Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第66話 BlueMoonの死闘:前編

「いよう、なかなかいい町じゃねーか。ここはアンタらの拠点か?」

 

 軍勢を引き連れた男が門の前で足を止めると、気さくな調子で問いかけてきた。

 年の頃は30代後半といったところか。

 がっしりした体格で、それに似合った巨大な大剣を担いでいる。

 すみれがたまに使う大太刀を、さらに鈍く重厚にしたような武器だ。

 

「ああ、そうだが。何か用か?」

 

 オレはそう返事を返しつつ、そっと背中に背負った大鎌に手を添える。

 対話で解決してくれるなら是非そうして欲しいのだが、果たして。

 

「いやなに、大した用でもないんだがな。とりあえず死んでくれ」

 

 言うと同時に、男は剣を抜刀し斬りつける。

 腰の回転を利用して振られたそれは、まるで重量を感じさせない動きで迫ってくる。

 速い。‥‥‥だが、あくまで重量級の武器としては速いだけだ。

 すみれの居合と比べれば、流石に遅すぎる。

 迫り来る大剣に背中を向け、いまだ背負ったままの大鎌をぶつけるようにしてその1撃を凌ぐ。

 直撃は防げた。

 さらに剣の衝撃にはあえて身を任せ、吹っ飛ばされるままに距離を取る、

 同時に抜刀。数メートルの距離を稼いだ時点で足を地面に食い込ませてブレーキをかけ、体勢を反転。

 男と向き合う形で構える。

 男は少し驚いたように目を見開いていた。

 

「ほお! よく防げたじゃねーか。さてはお前、結構やるな?」

 

 結構やるな、と言いながらも、その顔はどこか嬉しそうでもあった。

 まるでこれから始まる戦いが楽しみで仕方ないとでもいうような、そんな顔。

 どこかでみた事ある表情だなと思ったら、なんのことはない。

 強敵を相手にしたすみれの顔と同じだった。

 

「多少心得がある程度さ。あんた程じゃない」

 

 謙遜、という訳でもない。

 今防げたのだって、すみれが『武器を構えてない相手にはとりあえず先制で居合を放つ』という戦法を常用しているから心構えができていただけだ。

 すみれと手合わせの日々がなかったら、多分反応できなかった。

 男と睨み合ったまま、時が流れる。

 男の構えに隙が全くなくて、迂闊に動けない。

 動けないのに、じんわりと背中が汗で濡れる。

 大丈夫、大丈夫だと、そう自分に言い聞かす。

 動けないのは相手も同じなのだ。

 むしろ数で圧倒的に上回る相手を牽制できているのだから、上々だ。

 これでいい。

 ふぅっ、と息をはいて大鎌を握り直す。

 だんだん呼吸が落ち着いてきて、緊張感はそのままに肩が楽になる。

 心の中から余計な不安や心配が取り除かれたような、そんな感覚。

 戦いに集中できている状態ってのは、こういう状態を言うのだろうか。

 すみれと最後に戦った手合わせの時を思い出す。

 落ち着いた心境で、期が満ちるのをただ、待つ。

 ‥‥‥先に動いたのは男だった。

 決して大きな動きではない。

 大剣から静かに片手を離して、呟いただけ。

 

「‥‥‥作戦に変更はない。行け」

 

 男がそう呟くと、周囲で待機していた兵士が弾かれたように駆け出す。

 来るか、と身構えるものの、そいつらは全然別の場所に駆け出した。

 相手の狙いが分からない。

 が、悠長に兵士の行き先を眺めてる余裕なんてこの男は与えてくれないだろう。

 一瞬でも視線を外せばやられる。そんな確信があった。

 

「ヴァルテナだ」

「‥‥‥何?」

「名前さ。一応名乗っておこうと思ってな。騎士道精神ってやつさ」

「そうかい。オレはレッド」

 

 合わせてオレも名乗るが、さっきから相手の狙いが分からない。

 最初はいきなり斬りかかってきたくせに、ここにきて名乗りだなんて。

 時間稼ぎ‥‥‥だとしても、わざわざここで時間を稼ぐ意味が分からない。

 まあ宗教に染まった連中の考えなんて理解できなくて当然ではあるが‥‥‥と、その時。

 離れた場所から悲鳴が聞こえた。

 サヤの声だ。

 

「ひゃわあああっ! たっ、助けてくださいーっ!!」

「な」

 

 なんでサヤが。

 そう口に出す暇なんて当然なく。

 迫り来る大剣と大鎌が激しくぶつかり合い、ギィンッ! と金属音を響かせる。

 受け止めるだけで呼吸が止まるほどの重い一撃。

 それが間髪入れずに、また来る。

 ガンッ、ガンッ、ガンッと連続で叩きつけられる大剣。

 その全てが驚くほどに重い。

 反応できないような速度ではないが、受け止めればそれだけで呼吸が止まる重い攻撃。

 それをこうも連続で繰り出されては。

 

「くっ‥‥‥!!」

 

 息が、できない。

 酸欠で体が悲鳴をあげる。

 まずい、強引にでもカウンターを狙うべきか?

 だが失敗したら?

 それよりサヤは大丈夫なのか?

 様々な思考が頭を巡る。

 うまく脳が働いていない。

 酸素が足りなていない証拠だ。

 

「隙ありっ!」

 

 ヴァルテナの、脚を狙ったローキック。

 通常であれば難なく避けられたはずのそれをまともに食らい、オレは体勢を崩す。

 ヤバい‥‥‥。

 

「加勢するっ! レッド!」

 

 死を覚悟した時、響いてきたのは2Bの声。

 視線を向けると彼女はヴァルテナの背後から斬りかかっていた。

 生憎それはヴァルテナの剣により受け止められたものの、これで2対1だ。

 周囲に他の兵士はいない。

 これなら勝てる。

 

「助かったぜ2B! 詰めが甘かったんじゃねーか、ヴァルテナさんよ?」

 

 勝利を確信してそう言ってやるものの‥‥‥ヴァルテナの口元に浮かぶのは、微かな笑み。

 

「いや、そうでもないさ。作戦どうりだ」

 

 ‥‥‥何を、企んでいる?

 遠くから、サヤの悲鳴が聞こえた。

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

「ひゃわあああっ! たっ、助けてくださいーっ!!」

 

 できるだけみっともない姿を演じて、全力で逃げ惑う。

 こんなザコに人手を割く必要はない、とそう判断して貰えれば御の字だ。

 プライドなんてものは最初から投げ捨てている。

 が。振り返ればまだ30人くらいの兵士が私を追いかけてきている。

 なんで。

 

「わああっ、リドリィさん助けてくださいーっ!」

「ちょ、こっち来るなって! あたしだってそんな人数どうしようもないってば!」

 

 2人で並んで逃げる。

 なんかあっちの方ではアツい戦いが繰り広げられてるっぽいが、なんでこっちなんだ。

 

「ええい、くそっ! やりゃいいんだろ、やれば!」

 

 意を決したようにリドリィさんが武器を構えて兵士に反撃する。

 よかった、これで少しでも追ってくる人数が減ってくれれば。

 

「‥‥‥」

 

 うん、まあ。

 少しは減ったよ。

 2人ほど。

 残り28人はこっちにきてるけど。

 

「いやいやいや! 無理ですって、流石に無理です!」

 

 軽く絶望しつつも、全力で逃げる。

 その進路を塞ぐように、さらに10人ほどの兵士が現れた。

 

「よしっ、挟み込んだぞ! ここで仕留めろ!」

 

 なんで増えるの。

 

「え、ええとええとその、ええと。降参! 降参します助けてくださいリバースでもどこでも行きますからっ!」

 

 捨てるような武器もないので両手を上げて無抵抗を示す。

 なのに。

 

「だめだ。死ね」

 

 ざくっ、と剣に腹を貫かれる。

 

「‥‥‥え?」

 

 全身から力が抜ける。

 意識が、こぼれ落ちそうになる。

 なんで、こんな。

 

「よし、火をつけろ。見せしめに燃やしてやれ」

 

 冷酷な兵士の声が頭上から聞こえる。

 なんで、こんなことに。

 ビシャビシャとふりかけられる液体はオイルだろうか。

 それもすぐに、私の体から流れ落ちた血と混ざり区別がつかなくなる。

 死ぬのだろうか、私は。

 ここで。

 パチパチと松明の火の粉が爆ぜる音を、何処か遠くのように聞きながら。

 

「死ね」

 

 せめて、楽に死にたかったな。

 全てを諦めて目を閉じる。

 そんな私の耳に届いた声、それは。

 

「死ぬのはアンタよ、クソ野郎」

 

 すみれさんの声が聞こえた。

 ‥‥‥安静にしてなきゃいけないはずなのに。

 言うこと聞いてくれない人だなぁ、まったく。

 

「助けに来てくれたんですね、すみれさん」

 

 目を開けると。

 私を背後に庇うように立つすみれさん。

 なんか、以前も似たようなことがあった気がする。

 すみれさんは大太刀で兵士を斬り伏せた後、あの時と同じように振り返りもせず言う。

 

「当たり前でしょう。大切な仲間なんだから」




 第66話、読んでくださりありがとうございます。後編に続きます。
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