‥‥‥どうしよう。
かつてない事態に、私は少し困惑していた。
「あのー、こういう事って今までにもあったんですか、レッドさん?」
とりあえず、私よりもあの2人と付き合いの長いレッドさんに聞いてみる。
けれど返ってくる答えは。
「いやー、オレの知る限り初めてだな。2人ともすごく仲良いし、すみれもみことの言う事なら大抵、素直に聞いてくれるんだが」
との事。
そう、問題の2人とは、すみれさんとみことさん。
あの2人がケンカしていた。
‥‥‥どうしよう。
「ダメって言ったらダメだ! 今のすみれはお前1人の身体じゃないんだぞ! ホーリーネイションの首都に乗り込むなんて絶対ダメだ!」
「嫌よ! ダメって言われたって行ってやるわ! それとも何? ここでじっと待ってたら敵の親玉が向こうから乗り込んできてくれるとでも言うの?」
‥‥‥まあ、2人の言い分はこうである。
正直どちらの言い分も分かるのだけど。
「ボクはその可能性は極めて低いと思っているよ。ここで待っていても、これまでと同じように軍隊を送り込まれるだけだろうね」
「イズミは余計なこと言わなくていい! なあサヤ、お前からも何とか言ってやってくれないか?」
「へっ!? わ、私ですか!?」
急に振ってこないでほしい。
というか。
「何とかって言われましても。一応すみれさんは私の命の恩人なわけですし。心情的にはすみれさんに味方したいところですが」
「くっ! じゃあレッド、お前はどう思ってるんだ!? レッドも今のすみれが戦うことに賛成なのか!?」
「えー、そう聞かれたら賛成とは言いづらいけどよお。でも悔しいが、ヴァルテナとの戦いだってすみれがいなきゃやられてたぜ? オレも最前線でずっと戦ってたから分かる。この戦いを終わらせるにはすみれの力が必要だよ。もちろん、すみれが嫌だって言うなら無理強いする気はねーけど」
気まずそうにみことさんから目を逸らしながら、レッドさん。
「私なら戦えるわよ! この前の戦いだって大丈夫だったじゃない!」
「この前大丈夫だったからって、それが何だ!? すみれが今まで斬ってきた兵士だって全員、口を揃えて同じことを言うだろうぜ。『この前まで大丈夫だった』ってな!」
「ううー、みことの分からずや!」
「それはこっちのセリフだ!」
「2人とも、ちょっと落ち着いた方がいい。感情的になりすぎてるよ」
2人の言い争いの間に入ったのはイズミさん。
‥‥‥ちょっと意外だ。
他人の痴話喧嘩なんて興味なさそうと思っていたのだけど。
「みことはすみれを危険な戦いに連れて行きたくない。‥‥‥まあその気持ちはボクにも分かるよ。けどそもそもの前提として、この場所自体が既に安全ではない事には気づいているかい? とっくにホーリーネイションに場所を知られ、いつまた軍隊を送り込まれてもおかしくない。それがここ、ブルームーンだ」
「そ、それは」
「それとすみれも。首都に攻め込むなら、流石に前回のようなサムライを利用した方法は使えない。前回は本当に、誰かが命を落としてもおかしくなかったんだ。首都に攻め込むなら、それ以上の危険を覚悟する必要がある」
「わ、分かってるわよ‥‥‥」
ちらりと私の顔を伺うすみれさん。
うん、それはそう。
前回はマジで死んだかと思ったもの。
「けど! だからこそこれ以上防戦一方ってわけにはいかないでしょう!?」
「それは勿論なんだけどね。戦う以外にも、逃げるという選択肢もボク達には残されているんだよ。ここブルームーンを捨てて、昔暮らしたショーバタイに戻ってもいい。浮浪忍者の里にまたお世話になったっていい。どちらにしても、ホーリーネイションの追手は振り切れるさ」
そんなイズミの言葉に、この場にいた全員が驚いた。
この場所に‥‥‥バストという場所に誰よりもこだわっていたのは、他でもないイズミさんだ。
バストで野菜を育てたい。
ただその為だけに私という奴隷を拾って、皆を説得してこの場所に拠点を築いたのがイズミさんだ。
ブルームーンは元々、青い薔薇の名前。
その花言葉は『不可能を成し遂げる』だと教えてもらったことがある。
それはきっと、イズミさんがこの拠点に込めた願いそのものなのだろう。
そしてようやく水耕栽培も完成し、シミオンさんからお父さんの味を再現するためのヒントも得て。
本当にあと1歩というところで。
「なっ、そんなの!! ダメに決まってるじゃない!!」
すみれさんが叫ぶ。
「何で逃げなきゃいけないのよ! 逃げなきゃいけないような事なんて、何もしてないじゃない! ここは私たちがゼロから作り上げた拠点じゃないの!!」
そう。
イズミさんだけじゃない。
誰もが、この場所を大切に思っていた。
数えきれないほどの思い出を、この場所で積み上げてきた。
私たちにとってもこの場所はもう、簡単に捨てる事なんてできない場所になっていた。
「‥‥‥そうだね。けど、逃げるのが1番合理的なんだよ。ボクだってここを離れたくなんてないけど、理不尽なものさ。この世界ってのはね」
ブチッ。
と、何かがキレた気がした。
気のせいだと思いたい。
「‥‥‥分かった気になってんじゃないわよ、このガキがああ!!」
気のせいじゃなかった。
すみれさんがキレた。
すみれさんがイズミさんの胸倉を掴み上げて頭突きをかます。
ちょっと怖いんですけどレッドさん止めてください恋人がピンチですよ?
なおレッドさんは静観の模様。
「この世界が理不尽なもの? んなことリバースで生まれて育った私が1番よく分かってるわよ! 逃げるのが合理的? ええそうね私も逃げたわよリバースから! けどね! 合理的なだけじゃダメなのよ! それで生きることはできても、そんなのちっとも『自由』じゃないじゃない! 私が欲しかったのは、命懸けで掴もうとした自由は、こんなんじゃない! 理不尽なこの世界で生き抜くためには、それを跳ね返すだけの強さが必要だっつってんのよ!!」
この世界で生き抜くためには。
そう語るすみれさんの言葉には、なぜか納得できる響きがあった。
全然論理的じゃない。
合理的でもない。
けれど、それでも。
聞いてる者を納得させるような強さが、その言葉にはあった。
「そ、そんなの。そう簡単にできるわけないじゃないか。理不尽を跳ね返すだけの強さなんて」
「できるわよ! できたわよ! 人は諦めなければ、どこまでだって強くなれるの!」
私を見てみろ。
そう言いたげに胸を張って。
迷う事なくすみれさんは断言する。
‥‥‥まったく、この人ったら。
どこまでもカッコいいんだから、もう。
イズミさんが小さく「降参」と呟いて両手を上げる。
「みこと、お願い。ホーリーネイションの首都を攻めに行かせて。私たちの未来のために。‥‥‥私たちの子供が、安心して暮らせる世界のために」
すみれさんからそう言われ、みことさんはしばらく何かを言いたそうに言葉を選んでいた。
そしてしばらくの後、彼の口から発せられたのは、大きなため息だった。
「はあ。まったく。‥‥‥行くんだったら、3日ほど待ってろ、最終決戦に相応しいとびっきりの刀、打ってやるからよ」
「っみこと! 分かってくれたのね!」
「言っとくが本音は今でも反対だからな。あと分かってると思うが、行くなら俺たち全員でだ」
「ありがとうみこと! 愛してる!」
はいはい。
バカップルバカップル。
お似合いだよ。
ところでここで言う全員って、私も入っているのだろうか。
‥‥‥入ってそうだなあ。
奴隷からテロリストへ。
これはランクアップしたのかランクダウンしたのか。
退屈しない人生でホント楽しいね、ははっ。
第69話、読んで頂きありがとうございます。タイトルコール回収です。
次回もよろしくお願いします。