Kenshi ~その世界で生き抜くため~   作:心愛さん

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第70話 刀

 鍛冶場に火を入れる。

 超高温の炎が上がり、全身から汗が流れる。

 この暑さにも、もう慣れた。

 ‥‥‥最初の頃は、あまりの暑さでただ集中力を維持するだけでも大変だったな。

 

 カンッ! カンッ!

 

 力強く鉄を叩き、不純物を取り除く。

 そして冷却。

 この時、冷却速度に差をつけることで刀に反りが生まれる。

 反りがあることで、ほぼ無意識で『引いて斬る』斬撃を放てるようになり、切れ味が増す。

 分かりやすく例えるなら、大根を包丁で上から押さえるように切ろうとすればとても力がいるけれど、引いて斬れば簡単に切れるのと同じ理屈だ。

 反りの大きさや角度はもちろん、すみれの斬り癖に合わせる。

 あとはどう研ぐか。

 今までに数えきれないほどの刀を打ってきた経験から言うなら、ただ綺麗に研げばいいというものでもない。

 目に見えないレベルで僅かに荒れた刃の方が切れ味が増すことが多い。

 『多い』というのは必ずしもそうとは限らないということで、この微妙な調整が今でも難しい。

 刀は研ぎ方ひとつで、良くも悪くもなるものだ。

 それこそ見違えるくらいに。

 

「‥‥‥失敗だな、これは」

 

 完成したedge3等級の狐太刀を木箱にしまう。

 決して悪い刀ではない。

 いや、良い刀だ。

 使い手のことを考えた、使いやすくて切れ味の優れた、良い刀だ。

 都市連合をくまなく探しても、これほどの刀は売っていないだろうと自負している。

 ただ、メイトウとまでは言えない。

 メイトウ。

 それは伝説の鍛冶師、クロスが鍛え上げた、この世界で最高峰の武器の総称だ。

 数多のメイトウを創り上げた伝説の鍛冶師クロス。

 その名前以外は全ての資料が失われており、男か女かさえ分からない歴史上の人物だ。

 だが、その鍛冶師が間違いなく実在したことは現存するメイトウの数々が証明している。

 シミオンが使っていた武器も、そんなメイトウの1つだ。

 俺は、その伝説の鍛冶師に追いつきたい。

 メイトウを創り上げたい。

 歴史に名を残すためじゃない。

 ただ惚れた剣士のために、最高の刀を打ってやりたかった。

 どこの誰かも分からない伝説の鍛冶師なんかより、俺の方があいつの望む刀を創れるんだと証明したかった。

 

 鍛冶場の隅に、材料として積んである鋼鉄地金に視線を向ける。

 サヤが運んできてくれたものだ。

 イズミが研究した機械を使って、サヤが丸1日かけて精錬してくれた鋼鉄。

 それを俺が刀に仕上げて、その刀ですみれが戦う。

 皆がいて初めて戦えるのだ。

 俺も、すみれも。

 1人じゃ何もできやしない。

 

「‥‥‥」

 

 鋼鉄の束を集めて、新たな刀の製作にかかる。

 クロスにも、仲間がいたのだろうか。

 クロス、お前は何のために武器を作ったんだ?

 歴史に名を残すためか?

 いや、そんなはずはないな。

 もしそうなら、名前以外の情報が何も残っていないはずがない。

 クロスは、誰かに使って欲しかったのだ。

 自分が作り上げた武器を。

 誰に?

 きっと仲間に。

 あるいは、尊敬する英雄に。

 

「クロス。お前が何者なのか、俺は知らない。けどもう少しで、俺もお前に追いつけそうだよ」

 

 熱せられた鉄を打つ。

 不純物を取り除くために。

 

『最終決戦に相応しい、とびっきりの刀を打ってやる』

 

 そう言った俺の言葉を信じて、サヤが精錬してくれた鉄だ。

 次こそ、メイトウと呼ぶに相応しいものを完成させてみせる。

 すみれの為のメイトウを。

 すみれの為、とは言ってみたものの、すみれはこの刀で何を斬りたいのだろう。

 まずそこから考えてみる。

 敵を。

 人を。

 ‥‥‥いや、違うな。

 果敢に敵陣に飛び込み、敵を次々と切り伏せる剣士としてのすみれだけを見ていると、一見好戦的な印象を抱く。

 それはすみれの持つ本性の1面ではあるのだろう。

 だが、あくまで1面だ。

 俺はすみれのもっと別の顔だって知っている。

 リバースを抜け出して初めてみる夜空の美しさに、目を輝かせたすみれ。

 流れ着いた浮浪忍者の里で、楽しくお酒を呑んだすみれ。

 初めて立ち寄った都市連合の町ドリンで、バーのおばちゃんを助けるために剣を握ったすみれ。

 都市連合の港町で、ただのスリ師だったレッドと意気投合して戻ってきたすみれ。

 デート中に絡んできた野盗が怪我をすると、憎まれ口を叩きながらも手際よく治療したすみれ。

 名も知らぬ奴隷商の仇を討つためにシミオン砦に乗り込んだすみれ。

 仲間を助けてもらったお礼を言うために、あえて丸腰で風魔忍者の拠点を訪ねたすみれ。

 子供ができたと知って、嬉しそうに文字を教わったすみれ。

 ‥‥‥それら全てひっくるめて、すみれなんだ。

 俺の彼女が、斬りたいものは。

 彼女が本当に望んでいるのは。きっと。

 

 ヒュゥ、と一陣の風が通り過ぎた。

 僅かに、鍛冶場の炎が揺らぐ。

 ここだ、と何の根拠もなく直感が告げる。

 その直感を信じて、俺は金槌を振り上げた。

 

 カァンッ!!

 

 鉄を打つ音が、鍛冶場に響いた。

 

 

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

 

 それは、俺たちが出会ったばかりの頃。

 星空を見上げながら語り合った、2人の夢物語。

 これから何がしたい?

 そう訪ねた俺に、すみれはこう答えた。

 

「そうね。賞金稼ぎになりたいわ。かっこよく言うなら、バウンティハンター」

「ぷはっ、それはまた大きく出たな。すみれ、武器なんて使えるのか?」

「これから使えるようになるのよ。そして大陸最強の剣士になって、悪い奴らをどんどん捕まえるの」

「そりゃすげえ。だったら俺は鍛冶職人になりてえな。大陸最強の剣士であるすみれが、大陸最高の鍛治職人になった俺の刀を振り回すんだ。もちろん、刀には俺の銘が入ってる」

「ふふ。調子の良いこと。みことだって、武器なんて作れないでしょう?」

「これから作れるようになるのさ」

 

 痩せこけた逃亡奴隷が2人。

 大きすぎる夢を語り、笑い合った。




 第70話、読んでくださりありがとうございます。ここまで読んでくださった皆様、あと少しだけお付き合いをよろしくお願いします。
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