異能バトルにTS魔法少女は似合わない   作:ツキシロ

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第一章 異能の跋扈する世界に、魔法少女なんているわけないだろ
その1


 ――人生において平等でないものは、チャンスであると彼は思っていた。

 

 知力、武力、権力、財力。それらは手に入れようと思えば、様々な方法で手に入れることができる。はっきり言って才能さえも、分野を限らなければどうにかなるだろう。それが本人の意思と一致するかは別として。

 ただ、これらを手に入れるためにもっとも重要なものは、決して誰にとっても平等ではない。切っ掛け、チャンス。そういったものは、得てして望んだときに、望んだままに手に入ることはない。

 

 だから努力さえすれば手に入ると言われるものも、チャンスがなければ手に入らないし。故に人は人生が平等ではないと言う。

 

 けれども、そんなものは戯言だ。平等でないものは、チャンスだけ。チャンスさえあれば、努力で何かを手に入れる事のできる人間と、そうでない人間。

 後者にとって――前者でありながらそのチャンスを掴むことなく、けれども不平等を嘆くのは、はっきり言って侮辱でしかなかった。

 

 そして彼は――徹頭徹尾、後者の人間だったのだ。

 

 

 ――――

 

 

 夜の住宅街、もう既に時刻は日を跨いで一時過ぎ。人通りなどあるはずもない、あるとすれば夏特有の虫の鳴き声、それすらも、今の彼にはこれっぽっちも耳に入っていなかった。

 

 人がなければ、音もない。静寂と、安寧に満ちていたはずのその場所は、けれど。今、どうしようもない破壊と轟音の舞台となっていた。

 

「ちくしょう! ちくしょう! ちくしょう!」

 

 走る。力の限り、肺からこぼれ出る息は既に限界を迎えて、もはやどうして自分が走れているのか、彼にはさっぱりわからなかったが。

 足を止めるわけには行かなかった。

 なぜなら、

 

 止まった瞬間に、彼の命は終わるからだ。

 

「ありえない! どうしてこんなところにいるんだよ! この地域は怪物が出ないからって、住むって決めたのに! しかもなんだって、僕が襲われなくちゃいけないんだ!」

 

 叫ぶ、叫べばそれだけ酸素を失う。悪手だが、もはや叫ばなくてはやっていられない。彼はとっくの昔に息苦しさとか、足の痛みとかを忘れてしまっていたから。

 

 そんな彼の後ろには、破壊があった。

 

 このオカルトだとか、魔法だとか、そういった幻想的な言葉とは無縁となった現代において、それは異形としか言えない形をしていた。

 鬼、悪魔、東洋においても、西洋においても、そういった異形の怪物の伝承は事欠かないが、そういった伝承に付きものな物がある。

 

 角。

 

 今、走る青年の後ろを追いかけるそいつは、一言で言えば角を備えた三メートルの巨漢、だった。黒い影のような姿、顔と思われる部分に、角が着いていることだけはかろうじて分かるが、後はローブのような黒い布で体を覆い、シルエットははっきりとしない。

 

 それが、街の街灯、アスファルト、時折点在する自動販売機、それらをすべてめちゃくちゃにしながら、青年を追いかけてくる。

 幸いなことがあるとすれば、怪物は破壊に意識を傾けていた。青年を追ってはいるものの、とにかく周りを破壊したくて仕方がないらしい。

 故に、全力で走り続ける青年に、未だに追いつけていない。

 

 それが解っていたから、青年はとにかく走っていた。まだ、大丈夫。まだ走れる。そしてこの怪物は、逃げ切る方法が存在する。そのことを青年はよく知っていた。

 

「急げ、急げ、急げ! 急いで――川を渡るんだ!」

 

 青年の知識では、このタイプの怪物は「吸血鬼型」と呼ばれていた。吸血鬼、西洋の伝承のもととなったのが、この怪物。普通、西洋にしか見られないものであることも、青年を困惑させる原因の一つとなっていた。

 だが、伝承の元となるだけあって、その弱点も怪物は所有している。つまり、川の上を渡れない。

 

 故に青年は走っていた。何とか、川の向こうまで逃げ切れば、こいつは自分を追ってこれない。そうすれば自分の勝ち。青年はとにかくそれだけが希望だった。

 

 ――この青年、出で立ちはごくごく平凡的な一般男性のそれである。髪は短く整えて、メガネの似合う平凡な男。しかし、どういうわけかそんな出で立ちとは全くもって似合わない、真後ろの怪物の存在を把握していた。

 もちろん、それは青年がこの怪物と縁があり、知識として得ることのできる環境にいたからだ。怪物の正体も、青年はよく理解していた。

 

 故に、その名を呼ぶ。

 

 

「なんでこんなところに、アクイがいるんだよッ!」

 

 

 青年は叫んだ。

 アクイ。悪意、もしくは阿喰いと呼ばれるそれは、この世界の裏側で、一般には知られることなく存在する怪物の総称だ。伝承の中に見られる妖怪や妖精といった存在の正体。

 そして、人類の敵だ。

 

 ――本来、青年が暮らしているこの街には、アクイは存在しない。理由は様々だが、青年はそれを理解した上で、この街に越してきて、暮らしていた。

 理由はアクイと関係を持たないため。もっと言えば、アクイと対抗する人類に、出会わないため。

 

 だというのに、自分の後ろにはその怪物が闊歩している。あらゆるものを破壊し尽くして、こちらに突き進むその姿は、まさしく悪意の権化と言って差し支えがないだろう。

 なにせ、

 

 ――怪物は哂っていた。

 

 アクイが破壊を優先しながら彼を追う理由は単純だ。楽しんでいるのだ。アクイにとって、これはハンティング、一方的な狩りの現場にすぎない。逃げられればこちらの負け、勝てば目の前の人間を無惨に殺せる。

 本当に一方的で、押し付けがましい悪意に満ちた追いかけっこだった。

 

「――っ」

 

 それを、青年は歯を食いしばりながら耐える。とにかく、逃げ切ればいいのだ。川はもうすぐで、そして彼は橋を渡る必要もない。川の上に立ってしまえばそれで逃げ切れる。

 だから、本当に後少し。だから、だからこそ、

 

 青年は走った。ほんの少しの希望。“チャンス”を掴み取るために。

 

 ああ、しかし。

 

 青年は、よく知っているはずだった。

 

 人生にとって、最も不平等なものは、チャンス。そして、今回それは、もっとも単純な理由で、青年の目の前から奪われようとしていた。

 

「ついた――ッ!」

 

 開けた視界。河川敷のある大きな川に、大きな橋。後少し、あと百メートルもない。とにかく、急いで。

 

 ああ、けれど、

 

 怪物は、それを見て飛び上がった。急ぐ青年はそれに気が付かない。夜であることも、黒いシルエットを認識させることを難しくさせていた。

 

 飛び上がった怪物が何をしたか。目の前に着地して道を塞いだか。

 

 そのとおり。――否、それだけではない。

 

 

 怪物は、着地の衝撃で、今まさに青年が足をかけていた橋を、破壊し尽くした。

 

 

「なっ――」

 

 踏み込むはずだった土台ごと、破壊に飲み込まれた青年がそのまま勢いよく下へ転げ落ちる。もはや何が起こったのかわからない。ただ、頭の中の冷静な部分が、橋の上に立ってしまえば、吸血鬼はその前に立てないだろう、ということをかんがえて、

 

 ――自分が、草むらに墜落したことで、理解させられる。

 

 この河には河川敷があった。そしてそこは河ではない。

 アクイは、それすら解っていたのだ。解っていて、青年で遊んでいた。最初から勝てない勝負を突きつけて、青年をあざ笑っていたのだ。

 

 何とか意識は喪わず、青年は勢いよく顔をあげようとして、しかし。

 

「あ――」

 

 それが思うように動かないことに気がついた。

 疲労と猛烈な痛み。見れば足はあらぬ方向に曲がっていて、動かすことは敵わない。身動きもほとんど取れない状況で、はっきりってこれは、詰んでいた。

 

 目の前に、怪物が立っている。

 

 ああ、その顔は、

 

「なん、だよ……」

 

 青年はよく知っている。

 

 

「なんで……哂ってるんだよ!」

 

 

 嘲笑ろ、侮蔑の笑み。

 それは、けれども青年にとって、アクイと呼ばれる存在に詳しいにも関わらず、それに対抗する手段を持たないという経歴を持つ青年にとって、

 

 決して、アクイだけに向けられるものではなかった。

 

「そんなに僕がおかしいか!? ()()として生まれて! 才能に恵まれることが約束されるはずの生まれで!」

 

 それは、慟哭だった。

 

「だのに力の一つも持たない僕が、そんなにおかしいか!?」

 

 青年は期待されて生まれてきた。

 アクイに対抗する組織の長。その息子として、けれど、力がなかった。数百万分の一というあまりにも奇跡的すぎる確率を引き当てて生まれてきた彼は、けれども。

 

 それさえなければ、全てを手にしているはずだった。

 

「だったら僕に期待するなよ! こっちをみるなよ! 興味も持つな! 僕はやりなおすって決めたんだ! 関わらずに生きていくって! それなのに!」

 

 怪物は、ただそれを聞きながら、哂っていた。

 そいつに自分の言葉を理解する知恵はない、解っていながら、それでも叫ばざるを得なかった。――一応、叫べばそれだけ滑稽におもった怪物がこちらをあざ笑うために、行動を送れさせるだろう、という打算もあったが。

 

 その間に、少しでも痛みを忘れて、河に飛び込めば、本当に少ない可能性ではあるが、生存の可能性はある。少なくとも、アクイに殺されることはない。

 河に飛び込みさえすれば、吸血鬼のアクイはこちらを追ってくることができないのだから。

 

 ただ、それでも。

 

「どうしてそっちから、よってくるんだよォ!!」

 

 その叫びは、どうしようもなく。

 青年の心からの本心だった。

 

 ――返事はなかった。怪物に言葉はない、ただアクイだけがある。こちらをいたぶって殺し、満足するために、こちらを見下ろしていた。

 

 そんな、ときだった。

 

 

 にゃーん。

 

 

 間の抜けた声が、破壊に包まれた河川敷に響き渡った。

 

 それは、

 

「――ね、こ?」

 

 猫だった。

 真っ白な、猫。

 びっくりするほどきれいな白い毛並みに、可愛らしい顔立ち。場違い過ぎるほどに、猫はのんきな顔で、こちらを見上げていた。

 

 ―ー橋の下にいたのだろうか。破壊を偶然免れて、生きていた。だとすればあまりに幸運だ。けれども、同時にその幸運を帳消しにしてあまりあるほどに、不幸だった。

 

「あ、ああ――」

 

 すぐにアクイが猫に気がついた。

 そして、その顔に、三日月のような笑みが浮かぶ。その顔から、アクイの狙いはすぐに読めた。猫を先に殺す気だ。

 

 そして、それはあることを意味する。こちらに意識を向けていた怪物が、意識をそらす。その一瞬なら、河に飛び込めた。

 ただ、猫の立ち位置は河とは正反対だった。距離は、同じくらい。

 

 何を迷っていると、声がする。

 迷う必要などないだろう。お前は既に、一回逃げている。もう一回逃げたところで何になる。あの時と違って、誰かがそばにいれば、気持ちが鈍るような覚悟で逃げてきたのか?

 今回だって同じだろう。なに、相手は猫だ、人ではない。罪悪感は薄いだろう?

 

 そうだ、あまりにもそのとおり、正論すぎる。ここまで生き残るために走り続けて、そしてようやく掴んだ最大の隙。

 

 ()()()()だ。

 

 今なら逃げられる。

 

「あ、あああ――――」

 

 そこまでかんがえて、青年の体は動いていた。立ち止まっていることだけは、絶対にありえない。選択しなくてはならない。

 その上で、

 

 

 青年は、猫を抱えたまま横に飛び退いていた。

 

 

「が、あああああああああああ!!」

 

 無理矢理に動かして、そして着地させた足から激痛が響く。もはや、声を上げることしかできない。痛みが、それ以外のものが、一斉に体から襲いかかってくる。

 

 目の前には、攻撃を外したアクイが一体。

 こちらを見て、侮蔑に笑う。

 

 ああ、けれど、何故だろう。

 

 

 ――青年の心には、確かな満足感だけがあった。

 

 

 今度こそ、やってやったぞ。

 

 そんな、満足。

 猫を手放して、逃げろ、と促す。

 

 ――猫は即座に、この場から離れていった。アクイはそれを追いかけない。興味を失ったのだ、今、目の前にはそれ以上の極上の餌があるのだから。

 ともあれ、これで猫を逃せた。

 

 彼にとって、それは。

 

 それは初めての経験だった。誰かを救うなんてこと、彼の人生で、一度も機会がなかったのである。

 

 少なくとも、本人はそう思っていた。

 だから、これは――

 

 

 彼の人生で初めて掴んだ、やり遂げたという感覚だったのだ。

 

 

 ――――

 

 

 ――人生において平等でないものは、チャンスであると彼は思っていた。

 

 

 力も、才能も、チャンスさえアレば手に入り、チャンスがなければ一生手に入らない。

 世の中には、チャンスがあるのに、それを掴むことなく、人生の不平等を嘆く者がいて。そもそもチャンスが転がり込むことすらなく、不平等を嘆く者がいる。

 

 けれど、そもそも、

 

 チャンスとは人生に一度しか訪れないものではない。

 

 だから、もし次にチャンスが訪れるとして、

 

 チャンスを掴まなかったものと、掴めずに嘆くもの。そのどちらにチャンスが訪れるとしたら、それは、

 

 きっとどちらでもない。

 

 

 チャンスがなくとも、行動を起こそうとするものにこそ、それはやってくるのだ。

 

 

 そう、今この時。

 この瞬間、青年は()()を満たした。

 

 それは、青年にとって、望んですらいない切っ掛けで、思ってもみない機会で、そして。

 

 

 ずっと、ずっと、待ちわび続けた、またとないチャンスであった。

 

 

 ――破壊が訪れない。

 猫を逃した時点で、彼はもはや体を動かすことすらできなくなっていた。怪物の顔を見ることもなく、ただただ無惨に破壊されて死ぬだろう、そう思っていた。

 だと言うのに、彼は生きている。

 

 否、それだけではない、彼には変化が起きていた。

 

 猫を抱えて、飛び退いて、その時のままになった何かを抱きしめる両腕から、光がこぼれた。暖かい光、優しい光だ。びっくりするほど、彼には光が満ちていた。

 

 直後、それはたちどころに彼を作り変える。

 

 体を、

 

 力を、

 

 そして何より、

 

 

 ()()を。

 

 

 直後。彼ははっきりと自覚していた。

 自分に力が宿っていることを、そしてその力の使い方が、頭の中に流れ込んできたことを。

 

 ――しかし、彼を彼と呼ぶことは憚られた。

 

 ()()、とそう呼称すべきだろう。

 

 透き通るような白の髪、はっきりと強い意思の感じられる鋭い瞳に、可愛らしいリボンで結ばれたツインテール。頭にはちょんと、アホ毛が添えられて、

 背丈は少し、小さい。青年――出会った頃の彼は高校生だが、今の彼女は中学生くらい。ただ、十分高校生でも通るだろう。

 そのくらいの背丈で、けれどもそんな背丈とは相反するように、バストは豊満。けれども、それ以外の部分はむしろ華奢とすら言って良いアンバランスだが、可愛らしい姿をしていた。

 

 服装は、燃えるような赤。フリルやリボンが散りばめられたそれは、誰の目から見ても、明らかなほどにある表現でもって語ることができた。

 

「ぼ、くが――」

 

 声は、軽やか。驚くほど、可愛らしく少女に似合う声になっている。

 

 もはや、先程の青年は影も形も残っていない。

 

 だが、たしかに彼は彼女だった。

 

 あの時、この場で、この瞬間に、自分の命ではなく、猫の命を選んだ人だった。

 

 それはまさしく、

 

 

「――魔法少女?」

 

 

 魔法少女と呼ばれる人間性に、ふさわしいものではなかろうか。

 

 ――直後、怪物が吠えた。怒り、わけのわからない状況に対する怒り。奴は、少女が青年をどこかへ逃したと解釈したのだろうか。

 極上の餌を前にお預けをくらったと言わんばかりに、ローブの奥から、巨大な二の腕を振り上げる。

 

 ああ、けれど。

 

「むだ、だ」

 

 少女には、力があった。

 

 ――手を前にかざした彼女の背後に、幾何学的な模様、魔法陣が現れる。

 くるくるとそれは回転し、そして、彼女の手のひらから、

 

 

 

 “BLASTER”

 

 

 

 極大な光の砲撃を、放った。

 

 一撃で、それは。

 

 ()()()()を破壊して、他のモノには何一つ被害なく、

 

 戦闘とすら呼べないそれを、終了させた。

 

 

 ――――

 

 

 呆然と、現実が認識できず、少女は自分の両手を見下ろしながら、立ち尽くしていた。

 横には穏やかな河川があるけれど、暗くて自分の顔が認識できない。ただ、明らかに存在感のある胸部の重量と、そして先程までの現実。

 何より、自分の頭の中に入ってきた無数の知識が、今の現状を物語っていた。

 

「いや、なんだよ、なんなんだよ……」

 

 もちろん、それを簡単に受け入れられるほど、彼女は冷静にはなれなかった。

 本当なら先程までの怪物すら、理解の及ばない超常現象だったのだから。幸いにも、彼女はその超常現象の関係者であったから、そちらに困惑はなかったけれど。

 ――今になって思えば、その程度で住むなら、むしろ幸運な方だったのだろうな。

 

 助かりはしたが、少女はもはや自分がわからなくなっていた。

 

「なんだよ、“ボク”が魔法少女って……」

 

 ポツリと呟くが、しかし。

 なんとなく、自分の一人称もちょっと変わってないか?

 

 ああ、けれど、考えるよりも早く。

 

 

 現実は、さらなる予想外を運んでくるのだ。

 

 

 直感、とでも呼ぶべきものが働く。知識のよれば、これは魔法少女となったことによって強化された感覚がもたらす危機感、らしいが。

 そんなことよりも、

 

 咄嗟に少女が体を動かすと、

 

 

 ――そこを、黒い刃がすり抜けた。

 

 

「な、あ――」

 

 気がつけば、

 

 自分の目の前に、別の少女が立っている。

 

「――避けられた」

 

「あ、あ、あ――」

 

 

 そして、よりにもよって、その少女のことを、彼女はとても良くしっていた。

 

 

「ツ、キ――」

 

 

 奏世ツキ。

 

 年齢は16、かつての自分と同い年。背丈は自分と同じくらいだが、残念ながら発育は貧弱、天と地の差。ないわけではないが、自分が圧倒的すぎる。

 驚くほどに漆黒に染まったその髪は、肩のあたりで大きな三編みに編まれて、腰のあたりまで伸びている。服装は、ひらひらまみれの自分と比べると、びっくりするほど装飾の少ないピッタリとしたスーツだった。戦闘服、といった感じ。

 露出はやたら過剰だが。

 

 その手には、黒い刀身の、長い刀。それをくるくると器用に振り回しながら、数歩距離を取る。

 

「――なぜ、私の名を知っている」

 

 名前だけではない、彼女がアクイと戦う異能者集団に所属する、異能者であることも、よく知っている。

 なぜ、などと問われるまでもない。今の自分では、彼女は気付いてくれるわけもないが。間違いない。

 

 

 だって、ツキは許嫁だったから。生まれる前から決められていた、“元”許嫁。それがツキという少女と、かつて青年であった少女を、一言で表す関係性だった。

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