「とおりゃあー!」
渾身の力で振りかぶった俺の拳が、リバーラプターと呼ばれる獣の鼻先を殴打する。
ペチン、と軽い音をたてて、ラプターがちょっぴり痛そうにした。
「はああ!」
続いてすみれの振るう大苦無がラプターの右足を切りつける。
集落の武器屋で手に入れた小刀だ。
少し錆びてはいるが、その分安かった。
斬りつけられ、怒ったラプターが突進を繰り出してくる。
回避しようとするも、間に合わない。
「ぐはっ」「きゃああ」
すみれも防御しようと刀を構えたようだが、防御を突き破るように繰り出された突進になす術もなく、2人揃って吹っ飛ばされる。
「くそっ、このラプター強え!」
地面に転がって無防備になったところに、さらに追撃を加えようと迫るラプター。
だが、そのラプターの前に門番さんが立ち塞がった。
「ラプターが強いんじゃない。あんたらが弱すぎんのさ」
‥‥‥一閃。
門番さんが刀を振るうと、たった一撃でラプターは動かなくなった。
すみれと共に決意を固めてから数日。
俺とすみれは、集落で修行を繰り返していた。
集落には畑があり、畑の作物を狙うリバーラプターがよく襲って来る。
それを門番さんと一緒に退治する修行だ。
「それにしてもすごいな、姐さん。あんた、ほんとに強いんだな」
「はは、ありがとさん。強くないと、門番なんてやってられないんでね」
はにかんだ笑顔を見せながら持ち場に戻る彼女。
すみれも強さの秘密が気になるらしく、その装備に注目していた。
「姐さんの使ってる刀って、私と同じ大苦無よね? 一体、どんな修行をして強くなったんですか?」
「別に特別なことなんてしちゃいないさ。あんたらと同じだよ。作物を狙うラプターを退治し続けるうちに、上達したのさ。‥‥‥ところでその姐さんっていうの、どうにかならないかい? もっと他に、『お嬢さん』とか、『お姉ちゃん』とか、いろいろあるだろ?」
「‥‥‥」
俺とすみれは顔を見合わせる。
この門番さんのことを、お嬢さんとかお姉ちゃんと呼ぶ姿を想像してみた。
‥‥‥うまく想像できない。
「姐さんだな」「姐さんよね」
「だから何でだよ!」
何でだと言われても、姐さんだからとしか言いようがない。
むしろ、この人をお姉ちゃんと呼ぶ方が何でだよって感じだ。
「はあー、まったく失礼な。とにかく襲ってきた群れはそいつで最後だ。しばらくは襲撃は無いはずだよ」
「そうか。それじゃまた鉄でも掘って」
日銭でも稼ごう、としたところで呼び止められた。
「おっと、ちょいと待っとくれ。もし良かったら、仕事を頼まれちゃくれないかい?」
「仕事? ええまあ、俺たちにできることなら」
「ああ大丈夫だ。誰にだってできる。商店の客引きをやってもらいたいのさ」
なんでも最近テックハンターの店が集落にオープンしたのだが、客入りが悪くて困っているらしい。
なので集落の住民に声をかけて、宣伝を手伝って欲しいとのことだ。
「それくらいで良ければ喜んで。けど姐さんって、仕事の斡旋もしてるのか? 門番の仕事の範疇を超えてるような気もするけど」
「ああ、前はこんなことしてなかったんだけどね。最近になって大陸の三大国家を始めとする比較的大きな勢力が、旅人に仕事を斡旋する事業を始めたのさ。理由は経済の活性化とか、他勢力との友好関係の締結とかいろいろあるみたいだが‥‥‥そこであたしらも、その流れに乗ってみようってことになってね。仕事が終わったらあたしのとこに戻っておいで。報酬を渡すからさ」
かくして、俺たちは客引きの仕事を引き受けることになった。
「い、いらっしゃーい。新装開店、テックハンターのお店だよー」
「‥‥‥」
「や、安いよー。よってらっしゃい見てらっしゃいー」
「‥‥‥」
ダメだ。ぜんぜん関心を示してくれない。
「みこと。あなた、ヘタクソ」
「んなっ!?」
すみれから、なんか傷つくこと言われた!
「私がやってみるわね」
そう言ってすみれは近くの女性に走り寄って。
「ねっ。このブローチ、可愛いと思わない?」
「ん? 確かに似合ってるじゃないか。どうしたんだ、これ?」
「ふふっ、そこのお店で買っちゃった。他にもイヤリングとか色々売ってたから、掘り出し物が見つかるかも!」
「そ、そうか。私に似合うようなのもあるかな‥‥‥」
「うんっ、きっとあるよ!」
「よし! ちょっと行ってくる!」
‥‥‥すげえ。ちょっと見直した。
「どう? ここの集落の住民はほとんどが女の子。だったら女心を刺激してあげればいい。簡単な話よ」
ドヤ顔で得意げにそう語るすみれ。
今まで石掘りしかしてないハズなのに、一体どこで覚えたんだ。
才能? 才能なのか?
「別に難しく考えなくていいわ。みことも同じようにやってみればいい。むしろ男のみことの方が、私よりうまく女心をくすぐれるはずよ」
そういうもんだろうか。
よし、ちょっとやってみるか!
「そっ、そこのお嬢さんっ!」
「え?」
「こ、このイヤリング可愛いでしょ! 君に似合うと思って、そこの店で売ってて、今安くって‥‥‥!」
「‥‥‥はあ?」
あ、行っちゃった。
何が悪かったのだろう。
「みこと、もういいわ。あなたは鉄でも掘っていて。‥‥‥このドヘタクソ」
「!?」
こ、これは‥‥‥しばらく立ち直れなさそうだぜ‥‥‥!
その後すみれは無事に仕事を終えて、報酬として応急処置キット(上級)を貰っていた。
店ではなかなか売っていない貴重品である。
「それじゃ、カンパーイ!」
仕事を終えて汗を流したら、食堂で食事にしようという流れになった。
俺はサケと干し魚、すみれはグロッグと野菜料理を頼んで席につく。
「ぷはーっ、疲れたあとの1杯はやっぱ最高だなっ。うめえー!」
「ふふっ、ほんと美味しい。お酒がこんなに美味しいなんて、知らなかったわ」
席には俺とすみれ、そしてさらに相席している集落の住民。
「ねえねえ、すみれちゃん。みことくんとはどこまで進んでるのー?」
「え! ど、どこまでって‥‥‥別に私とみことはそんな関係じゃ」
「またまたあ。まさか手を握ったこともありません、なんて言う気じゃないでしょーね?」
「手は、まあ。握ったけど」
「きゃーっ」
集落にたった1件しかないこの食堂は、どうしても混み合う。
そして混み合うと相席となる。
元々、行き場のない者が集まってできたようなこの集落の住民達は、俺やすみれに対しても親しく接してくれた。
最初の頃こそ警戒されたが、それはこの集落がホーリーネイションから逃れた者たちの隠れ里であるという性質によるところが大きいという事も分かった。
「じゃー今度はみことくんに質問ー。みことくんはー、すみれちゃんのどんな所が好きなんですかー?」
「んなっ! す、好‥‥‥!?」
動揺する俺。
すみれは両手で顔を覆って沈黙の構え。
恥ずかしいけど質問を遮る気はないって事だな、これ。
「だってー、みことくんは別にリバースから脱走する必要なんてなかったじゃん? 男なんだし、好きじゃないなら、すみれちゃんの事なんて放っておく事もできたでしょ?」
「な、何言ってんだこのバカっ。んな事できる訳ねーだろっ。放っておけねーから一緒に脱走したに決まってんじゃねーかっ」
あれ。今俺変な事言ったか?
酒のせいか頭がうまく回らん。
隣ではすみれがますます真っ赤になっていた。
「きゃー! 私も言われてみたいわあ。良かったねぇすみれちゃん。この幸せもの〜」
「うん。幸せ、かも」
すみれ、お前も酔ってる?
店のおっちゃんがそっと寄ってきてグラスに酒を注ぎ足していった。
いい人だなおい!
「そうね。とっても幸せ。だってリバースにいた頃は、こんな風に過ごす時間なんてなかったもの。こういうの、大切にしていきたい」
「そっかそっかー。良かったねえ、本当良かった!」
相席の女性も豪快に酒を煽る。
ブラッドラムっていうお酒だ。
かなり高価なお酒で、まだ俺もすみれも呑んだことがない。
「すみれっていう名前ね、みことが考えてくれたの。小さな幸せって意味が込められてるんだって。きっと、こういう事なのね」
完全に酔っているらしいすみれは、熱に浮かされたようなポーっとした顔でそんなことを言ってくれる。
「きゃああー、何それロマンチックすぎないっ!? やるねぇこの色男!」
ヒューヒューと、別の席の客にまで口笛を吹かれた。
店のおっちゃんがグラスから溢れそうなくらい、なみなみと酒を注いでくれる。
何だこの公開処刑。
そこに門番の姐さんまで店にやってきた!
「どうしたんだい、ずいぶん賑やかだねえ。門の方にまで騒ぎが聞こえてきたよ?」
「あー! ちょうど良かった! 今この2人に話を聞いてたんだけど、かくかくしかじかで」
「ほおー、そんな事がねえ。最初はとんでもない変態がやってきたと思ったが、お前さんなかなかいい男じゃないか!」
穴があったら入りたい!
結局この日は夜まで宴会騒ぎが続き、修行は全く捗らなかった。
第八話まで読んでいただいた方、ありがとうございます。今回の話で商店の客引きの仕事をしていますが、これはStilldoll氏のmod、Factions Questにて追加される要素です。Koufuと比べて仕事をしている実感が得られたり、今回はどんな報酬(アイテム)がもらえるのかなーとドキドキしたりできて、非常に完成度の高いmodだと思います。筆者もありがたく使わせてもらっております。