Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第62話 帰ってきたアイツ

「す、み、れ‥‥‥と。ねえねえイズミ、これでいいのかしら?」

 

 羊皮紙に書いた文字をイズミに見せる。

 

「うん。字が汚いことに目を瞑れば、それで合ってるよ。それにしても、君たちが文字を覚えたいなんてねえ」

 

 今まで読もうともしなかったくせに、とイズミが笑う。

 

「ふふっ。だって私、もうすぐお母さんになるんだもの。子供が産まれたら、お話とか読んで聞かせてあげたいじゃない」

 

 お母さん。いい響きね。

 この私がお母さん。

 今まで考えたこともなかったけど、まさかそんな日が来るなんて。

 隣で一緒に文字を教わっているみことも、声に喜びを滲ませて。

 

「そっか。俺もお父さんかあ。どんな子だろうな。すみれに似た可愛い子かな」

「ううん。きっとみことに似た優しい子よ」

 

 つい頬が緩んで、どちらともなくにへへーと笑い合う。

 そんな私たちを見ていたサヤが。

 

「‥‥‥人って、変われば変わるものですねえ。すみれさんに似て凶暴で、みことさんに似たおばかな子じゃなきゃいいですけど」

 

 などという感想を漏らしていた。

 これはケンカを売られているのだろうか。

 

「さーやー? あんたはちょっと正座してなさい?」

「失礼しました」

 

 ちょこん、とその場で素直に正座するサヤ。

 何がしたいんだあの子は。

 

「あ、レッド。後ででいいんだけど、私に料理教えてくれないかしら? 子供って何食べるのかしらね。お肉食べると思う?」

 

 たまたま近くを通りかかったレッドにそう聞いてみると、呆れた顔をされた。

 

「肉なんか食べる訳ねーだろ。まずは人肌に温めたミルク、その後は離乳食だ」

「り、りにゅーしょく‥‥‥?」

 

 リニューアルにちょっと似てる。

 何か関係あるのだろうか。

 

「あー、まあ後でゆっくり教えてやるから心配すんな。つっても、オレも子育ての経験がある訳じゃねーからな。あくまで一般常識の範囲でしか教えられねーけど」

「そ、そうよね。でも知り合いに子育ての経験がありそうな人なんて‥‥‥」

 

 浮浪忍者の人はそもそも男嫌いの人がほとんどだし、サミダレさんも恋愛とは縁がないって言ってた。傭兵たちは、うん。聞くまでもなさそう。やっぱり誰にも頼れそうにな‥‥‥あっ!!

 

「む?」

 

 部屋の隅っこで大人しくしていたセタと目が合う。

 いるじゃないか、子育ての経験のある人が、こんなに近くに。

 

「ねえセタ。貴方なら子育てに何が必要か知ってるわよね。出来れば頼りたくないしイヤイヤだけど、背に腹は変えられないわ。知ってることを話しなさい?」

「おい待て小娘、それが人に物を尋ねる態度か!?」

「これは質問じゃないわ、尋問よ。自分が捕虜だってこと忘れてないわよね?」

 

 狐太刀に手を添え、1cmほど刃を見せて脅してみる。

 

「まさかそんな種類の尋問されるとは思っとらんかったわ!」

 

 私とセタが言い争っていると、みこともこちらに寄って来て味方してくれる。

 

「おいセタ、あまり大声を出すんじゃない。お腹の子がびっくりしたらどうするんだ」

「え、俺が悪いの? 俺が怒られるパターンなの!?」

 

 もちろん素直に答えないセタが悪い。

 どうでもいいけど、セタって一人称が『俺』だったり『私』だったり安定しないわね。

 部下の前だと『私』になるみたいだけど、素だと『俺』なのかな。

 

「お、おいシェ‥‥‥じゃなくてレッド! お前からもなんとか言ってくれんか!」

 

 セタがそういうと、レッドは少し悩むような仕草をして。

 

「んー。そういやオレも離乳食なんて作ったことなかったわ。作り方教えてくんね、親父?」

「レッドお前もかああ!」

「だから大声出すなって言ってるだろうがっ」

 

 ごつん、とみことがセタの頭にゲンコツを振り下ろす。

 みことが非武装の相手に手をあげるのって、なかなかにレアだ。

 というか初めて見たと思う。

 子供のことになるとブレーキが効かないタイプなのかもしれない。

 

「す、すまぬ‥‥‥というか殴るならせめて手加減してくれんか? 自分が武術家ってこと忘れておらんよな? おらんよな? 今、首がもげるかと思ったぞ?」

 

 涙目で声を震わせるセタ。

 

「というかだな、俺もそれほど詳しくはないのだ。娘が生まれたばかりの頃は妻に子育てを任せておったのでな。そのせいで妻には愛想を尽かされ、最後には娘にも逃げられたダメ親父だ。参考にはならんだろうさ」

 

「むう、役に立たないわねー。そうなると他に誰かいないかしら‥‥‥うーん」

 

 私が頭を悩ませていると、レッドが何かを思いついたように。

 

「あ、それならアイツはどうだ? 素直に答えてくれるか分からねーけど、少なくとも子育ての経験はあるはずだぜ」

 

 あいつ? と私は首を傾げる。

 

「ほら、アイツだよアイツ。えーっと、反乱農民のボス・シミオン!」

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「というわけで私すみれは、もうすぐお母さんになります!」

「いやどうでもいいわ! わざわざそんな事伝えに来たのかよ!」

 

 ショーバタイ。

 憲兵の檻の中で、シミオンは今も大人しくしていた。

 

「どうでもいいって事はないでしょう。そこはお世辞でもなんでも、一言『おめでとうございます』っていうべきところじゃない?」

「いやマジでどうでもいいから。つーかお前は俺にとっての敵だろうが! お前のせいで俺は牢屋に入ってるんだぞ?」

「いいじゃないの、そんな昔のこと」

「昔じゃねえよ! 今現在、檻に入れられてんだよ! お前のせいで!」

 

 細かいことを気にするやつである。

 

「たかが敵ってだけでしょう? 我が子を大切に思う気持ちに、敵も味方も関係ないわ」

「そりゃあ、まあ‥‥‥って、だからって何で俺がお前の子供のことなんか気にしなきゃいけねーんだ!」 

「それはほら、親としての先輩として、アドバイスとかあったらなーって」

 

 私がそういうと、ようやく得心がいったとばかりにシミオンが目を細める。

 ‥‥‥そう言えば、「子育てについて教えて」って言ってなかったわね。

 本当にただ自慢しに来ただけと思われていたようだ。

 

「‥‥‥ふーん。まあ、教えてやれることがないわけじゃねえが。離乳食の作り方とかおむつの変え方、夜泣きした子供のあやし方。その程度のことなら俺でも」

「ほ、本当!?」

 

 こんなところに救世主が。

 思わずシミオンの手を握りしめる。

 だがシミオンは意地悪くニヤリと笑って。

 

「だが、タダってわけにはいかねえ。俺をここから出せ。そうすりゃ教えてやらんでも」

「ええ、お安い御用よ。憲兵さんっ、シミオンの保釈金を払いたいの。言い値ではらうわっ!」

「‥‥‥‥お、おう」

 

 

 シミオンは刑務所から釈放された。

 望み通りに釈放されたシミオンは、何故か納得いかない顔をしていたけど。

 何が不満なんだろう。




 第62話、読んでいただきありがとうございます。シミオン氏再登場です。この話もそうですが、3章は全体的に創作色が強めで『modを使ってもKenshi本編では再現できない』展開が多くなります。次回もお楽しみに。
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