異能バトルにTS魔法少女は似合わない 作:ツキシロ
――しまった、と思ったときには遅かった。
「名前を知っている――それは、いい……けど」
目の前にいるツキは、既に臨戦態勢を整えていた。
「名前で、私を……よぶなああああ!」
直後。彼女持つ黒い刀から、闇夜に紛れる漆黒の一閃が放たれた。
数は、無数。もはや数えることすら不可能な連撃が、一斉にこちらへ向かってくるのだ。慌てて少女は後方へと退避する。
一息で、数十メートルは飛び退いた。
「これ、は――」
思わず息を呑む。既に知識では解っていたことだが、少女の身体スペックは人のそれを遥かに越えていた。
そして驚愕は、ツキにとっても同様だった。
一瞬だけ目を見開きながらも、油断なく刀を構える。
「――それがお前の“ゼンアク”?」
「……」
なんと、答えたものか。少女は考える。正直に伝えたところで、あちらはそれを信じるわけがないだろう。なによりツキの地雷を踏み抜いてしまった。話なんてまともに聞いてくれるはずもない。
その上で、取れる選択肢はいくつかあった、がしかし。
「どちらでもいい、私はお前を……倒す!」
静かにこちらを狙う剣呑な元許嫁から、まずは一端退かなくてはならないだろう。
少女はさらに飛んできた黒い刃を回避しながら、考える。
まず、するべきことは決まっていた。状況の整理である。
少女は目の前の少女に詳しい。そして何より、彼女が今使っている超常のチカラも良く知っていた。
異能力。ラノベや漫画によくあるそれは、この世界の裏側で、確かに存在していた。古くは神話の時代とされるころから、人々に時折生まれ出る異常のチカラ。
これらはやがて権力者によって集められ、血を濃くすることによってその発生率を上昇させた。
最終的に、今の時代、能力者の家に生まれれば、その子供は間違いなく異能者だ。そして、それはそんな一族の中でだけ、独占されている。
表に出ないのは他にも様々な理由があるが、最大の理由は利権であった。
そんな異能の正式名称は“ゼンアク”。
善と悪。表裏一体とされるそれを冠したこれには、ある特性があった。
異能者は、二種類の異能を保有している。片方がゼンと呼ばれる表の異能。もう片方が、アクと呼ばれる裏の異能。
少女は、ゼンアクではなく、表と裏という呼び方でそれを読んでいたが。
(なんにせよ、ツキの能力にも、表と裏がある。これをボクは一方的に知っている)
異能バトルというやつでは、情報は圧倒的なアドバンテージだ。相手の能力を知っているのと知らないのとでは、取れる選択肢が格段に違う。
そして何より、この世界における異能は、さらにそのアドバンテージが重要だ。これは、異能のある特性によるものが大きいが、
ともかく――
(ただ、知っていたところで、今戦う選択肢はない! 理由は二つ、ボクがまだ魔法少女に全然慣れてない。力があって、その知識だけがある状態だ! まずは慣れないと話にならない!)
そして、もう一つ。こちらの方が、少女にとってはよっぽど重要だ。、
(何より、ボクはツキと戦いたくない! 仮にも元許嫁、あのツキと戦うなんて、ボクには無理だ!)
――ツキは今、激昂し、こちらに凄まじい剣幕で襲いかかってきているが、その性根は心優しい少女だ。それを少女はよく知っている。
もう数年、離れ離れになってしまったが、それでも。
あの穏やかな笑顔を、平和な時間が好きと言っていたツキの心を、少女は良く知っている。
(ツキに、こんな顔をさせられるか! それも、ボクのミスのせいで!)
今すぐこの場から逃げれて、彼女に、そして彼女が所属する少女の実家に出くわさなければ、少女はやがて今回のことを忘れるだろう。
今のツキにとって、少女の存在はあくまで敵対組織との接触に過ぎないのだから。
(だから――)
この場から離れる。幸い、この身体能力なら、ツキは
そう思い、ツキに背を向けたところで、
自分たちを囲う、光の檻に少女は気がついた。
「――どこへ行く、つもり?」
「……これ、は」
「もしかして、知らない? ――お前の組織は、随分と遅れているな」
光の檻に、触れる。何も起こらないが、すぐに分かる。これは“霊子呪具”。超常的な効果を発揮するアイテムの一種だ。
こんなもの、少年は初めて見るが、おそらく技術革新でもあったのだろう。
ここ数年、異能とは隔離された生活を送っていた。ここ数ヶ月はそもそも異能に触れてすらこなかった。
だが、それでも少女の知識の延長線上にあるものだった。
見知らぬものだが、その効果は想像がつく。
敵対者を逃さないための檻。解除の手段は、使用者を撃破すること。
「……っ、ボクは、君と敵対するつもりはない!」
せめて、ダメ元で叫ぶ。もちろん、それに何の意味もないことは知っている。それでも、叫ばずにはいられない。どうしても、少女はツキの優しさに縋りたかった。
ああ、
「ふざけるな」
――けど、それは幻想だ。
「お前が私の名前を呼んだ時点で、私の敵だ!」
今のツキに、少女の言葉は届かない。やるしかないのか。逃げ道を塞がれた後方を眺めて、けれど少女は覚悟を決めざるを得なかった。
――――
檻の中を、縦横無尽に少女は駆ける。その身体能力は端的に言って非常に高い。魔法少女としての補正だそうだが、少女には魔法少女の文法というやつがよくわからないので、そういうものとして納得するしかなかった。
「止まれ――!」
追いかけてくるツキが、少女に黒い刃を飛ばす。光の檻で、幾分か認識しやすくなったものの、前提として今は深夜。真っ暗闇で、街灯もない。
ツキも少女も、全く問題なく暗闇で戦闘を行える夜目は有しているが、この漆黒に染められた刃は、闇に紛れて回避が難しい。何とか光の檻を沿うように走って、少女は影を緩和しているものの、それでも半分以上は闇に紛れて捉えることができなかった。
回避ができるのは、魔法少女としての直感の恩恵によるものだ。
しかし、それも今、逃げに徹しているからこそ、成り立つもの。反撃しなければ状況は膠着したままだ。加えて、あちらだってこのままを良しとするわけではない。
「――ッ!」
攻撃のパターンが変わった。それまで、ただ追うだけだった刃に、別の変化が加わる。ツキが少女の前方に刃を置き始めたのだ。
挟み撃ちのような形、ただ逃げるだけでは叶わなくなる。故に少女も動いた。
大きく上に飛び上がると、檻を蹴って、一気にツキから距離を取る。
「ごめん!」
叫びながらも、手を前に構え、そして、
“BLASTER”
魔法、というやつをぶっ放した、極大な赤色の光が少女から生み出されツキへと向かう。回避できないタイミングだった。初めてにしては完璧に入ったそれはしかし。
「――甘い」
一刀のもとに切り伏せられた。
「――――」
驚愕、ではない。
圧巻。人を軽く飲み込む極太の一撃が、しかし刀の一振りで薙ぎ払われたのだ。それは、通常であれば理解が及ばない光景であった。
だが、少女に油断はない。
息を呑んだものの、この状況は読めていた。これで勝てれば、というのは甘い考えだ。
「先程も見た、すごい範囲。それからアクイを一撃で屠る、火力も脅威でも、だからこそ確定」
しかし、とツキは続ける。
「――このチカラは、“アク”。それでは、私には勝てない」
端的に言って、それは少女の魔法を切り捨てるものだった。価値がないと、勝ち目がないと。
はっきり言って、そのとおりだった。とはいえ、あちらの認識は大きく違うのだけれど。
でも、それはあくまで少女が魔法少女という、ありえない存在になってしまった弊害で、本来ならツキの言葉は何一つ間違っていない。
もしも少女が単なる異能者であるなら、この時点でツキと少女の勝敗は決していると言っても良かったのだ。
ゼンアク。
ゼンと、アク。表と裏。二種類の異能が存在するこの世界における異能には、ある絶対の法則が存在していた。とても、とても単純な法則。
アクはゼンに必敗。つまり、
表の能力と裏の能力が干渉する場合、それらがどんな効果であろうと、
炎を操る表の能力と、水を操る裏の能力。これらがぶつかった場合、水が炎を鎮火するのが、考え方としては自然だろう。
実際、異能者同士の能力の強度が同じなら、それが裏と裏。表と表であれば、当たり前の現象に乗っ取って、事態は解決する。
だが、裏が水で、表が炎である場合、炎は水をかき消すのだ。
たとえそれがどれだけ理不尽な現象であろうと、この世界において、表が裏に勝つことだけはありえない。これが絶対の、そして有史以来揺らぐことのないルールであった。
(――ツキのゼン。つまり表の能力は、“一刀両断”。触れたものすべてを切り裂く、絶対の刃。リーチはないものの、相手の能力の出力が同じなら、どんなものでも切り裂いてしまう)
そして、その上でツキの能力は強力だ。触れたものを切り裂く刃。それが表であろうと、裏であろうと、そうそう彼女に切り裂けないものはない。
弱点は、刀に触れなくてはならないということだが、
(――裏の能力、“月影縫刃”がそれを解決する。月影の元、闇夜を縫うように這う漆黒の刃、とにかく連射性に優れ、威力も申し分ない上に、リーチも凶悪)
既にその特性は見ての通り。
この二つが合わさって、ツキは間違いなくトップクラスの異能力者であった。加えて、一族の間で、当主の許嫁となることを生まれた時から定められた彼女は、非常に苛烈な修行の末、高い戦闘能力と身体能力を有する。
隙はない、と言ってよかった。
「そして解った。お前のその身体能力はゼンアクではない。アレだけの遠距離攻撃に対し、単なる身体強化がゼンになるとは、思えない」
ゼンとアクは表裏一体。常として、それらは完全に表と裏とは言わずとも、どちらも無関係、ということはあり得なかった。
「だとすれば、それは技術か呪具。――それほどの身体強化、いったいいつまで持つ?」
語りながらも、刃を構えたツキは、先程とは信じられないくらい桁の違う速度で、少女に切りかかってきた。
「くっ――」
一族の間に伝わる特殊な鍛錬は、彼女に肉体を人の次元から一つ上のものへと昇華する。異能者とは人とは違う能力を有する存在だが、その身体能力も、また、人の中では最上位に位置するのが常だった。
そこに、異能の域まで達した体運びが、少女を狙う。
慌てて飛び退くも、一瞬遅れていれば、ツキの“一刀両断”が少女を切り裂いていたことだろう。彼女、一向に躊躇がない。
(やっぱり、解っていたけどツキは強い、ボクが知っているよりも、更に強くなった! 特に“一刀両断”の出力が更に上がってる。それでボクの“BLASTER”が防がれたんだ)
――魔法少女の力は、異能のそれとは法則が全く異なる。だから、表と裏のルールも適応されないし、あの極太赤色光線が防がれたのは、単純に一刀両断の特性と、その出力が優れていたからである。
とはいえ、法則が異なるだけで、そもそも魔法少女にもルールが存在することは変わらない。BLASTER――赤色光線は端的に言えば必殺技。
強力な大技としての特性を有していた。
加えて言うと、
(正直、ボクが少し感動してるのは、これだけすごい範囲の攻撃なのに、
非殺傷。直撃しても、相手を動けなくする程度。殺さないし、殺せない。ゼンアクにはそんな特性は一切なく、大体の攻撃は当たるとまずい。
――まぁ、大抵の異能者は特殊な装備で、死だけは免れる事が多いけど。
(これなら、ボクでもツキと戦える。あまり戦いたくないけど、彼女を止めるには、これしかない)
そこまでかんがえて、凄まじい速度で襲いかかってくるツキの刃を躱しながら、少女はそれを起動させた。
“CHANGE/R→B”
少女の衣服が、一瞬にして光りに包まれ、変化する。フリルとリボンは変わらないが、若干露出が増えたかな? と考える。
気にしている余裕はないのだが。
とはいえそれは、いわゆるモードチェンジというやつだ。
「何を――!?」
「――くらえっ!」
放たれるのは、
“SPLASH”
青色――水の弾丸!
あの赤色光線は、分類的には炎。熱のビームなのだ。そしてこちらは、水のレーザー。ボクの後方に展開された魔法陣と、少女の手のひらから、水のレーザーがすごい勢いで飛び出す。
それは、
「……くっ!」
――同時に放ったツキの黒い刃を貫いて、弾いた。
「それがゼンの力……! 服が変化したのはわけがわからないけど、水と炎のゼンアク!」
服が変化するのは仕様だった。申し訳ないと心のなかで謝りながら、何故謝っているのか少女は思わず自問自答してしまった。
ともかく、そこから戦闘は大きく変化をみせた。
基本的に、少女が逃げて、ツキが追う構図は変わらない。身体能力は基本少女が上回っているが、ツキは十分食いつける。対してツキの剣戟は凄まじい速度と精度で、少女は躱すのがやっとだ。
そこで鍵となるのがお互いの牽制。影の刃と水の弾丸。ここで有利に働くのは、水の弾丸が影の刃の出力を上回っているということ。
ツキはこれをゼンアクのせいだと判断しているが、実際には純粋な力押しで、魔法が異能を上回っているにすぎない。ツキは一刀両断の出力は文句ないが、影の刃の出力は平凡だった。
(ツキはボクの魔法を能力と勘違いしている。隙と呼べるものはそこにしかない。ツキは一刀両断をボクのSPLASHにぶつけることを警戒している。出力負けした場合、防ぎきれないからだ)
しかし、実際のところSPLASHに一刀両断の特性を越えられるものはなにもない。直接ぶつかれば、負けるのは少女の方だ。
けれど、ツキが警戒して、それを避けているおかげで、この攻防は成り立っていた。だから、少女はこの攻防が続いているうちに、決着をつけなくてはならない。
方法は――
(――ある。ボクは魔法少女だ。魔法少女の魔法が、
三つ目の魔法。
この状況で、それは決着をつけるには十分な魔法だった。ただ、当てるのが難しい。そういう問題があった。
ならば、後は――方法だ。
ちらりと、周囲を観察して。そこに、
「――何故、私の名前を知っている」
ツキの言葉が、少女の意識をそちらへと向けさせた。
「私は影。私の組織で名は隠されるもの。外のモノがそれを知っているはずがない」
「それは……」
「ましてや、お前みたいな、幸せそうな服を来た女に!」
「そこ!?」
思わず叫んでしまったけれど。
ああ、でもそうだよな、と少女は考える。ツキにはこんな服、着る機会なんて、許されてないよな、と。この服、カワイイもんな、と。
――そう考える少女は、戦闘という極限条件下で、正気を失っていた。
まず男が女になっている事実を、棚上げしたままの状態であった、
ともかく。
(逃げ出したボクのいうことではないけれど――今のツキは、つらそうだ)
何とかしてあげたいけど、何ができるだろうか。わからない、それは――
(ずっと、そうだった。ボクはツキに、何がしてあげられるんだろう)
許嫁。
それが少女とツキの関係だった。少女が生まれた時から、高い才能を持って生まれたツキは、次期当主の許嫁と決まっていて、それは少女が能力を使えないと分かる時まで、当然のものとして扱われていた。
その間、ツキと少女の間には交流があって。
少女はけれども、その間、ツキに何もしてあげられなかったと、思っている。
――今度こそ、そんな考えが、頭をよぎって。
「ボクは、幸せなんかじゃない」
ぽつり、とつぶやく。
「訳のわからない状況で、訳のわからないことに陥って。君にまで遭遇した」
「何――」
「――ボクの中は、ずっとぐちゃぐちゃなままだ!」
そう言って、一気に上へと飛び上がる。先程と同じ、ツキから距離を取る動き。
だが、警戒するツキへ対して、少女は今度は別の手段を取る。光の檻を掴むと、上から魔法を浴びせつけるのだ。
“CHANGE/B→R”
「くらえ!」
“BLASTER”
「効かないのは、解ってる!」
――極太赤色ビームは、一瞬で切り払われた。だが、それに意識を取られたツキは、少女が移動していることに一瞬気が付かない。彼女は、
ツキに背を向けていた。
「もう一発!」
“BLASTER”
放たれた赤色光線は、
「――!?」
凄まじい勢いで上がる飛沫。そして少女は、今も上から光の檻を掴んで、見下ろしている。
“SPLASH”
赤から青へ、目まぐるしく衣装の変化する少女が、やたらめったらに、
「姑息な手――!」
「けど、これで、使わないといけないよね!」
叫ぶ少女に、ツキは苦虫を噛み潰し、
迫りくる飛沫に対して、一刀両断を振りかぶった。
「――ぐちゃぐちゃで、訳のわからないまま君と再開して!」
「わけのわからないのは……コッチの方!」
少女と、ツキは
「なんでそんな、親しみを込めて、私を見る!」
「ある意味これは、一つのチャンスなんだと思った」
互いに視線を交錯させて――
「ツキ――!」
「やめろ! そんな声、そんな顔!」
二人は共に、全く同じ光景を、思い出していた。
――――
『――君の名前は?』
『……ツキ』
『いい、名前だね。一人? 一人なら、一緒に遊ぼうよ。――きっと、二人のほうが楽しいよ』
『…………わか、った。一緒に遊ぼう』
そしてツキは、“ボク”へと呼びかけた。
『これからよろしく、“若”』
次期当主となる少年へ。少年だった少女へ。
「――私の名前を呼んでいいのは、若だけだああああああああ!!」
――ツキは一人だった。
生まれた時から、未来を全部決められて、仲間と呼べるものはなく。
そんなツキに声をかけられることが許されたのは、一人だけ。当主という立場を持つ、少年だけだった。けれど、
――そんな少年は、ツキを友として呼んだ。共に遊ぼうと誘った。
それが始まり。それが、ツキの人生の、最初の記憶だった。
「――――ごめん」
ツキの足元から声がする。そうだ、少女はツキを撹乱し、そして檻を蹴ってツキの足元に着地した。刀をレーザーを切り裂くのに振り抜いてしまったツキに、それを防ぐ手立てはない。
けど、このタイミングで少女ができることは限られる。体術は、――しかしツキの装備を貫けないだろう。
だから、まだ大丈夫。ツキはそう思って、振り抜いた刀の下に立つ、少女を見た。
――黄色の衣が、少女の身に纏われていた。
「逃げて、ごめん。一人で逃げて、君を無視して。悪いのは、ボクだ」
その手には、
“STAN”
――雷を纏った、短めの刃が握られていた。
「今度は逃げない。だから」
その瞳。
その姿を見て、ツキは目を見開いた。
「もう一度
ああ、それは。
その眼は。
「――わ、か」
あの時、ツキにハジメテを教えてくれた人と、同じ眼をしていた。
見間違えるはずもない。姿も、力も、性別すらも変わってしまったけれど、この人は、間違いない。
雷の短刀は、突き刺さっても痛みはない。
ただ、痺れだけがあり、ツキは刀を持てなくなった。
ああ、でも不思議と、恐れはない。
だって目の前に、ずっと待ちわびていた人がいるのだから。
「あいたかった。若――ま、た、あえ、た」
どこか、申し訳無さそうな、けれども昔と変わらない覚悟を秘めた瞳に受け止められて、ツキは意識を失うのだった。