月を見上げながら、盃を傾ける。
‥‥‥今日は随分と、星がきれいだ。
「ヴァルテナ様。まだ起きていらっしゃったのですか?」
見回りの兵が、気配に気付いて声をかけてきた。
「ああ、まあな。威力偵察に出した部隊は、もう戻ってきたか?」
「いえ、まだです。おそらくまだ戦闘中かと」
「そうか。ありがとう」
聞く前から分かっていた事だ。
敵陣までの距離を考えれば、こんなに早く帰ってくるわけがない。
頭では分っていても、どうにも寝付けない。
「‥‥‥お前、今ヒマか? ちょっとチェスでも付き合えよ」
「ヒマなわけないでしょう、ヴァルテナ様。見回りの最中ですよ」
「固いこと言うなよお、ちょっとくらいサボっちゃえってばー」
「酔ってんですかヴァルテナ様!? 貴方はサボりを咎める立場でしょう!?」
頭の固いヤツである。
その俺がいいって言ってんのに。
「というか、ヴァルテナ様はチェスだってすごく強いじゃないですか。俺なんかじゃ相手になりませんよ」
「ああん? そりゃシラフの時の話だろうが。テメーは酔っ払いに負けるほどのザコなのか?」
「‥‥‥む。言いましたね、ヴァルテナ様。そこまで言うなら相手になります。本気でいきますよ」
よしっ、かかった。
俺の部下は単純なヤツが多くて扱いやすい。
「おうっ、本気でかかってこいやっ!」
‥‥‥4時間後。
「よっしゃあ俺の勝ちっ! 10連勝だぜっ!」
「もう1回! あともう1回やりましょうヴァルテナ様! だんだん貴方のクセが読めてきたんですっ、次こそ!」
「はっはっは、何回やっても同じさ。見込みはあるが、詰めが甘すぎるぜ」
「‥‥‥いつまでやってんですか2人とも。もう朝ですよー」
「「!?」」
突然割り込んできた3人目の声に、揃って振り返る。
配下の審問官が呆れた顔をしていた。
「見回りの兵が1人、突然消えたって聞いて心配して探してみたら。ヴァルテナ様まで一緒になって何やってんですか」
「ちっ、違うんです先輩! これはその‥‥‥命令! ヴァルテナ様直々の命令なんです! 俺はヴァルテナ様の命令に従っただけで決して遊んでいたわけでは!」
「ああっ、てめぇズルいだろそれは! お前だって途中からノリノリだったじゃねえか!」
「最初に誘ってきたのはヴァルテナ様ですぅー」
なんだろう、配下の審問官の視線が痛い。
「子供かこいつらは」みたいな視線で見られてる気がする。
口に出して言われることはないけども。
「‥‥‥つまんない言い争いで時間を無駄にしないでください。そんな事で文句を言いに来たわけじゃないんですから。‥‥‥威力偵察部隊、戻ってきましたよ。帰還できた者は少数ですが」
それだけ言うと、審問官は踵を返して戻っていった。
「そ、そうか。すまん、すぐ行く」
帰還できた者は少数か。
なら帰還できなかった者は。
……せめて彼らが、安らかに眠れますように。
セタが攻撃部隊を編制し、万全を期して出兵してから2週間。
セタは戻ってこなかった。
生き残った兵の報告によると、セタは巨大な鎌に貫かれて倒れたらしい。
どうみても致命傷だった、とのことだ。
だが、生きている可能性がゼロではない。
なにせセタは上級審問官だ。
捕虜にすれば交渉に使うこともできる。
もっとも奴隷上がりの蛮族が、交渉などという手段を講じてくるかは怪しいところだが。
そして2週間経っても交渉役が訪ねてくることはなく、スタックの町はシェクの侵攻によって奪われた。
やはりセタは、もう‥‥‥いやまだだ。
死体が発見されるまで、断定はできない。
なんにしても威力偵察部隊の報告を聞いてみよう。
判断するのはそれからだ。
「まず報告ですが、第一優先事項の、セタ様の安否の確認。これは失敗しました。セタ様の姿を見つけることはできませんでした」
「そうか」
「次に敵の重要戦力と思われる人物について。ナルコの誘惑を襲った黒髪の剣士は、セタ様の侵攻を境にして一切姿をみせなくなりました。おそらく先の戦闘で死亡したと思われます」
「それは良かった。だが、死体は確認したのか?」
「いいえ、それはまだ。しかし状況から判断すれば、そう考えるのが妥当かと」
「ふむ。続けてくれ」
「次にセタ様を貫いたという大鎌の使い手。こちらは健在です。そしてナルコの誘惑を襲った女性型スケルトン。こちらも健在です。ただナルコの誘惑の襲撃時とは異なり、スカートを履いておりました」
「‥‥‥」
なんとなくツッコんだら負けだ、という気になって、無言で報告の続きを待つ。
「敵の主力はこの2人と考えてよいでしょう。他にもハープーンの砲手や、その砲手を守る武術家、雇われた傭兵や浮浪忍者の援軍などがおりますが、この2人ほどの脅威は感じませんでした」
「なるほどな。報告は以上か?」
「はい。敵の主な戦力は、これで全てかと」
これが戦力のすべて。
‥‥‥そんなわけがない。
2人足りない。
「ナルコの誘惑の襲撃に加担していたリドリィはどうした? あと、荷物持ちの女がいただろう。そいつは?」
「リドリィ‥‥‥ああ、あの体格のいい女ですか。あいつぁ雑魚ですよ。ただ体格がいいだけで、気にするほどの相手でもありません。荷物持ちについては論外ですね。戦おうとすらしていません」
「そうか。よく分かった」
それはつまり、兵士の注意のまったく外側で動いている者が最低でも1人はいるということだ。
兵士は荷物持ちのことを論外だと断じたが、果たして。
たった5人で大国の軍事拠点であるナルコの誘惑を襲撃し、壊滅させた実行犯の1人。
それがただの足手まといだと。
‥‥‥あり得るだろうか、そんなことが。
個人の戦力がどれだけ高くとも、指揮をとる人間が無能では戦いには勝てない。
少なくともセタが率いる部隊には勝てないはずだ。
だから敵の中にかならず『頭脳』となる要の人物がいるはずだ。
誰だろう、と考える。
おそらく死亡したと思しき黒髪の剣士、そしてナルコの誘惑の報告から考えて武術家は除外。
前線を支えている女性型スケルトンも外していいだろう。
同じ理由で大鎌の使い手も外してよし。
あと残ってるのは、ハープーンの砲手とリドリィと荷物持ちの3人だ。
リドリィは別行動でブリスターヒルに観光に来てたりするし、これも外していいかもな。
とすればもっとも有力な候補は、やはり。
「よしっ、次の作戦が決まった。次の戦いでは俺も出る。そして俺が大鎌の使い手とスケルトンを相手にするから‥‥‥お前らはその隙をついて、荷物持ちの女を仕留めろ。いいか、確実に殺せ」
兵の意識の外側をついて動く謎の人物。
ナルコの誘惑を襲撃したメンバー。
そして、なによりナルコの誘惑の襲撃の際、報告ではこうあった。
『荷物持ちの女が攻撃をうけた途端、一度は敵が一斉に退却した』と。
こいつが、敵の『頭脳』だ。
幕間の物語、読んでいただきありがとうございます。物語はクライマックスが近づいております。Kenshi2の発売前に完結できそうで内心安堵しております。
次回の予定は未定です。もしかしたらもう1度幕間が続くかもしれませんし、メインのストーリーが進むかもしれません。
次回もよろしくお願いします。