかし。
‥‥‥。
‥‥‥やめた。
あれこれ考えるのは、やめた。
正しい答えだけを探したって、ちっとも楽しくない。
大丈夫、今のオレなら。
すみれとも互角に渡り合えるはず。
今のオレに必要なのは作戦じゃなく、自分を信じる心だ。
大鎌の柄頭で、コツンと狐太刀の腹を叩いて軌道を逸らす。
と、同時に叩いた勢いをそのまま利用して、大鎌を後方に振り抜くように切り払う。
切り払いを避けられたと同時に大鎌の柄頭をすみれに向け、柄頭を槍のように使った突きを放つ。
体が軽い。
自分でも驚くくらい滑らかに、技と技が繋がる。
まるで空間に隙間があって、その隙間を刃が滑り抜けていくようだ。
「力は必要ないわ。体が勝手に動くのよ」‥‥‥以前、すみれに戦いのコツを聞いたらそんな答えが返ってきた。
その時はコイツ教えるの下手だなーとしか思わなかったけど、今になってようやく、その意味が実感として少し分かってきた気がした。
すみれの目から、余裕ぶった笑みが消えた。
そして、獰猛な戦士の素顔が現れる。
‥‥‥ここからだ。
ここからが、本当の勝負だ。
「はあっ!!」
突きを横に飛んでかわしたすみれが、無理な姿勢ながらも足元を狙って切り払ってくる。
足払いに見せかけているが、おそらく今の切り払いが、すみれがこの体勢から繰り出せる技の限界だろう。
そこに気づければ、今まで底の見えなかったすみれの強さの、底が見えてくる。
避けられた柄頭をそのまま地面に叩きつけ、棒高跳びの要領で宙に舞うことで切り払いを回避。
飛び上がりながら下を見れば、真剣な表情でこちらを見つめるすみれと目が合った。
ぎゅっと大鎌を握り直し、勝負を決めに行く。
大鎌の重量、24kg。
オレ自身の体重、54kg。
合計で78kg。
それを空中から重力に乗せて、下方に叩きつける!
迎え打つように狐太刀をぶつけてくるすみれ。
が、鍔迫り合いにすらならない。
弾き飛ばされた狐太刀がすみれの手を離れて宙に舞う。
ダンッッッッ!!
着地と同時に、衝撃波が空気を震わせた。
すみれの体から3cmほど離れた地面を、大鎌の切っ先が深々と抉る。
「‥‥‥‥‥‥」
シン、と辺りが鎮まり返る。
大勢集まっている観客も、1言も発せないまま、時が止まる。
やがて。
カランカラン、と狐太刀が転がる金属音が響いて。
「しょ、勝者、レッドー!」
賭けの司会役を務めていた傭兵がそう宣言することで、ようやく時が動き始めた。
「ま、マジかよー。大番狂せじゃねぇか」
「ひゃっほーい! オレ赤髪のねーちゃんに1000cat賭けてたんだぜ! 大儲けだぜ!」
「おめでとうレッド!」
「惜しかったよすみれちゃんー!」
観客たちが口々に歓声を上げる。ちなみに最後の2人はイズミとピアね。
「‥‥‥おめでとう。私の完敗ね」
仰向けに倒れたまま、悔しそうな口調ながらも、どこか満足そうな表情でそう言うすみれ。
「今のレッドなら、きっとお父さんにも勝てるわ。頑張って」
「‥‥‥ああ!」
そんなすみれの言葉に、オレは胸を張って頷いたのだった。
その夜。
傭兵や浮浪忍者を交えて、ささやかな宴を開いた。
これならいつホーリーネイションが襲ってきても返り討ちにできると語り合って。
一夜明けての翌朝。
ホーリーネイションが再び攻めてきた。
見たこともないような大軍を率いるその指揮官は、セタ。
10年ぶりにみる親父は随分と老けこんでいて。
それでも見間違えようのない、オレの親父だった。
第59話、読んでいただきありがとうございます。
次回はいよいよセタさんとの決戦です。お楽しみに。