それは一瞬の出来事だった。
「来い、
「言われなくとも!」
雄叫びと共に、交わる刃。
そして‥‥‥倒れるすみれ。
すみれが血溜まりの上に倒れ込む。
「すみれ!? おい、すみれ!!」
「聖フェニックス様!? ご無事ですか、聖フェニックス様!!」
俺自身も戦っている最中であることすら忘れて駆け出す。
そして『
すみれが死んでしまったら‥‥‥すみれがいない世界で戦い続ける意味なんて、俺にはない。
生きてくれ、すみれ。
「みこ、と‥‥‥?」
「すみれ! 大丈夫だ、すみれ。すぐに手当てしてやるからな!」
医療キットを取り出す。
一般市場には出回っていない、最高級品の医療キットだ。
昔は包帯を巻くだけでも緊張していたものだが、今は違う。
絶対に助けてみせる。
と、不意に。
「聖フェニックス様!? そんな、フェニックス様! フェニックスさまあああ!!!」
『
フェニックスの身体が、ずれる。
腰から肩に向けて逆袈裟に両断された身体から、内臓がこぼれ落ちる。
その隣で半狂乱になる『
「見事、だ‥‥‥
「みこと。私‥‥‥やった、よ」
それきり、喋らなくなった。
すみれも、フェニックスも。
『
戦いは終わったんだ。
戦いは終わって平和になった。
そのはずなんだ。
なのにどうして、こんなにも胸が苦しいんだろうな。
戦いの後、首都ブリスターヒルは浮浪忍者のものとなった。
居城の外では、駆けつけたモールさんが獅子奮迅の働きを見せていたらしい。
それでも相当な数の負傷者が出て、事前に建てた野戦病棟も満床、町中の建物に寝袋を敷きつめて怪我人を寝かせるという状況だった。
「みことくん、お疲れ様! 大活躍だったらしいじゃない!」
俺がすみれの寝顔を眺めていると、モールさんが話しかけてきた。
戦いの中心にいたはずなのに、ほとんど怪我をしていない。
つくづく、底の知れない人だと思う。
「いや、俺は別に。活躍したのはすみれの方で」
「またまた。謙遜しちゃって。すみれちゃんはそう思ってないと思うよ。剣士ってね、自分の刀を信用してなきゃ全力が出せないの。みことくんの刀に対する絶対の信頼が、最後に勝負を分けたんじゃないのかな」
「そう、ですかね。はは、ありがとうございます」
すみれは、今は穏やかな寝息を立てて眠っている。
だが、本当に目を覚してくれるのか。
すみれの傷口は、俺が想像していたよりもずっと深いものだった。
傷をみたモールさんには、「短時間とはいえ、どうして動けたのか分からない」とも言われた。
もしこのまま目を覚さないなんてことになったら。
俺は。
「‥‥‥みことくんも、少し休んだらどう? 私が代わりに診とくからさ」
「いえ。モールさんこそ、戦いの後から全然休んでないじゃないですか。ずっとみんなの寝袋の準備して」
「まー私は鍛え方が違うからねっ! これくらいヘーキヘーキ!」
そう言っておどけてみせるモールさんは、確かに無理をしているようには見えない。
本当に平気そうだ。
「お、俺だって平気です。惚れた女の看病くらい、自分で‥‥‥」
「おーおー、言うようになったねえ。それならお姉さんは他の子のとこに行くとしますか。交代が必要ならいつでも呼んでね」
他の子、という言葉に、そういえば他のみんなはどうなったんだろうと、今更ながらに気になった。
「あの、モールさん。他のみんなは? みんな、無事ですか?」
「うん。レッドちゃんがひどくやられてるけど、少なくともすみれちゃんよりは軽傷だよ。今はイズミちゃんが診てくれてる。リドリィとサヤはほぼ無傷だね。上手く傭兵と協力してたみたい。2Bっていうアンドロイドは‥‥‥アンドロイドって怪我の概念あるのかな。何度も倒されてたけど、その度に修理ベッドで全快してゾンビアタックしてたけど。痛覚どうなってるのかしらね?」
「さ、さあ‥‥‥」
2Bは、やっぱり2Bだった。
もうホーリーネイションから追われることもないだろうけど、2Bはこれからどうするんだろう。
後リドリィも。
冒険が好きな人だから、やっぱり2Bと一緒に冒険に出るのかな。
ちょっぴり寂しい気もするけど。
「‥‥‥村を出てからさ、友達増えたよね、みことくん」
「へ? そ、そうかな‥‥‥?」
「うん。リバース鉱山から逃げてきた人ってね、大体そのまま浮浪忍者の里で暮らす人が多いんだよ。だから狭い世界しか知らないままなんだ。それはそれで悪いわけではないんだけど‥‥‥出来れば私は、もっと広い世界を知ってほしいと思ってるんだ。この世界は残酷で、けれどすごく美しいから」
「美しい、ですか?」
「うん」
モールさんは、それ以上は語らなかった。
自分で探せ、ということなのだろう。
この世界の美しさを。
それもいいかもしれないな。
「あ、そうそう。最後に1つ聞いときたいことがあったんだけど、いいかな?」
「ん。なんですか?」
「セタとヴァルテナ、どこに行ったの?」
う、と言葉に詰まる。
正直に教えたら尋問とかしそうな気がして。
モールさんという人を、俺はまだ読みきれてない。
「えーと、それは、その‥‥‥」
「隠す気?」
モールさんの視線の圧が強くなった、気がした。
冷や汗が背中を伝う。
別にモールさんは武器を抜いたわけでも、ドスの効いた声を出したわけでもない。
ただ見つめられただけで、手が震えるなんて。
それなりに死線を潜ってきた、この俺がだぞ?
「いや隠すっていうか、まあ。今頃は美味しい紅茶でも飲んでるんじゃないですかねー」
「‥‥‥」
「‥‥‥」
誤魔化しはしたけど、嘘は言っていないぞ。
「ふうん。ま、いいわ。フェニックスを倒した手柄に免じて見逃してあげよう。それじゃ、またね」
「ええ、また」
手を振って、モールさんを見送る。
ほっと息をつくと、再び俺とすみれだけが残された。
すみれの髪を撫でる。
本当に、ただ眠っているだけにしか見えない。
だから。
だから早く目を覚ましてくれよ、すみれ。
いつもみたいに「おはよう」って、そう言ってくれ。
一緒に、広くて美しい世界を見に行こうよ。
夜が明けて、朝が来た。
せめて何か食べろと、レッドがご飯を持ってきた。
いつもあんなに美味しかったレッドの料理が、なぜかちっとも味がしない。
昼が過ぎて、また夜が来て。
少しは休めと、サヤが俺の分の布団を用意してくれた。
すみれの手を握ったまま、また夜が明ける。
サヤも一緒だった。
「‥‥‥おはよう」
聞き慣れた声。
聞きたくてたまらなかった声が、耳に届いた。
幻聴かと一瞬疑ったけれど。
「‥‥‥ひどい顔ね、2人とも。そんなに心配だった?」
うっすらと目を開けたすみれが、そこにいた。
‥‥‥当たり前だバカヤロー。
心配させやがって。
この残酷で美しい世界で、己の美学と信念を貫いて生きる者のことを『Kenshi』と呼ぶ。
そんな世界で、幾人ものKenshiが出会い、そして別れる。
それぞれの想いを胸に、信念を貫き、信念に死す。
時に争い、時に手を取り合いながら。
異なる美学を掲げた者達が、この世界を創ってゆく。
Kenshiとして、その世界で生き抜くために。
Kenshi ~その世界で生き抜くために~
これにて完結です。長らくご愛読ありがとうございました。
‥‥‥完結といいつつ、後日談とかエピローグとか日常編みたいなおまけを思いつけば書き足したりするかもしれませんが、まあひとまず完結ということで。
動画サイトで人気となった名作Kenshi、その異色の二次小説。少しでも皆様の心に残ったならば、これに勝る喜びはありません。応援してくださった皆様、本当にありがとうございます。
いつかまた、この世界のどこかで巡り会えますように。